18 / 53
一章・アイヅ王子との婚約破棄編
18話・婚約か婚約破棄かの決戦です
しおりを挟むその日の夜――。
アイヅ王子がバクーフ王国に滞在して六日目は、穏やかに終わりを迎えたわ。
バクーフ王国の王族も、アイヅ王国の王子護衛隊も問題無くスズカ姫がアイヅ王子と婚約すると思ってる。
その夜は三日月が綺麗な夜で、アイヅ王子が泊まっている部屋は月明かりが射し込んでいたの。イスに座っているアイヅ王子は手に持つ水の入るグラスの中を見ていた。
「……なんて事だ。僕は幼馴染のスズカと、貴族令嬢のアヤカのどちらを選べばいいかわからなくなった。かたや王族の娘。かたや国の最強の矛と盾になるクエストクラスの娘。やはり、昔からの縁を結ぶべきなのか……」
ガッ! とテーブルの上にグラスを置いたアイヅ王子は緑の髪をかきむしる。そして、両手を出して左にスズカ、右に私をイメージしたようね。
「当たり前な選択ならスズカだろう。王族の血と交わるのは王族としての義務でもある。けど、バクーフ王国は大国だ。婚約してしまえばアイヅ王国の血筋が薄くなってしまい、バクーフに飲み込まれる可能性もある。その点、アヤカなら貴族令嬢のクエストクラス。クエストクラスと混じればその子供はエリートになる。アヤカが国を守護し、子供は自国の発展に役に立つ。やがてバクーフと並び立つ大国になるかも知れない……」
そう、窓から見える三日月に祈るアイヅ王子は言う。
「僕を導いてくれ母上」
苦悩するアイヅ王子は、アイヅ王国にいる母親の事を考える。
ヒラヒラ浮かぶ蝶のように、その室内に魔力の粒子が煌めいた。
すると、どこからともなく返事が聞こえたの。
「王子よ。我がかわいい王子よ。私はここですよ」
「……? は、母上?」
アイヅ王子は目の前に現れた自分の母親に困惑してるわ。精神的に疲れているのか、そのまま自分の母親の幻影と話し出した。
「ええい。この際、幻影でもいいさ。聞いてくれ母上。僕は王族のスズカと、クエストクラスのアヤカのどちらを選べばいい? どちらが、ジュテーム! なんだ……」
「そんな悩みですか王子。そこは自分の国に利益がある方を選ぶのです。アイヅ王国がこれから先も他国に支配されない強い国になれる方を選択するのですよ」
「確かに、スズカは王族だけど婚約したらアイヅ王国はバクーフ王国の傘下になってしまう可能性もある。むしろ、他国はそう見る可能性があると、ここに来てよくわかったよ。この国は勇者を生んだ国だけあってかなり先進国というのがわかった」
「なら、二人のどちらにするのです? 王族のスズカか、クエストクラスのアヤカか?」
「でもクエストクラスとは、他国との結婚などは出来ないよね母上? アイヅ王国ではそうだったはず」
「……それはそうですね。しかし、バクーフには数名のクエストクラスがいるから、おそらくバクーフの法は違うのかも知れない。普通に考えれば、バクーフと繋がるには王族の血もいい。けど、スズカ姫と婚約して大国に飲み込まれるよりも、クエストクラスとの子を産んで強い大国と対等に渡り合う道もあるわ。幼馴染の尻に敷かれる人生を歩むのですか私の息子は?」
「そ、それは……」
幻でも母親を信じているようね。
私の演じる母親はなかなか似てるようだわ。
そうして、アイヅ王子は一つの答えを生み出したの。
そして、幻影のアイヅ王妃は消えて王子も眠りについた。アイヅ王妃に変化していたスララと、自宅へ帰る道で話すの。
「成功しましたね。拙者のアイヅ王妃への変身で上手くアイヅ王子を騙せました」
「そうね。私の話術も上手く通用して良かったわ。これで、明日は良き日になるはずよ」
「ハヒ! 明日は初の婚約破棄という記念日です。明日も拙者頑張るです!」
「アナタは明日の出番は無いわよ」
「ハ、ハヒ!?」
と、スララは少しショックを受けてる。
けど、もうスララを使うような姑息な手は使えないの。最終章はアイヅ王子本人の気持ち次第だから。
「にしてもアヤカ殿。あのメモリートレースという魔法はどうやるのですか?」
「記憶の具現化魔法・メモリートレースね。アイヅ王子がアヤカハウスに来た時の帰り際に、私がクエストクラスとバラして混乱させて、その後母親の名前を出してアイヅ王子にキスをした。そうすると、メモリートレースは完了するのよ。そこから引っ張り出した頭の中の母親をスララにトレースしたの」
「ほう、なるほど。流石はクエストクラスの魔力。拙者も光と闇の魔力が蓄えられて強くなりそうです」
「そうね。光と闇は表裏一体。婚約と婚約破棄も表裏一体。明日は、必ず勝つわよ……」.
と、私は空に浮かぶ鋭利な三日月を見て呟いた。
「甘えん坊のアイヅ王子。そんなに甘えたいなら、私が鼻の穴にドングリ詰めてやるわよ」
そして、アイヅ王子が婚約者を決定する日の夜になった。
※
バクーフ王国でのアイヅ王子婚約者発表パーティーは王宮の広間で盛大に行われたの。
王族、貴族もたくさん集まってのパーティーは今夜のメインイベントである「婚約者発表」というシナリオ通りのシナリオで進んでいるわ。
バクーフ王も自分の娘が問題無くヒロインモードが発動していて、満足しているわね。そう、そんなんだから私もかなり苦労したわよ。
(でも、人間と人間の関係はシナリオ通りに行くかどうかはわからないの)
そう、思う私はパーティー会場に現れる。
黒のドレスを着て、純白のドレスのスズカとは対照的な存在だわ。
今更どちらか正義でどちらが悪かなんてどうでもいい。今回、婚約破棄をさせれば私が最後の勝利者なのだからね!
パーティーは盛り上がっていて、両国の人間達ももうすぐ始まるアイヅ王子の発表を待ち望んでいるわ。バクーフ王族の席ではバクーフ王とスズカが楽しそうに話している。
この婚約パーティーが終われば、本当のスズカと話さなくちゃならない。今の反吐が出そうなスズカより、元のスズカの方がマシだし。
(始まるわね……)
すると、パーティー会場に壮大な音楽が流れ出し、アイヅ王子が登場したの。メインステージに向かうアイヅ王子は、マジックマイクの前に立つ。そしてバクーフ王の娘であるスズカもその横に立った。
まさに王族同士のSSS級の美男美女カップルだわ。でも、婚約とは顔でするものじゃない。
緊張するアイヅ王子は、周囲の視線を感じながら冷静になって行く。そうして、音楽が鳴り止みとうとうアイヅ王子が話し出した。
「バクーフ王国の皆様。この一週間の間、特に事件も無くこのバクーフで過ごせた事を幸いに思います。バクーフ王国とはとても豊かで、人も優しく、繁栄に満ちた国と実感しました。歴史も古く、この異世界ジパングに相応しい大国だとも思います。私、アイヅ王子の目的は婚約者探しという名目でこのバクーフを訪れました。15才の成人式を迎えたスズカ姫の一番目の候補者として私は選ばれ、ここに来たのです」
パーティー会場の人々はアイヅ王子の話に聞き入っている。そして、王子は隣のスズカに手を向ける。
「この幼馴染でもあるスズカ姫との婚約の為に、私はアイヅ王国の王子としてやって来ました。この場所では様々な王族や貴族令嬢とも出会いました。そして、私はアイヅ王国の王子として一つの答えにたどり着いたのです」
とうとう、婚約者となる言葉が出るとわかりパーティー会場もアイヅ王子だけに集中した。ゴクリ……と私もアイヅ王子の次の言葉を待つ。瞬きをしたアイヅ王子はゆっくりと言ったの。
「アイヅ王国王子である私の婚約者は……スズカ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
65
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる