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二章・トサ王子との婚約破棄編

33話・勇者様がいた痕跡を発見したようです

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 とうとう、バクーフ王国にいるという噂のあった勇者様の痕跡が発見されました。ドラゴンが現れたあのエンマダンジョンで勇者様の痕跡を発見したという話だわ。

その証拠として、エンマダンジョンには光の魔力が使われた痕跡があるという話なの。強い光の魔力が使われると、一時的にモンスターの出現が減る。それが、トサ王国家臣団の調査結果のようだわ。

 私も急いでエンマダンジョンへ向かい、トサ王子達がいる場所へ向かいます。そこは、ドラゴンがいた広い空間だった。

「こんにちはトサ王子。勇者様の痕跡が発見されたと聞いたから急いで来たわよ」

「おう、アヤカか。俺はここで確信したぜ。最近勇者がこの場所に現れたって事をな」

「勇者様がここに現れた?」

「光の魔力の最強は勇者だ。その勇者はドラゴンと関係してる存在。今回バクーフにドラゴンが現れたのは、ここで勇者とも会っていたという事だろう。でなければ、モンスターを遠ざける光の魔力の痕跡がここまで残ってるはずもないさ」

 確かに意識して感知すると、強い光の魔力が残っていてモンスターとかは毛嫌いする魔力の痕跡があるわ。

(スララが光の魔力の持ち主だから、あまり光の魔力について感じる事は無かったわね。私の背中にも勇者様の烙印があるし……)

 そう思う私は、エンマダンジョンでも光の魔力がどうこうしてるのも気付けない理由を自分で納得していたの。

 そして、トサ王子は勇者様の居場所まで特定していたわ。それは私のアヤカハウスから近い場所だった。

「おそらく、勇者はバクーフ森にいる。行くぞアヤカ。勇者をブン殴る時が来たぜ!」





 スタスタとバクーフ森の奥へ向かい歩いて行くトサ王子の後を私も歩く。その足取りは早く、王子の背中のショートマントもなびいたままなのが歩く速さを証明してる。

 それよりも!  この方角は違うと思うわ。バクーフ森の奥のこの方角は、あの人しか住んでいないじゃないの……。

「ちょっと待ってトサ王子。このバクーフ森の奥はニートさんの住処よ?  わかってるの?」

「わかってるから進んでんだろ?  やはりあの男が勇者だったんだ。やけにトサ王国の話に食いついてくると思いきや、勇者だからこそ食いついて来たんだよ。勇者はトサ王国の食欲旺盛が人肉にまで向かうと危惧してたからなぁ。本人じゃ、気にもなるわな」

 そう言うトサ王子の歩みは止まらない。私もその人物が勇者様なのかどうかが気になってしまってもいたわ。だからこのままトサ王子の後を進んだの。

 そして、バクーフ森の奥にある一件の小屋に辿り着いたわ。すると、トサ王子は突如叫んだの。

「出て来い勇者!  お前がここにいるのはバレてるぞ!  出て来ないならこのボロ小屋ごとブッ壊す事になるぜ!」

 ……いきなりの挨拶ね。
 これでニートさんがいるなら出て来るしかないわ。
 おそらくニートさんは存在しているはず。
 トサ王国の家臣達も在宅かどうかは調べ上げているはずだからね。そして、その小屋の主人である金髪サラサラヘアのイケメンが登場したわ。

「……勇者、勇者と騒いでるのは誰ですか?  僕は勇者よりもケーキ作りに忙しいんですよ。人の家の前で騒ぐのはやめてもらいましょう」

 そう言いながらニートさんが出て来たわ。
 確かに、記憶の中の勇者様に似てはいるけどニートさんに特別凄い魔法力は無いわ。本物の勇者様なら、クエストクラスになった私を騙すのは不可能のはず。

 自分の魔力の強さを隠し切る魔法なんて存在しないからね。だから私はニートさんを勇者様と関係してるかも知れないだけで、勇者様とは思っていなかった。それを、トサ王子は完全否定してくれてるわ。しかも本人の目の前でね……。

 そして、トサ王子は右腕を引いて魔力を全開にして構えていたわ。この技はトサ王家の血筋であるオンリースキルの必殺技。まさか!  アレをニートさんに叩き込むつもりなの!?  勇者様かどうか確認する為にーー。


 そして、放たれた矢のように右ストレートを繰り出したの!

「マジック……ストレート!!!」

 大砲のような膨大な魔力と、体内のオーラが混ざり合う凄まじい一撃が、森の木々を消滅させ一本のラインを生み出す。見るのは2度目だけど、圧巻の一撃だわ。

 マジックストレートはニートさんの真横をすり抜けていて、ニートさんの頬を切った程度のダメージで済んでいたわ。プスプス……と少し焦げた右腕を回すトサ王子は赤い髪をかき上げて言う。

「もう一度言おう。お前が勇者じゃないのか?  ニートさんよ」

「僕の大事な野菜畑を避けてくれたのは有難いですが、この森もバタードングリが生えてるので破壊されると困るんですよ。わかりますかトサ王子?」

「俺は勇者がお前かどうかわかるように説明して欲しいだけだ。わかったなら、さっさと答えろ。お前が勇者なんだろニートさんよ?」

「勇者なら烙印がありますよ?  私の身体を調べますか?」

 その答えにトサ王子は笑ったの。
 ニートさんもそれ以上は何も言わない。
 私も何も言える事はない。
 そして冷たい目をしてトサ王子は言ったわ。

「いや、いいさ。カマかけただけだ。お前が勇者なら俺のマジックストレートがかすれば自動的に光の防護壁のライトシールドが現れる。それが出ないなら、お前は勇者じゃないって事だからな」

 勇者様のスキルであるオートガードのライトシールド。光の魔力がある限り、オートで敵の攻撃をガードする光のシールドね。確かにライトシールドが発動してない以上、ニートさんは勇者様ではないわね。

(トサ王子は帰って行くわね。私もこのまま帰ろう。今はニートさんにかける言葉は見当たらない……それに、何か余計な事を言ってしまいそうだしね)

 何か嫌な一日だったわ。
 とても嫌な一日だった。

 そして、トサ王子がバクーフ王国に滞在する最終日であり、馬レースによる婚約者が決まる日になりました。
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