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二章・トサ王子との婚約破棄編

32話・トサ王子が訪ねて来てレースになります

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 朝も9時を回った時刻。
 バクーフ王国郊外の森の一角にあるアヤカハウスに赤い髪の男が訪ねて来ました。ドラゴンエッグを食べて羽が生えているスララが出迎え、私を呼びに来ました。

「アヤカ殿。トサ王子が参られましたぞ!」

「トサ王子が? あー……今行くわよ。ゲストルームに通しておいて。羽が生えている事は答えなくていいからね」

「ハヒ!」

 私との一夜を記憶が無いとは言え過ごしてしまった事を考えているわね。しかもまだ童貞だったトサ王子は、初体験が嫌いな魔法使いの女というのも許せないのでしょう。

(いつもは強気なのに、今は婦女子のように大人しいのね。その困惑した顔。最高だわ)

 ふつふつと、悪役令嬢としてのオーラが満ちて来たわ。そうして、私はゲストルームにいるトサ王子と面会したの。

「今日は何用ですかトサ王子?」

「いや、お前は色々とテクニック……いや、乗馬のだぜ? そのテクニックを知りたいんだよ。俺のゴブリンライダーと勝負しようぜ」

「勝負? 唐突ですねトサ王子。でもそれが貴方らしくて素敵よ」

 そう言ってじっ……と見つめると、トサ王子はやはり照れているわ。わかりやすい男ね。

「ハッ、アヤカだけが勝負を持ちかけているのもつまらないからな。俺からも勝負を持ちかけるぜ。俺が勝ったらスララは文句無しで俺に寄越してもらう。羽の生えたスライムなんて、かなりのスーパーレアなモンスターだからな」

「私も今度のスズカとの馬レースで勝ったら婚約という話があるから、断れないと考えての勝負ね。それなら断る事は無いわ。要は全てに勝てばいいわけだしね」

「強気だな……俺は魔法使いは陰気で好きじゃねーが、その気の強さは気に入ってるぜ」

 スララも羽をパタパタさせて驚いているけど、私もこの戦いは受けざるを得ないわ。自分の欲望を叶える代価としては申し分無い戦いよ。

 そうして、バクーフ森にてレース大会が開催される事になったわ。

 スララライダーに乗るのは私。
 ゴブリンライダーに乗るのはトサ王子。

 スララライダーvsゴブリンライダー。

 公式戦では無いレースだけど、負けられないレースだわ。スララが賭けとしての対象になってるから、私も負けるわけにはいかない。

 ニートさんが審判をしてくれるの。
 勝ち負けは審判が必要だからね。

 ゴブリンライダーに乗っているトサ王子は充実してる顔だわ。やはりこのレースには勝てるという自信があるのね。

「絶対に勝つからなアヤカ。俺はスーパーレアの羽の生えたスライムを頂くぜ」

「まだレースは始まってもいないわ。レースが終わってから戯言は聞こうかしら。終わっても聞かないけど」

「ハッ、口の減らねー女だぜ」

 そうして、ニートさんの合図でレースは始まったの! コースは森の中にある500メートルほどの円形のコースを一周する事。大きな障害物も無いから、直線で加速してカーブで減速し過ぎなければ勝てるコースだわ。

 トサ王子のゴブリンライダーと、私のスララライダーは時折身体をぶつけ合いながら進む。どちらが先に出るかで、勝敗の分かれ目になるから前へ行かせるわけにはいかないの!

「ハッ! 中々いいタックルだぜアヤカ! そのスライムはレース用じゃねーのにいいライダーになってやがる。益々欲しくなったぜ!」

「それはどうも。私はこの森に住んでる以上アドバンテージがあるの! ホームでは負けられないわよ!」

「勝ち負けにホームもアウェイもあるかよーっ!」

 ブォーー! と二人の乗るライダーは加速し、カーブを曲がるわ。一進一退の攻防が続き、中々主導権を握れそうにも無いわ。

(この膠着状態を抜けるキッカケが欲しいわね……)

 すると、次のカーブでスララライダーはかなりの減速をしたの。

「スララ減速し過ぎよ! 次の直線での加速が遅れるわ!」

「ハ、ハヒ! ですが拙者のパワーが何故か落ちるでし……」

「何ですって?」

 突如、スララライダーのスピードが落ちて、ライダーモード自体の変身も維持できないような状態だわ。このままじゃ負ける。

「どうしたアヤカぁ! このまま俺の勝ちかぁ!? ハッハーッ!」

「負けないわよ! 気合い入れなさいスララ! 負けたらトサ王子の物になるのよ!」

「ハ、ハヒ……」

 それでも、スララライダーのスピードもフォームも安定しないわ。かなりの焦りが私を襲ったの……。

(スララのライダーモードが安定しない?まさか、ドラゴンエッグを食べた影響によるものーー)

 と、思った時背後からものすごい勢いで追いかけて来た馬がいたの。艶やかな茶色いロングの髪に、気品のある白い騎手服を来た美少女。SSS級とも言える稀代の美少女は私達を追撃して来るわ。

(あれは……まさか!?)

 その騎手はバクーフ王国の姫のスズカだったの!

「スズカ!? 何故、ここに?」

「私もバクーフ王国の姫として馬レースには勝たなきゃならないですからね。馬の練習をしていたら見かけたので、私も参戦しますわ。そして勝ちます」

「後から参加しといて勝つですって? スララ! 気合い入れなさい! ドラゴンに負けてどうすんの!」

「ハ、ハヒーン!」

 途中からスズカもレースに加わったの!
 勢いを無くしたスララも回復し、三人とレースはデッドヒートになったわ。

『おおおおおーーーっ!!!』

 ここからはもう、意地の張り合いでしかない。どこまで無理が出来るかで全てが決まる。全てを投げ打つような覚悟で、私はスララと共に最後の直線を駆け抜けたわーー。

「ーーゴール!」

 というニートさんの声が響いたの。

 三人のライダーはゴールの白線を抜け、ニートさんはフラッグを振ったわ。そして、三人のレースの結果が言い渡されたの。

「みんなお疲れ様。素晴らしいレースだったよ。というわけで、まず二位と三位の発表だよ。二位と三位は同着でアヤカとトサ王子!」

『!同着?』

 私とトサ王子は互いを見て呟いた。
 残念ながら私とトサ王子は同着だったわ。

 そして、勝ったのはスズカだったの。
 そしてニートさんは優勝者の発表をする。

「今回のレースの優勝は途中参加のスズカ姫でした!おめでとうございます!」

 途中参加のスズカは喜んではいるけど、途中参加した事については謝っていたわ。何か大事な勝負をしていたんじゃないか?という考えになってね。

(何を考えてレースに参加したかは知らないけど、とにかくスララを失わなかったのは良かったわ。それにしてもスズカの追い上げは凄かった。馬にもかなり負担がかかっているはず……)

 すると、やはりスズカの乗っていた馬はかなり負荷がかかっていて立ち上がれそうにも無いわね。

「スズカ……かなり馬に負荷をかけたわね。少しケガしてるんじゃない?」

「勝ちに目がくらみましたかしら?まだ乗馬は不慣れなものでして」

「今日はこの馬は置いて帰った方がいいわ。この馬は回復魔法を使ってから少し安静にしておく必要がある。明日にでも返しに行くから今日はスララライダーに乗って帰ってね」

「ありがとうございますアヤカさん。トサ王子も私の実力を知ってもらったと思います。ではスララさん。バクーフ王宮までお願いしますわ」

 すると、スズカはスララライダーに乗りバクーフ王宮へと帰還したの。それを見送る私とトサ王子は手を振った。そして、地面に座り込むトサ王子は憮然とした顔をしていたの。

「スズカ姫に負けて悔しい? それともスララが手に入らなくて悔しい?」

「どっちもだ。今回は全てにおいて負けは負けだ。それに、アヤカと同着じゃあ勝負としても負けだよ。スララの件は、馬レースまで持ち越しだな」

「次は勝つけどね。公式戦で勝てば全て丸く収まるのよ。王子の滞在最終日に悪役令嬢わたしの力を見せてあげるわ」

 そうして翌日、トサ王子は勇者様の痕跡を発見したからその場所に向かったわ。

 とうとう、勇者様がバクーフ王国内にいる痕跡が発見されたの。
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