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二章・トサ王子との婚約破棄編

38話・ニートさんのお泊りです!

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 私の体調不良を気づかってくれたニートさんがお泊りする事になりました。少しの魔力で朝まで点灯してくれる優れ物。マジックライトのミニバージョンを点灯させて眠りにつきます。いつも寝ている部屋なのに、今日はやけにフワフワしてて眠れない。

「……」

 私は二階の自室で、ニートさんは一階のゲストルームのソファーで寝ています。スララは一階のどこかで寝ています。基本的にスララはどこで寝るのかはその日によるので不明です。もしかしたら、ニートさんと一緒に寝ているかもしれません。元の飼い主でもあるし。

「……そういえば、今日のタロットカード占いは戦車の正位置。物事がスピーディに展開してしまうというカード。つまり、私は今日何かがあるという事なの……?  まだ日付は変わって無いし、何かがあるかも知れない……」

 やはり、私はこのチャンスを活かしたいわ。トサ王子もニートさんを奴は勇者ではないか?  と疑っていた。けど、勇者様のような魔力も無いし、勇者らしい一面が存在しないの。だけど、勇者様について知っている事もあり、勇者様の関係者という事もある。記憶の中にあるおぼろげな記憶の金髪の勇者様に似ているから……。

 そして、私は一階のゲストルームに向かったの。私も色々と知りたい事があるから。

「……」

 ゲストルームに行くと、ソファーで寝ているニートさんだけがいたの。スララは玄関あたりで寝ているのかも知れないわ。今はスララはいない方が都合がいい。すると、私の気配を察してかニートさんは起きて来たの。普通の人間の感覚じゃ、起きる事は出来ないのにね。

「アヤカ……?  どうしたんだい?  眠れないのか?」

「うん。だから……私もゲストルームのソファーで横になる」

 と言ったけど、私はソファーに座っただけだった。深夜の室内は月明かりが射し込むだけでとても静かなの。ただ、私とニートさんだけが世界に存在しているような気にさせてくれるわ。

「どこか疲れている顔だよアヤカ。悪役令嬢というジョブは、クエストクラスでもあるから大変だろう?」

「まさか、自分が支配者級のクエストクラスになれるなんて思ってなかったし大変だよ。バクーフの他のクエストクラスは自分の好きな事しかしてないし、私が各国の王子とかの護衛などもしないといけないしね。15才の成人式以降、やる事が多すぎで困るわ」

「少し休める時に休んだ方がいいね。いきなりハードに働いていると、今日のようにパンクする時が来てしまう。アヤカはまだ悪役令嬢としての魔法力を長期的に連続使用する事も無いだろうからね」

「確かに魔法の連続使用も慣れが必要だと感じたわ。休む時に休みたいけど、勇者様を探さないとならないし、スズカの婚約破棄もしないといけない。でも、スララがいてくれるから助かってるわ。ニートさんに感謝ね」

「僕の助けはいつでもするから言ってくれ。僕はニートだから暇だし」

「ニートになる前は、どこの国で何をしていたの?」

 と、私は突っ込んだ質問をしたの。薄暗い室内で私は天井を見上げて横になっているニートさんを見つめていたわ。そうして、私はニートさんの過去を聞いたの。

「……僕は元々は戦争孤児でね。気が付いたら剣を持ち、ダンジョンで戦っていたりした子供だったんだ。その中でモンスターの弱点や上手い逃げ方を覚えて各地を転々としていた。その日々の中で僕はタフさが身に付いたんだ。そんな時にスライムのスララと出会ったのさ」

「いつ頃出会ったの?」

「あれはもう十年ぐらい前かな。確かそのぐらい前の話だよ」

「十年前というと、勇者様が魔王を封印した後ぐらいの話だね。ダンジョンではない土地のモンスター達の邪気が消えていたからスララを仲間に出来たの?」

「おそらくそうかな。邪気が無いとは言えモンスターは人間と仲良くなるのは難しい。僕とスララは上手い事相性も良かったし、色々な旅をして来ていいコンビだったと思うよ」

「スララと一緒にいないと寂しいですか?」

「そりゃ、全く寂しく無いと言えば嘘になる。けど、出会いあれば別れもある。今はスララにとってクエストクラスという最強の存在の下で働くのがいいだろう。より強いスライムになる為にもね」

「その最強の相棒は、勇者として求める条件という事なのかしら?」

 少し空気を変える質問をしたの。すると、少しの間が空いてからニートさんは答えたわ。

「トサ王子にも伝えたが僕は勇者じゃない。僕が勇者ならば、君のようなクエストクラスならわかるだろう?  今の僕にそんな力も魔力も無いという事を」

 確かにそうね。
 けど、私は勇者様に会わないとならない。
 十年前に命を助けられたこの命の御礼だけはしないとならないの。
 だから私はこの人を「勇者様と仮定」して言うわ。

「私は命を助けてくれた勇者様を愛しています。もし、それがニートさんなら私の気持ちを受け取ってくれるのですか?」

「……もしも僕が勇者だったならそうなるかも知れない。けど、君の想いが勇者の重荷になる事も忘れてはいけないよ。君は勇者様を神聖化し過ぎていて、自分の命を捧げる事を躊躇わない人間なんだからね」

 そう優しく微笑んでニートさんは私を二階の自室に連れて行ったの。その手はとても優しくて、このまま抱き締めて欲しかったわ。でも、勇者様でないならそれを望む事は出来ない。

「勇者様……ニートさん……一体、本当の勇者様とは……」

 そうして、私とニートさんの一夜は過ぎました。翌日になると、次第に魔力回路も安定し出して私も元気になりました。ニートさんが勇者様であろうとなかろうと、私は勇者様の力になりたい気持ちは変わりません。

 この気持ちだけは私のガールズラブ展開になる呪いを解く「トゥルーラブ」と信じているのだから。
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