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二章・トサ王子との婚約破棄編
37話・アレの日になり、魔力回路が安定しません
しおりを挟むダンジョンにいるモンスターの動きが最近活発になり、私はダンジョンのモンスターを駆逐していました。ダンジョンから出て来て人間を襲ったり、人間の畑を荒らしているので駆逐する必要があるのです。
バクーフ森などは私の魔力の気配があるので安全地帯でしたが、たまに出現するようになりました。おそらく、魔王復活が近くてモンスター達に邪気が戻りつつあるのだと思います。そんな事を考えつつ、私はダンジョンのモンスター達を蹴散らして帰ります。
「とりあえず3つ目の危険モンスターダンジョンは解決したわ。でも、もう夕方になって来てるから今日はここでやめておこうかな。残りのダンジョンは危険度が低いし、マスタークラスの人が向かってる場所もあるしね」
大抵の危険なダンジョンは解決しているので、私は時間的にも今日はもう帰ろうとしていたの。疲れなのか、身体に力が入らないというのもあるし。
「魔法の連続使用は意外に疲れるわ……。モンスターは弱いけど、私の体力が持たないわね。スララも連れてくれば良かったかも。とりあえずお腹も痛いし木陰で休もう」
山道近くの木陰で休憩する事にしました。今日はイマイチ調子が上がりません。額に浮き出る汗をハンカチで拭って溜息をつきます。
「……モンスターが活発になれば魔王が復活するという兆候。魔王が復活すれば勇者様が現れる。このバクーフ王国にいるなら、一体どこにいるんだろう……答えてよ勇者様」
背中にある勇者様との絆である勇者烙印が疼き、天を仰いだの。そして、いつの間にか邪気があるオークが三体ほど私に接近して来ていたわ。でも、オーク程度が私に勝てるわけがない。
「私の魔力を感じられないのも、邪気が強まっている証拠ね。いいわよ……一瞬で消し炭にしてあげるわ。火の精霊よ我が血潮を吸え……ファイアブリッツ!」
炎が拡散して複数の敵を同時に焼き尽くすファイアブリッツでオーク三体を攻撃したの。けど、その魔法は威力も弱くてオークに当たりすらしなかった。ゲゲゲ! とオーク達は笑っていたわ。
「あれっ……魔法が安定しない? 嘘……」
こんな中級にも満たない魔法が使えないなんてあり得ない。クエストクラスの私がこんなオーク達に笑われてるなんてあり得ない。焦る私はファイアーすらまともに放てなくなっていたの。
(このままだとやられる……勇者様に助けは求められない。私が勇者様を助けるクエストクラスなんだから。私は……私はーー)
絶望的な状況を受け入れられない私はオークの突進を見ていた。そして、一筋の涙と共に勇者様の名前を口にしそうになった時、金髪のサラサラヘアの青年が私の目の前に現れたの。
この青年はバクーフ森に暮らす金髪青目のイケメン男子ーー。
「ニートさん! 助けに来てくれたの?」
「助けに来たよ。逃げる為にね」
「逃げる? て、うわーっ!」
私はニートさんにお姫様だっこをされたまま山道を駆け下りてバクーフ森に到着した。すると、ニートさんはそのまま私のアヤカハウスまで送ってくれたの。
(ニートさん……意外に腕力があるのね。農作業してるからかな?)
細身のニートさんの意外な腕力に関心しつつ、私は二階の部屋のベッドで寝かされていたわ。優しい人だわニートさんは。流石はスララの元飼い主。
「ありがとうニートさん。私は体調不良のようなの……」
「そうだね。一応、色々確かめておかないとね」
「え?」
そして、ニートさんは何故か顔を近づけて来たの!
(ちょっと待って! 色々確かめおくって、助けてもらった御礼にキスをしないとならないの!? だって私は勇者様が好きなわけでニートさんは……ニートさんは……!)
そして、私はそのまま勇者様と勘違いした事にしてニートさんを受け入れようとしたーー。
「うん。少し熱があるね。それに汗もかいているようだ。スララに言って着替えとタオルを持ってきてもらおう」
覚悟を決めて目を閉じていると、ニートさんと私の額が触れ合っていたわ。ものすごく近くに私とニートさんの唇がある……。
(……熱を測っただけ? つまり、私の勘違い!)
というか、熱はおそらく私の興奮具合のせいね。ほぼニートさんのせいだと思うし。そうして、スララが着替えなどを持って来てくれたので私は体調不良の原因を確認しようとしました。
「あ、ニートさん私着替えるから出ていてね」
「これはすまなかったね。アヤカは妹のような気持ちだったから、裸をのぞいてしまう所だった。裸族の悪い癖だね」
そうしてニートさんは私の部屋から出て行ったわ。やはり裸族は危険ね!
「というより、ニートさんの中で私は妹扱いなのか……。やっぱり私とニートさんは十も違うし、妹扱いなのか。勇者様もニートさんぐらいの年齢だから勇者様にも妹扱いされるのだろうか……」
少しへこみました。
まるで勇者様に「妹」認定されてしまい、大人の女として見られていない感じを受けてしまったのは、私の中で予想以上にショックだったわ。
そして、今日の魔法が使えなかった原因は女である以上避けて通れないアレの日だったの。まさかアレの日に魔法が使えなくなるなんて思ってなかったわ。前回とか大丈夫だったしね。
アレの日と精神的な乱れが魔力回路をおかしくしていたのかも知れないわ。でも今は安定してる。15才で成人を迎えても、私はまだ身体は完成してないし、クエストクラスとしては一年生。油断大敵という事を学んだわ。そして着替えが済んだのでニートさんに部屋に入ってもらうの。
「ニートさん。この魔女服が入った袋はスララに渡してね。血がついてるから早めに洗濯しといてと伝えて。よろしく」
「わかった。けど、やはり返り血とはいえ血を浴びるとなると、モンスター達もかなり活発に活動するようになってるようだね。バクーフ森もこれから悪いモンスターが増えてしまうかも。僕も注意しておこう」
ニートさんはバクーフ森の事を心配していたわ。異世界畑もあるから襲われる心配もあるのでしょう。そして、ニートさんはスララに洗濯物を渡して戻って来たの。
「スララが魔女服や下着は風呂場ですぐ洗っていてくれたよ。しかし、服の入っていた袋は血の匂いがしていたから捨てておいたよ。汚れた服入れとしては使えそうにもないからね」
「匂いを嗅いだらダメだよニートさん! それに風呂場で私の下着まで見たんでしょう?」
「……あぁ、ついスララの手伝いをしてしまったらね。でも白い下着を見ただけで触って無いから安心してね」
「うん。安心するわ」
白い下着見られてたー!
もっとピンクとかブルーとかのかわいい下着の方が良かったかな? 子供っぽいと思われてしまってるかも……。というより、人の下着を見るな!
「とりあえず今日はありがとうねニートさん。魔力回路も安定して来てるし、一日寝たらもう大丈夫だと思うわ。スララが一緒に作る夕食を食べて帰ってね」
「今日はここに泊まるよ。流石に今のアヤカを狙う輩がいる可能性もあるからね。スララがゲストルームのソファーに毛布も用意してくれたから。いいかな?」
「え? あー……うん。いいよ」
ここで断る勇気は無かった。
年上の男性に興味もあるし、ニートさんなら安心も出来るだろうしね。て、何を考えてるんだ私は!
(これは勇者様と泊まる時のトレーニングと思えばいいの。そう、これはただのトレーニング。仮想勇者様とのトレーニングよ)
そんなこんなで、ニートさんがお泊りになりました! あの人、全裸で寝るから襲われるかもしれないわ……。でも、これはニートさんを知るチャンスでもある。
そんな危険と隣り合わせのお泊り会が始まってしまったの。……少し楽しみだけどね。
応援ありがとうございます!
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