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二章・トサ王子との婚約破棄編

36話・トサ王子が帰還したので反省会です

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 トサ王子が帰還してから翌日の夜ーー。
 私はスズカの私室にいました。そこで今回のトサ王子の婚約破棄での反省会をします。ヒロインモードが解除されたスズカは気だるそうに水をガブガブ飲んでます。水太りしろとも思います。

 月明かりがスズカの私室に射し込んでいて、スズカの美しい横顔を照らしている。けど、スズカの顔は美しくも歪んでいたの。やはりヒロインモードの消耗は激しいようね。

「それでは今回の婚約破棄に乾杯!」

「乾杯。という割にはお酒じゃないじゃない」

「だってまだお酒なんて飲み慣れてないし、私達はジュースでしょ。スズカは今は水の方が飲みたいんだろうけどね」

「身体と心を整えるなら水が一番なのよ。今回も婚約破棄が成功したのは素晴らしい結果だわ。馬レースという展開だったけど、上手く勝てて良かった。私も乗馬マスターになれたし」

「どうやらヒロインモードの状態で得たスキルもちゃんと受け継がれているのね。良かった、良かった」

「婚約破棄は上手くいったけど、ドラゴンが飛来した時にドラゴンエッグをスララが食べてしまいドラゴンの羽が生えてるのよね?」

「あー……そうね。ニートさんとドラゴンエッグを巡る探索してたらドラゴン本体と出くわして、子供が生まれるドラゴンエッグを見つけたの。それをスララがドラゴンに食べていいと言われたらしく、食べたようよ。普通食べないけどね」

「……確かに食べたないわよ。スララもアホね。それにニートさんとドラゴンか。色々あるわね」

 スララがドラゴンエッグを食べた事を話したの。しかも、赤いドラゴンベビーが生まれる方のドラゴンエッグをね。やっぱりスズカも呆れていたわ。

「食べてしまった事は仕方ないわね。でもスララの身体に変化が起こってるなら、毎日ちゃんと様子を見た方がいいわ。もう羽が生えてるって事は下手したらドラゴンになる可能性があるわよ。スライムなのにね」

「ははは。ドラゴンになったら従者じゃなくなるから困るな。スララは役に立ってくれているしね」

「とりあえずスララは経過観察ね。ニートさんに一応見せておいた方がいいわ」

「何でニートさんに? ニートさんてドラゴンに詳しいの?」

「元の飼い主というだけよ。それより、ドラゴンが現れたという事は魔王軍の動きが活発になっているという事よ。魔王軍の本拠地はジパング大陸の海の向こうにあるから動けばわかりやすいけど、少数の先遣隊が来てるかも知れないわ」

 私は異世界ジパングにおいて、破滅と混沌を好む魔王軍の話を聞いたわ。クエストクラスとして、国防の為にも勇者様の為にも魔王軍とは戦って勝たないとならない。

「魔王軍が動いている……。それじゃ、このバクーフ王国にも魔王軍が来てる可能性もあると言う事ね。ヤバイじゃない」

「それの対処がクエストクラスでしょ? 婚約破棄の方が楽かしら?」

「いや、多分魔王軍の壊滅の方が楽だと思う。敵はただ倒せばいいけど、人間関係はそうはいかないからね。魔王が来ても私は負ける気がしないもの」

「言うじゃないアヤカ。タフになってるわね」

「もう二回も王子との婚約破棄してるし、ドラゴンとも戦いそうになったからね。勇者様を見つける前に魔王を倒してもいい気分だわ」

「アハハハッ! 本当面白いわアヤカ。私は最高の人間を悪役令嬢にしたようね」

 スズカは涙目になって笑っているわ。
 でも、私はあまり面白くないの。
 このスズカともまた新しい王子が婚約しに来れば一時的にお別れだからね。
 だからこそ、今度は独り言じゃなくてちゃんと言うわ。

「そういえば、スズカのヒロインモードではないモードがあったわね。スズカ自身の人格が変わらないプリンセスモード。これを維持して持ち堪えれば……自我が消えるヒロインモードの呪いにも対抗出来るんじゃないの?」

「……そんな簡単にはいかないわよ。だから「呪い」なんだから」

「スズカは諦めてない? 実際、今の状態なら五年近くも婚約破棄なんてやってられる体力も精神力もないでしょう? なら、自分で呪いを解くしか無いわよ? わかってるの?」

「わかってるわよ。でもこの王族の娘にあるヒロインモードの呪いは生易しいモノじゃない。今の私の疲労を見ればわかるでしょ?」

「だからって諦めていてもしょうがないでしょうが!」

 見つめ合う二人の視線は火花を上げると思いきや、スズカはこの挑発に反応しない。この諦めムードのスズカは気に入らないわ。

 この女こそ悪役令嬢に向いてる女なんだから。この女に悪役令嬢をやって欲しいぐらい向いてると思うわ。

 イラつく私を牽制するようにスズカは窓の前に立ち、外の月を見ながら言うわ。前回の婚約破棄より心なしかその背中も小さく感じたの。

「次の王子は半月後に訪れる予定だわ。今回はトサ王子のように早く到着する事は無いと思う。チョウシュウ王国は規律重視の国だからね」

「次の王子はチョウシュウ王国の王子か。確かチョウシュウ王国は海運王国よね? 漁業が盛んな国だったはず」

「その通り。チョウシュウ王国は海運王国よ。他国との交流も活発で、魔族とも交流があるとされてる国だわ。軍備も最新鋭らしいしね」

「チョウシュウ王国……面白そうね。でも、私はこの半月の間に勇者様探しをするわよ。トサ王子が掴んだ手がかりから探し出してみせるわ。私は私の呪いを超えてみせる。スズカも自分の呪いを超えるよう頑張ってね。早く自由になりたいなら」

「……」

 その言葉に、スズカは答えなかった。私も返事は期待してなかったからいいの。否応無く、次の婚約破棄でぶつかる壁だと思うから。

 そうして、私は勇者様探しをして「トゥルーラブ」を見つける為の努力をする。私は私の呪いを解きたいからね。

 いずれ復活する魔王討伐パーティーに参加して、勇者様の為に活躍する夢があるから!
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