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31話・新たなる劇
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金曜の深夜未明に発生した震度6クラスの大地震により、体育館で行われる「ロミオと百人のジュリエット」が行われるセットが崩壊した。
その現実に、この劇の関係者である俺達は呆然としていた。
(今はもう土曜日だ。明後日に開幕する文化祭には間に合わない……)
セットが壊れたままじゃ、ロミオと百人のジュリエットの公園は不可能だ。今から業者を呼んで建て直すのも無理。柴崎さんの親の力を使えばどうにかなるかもだけど、学校の文化祭でそこまでは出来ない。
夏休みに建築業者に二階建てのセットの基礎を作ってもらったのも、基本的にはアウトだろうしな。体育館の中央に集まり、崩壊したセットを見ている俺達は静まり返っていた。
(どうするか? このまま中止か? 中止しかないのか……?)
もう誰の目にも中止せざるを得ないというのは明らかだ。他のクラスの出し物は大掛かりなセットなどは無く、看板が倒れたり飾り付けが落ちたりする程度の被害だから大した事は無い。
俺自身も胃がキリキリして目眩を起こしていた。今までの疲労が嫌な形で現れだしていたんだ。体育館の状況を見ているみんなも、地震という自然災害に対して怒りのやり場が無い。暗い沈黙だけが流れている。
(今の状況で簡単にみんなに声はかけられないな。ロミオなら何とかしないとならないが、そもそも作品を変えて公演するには時間が無さすぎる……ん?)
そして、もう中止を受け入れている俺達の前に柴崎さんが現れた。
「やけに静かね。誰も死んで無いし、何も悲観する事無いじゃない? ねぇロミオ?」
「あぁジュリエット。と、言いたいけど今の状況は厳しいよ。みんなの顔を見てみろ。冗談言える状況じゃないぜ?」
「ピンチはチャンスでしょ? お得意のサッカー理論はどうしたのよ? それじゃロミオは出来ないわよ」
「いや、今はサッカーに当てはめられないだろ。サッカーは試合会場がダメなら中止か後日になるぜ? 文化祭に後日は無い。この劇を変えるとか不可能な事をしない限りは」
「わかってるじゃない久遠君。その劇を変える事をすればいいのよ。まだ時間はあるわ。諦めるにはまだ早い」
『は?』
と、体育館にいた百人以上の仲間が同時に言う。どうやら柴崎さんはマジのようだ。このセットが崩壊した今の状況を利用して、新しい劇をやる意思が見えた。
それはこの場の人間達にとっては神の啓示とも思える発言だった――。
「下を向いている暇は無いわよみんな。今回はそもそもの企画としてはロミオと百人のジュリエットだけじゃないでしょ?
「……ロミオと百人のジュリエットだけじゃない? どういう事だ?」
ふと、俺は文化祭でやる予定だったロミオと百人のジュリエットが決まるまでを思い出す。そう、元々は柴崎さんが俺のクラスと合同でやろうとした企画であり、二つの企画があった。
一つは「ロミオと百人のジュリエット」だ。つまり、もう一つあったのを忘れていた。アニメやゲームが好きな柴崎さんが異様に推していて、周りに引かれていたもう一つの企画が――。
「……あぁ、そうか! 確かにもう一つの企画もあった。柴崎さんは推してたけどボツになった企画が!」
「そのボツになった企画が今、花を咲かせる時よ。今こそ、「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」を劇として解き放つのよ!」
『--!?』
ロミオと百人のジュリエットの企画者のその口から、元の提案の一つである異世界でのロミオとジュリエットをやろうという話だ。
タイトルは「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」
今の崩壊したセットを活かせる設定の脚本だった。確かにこれをやるしかない……。
「……てか、みんなもうヤル気満々だな。柴崎さんも脚本のコピーと、セットの不要な部分の除去を指示した紙を配ってるし。このセットを壊した地震は、まさか柴崎さんの闇魔法じゃないよな……」
すでに沈んでいた仲間達は新たな異世界ワールドを舞台にしたストーリーに心酔していた。その傍で柴崎さんの計画がここまで完璧に発動してるのが恐ろしくなった。
元々、劇をやると決めた時から柴崎さんは異世界転生モノを推していて、そのストーリーさえ作ってあったけど通らなかった。教師達にはチートとかハーレムという単語が意味不明らしく、仲間からも不評で柴崎さんもマニアックな説明をした為に却下された。
(……まさかここまで上手く行くとはな……あっ!)
柴崎さんのウインクが、俺の身体を硬直させていた。メデューサのような笑みでみんなを指示している純黒の女に、俺は感謝した。
何はともあれ、ここで柴崎さんの異世界転生モノのストーリーにしましょう! として急遽異世界転生モノとして劇のストーリーを劇にする事にした。
(柴崎さんは夢中になるとわけがわからなくなる点があるからな。冷静だったなら元から異世界転生モノの劇だっただろ。ま、これでピンチがチャンスになったって事でオールオッケーだろ!)
深夜未明に震度6の大地震が起こって劇で使うお城のセットが崩れた。
そして魔女が魔法で新たなストーリーを生み出し、荒廃した世界のハーレム勇者のお話になる。
仲間達はタフにこのギリギリの戦いを乗り切ろうとしている……こうなりゃ、やってやるさ!
「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」の勇者として文化祭の勇者になってやる!
その現実に、この劇の関係者である俺達は呆然としていた。
(今はもう土曜日だ。明後日に開幕する文化祭には間に合わない……)
セットが壊れたままじゃ、ロミオと百人のジュリエットの公園は不可能だ。今から業者を呼んで建て直すのも無理。柴崎さんの親の力を使えばどうにかなるかもだけど、学校の文化祭でそこまでは出来ない。
夏休みに建築業者に二階建てのセットの基礎を作ってもらったのも、基本的にはアウトだろうしな。体育館の中央に集まり、崩壊したセットを見ている俺達は静まり返っていた。
(どうするか? このまま中止か? 中止しかないのか……?)
もう誰の目にも中止せざるを得ないというのは明らかだ。他のクラスの出し物は大掛かりなセットなどは無く、看板が倒れたり飾り付けが落ちたりする程度の被害だから大した事は無い。
俺自身も胃がキリキリして目眩を起こしていた。今までの疲労が嫌な形で現れだしていたんだ。体育館の状況を見ているみんなも、地震という自然災害に対して怒りのやり場が無い。暗い沈黙だけが流れている。
(今の状況で簡単にみんなに声はかけられないな。ロミオなら何とかしないとならないが、そもそも作品を変えて公演するには時間が無さすぎる……ん?)
そして、もう中止を受け入れている俺達の前に柴崎さんが現れた。
「やけに静かね。誰も死んで無いし、何も悲観する事無いじゃない? ねぇロミオ?」
「あぁジュリエット。と、言いたいけど今の状況は厳しいよ。みんなの顔を見てみろ。冗談言える状況じゃないぜ?」
「ピンチはチャンスでしょ? お得意のサッカー理論はどうしたのよ? それじゃロミオは出来ないわよ」
「いや、今はサッカーに当てはめられないだろ。サッカーは試合会場がダメなら中止か後日になるぜ? 文化祭に後日は無い。この劇を変えるとか不可能な事をしない限りは」
「わかってるじゃない久遠君。その劇を変える事をすればいいのよ。まだ時間はあるわ。諦めるにはまだ早い」
『は?』
と、体育館にいた百人以上の仲間が同時に言う。どうやら柴崎さんはマジのようだ。このセットが崩壊した今の状況を利用して、新しい劇をやる意思が見えた。
それはこの場の人間達にとっては神の啓示とも思える発言だった――。
「下を向いている暇は無いわよみんな。今回はそもそもの企画としてはロミオと百人のジュリエットだけじゃないでしょ?
「……ロミオと百人のジュリエットだけじゃない? どういう事だ?」
ふと、俺は文化祭でやる予定だったロミオと百人のジュリエットが決まるまでを思い出す。そう、元々は柴崎さんが俺のクラスと合同でやろうとした企画であり、二つの企画があった。
一つは「ロミオと百人のジュリエット」だ。つまり、もう一つあったのを忘れていた。アニメやゲームが好きな柴崎さんが異様に推していて、周りに引かれていたもう一つの企画が――。
「……あぁ、そうか! 確かにもう一つの企画もあった。柴崎さんは推してたけどボツになった企画が!」
「そのボツになった企画が今、花を咲かせる時よ。今こそ、「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」を劇として解き放つのよ!」
『--!?』
ロミオと百人のジュリエットの企画者のその口から、元の提案の一つである異世界でのロミオとジュリエットをやろうという話だ。
タイトルは「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」
今の崩壊したセットを活かせる設定の脚本だった。確かにこれをやるしかない……。
「……てか、みんなもうヤル気満々だな。柴崎さんも脚本のコピーと、セットの不要な部分の除去を指示した紙を配ってるし。このセットを壊した地震は、まさか柴崎さんの闇魔法じゃないよな……」
すでに沈んでいた仲間達は新たな異世界ワールドを舞台にしたストーリーに心酔していた。その傍で柴崎さんの計画がここまで完璧に発動してるのが恐ろしくなった。
元々、劇をやると決めた時から柴崎さんは異世界転生モノを推していて、そのストーリーさえ作ってあったけど通らなかった。教師達にはチートとかハーレムという単語が意味不明らしく、仲間からも不評で柴崎さんもマニアックな説明をした為に却下された。
(……まさかここまで上手く行くとはな……あっ!)
柴崎さんのウインクが、俺の身体を硬直させていた。メデューサのような笑みでみんなを指示している純黒の女に、俺は感謝した。
何はともあれ、ここで柴崎さんの異世界転生モノのストーリーにしましょう! として急遽異世界転生モノとして劇のストーリーを劇にする事にした。
(柴崎さんは夢中になるとわけがわからなくなる点があるからな。冷静だったなら元から異世界転生モノの劇だっただろ。ま、これでピンチがチャンスになったって事でオールオッケーだろ!)
深夜未明に震度6の大地震が起こって劇で使うお城のセットが崩れた。
そして魔女が魔法で新たなストーリーを生み出し、荒廃した世界のハーレム勇者のお話になる。
仲間達はタフにこのギリギリの戦いを乗り切ろうとしている……こうなりゃ、やってやるさ!
「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」の勇者として文化祭の勇者になってやる!
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