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41話・少し早いクリスマスデート2

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 聖市の観光地でもある、ヒジリミライ地区で少し早めのクリスマスデートを美波としていた。
 映画を見たり、ショッピングをしたり、プレゼントを渡したりと順調に進んでいたデートを邪魔する奴が現れたんだ。

 飲食街近くのベンチで俺と美波にちょっかいを出してくる、全梅ぜんばいという一つ上の男とその手下に絡まれていた。刈り上げ頭の全梅はかつてユース代表でも、部活サッカーでも俺に全敗したのでその復讐も兼ねて絡んで来ている。

 道行く人々は俺達を見てる人もいるが、 喧嘩をしてるわけではないので通り過ぎて行くだけだ。しかし、背の高いガッチリした体格の短髪の男が手を振りながらこちらに向かって来ていた。

(全梅達の背後だから奴等の仲間じゃないな。俺の知り合いにもあんな奴はいない。となると美波の知り合い……あんな奴は蹴栄学園にいないぞ?となると……)

 俺の知り合いじゃないから美波の知り合いだろう。しかし、美波もそこまで仲良くないという感じだ。おそらく……だが、あの短髪イケメンの正体がわかった気がする。

「おい全梅。逃げるなら今だぞ? 逃げるのをオススメする」

「何で俺が逃げるんだよ? お前一人程度に俺が逃げるとかあり得ねぇ! お前は一発ブン殴ってから帰るぜ久遠」

「サッカーなら蹴りだろ。さっきの蹴りも大した事無い蹴りだっあなぁおい?」

「テメー!」

「全梅さん喧嘩はやめとこうよ。相変わらず貴方は弱い癖に喧嘩好きなのね。大丈夫、美波ちゃんと彼氏?」

 と、謎の短髪男は全梅の振り上げた拳をつかむ。やはり美波の知り合いで、全梅の知り合いでもあるようだ。とりあえず全梅と手下が黙ってしまってるので、俺の予想を美波に言う。

「美波、あれが柴崎さんの予備校で好きな男だろう?」

「そう、あれよ。シバちゃんの好きな予備校の男。下田しもだ君」

 その下田という男は全梅を知っていて、全梅達はビビリ出している。
 そんなにヤバイ奴なのか下田は?

「おい全梅。そんなに震えてどうするよ? 昔の知り合いなんだろ? 紹介しろよ」

「馬鹿野郎……下田は一人で全ての部活のキャプテンにタイマンで勝ち、そして不良共も一撃で粉砕するワンターンキルの達人だぞ? 奴には関わり合うな! が悪い奴の合言葉だ。奴は喧嘩の達人……そして……」

「そして……何だよ?」

『伝説のオネエ!』

『オネエ!?』

 と、俺と美波は驚いた。
 しかし、二人の声に誰かの声が混じっている気がして座り込んでいる黒髪ロングの姫カットの女を見た。
その純黒の魔女のような出で立ちの美少女に全員の視線が行く。どこをどう見ても見間違いは無い。この深淵の闇を具現化したような女はこの世でただ一人--。

「柴崎さん……いいタイミングで現れたな」

 そこには、下田を好いているという柴崎さんも現れていた。
 柴崎さんは下田がオネエというのがショックなようで、未だに立ち上がれない。

(……可愛そうに。柴崎さんは変わってる女だが、女が好きというタイプではない。いたってノーマルだ。これはダメージがデカイけど、俺もフォローなどはしてやれない。自分で乗り越えて行くしかないな)

 すると、全梅達の台詞でオネエ系男子というのがバレた下田はかなり怒り心頭のようだ。

「予備校では上手くやってたのに、よくも邪魔してくれたなカス共が。喧嘩強いのと、オネエキャラは隠してないと予備校の勉強友達が出来ないんだよ。だからお前達はオシオキの時間だぜ……」

「う、うるせーっ! お前達距離ある内に何か投げろ。奴に捕まったら死ぬぞ!」

 ビビる全梅達は手に持っていたジュースの缶やペットボトル、サッカーボールまで投げつけて全梅達は逃走しようとしていた。

「逃げろ! 逃げろ! あのオネエはマジ喧嘩強いぜ! 逃げるが勝ちだ!」

 倒れている柴崎さんを立ち上がらせる下田は、柴崎さんに笑顔で告げる。

「そんなわけで俺はオネエだから柴崎さんの彼氏になれないけど、友達としてヨロシクね♩」

「は、はぁ……」

 気になる男がオネエ系男子という事に驚きを隠せない柴崎さんを構ってる暇は無い。
 俺は落ちているサッカーボールで店のディスプレイを狙い崩壊させた。
 いきなりサッカーボールが飛んで来てディスプレイの商品が崩れたので、サッカー部としか見えない全梅達が疑われる。

「あー、倒した! みなさーん。このサッカー部の人達商品棚倒しましたー!」

「柴崎ちゃんの友達君ありがとう。いいわね貴方。好きになりそうだわ」

 そう言うと、下田は一気に駆け出して人に囲まれ出す全梅達を追い詰める。あの調子なら逃げ場は無いな。くたばれ全梅。美波はまだ呆然としている柴崎さんの様子を見てから、

「あれ、またあの人達コッチ方面逃げて来るよ。どうする京也君?」

「逃げ足だけは優秀だな。まだサッカーボール一つ転がってるし、もう少し派手に行こうかな。俺もイライラしてるから……な!」

 人を集める為に、渾身のシュートを消防ベルに向けて放ちベルを鳴らす。すると、建物の警備員達も現れ出したので俺は全梅達が犯人だ! と叫んだ。すると、全梅達は俺と美波の方向に逃げるのをやめて、一階へのエスカレーターに乗り逃走する。

 一般の人々と下田と、警備員に追いかけられ逃げ場を失った一階フロアを駆ける全梅達に俺はアドバイスをしてやる事にした。

「おーい全梅! 出口はあっちだぜ?」

「マジか。……てか、んなもん知ってるよ! 野郎共向こうの出口から逃げるぞ!」

 すばしっこい全梅達は俺の指示した方向へ向かうが、そこからは警備員達がこの騒ぎを聞いて駆けつけて来ていた。その通路は関係者用であり、警備員の出入口にもなっている場所だった。前後を下田率いる警備員と一般人に取り囲まれて全梅達は観念したようだ。

「おい久遠! 騙したな!?」

「騙される方が悪い」

 ようやく、くだらない全梅達の事件も解決した。
 途方も無くくだらない事件だ。
 せっかくのクリスマスデートなのに余計な水差しやがって。
 すると、下田が戻って来た。

「柴崎ちゃんヤバそうだから連れて帰るわ。えっと……」

「あぁ、俺は久遠だ。久遠京也」

「そうか。京也ちゃんも雪村ちゃんも仲良くね。隙あらば京也ちゃんを頂くわ」

 怖い捨て台詞を吐いて下田は柴崎さんを連れて帰る。

 そうして、イルミネーションが灯されたばかりの俺と美波にとってのクリスマスはトラブルはあったが、夜景が見える場所でディナーを楽しんで二人は早めのクリスマスデートを終えた。
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