君に出逢って、僕の永遠は始まった─さよならの代わりに、永遠の愛を君へ

吉乃

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会いたくて再び

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あの夜から、何かが変わってしまった。

それは確信ではなく、ただ微かな予感だった。
だがヴァルデリオは、どうしてもあの森の風景を忘れることができなかった。

あの銀の髪。あの蒼銀の瞳。
風に揺れる衣の裾、凛とした声、そして

彼は、生まれてこのかた、誰かに心を奪われたことなど一度もなかった。
戦に明け暮れ、剣と火と血の中で生きてきた彼にとって、
誰かを思い出すという感覚すら初めてだった。

だが、今、彼の中に残っていたのは、
あの夜、月明かりの中で見た彼女の姿だけだった。
だからなのか、心は勝手に彼女のことを思い出し、手が勝手に馬の手綱を引いていた。


ヴァルデリオは、隣国との戦が泥沼化する中で、王命を受けてこの神域を訪れた。
かつてこの地に祀られし月神の巫女が、未来を視る力を持つという噂は、王宮の奥深くにも届いていた。

「この戦の行方、神の口から告げられるならば、流れを変える手となろう」

そう判断した王は、最も信頼のおける者、火の戦士ヴァルデリオを、交渉の使者として送り出した。

剣と力の象徴である彼が神託を求めるという皮肉。
だがそれだけ、国は追い詰められていた。

王命に従い、神託を乞う使者として森を訪れたのは数日前のことだった。
巫女ユスティーナから告げられた神託は、確かに王へと届けられたため、彼の使命はそこで終わっていた。

使者としての役目を終えた今、彼がこの地に立つ理由など、本来あるはずもなかった。
けれど彼の足は、知らぬ間にこの森へと向かっていた。
まるで何かに呼ばれるように。

そして彼は再び森を訪れていた。
使者としての役目を終えた今、そこに行く理由などなかったのに。

それでも、彼は来た。
ただもう一度、あの目を見たくて。


泉のそばに、彼女はいた。
前と同じ白銀の衣を纏い、静かに水面へ祈りを捧げている。

その姿は変わらず美しく、けれど今日は、少し違って見えた。

「……来たのね」

彼女の声が、風に溶けるように彼を包む。

「迷惑だったか」

「いいえ。ただ……来る気がしていたの。あなたが」

ユスティーナは、ヴァルデリオを見た。
前と同じ、まっすぐな瞳で。

だがその奥には、前にはなかった微かな“揺れ”があった。
心の奥を覗かれるような感覚に、彼は少しだけ息を呑んだ。

「神託の役目は、もう終わったんでしょう?」

「ああ。俺の役目は、とっくに」

「では、なぜここに?」

ヴァルデリオは少しだけ考えた。
けれど、本当の理由を言葉にすることはできなかった。
彼女に会いたくて来た――その想いを、まだ自分でも認めきれていなかったからだ。

「深く考えていたわけじゃない。
ただ森の方へ向かう風を感じた気がしてな。
それに、足が勝手に向かっただけだ」

ユスティーナはふわりと笑った。

「そう」

「……」
ヴァルデリオは、ほんの少しだけ視線を逸らす。
不意に心を見透かされたようで、照れくさくなる。

そして、それを悟られまいと、わざとらしく森の奥を見やって言った。

「……ここは、妙に静かだな。鳥の声ひとつ聞こえない」

沈黙が、ふたりの間を静かに流れた。
だが、それは苦ではなかった。
むしろ、言葉がないからこそ、心が静かに触れ合うような感覚。

やがてユスティーナは、泉のほとりから静かに立ち上がった。
そしてそっと歩き出し、ヴァルデリオの横をすれ違う。

風に揺れた衣の裾が、彼の指先をかすめる。

それだけで、彼の胸がぎゅっと締めつけられるように高鳴った。

同時に、彼女の髪からか、肌からか――どこか儚く甘い香りがふわりと彼を包んだ。

たったそれだけで、彼の心臓はひときわ大きく跳ねた。

優しくて、懐かしいような香り。それは確かに彼女だけの匂いだった。


ユスティーナは泉に祈りを捧げ終えると、静かに立ち上がった。
本来なら、そのまま神殿に戻るべきだった。
けれど何故か彼女の足は、泉を離れず、そっとヴァルデリオの隣へと向かっていた。

「……風の音が、今日は違って聞こえるわ」

そう言いながら、彼の隣に立ち、同じ風を感じるように目を閉じた。


ユスティーナと並んで立つ、その静かな時間の中で、
ヴァルデリオは、自分の中の何かがゆっくりと変わっていくのを感じていた。

言葉を交わすでもなく、ただ共に過ごすそのひとときが、
ヴァルデリオの心に、静かに何かを刻んでいくのがわかった。

彼女のそばにいると、不思議と焦りも怒りも薄れていく。
ヴァルデリオは、自分の中にあった“戦う者の心”が、少しずつほどけていくのを感じていた。

理屈ではない。ただ彼女の隣にいる時間が、
彼の中に、これまでになかった何かを芽吹かせていた。

それが何なのか、深く考えていたわけじゃない。
ただ、自然とそんな言葉が出ていた。

「……また来るかもしれない。それでも、いいか?」

彼女は微笑んだ。
肯定も否定もせず、ただ静かに……月の光のような微笑みで。

「……あなたの望むままに。
再びこの森で巡り会うことがあるのなら、それは……神の御心(みこころ)でしょう」

その言葉だけが、ヴァルデリオの胸にそっと残った。

その日から、彼は何度も森を訪れるようになる。
神の声ではなく、己の心の声に従って。

それがいつしか“恋”と呼ばれるものだと知るのは、
もう少し先のことだった――
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