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第62話 王妃の願い
部屋にはまだ、リリアナの声の余韻が漂っていた。
王妃カリスタはしばし目を閉じていたが、やがて静かに瞼を上げ、柔らかな微笑を浮かべる。
「……不思議なものですね。長い間、同じ詩を目で追ってきましたのに……あなたの声で聞いた瞬間、まるで初めて出会った言葉のように胸に響きました」
「情景が浮かぶようでしたわ。こんなことがあるなんて……」
その言葉に、リリアナは思わず胸に手を当てた。
感謝と畏れとが入り混じり、声にならない。
ラファエルがそっと母の肩に手を添え、穏やかに言う。
「母上、少しお顔の色が明るくなられたように見えます」
「ええ……この胸の重みが、ほんの少し軽くなったような気がいたします」
王妃は静かに息を吐き、再びリリアナをまっすぐに見つめた。
「リリアナ様……どうかお願いがあります。――また、私に詩を読んでいただけないでしょうか」
その一言に、部屋の空気が静かに揺れる。
マクシミリアンも力強く頷き、真摯な声で言った。
「母上の願いは、我らの願いでもあります。もしお許しいただけるなら、今後も王宮にお越しいただきたい」
突然の願いに、リリアナは目を瞬かせた。
王宮に通うなど、想像もしていなかった。
だが、王妃の瞳に宿る温かな光を見つめているうちに、胸の奥で小さな決意が芽吹いていく。
(……私の声で、誰かの心を支えられるのなら――それは、神が与えてくださった役目なのかもしれない)
リリアナは深く頭を垂れた。
「……はい。私でよろしければ、何度でもお伺いさせていただきます」
その返答に、王妃の表情がやわらぎ、涙の跡にかすかな笑みが咲く。
「ありがとう……リリアナ様。あなたは、私に新しい春を運んでくださったのですね」
窓の外では、陽光に照らされた花々が風に揺れていた。
その光景は、まるで彼女自身の未来を映すかのように、明るく、確かな輝きを放っていた。
王宮での初めての朗読を終え、迎えの馬車に揺られながらリリアナは窓の外を見つめていた。
夕暮れに染まる街並みが流れていく。その一つひとつが、今朝見たときよりも鮮やかに映る。
(……私の声が、誰かを救った……本当に、そんなことがあったのかしら)
胸の奥で確かめるように手を重ねる。王妃カリスタの頬を伝った涙が、何よりの証だった。
あの瞬間、確かに自分は誰かの心に寄り添えたのだ。
馬車が侯爵邸に入ると、すでに庭先でセシリアとアドリアンが待っていた。
リリアナの姿を見るなり、セシリアは小走りに駆け寄る。
「リリ! どうだったの?」
その瞳には、まるで自分のことのような期待と不安が宿っていた。
リリアナは一瞬言葉を失ったが、やがて静かに微笑む。
「……王妃様に詩をお聞かせしました。とても喜んでいただけたの……」
その答えに、セシリアは胸に手を当てて大きく息を吐く。
「そう……よかった……」
アドリアンもゆっくりと頷き、落ち着いた声で続ける。
「王宮に呼ばれるというのは、それだけで大きな意味がある。だが無事に役目を果たしたのなら、誇ってよいことだ」
リリアナは頬を赤らめ、視線を落とす。
「誇るなんて……ただ、私に出来ることをしただけです」
その言葉に、セシリアは優しく妹の手を握った。
「でも、それがあなたの力なのよ。リリ、あなたは人を救える声を持っているの。どうか忘れないで」
リリアナの胸に、再び小さな灯がともる。
――自分の声で、誰かの支えになれる。
その思いは、不安よりも少しだけ大きく心を満たしていった。
けれど同時に、心の奥底から切ない影も差し込んでくる。
(……でも、私はバルテル様を救うことは出来なかった)
今日、王宮の空気に触れたことで、否応なくドレイヴァン王国での日々が脳裏に甦っていた。
リアムとエリアス――あの小さな子供達は元気でいるのだろうか。
王宮でどのように暮らしているのだろう。
愛しいわが子を思い浮かべた瞬間、胸の奥から込み上げるものがあり、頬をひと筋の涙が伝った。
王妃カリスタはしばし目を閉じていたが、やがて静かに瞼を上げ、柔らかな微笑を浮かべる。
「……不思議なものですね。長い間、同じ詩を目で追ってきましたのに……あなたの声で聞いた瞬間、まるで初めて出会った言葉のように胸に響きました」
「情景が浮かぶようでしたわ。こんなことがあるなんて……」
その言葉に、リリアナは思わず胸に手を当てた。
感謝と畏れとが入り混じり、声にならない。
ラファエルがそっと母の肩に手を添え、穏やかに言う。
「母上、少しお顔の色が明るくなられたように見えます」
「ええ……この胸の重みが、ほんの少し軽くなったような気がいたします」
王妃は静かに息を吐き、再びリリアナをまっすぐに見つめた。
「リリアナ様……どうかお願いがあります。――また、私に詩を読んでいただけないでしょうか」
その一言に、部屋の空気が静かに揺れる。
マクシミリアンも力強く頷き、真摯な声で言った。
「母上の願いは、我らの願いでもあります。もしお許しいただけるなら、今後も王宮にお越しいただきたい」
突然の願いに、リリアナは目を瞬かせた。
王宮に通うなど、想像もしていなかった。
だが、王妃の瞳に宿る温かな光を見つめているうちに、胸の奥で小さな決意が芽吹いていく。
(……私の声で、誰かの心を支えられるのなら――それは、神が与えてくださった役目なのかもしれない)
リリアナは深く頭を垂れた。
「……はい。私でよろしければ、何度でもお伺いさせていただきます」
その返答に、王妃の表情がやわらぎ、涙の跡にかすかな笑みが咲く。
「ありがとう……リリアナ様。あなたは、私に新しい春を運んでくださったのですね」
窓の外では、陽光に照らされた花々が風に揺れていた。
その光景は、まるで彼女自身の未来を映すかのように、明るく、確かな輝きを放っていた。
王宮での初めての朗読を終え、迎えの馬車に揺られながらリリアナは窓の外を見つめていた。
夕暮れに染まる街並みが流れていく。その一つひとつが、今朝見たときよりも鮮やかに映る。
(……私の声が、誰かを救った……本当に、そんなことがあったのかしら)
胸の奥で確かめるように手を重ねる。王妃カリスタの頬を伝った涙が、何よりの証だった。
あの瞬間、確かに自分は誰かの心に寄り添えたのだ。
馬車が侯爵邸に入ると、すでに庭先でセシリアとアドリアンが待っていた。
リリアナの姿を見るなり、セシリアは小走りに駆け寄る。
「リリ! どうだったの?」
その瞳には、まるで自分のことのような期待と不安が宿っていた。
リリアナは一瞬言葉を失ったが、やがて静かに微笑む。
「……王妃様に詩をお聞かせしました。とても喜んでいただけたの……」
その答えに、セシリアは胸に手を当てて大きく息を吐く。
「そう……よかった……」
アドリアンもゆっくりと頷き、落ち着いた声で続ける。
「王宮に呼ばれるというのは、それだけで大きな意味がある。だが無事に役目を果たしたのなら、誇ってよいことだ」
リリアナは頬を赤らめ、視線を落とす。
「誇るなんて……ただ、私に出来ることをしただけです」
その言葉に、セシリアは優しく妹の手を握った。
「でも、それがあなたの力なのよ。リリ、あなたは人を救える声を持っているの。どうか忘れないで」
リリアナの胸に、再び小さな灯がともる。
――自分の声で、誰かの支えになれる。
その思いは、不安よりも少しだけ大きく心を満たしていった。
けれど同時に、心の奥底から切ない影も差し込んでくる。
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今日、王宮の空気に触れたことで、否応なくドレイヴァン王国での日々が脳裏に甦っていた。
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