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第65話 渦巻く陰謀
幼いリアムとエアリスの訴えに、バルテルの胸は深く締め付けられた。
国王となった今も、彼を蝕むのは過去の過ちである。――愛する妻リリアナを国から追放せざるを得なかったこと。
辺境伯として静かに暮らしていれば良かった、と悔やむ日々。自分が王弟の派閥に与しなければ、あの離縁は避けられたかもしれない。だが軍事力を維持するためには、王弟の力が必要だったのも事実だった。
その選択は、果たして正しかったのか。領民と子供たちを守るための苦渋の判断が、今は刃となって彼自身を苛んでいた。
一方で、レナーテの願いは満ち足りていた。
――バルテルが欲しい。心の底まで自分のものにしたい。
離縁によって漸くその望みを掴んだはずなのに、彼の眼差しが決して自分に注がれることはない。
ならば、と彼女は新たな陰謀を育み始める。
「そろそろ、あの邪魔な子供たちも……」
レナーテは冷酷な笑みを浮かべた。
リアムとエアリスは、彼女にとってバルテルとリリアナを結びつける忌まわしい存在でしかなかった。
リリアナの歌声が帝国に響き渡り、人々を癒すその姿とは対照的に、ドレイヴァンの王宮はレナーテの影に覆われていた。
彼女は表向きは国王を支える良き相談役を演じながら、裏では己の欲を満たすために臣下を取り込み、要職を自らの息のかかった者で固めようとしていた。
バルテルはその危うさを察していた。
(このままでは……子供たちが狙われる。レナーテを止めねばならぬ)
しかし、正面から動けば王弟の逆鱗に触れ、命を落とすのは自分だけではない。
標的となるのは、幼い子供たちだろう。
だからこそ、バルテルは思索を巡らせた。
――レナーテの悪事を裏付ける証を集めねばならない。
――味方となる者を増やさねばならない。
――そして、王弟が彼女を庇えない状況を作り出さねばならない。
それは容易ならぬ賭けだった。だが、立ち止まれば子供たちの未来は絶たれる。
バルテルは静かに誓う。
(いずれ必ず、奴を幽閉し……リリアナを、この国に呼び戻す)
その決意の陰で、レナーテは新たな毒を育てていた。
彼女の次なる狙いは――幼い王子たちの命そのものだった。
☆☆☆
ノヴァリア帝国
帝都ノヴァリアの宮廷で、リリアナの名は日ごとに高まっていた。
王妃カリスタは彼女を殊のほか気に入り、朗読や歌声を度々求めるようになった。その柔らかな声音は、王妃の病んだ心を慰め、笑顔を取り戻させたのだ。
皇帝ノヴァリウスもまた、愛する妃が穏やかに過ごしていることを喜び、その源がリリアナであると知ると、彼女を一目置くようになった。
王子たちも母が気に入っているという理由だけでなく、リリアナ自身の礼儀正しさや謙虚な姿勢、言葉遣いの端々に漂う高貴さに心を打たれ、自然と敬意を寄せるようになっていった。
こうしてリリアナは、皇族からの厚い信頼を得る存在となった。
その評判を聞きつけた貴族たちは競うように彼女に接触を望み、宮廷における「朗詠の歌姫」の名声は揺るぎないものとなっていった。
――その頃、モンテフェル侯爵家では。
姉セシリアは、宮廷での出来事を細やかに綴り、弟ライナルトへ手紙を送っていた。
「リリアナは今や、皇族方のお気に入りです。王妃陛下に近侍し、皇帝陛下や殿下方からも高く評価されています。宮廷の誰もが彼女を“朗詠の歌姫”と呼び、声を耳にした者は皆、心を打たれるのです」
ライナルトはその手紙を何度も読み返し、深いため息をついた。
妹の安否を案じながらも、彼女が異国で確かな居場所を得ていることに安堵する一方、ドレイヴァンで苦悩するバルテルの姿が脳裏を離れない。
(リリアナ……お前の声が、国境を越えて誰かを導いているのか。ならば、この国も……その光を必要としているはずだ)
手紙を握りしめるライナルトの胸に、ある決意が芽生え始めていた。
国王となった今も、彼を蝕むのは過去の過ちである。――愛する妻リリアナを国から追放せざるを得なかったこと。
辺境伯として静かに暮らしていれば良かった、と悔やむ日々。自分が王弟の派閥に与しなければ、あの離縁は避けられたかもしれない。だが軍事力を維持するためには、王弟の力が必要だったのも事実だった。
その選択は、果たして正しかったのか。領民と子供たちを守るための苦渋の判断が、今は刃となって彼自身を苛んでいた。
一方で、レナーテの願いは満ち足りていた。
――バルテルが欲しい。心の底まで自分のものにしたい。
離縁によって漸くその望みを掴んだはずなのに、彼の眼差しが決して自分に注がれることはない。
ならば、と彼女は新たな陰謀を育み始める。
「そろそろ、あの邪魔な子供たちも……」
レナーテは冷酷な笑みを浮かべた。
リアムとエアリスは、彼女にとってバルテルとリリアナを結びつける忌まわしい存在でしかなかった。
リリアナの歌声が帝国に響き渡り、人々を癒すその姿とは対照的に、ドレイヴァンの王宮はレナーテの影に覆われていた。
彼女は表向きは国王を支える良き相談役を演じながら、裏では己の欲を満たすために臣下を取り込み、要職を自らの息のかかった者で固めようとしていた。
バルテルはその危うさを察していた。
(このままでは……子供たちが狙われる。レナーテを止めねばならぬ)
しかし、正面から動けば王弟の逆鱗に触れ、命を落とすのは自分だけではない。
標的となるのは、幼い子供たちだろう。
だからこそ、バルテルは思索を巡らせた。
――レナーテの悪事を裏付ける証を集めねばならない。
――味方となる者を増やさねばならない。
――そして、王弟が彼女を庇えない状況を作り出さねばならない。
それは容易ならぬ賭けだった。だが、立ち止まれば子供たちの未来は絶たれる。
バルテルは静かに誓う。
(いずれ必ず、奴を幽閉し……リリアナを、この国に呼び戻す)
その決意の陰で、レナーテは新たな毒を育てていた。
彼女の次なる狙いは――幼い王子たちの命そのものだった。
☆☆☆
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皇帝ノヴァリウスもまた、愛する妃が穏やかに過ごしていることを喜び、その源がリリアナであると知ると、彼女を一目置くようになった。
王子たちも母が気に入っているという理由だけでなく、リリアナ自身の礼儀正しさや謙虚な姿勢、言葉遣いの端々に漂う高貴さに心を打たれ、自然と敬意を寄せるようになっていった。
こうしてリリアナは、皇族からの厚い信頼を得る存在となった。
その評判を聞きつけた貴族たちは競うように彼女に接触を望み、宮廷における「朗詠の歌姫」の名声は揺るぎないものとなっていった。
――その頃、モンテフェル侯爵家では。
姉セシリアは、宮廷での出来事を細やかに綴り、弟ライナルトへ手紙を送っていた。
「リリアナは今や、皇族方のお気に入りです。王妃陛下に近侍し、皇帝陛下や殿下方からも高く評価されています。宮廷の誰もが彼女を“朗詠の歌姫”と呼び、声を耳にした者は皆、心を打たれるのです」
ライナルトはその手紙を何度も読み返し、深いため息をついた。
妹の安否を案じながらも、彼女が異国で確かな居場所を得ていることに安堵する一方、ドレイヴァンで苦悩するバルテルの姿が脳裏を離れない。
(リリアナ……お前の声が、国境を越えて誰かを導いているのか。ならば、この国も……その光を必要としているはずだ)
手紙を握りしめるライナルトの胸に、ある決意が芽生え始めていた。
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