息つく間もなく見ています

井村つた

文字の大きさ
上 下
1 / 11

①霊感がない 前編

しおりを挟む
 この話は、Tさんから聞いた話を再構成しています。

 霊感がある。霊感がない。人それぞれ自分には霊感があるのか、はたまた霊感がないのか。皆さん、それぞれ自分がどうであるかを勝手に思い込んでいる事でしょう。

「俺は霊感あるんで、幽霊が見えるんですよ」と仰る方もいますし。
「僕は全く見えないです」と仰る方もいるでしょう。

 しかし、残念ながら霊感が全くない人はいないという話をしましょう。

 Tさんは定時制高校に通っている時分、運送屋さんの配送補助の仕事をしていました。仕事内容は家具などをお客さんの家に運び込み、組み立てや設置をするものでした。基本的に2人1組で回る事が多いそうです。2人でお客さんの家の中に荷物を運び終わると、1人が組み立てや商品説明などを行い、もう1人が荷物を包んでいた段ボールなどの片づけを行う。後者の役割をTさんが担う事が多かったそうです。次の配達先に出れるようにトラックの荷台に段ボールやゴミなどを積み込み、ロープでしっかり固定するそうです。ロープの結び方も独特で最初の頃は、よく分からず怒られる事も少なくなかったそうです。
 しかし、次第にTさんも慣れていき、家具などの組み立ても出来るし、片付けやロープを結ぶ事もしっかり出来るようになっていったそうです。

 これは季節も覚えていないし、どこのマンションだったかも覚えていないそうですが。

 その日は、真夏でもないし、真冬でもない。暑くも寒くもないちょうど良い過ごしやすい季節だったそうです。午前中の3件目ぐらいの配達で、とあるマンションに行った。そのお客さんの家が何階だったのかも記憶にないが、10階以上の高層階だったのは覚えているそうです。
 お客さんの家に商品の搬入を終え、一緒に回っている相棒の方に「先降りてますね」とTさんが言うと。相棒のベテランの方が「はいよ」とおっしゃったので、ゴミと段ボールを台車に乗せて、エレベーターに乗ったそうです。8人乗りぐらいの大きさで、ドアと反対側の面の上半分が鏡になっているどこにでもある普通のマンションのエレベーター。

 エレベーターに乗り込むと当然に1階のボタンを押し、ドアの方を向きながら閉まるのを待った。ドアが閉まると同時に空気が一変した。Tさんの表現をそのまま書くと『幽遊白書』の暗黒武術会で幻海と飛影がメディカルチェックと称して、結界師に拘束された感じと言ってました。空気が重たくなり、何か結界に入っている感じになったそうです。
 当時、『奇跡体験!アンビリバボー』など、怖い話をする番組がよく放送されており、Tさんも好んで見ていたそうです。そのため「はいはい。分かりました。どうせ後ろ振り向いたら、鏡の中に女が~。ギャー、そういうパターンでしょ。はいはい。こういうの本当にあるのね」と思いながら、思い切って、後ろを振り返り鏡を見ました。
 鏡の中には、Tさんと台車に乗っている段ボールが映し出されているだけで、何の変哲もなかったそうです。そしてTさんは心の中で「はいはい。後ろ見て何もない。安心して前を向くとそこにのパターンね」と思いながら、意を決して前を向くとそこにも何もありませんでした。上を見ると階数の表示が5を示していました。

 階数の表示を見ていると1階に着きました。1階に着いてもまだ、空気は重く、何かに縛り付けられている感じがしたそうです。ドアが開き、太陽の光も入ってきます。台車に乗っている段ボールの箱を押しながら、エレベーターを出ますが、まだ空気が重いそうです。マンションの出口の開くボタンを押し、自動ドアが開くと重たい空気が急に発散され、気持ちの良い過ごしやすい季節の空気に戻ったそうです。

 なんだったのだろうか。と思いながら、段ボールとゴミを整理しロープをしっかり結び出発準備をして、相棒が降りてくるの待っていたそうです。相棒の方が「ごめんごめん。遅くなった」と言いながら降りてきて、2人でトラックに乗り込み次の配達先へ出発しました。
 Tさんは相棒の方に「さっきのマンション、何か変じゃなかったですか?」と聞いたそうです。相棒の方は「いや。なんかあった?」と言われました。「あの、エレベーターなんか変じゃなかったですか?」と再質問しても「何もなかったで」と言われたそうです。

 その時は、全く気にしなかったのですが、、、

長くなりましたので、後半に続きます。



 












しおりを挟む

処理中です...