女の子同士で気持ちよくなっちゃった私達…

SenY

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本編

第二十二章:ガラスの靴を脱ぎ捨てて、泥濘の中で踊る

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 フラッシュの残像が、瞼の裏でまだチカチカと明滅している。
 南青山の骨董通り沿いにある、隠れ家的な会員制カフェ。打ちっ放しのコンクリートにヴィンテージの北欧家具が並ぶその空間で、私とパートナーの美月(みづき)は、三時間に及ぶロングインタビューを終えたばかりだった。

「――お二人のような、自立した大人の女性同士のパートナーシップは、これからの時代のロールモデルそのものですね。互いを尊重し、高め合う。まさに理想の関係です」

 有名ライフスタイル誌の編集長が、ロロ・ピアーナのストールを巻き直しながら、感嘆の溜息を漏らす。
 私はアルチザンブランドの純白のシャツに袖を通し、背筋をスッと伸ばして微笑んだ。手元には、美月とお揃いのカルティエのタンク。華美になりすぎず、けれど確かな知性と品格を主張する、計算し尽くされたスタイリングだ。

「そんな、大袈裟ですわ。私たちはただ、自分の心に正直に生きているだけ。朝、丁寧に淹れた白湯を飲んで体を整えるように、心の声にも耳を澄ませる。それが結果として、社会的なメッセージとして受け取られているなら光栄ですが」

 私が答えると、隣に座る美月が、スッと私の手に自分の手を重ねた。
 完璧なマニキュアが施された、細く長い指。
 彼女は大手広告代理店のクリエイティブディレクターであり、私は外資系コンサルティングファームのマネージャー。世間から見れば、私たちは「バリキャリ」であり、LGBTQ+の権利向上を叫ぶ旗手であり、そして何より――「丁寧な暮らし」を体現する、洗練されたインフルエンサーカップルだ。

「美月さんはどうですか? 多忙な中で、その美しさと精神的な余裕を保つ秘訣は」
「そうですね……。やはり、ふたりの時間を何よりも大切にすることでしょうか。ヨガで呼吸を合わせたり、週末は有機野菜を取り寄せた料理を一緒に作ったり。互いの肌に触れ、体温を感じることで、外の世界で纏った鎧を脱ぐことができるんです」

 美月が聖母のような微笑みを浮かべる。
 その言葉の一つ一つが、編集長のメモ帳に「金言」として書き留められていく。
 ああ、滑稽で、愛おしい。
 彼女たちは知らない。
 美月が言う「鎧を脱ぐ」という行為が、実際にはどれほど野蛮で、獣じみたものであるかを。

 ***

 代官山の低層マンション。最上階の角部屋。
 セキュリティゲートを潜り、エレベーターが滑るように上昇する。
 重厚な扉を開け、玄関に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
 カチャリ、と鍵が閉まる音が、理性のスイッチを切る合図だ。

 私は履いていたマノロ・ブラニクのヒールを無造作に蹴り飛ばした。コツン、と乾いた音が大理石の床に響く。
 美月もまた、手にしたセリーヌのバッグをソファに放り投げた。
 振り返った彼女の瞳からは、先ほどまでの「知的なインフルエンサー」の光が消え失せ、代わりにどろりと濁った、飢えた雌の光が宿っていた。

「……あーあ、疲れた。あんな『良い子』の演技、もう限界」

 美月が首をコキコキと鳴らしながら、私に近づいてくる。
 整えられた髪を乱暴にかき上げ、私のシャツの胸元を鷲掴みにした。

「ねえ、沙織(さおり)。私が今、何考えてるかわかるでしょ?」
「わかるわよ……。インタビュー中、ずっとテーブルの下で私の太腿、弄ってたじゃない」
「だって、沙織が澄ました顔で『社会変革』とか語ってるの見たら、濡れてきちゃって……♥」

 美月の唇が、私の首筋に吸い付く。
 チュプ、ジュルッ……♥
 上品なハーブティーの香りなんかじゃない。唾液と、汗と、高まった体温が混じり合った、濃厚なフェロモンの匂いが鼻腔を直撃する。
 私もまた、彼女のタイトスカートのジッパーを乱暴に下ろした。

 デザイナーズマンションのリビング。
 壁には現代アートが飾られ、床には毛足の長い高級ラグが敷かれている。Instagramで何万もの「いいね」を集める、誰もが憧れる洗練された空間。
 そこで今、行われているのは、ただの交尾だ。

「んっ、はぁっ……! 美月、激しいっ……♥」
「沙織がいけないのよ……あんな聖女みたいな顔して、中身はこんなに淫乱なメス豚なんだから……♥」

 美月が私のシャツを引き裂くように脱がせ、露わになった胸に顔を埋める。
 レロ、ベチャッ、ジュルルルッ……♥
 下品な水音が、静寂な室内に反響する。
 先ほどまで「女性の権利」を雄弁に語っていた唇が、今はただ快楽を貪るために動いている。
 私たちはフェミニストだ。女性が自由に、自分らしく生きることを提唱している。
 だからこそ――性の快楽においても、私たちは誰にも遠慮しない。
 男に消費されるのではない。私たちが、互いを、そして自分自身の欲望を消費し尽くすのだ。

「あっ、そこ、だめっ、汚い音、出ちゃうぅ……っ♥」
「いいのよ、もっと汚くなって。インスタのフォロワーたちに見せてあげたいわね。憧れの沙織さんが、こんなにだらしなくヨダレ垂らしてイッてる顔を……♥」

 美月の指が、私の秘所を執拗に掻き回す。
 グチュ、グチュッ、ヌチョ……♥
 溢れ出た愛液が、高価なラグに染みを作っていく。
 クリーニング代のことなんてどうでもいい。今はただ、脳髄が痺れるような快感が欲しい。

「ああっ、美月、美月ぃっ……! もっと、奥、抉ってぇっ……♥」
「ここ? ここが欲しいの? このふしだらな穴が!」
「そうっ、私はふしだらな女っ、快楽に負けちゃうメス豚ですぅぅっ……!!♥♥」

 社会的な地位も、知性も、プライドも、すべて快楽の濁流に飲み込まれていく。
 ガクガクと腰が跳ね、目の前が真っ白に弾けた。

 ***

 事後。
 私たちは汗と愛液に塗れたまま、カッシーナのソファにぐったりと沈み込んでいた。
 窓の外には、東京の夜景が広がっている。
 まるで台風が去った後のような散乱した衣服と、整えられたインテリアの対比が、今の私たちの精神状態を如実に表していた。

「……ふぅ。生き返った」

 美月が気だるげに髪をかき上げ、サイドテーブルからスマートフォンを取り上げる。
 画面の明かりが、彼女の紅潮した顔を青白く照らす。

「さてと。恒例の儀式、やりますか」

 私は気怠い体を起こし、美月の肩に顎を乗せた。
 私たちの裏の楽しみ。
 それは、この激しい情事の痕跡を、ほんの少しだけスパイスとして日常の投稿に混ぜ込むことだ。

「今日はどうする? さっきのラグのシミ、写しちゃう?」
「うーん、それはまだ早いわね。BANされちゃうし」

 美月はクスクスと笑いながら、カメラアプリを起動する。
 彼女がレンズを向けたのは、脱ぎ捨てられた私のハイヒールと、その横に落ちている、引きちぎられたストッキングの切れ端だった。
 薄暗い照明の中、アートのような構図で切り取られると、それはまるで映画のワンシーンのように美しく、そしてどこか退廃的に見える。

「キャプションは?」
「そうね……。『時には、全てを脱ぎ捨てて、本来の自分に還る時間も必要。心の解放が、明日の活力になるから。#Mindfulness #SelfLove #PartnerTime』……なんてどう?」

 私は美月のセンスに思わず吹き出した。
 完璧だ。
 表面的には、ヨガや瞑想の後にリラックスしているような、意識高い系の投稿。
 けれど、鋭いフォロワーなら気づくかもしれない。
 ハイヒールの倒れ方が異常に乱暴なことに。ストッキングが「脱いだ」のではなく「破けた」ように見えることに。
 そして、写真の端に見切れている美月の足首に、私が噛み付いてつけたキスマークが微かに写り込んでいることに。

「ふふっ、投稿完了」

 美月がタップすると、すぐに「いいね」の通知が雪崩のように押し寄せてくる。
 コメント欄には称賛の嵐。
 『素敵です!』
 『憧れのカップル!』
 『丁寧な暮らし、見習いたいです』

 彼女たちは気づかない。
 この写真の数分前まで、私たちが獣のように叫び声を上げ、体液を撒き散らしていたなんて。
 でも、私たちは少しずつ、少しずつハードルを下げているのだ。
 先月は、ベッドシーツの乱れを背景にした。
 先週は、シャワー上がりの濡れた髪と、火照った肌のアップを載せた。
 そして今日は、破壊された衣服と、情事の痕跡。

「ねえ、美月。いつか、全部バラしちゃいたいわね」
「そうね。私たちがどれだけスケベで、どれだけ淫乱で……それでも、社会的に成功していて幸せなんだってこと」

 美月が振り返り、私に深いキスをする。
 チュッ♥

「清廉潔白な聖女なんて幻想よ。女はみんな、本能の中に獣を飼っているの。それを解放することこそが、真のフェミニズム……そうでしょう?」

 彼女の瞳が妖しく光る。
 私たちは「匂わせ」続ける。
 世間の「理想の女性像」という建前を、私たちの圧倒的な「快楽」という現実で侵食していくために。
 フォロワーたちが、私たちの投稿の裏にある濃密な性の匂いに気づき、それに興奮し、自らの抑圧された欲望に気づくその日まで。

 スマホの画面には、また一件、何も知らない純粋なコメントがついた。
 『お二人のような、精神的に繋がったプラトニックな関係に憧れます』

 私は美月と顔を見合わせ、声を殺して笑い合った。
 夜はまだ、長い。
 プラトニック? ご冗談を。
 私たちはこれから第二ラウンドを始めて、さらにドロドロに溶け合うのだから。
 そう、丁寧な暮らしの裏側で、最高に汚らしくて気持ちいい夜を――♥

(第二十二章 完)
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