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本編
第三十三章:憧れの人妻、その甘い隙間
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鼻孔をくすぐる、パーマ液とフローラルのシャンプーが混じり合った独特の匂い。
私は、地元の商店街の端にある小さな美容室『サロン・ド・ユキ』のドアを開けた。カランコロン、とあえてレトロなままにしているドアベルが鳴る。
「あ、いらっしゃい。あゆみちゃん」
奥から出てきたのは、私が小学生の頃からずっと憧れ続けている女性――雪子(ゆきこ)さんだ。
年齢は今年で32歳になるはずだけど、ふんわりとしたミルクティー色のボブヘアと、垂れ目がちな優しい瞳のせいで、実年齢よりもずっと若く、そしてどこか儚げに見える。
所謂「ほんわか系」の美人お姉さん。
けれど、その柔和な雰囲気とは裏腹に、エプロンの下にある身体つきは凶悪なほどに女性的だ。特に、薄手のニット越しでもはっきりと分かる豊かな胸の膨らみは、同性の私から見ても圧巻だった。
「こんにちは、雪子さん。今日、カットとトリートメントお願いできますか?」
「うん、大丈夫だよぉ。荷物預かるね」
彼女が近づいてくるだけで、甘いミルクのような香りがふわりと漂う。
私は、自分が女の子しか好きになれない――レズビアンであることに気づくのが早かった。
思春期を迎える前から、男子の汗臭さよりも女子の髪の匂いに惹かれていた私にとって、雪子さんはまさに「初恋」そのものだった。
優しくて、綺麗で、良い匂いがして。
でも、彼女はこの店のオーナーである男性の奥さんだった。
だから、これは絶対に叶わない恋。聖域のような場所。そう言い聞かせて、私は長年ここに通い続けていたのだ。
***
「じゃあ、まずはシャンプーからしちゃおっか」
案内されたシャンプー台に仰向けになる。
顔に薄いガーゼがかけられ、視界が遮断される。聴覚と触覚だけが鋭敏になる瞬間だ。
ジャーーッ……と温かいお湯が髪を濡らしていく。
「お湯加減、大丈夫ぅ?」
「はい、ちょうどいいです……♥」
雪子さんの手つきは、魔法みたいに気持ちいい。
細い指が頭皮を揉みほぐすリズムは絶妙で、強すぎず弱すぎず、脳みそがとろけそうになる。
ワシャワシャ、キュッキュッ……♥
泡立つ音が耳元で響く。
でも、私が一番ドキドキしているのは、頭皮への刺激だけじゃない。
むにゅ……♥
不意に、私の肩口や腕に、柔らかくて重みのある塊が押し当てられる。
雪子さんの、あの大きな胸だ。
彼女は一生懸命シャンプーをしてくれているから、前屈みになる。そうすると、その豊かな双丘が、どうしてもお客さんの身体――つまり私に触れてしまうのだ。
(ああっ、当たってる……っ、すごい、柔らかい……♥)
ガーゼの下で、私は必死に表情を取り繕う。
ただの事故だ。向こうは仕事をしているだけ。
でも、その感触はあまりにも生々しい。ブラジャーのワイヤーの硬さなんて感じない、たっぷりとした脂肪と肉の弾力。
ある時期から、私のこの「ドキドキ」は、明確な「ムラムラ」へと変わっていた。
(雪子さんって……無自覚なのかな。それとも……)
彼女の指使いは、どこか艶めかしい。
うなじの生え際を洗う時、指先が首筋をツーッ♥となぞる感覚。耳の裏を洗う時の、くすぐったいような吐息のようなタッチ。
私がムッツリスケベだからそう感じるだけなのかもしれないけれど、彼女の手つきには、人を依存させるような母性と色気が同居しているのだ。
「……んっ……」
マッサージの最中、思わず小さな声が漏れてしまった。
「あら、こっちゃってるねぇ。あゆみちゃん、最近お疲れ?」
「あ、はい……部活の大会も近いし……」
「そっかぁ。じゃあ、今日は念入りにマッサージしてあげるね」
そう言って、雪子さんは私の頭を包み込むようにして、こめかみをグーッ♥と押し込んだ。
その拍子に、彼女の身体がさらに密着する。
腕全体が、彼女の温かい胸の谷間に埋もれるような錯覚。
心臓の音が早鐘を打つ。バレたらどうしよう。この体勢で、私が発情しているなんて知られたら、もう二度とここには来られない。
***
至福と苦悶のシャンプータイムが終わり、セット面へと移動する。
濡れた髪をタオルで拭いてもらいながら、私はふと違和感を覚えた。
いつもなら、奥の席で旦那さんが他のお客さんを切っていたり、あるいは休憩中に気さくに話しかけてきたりするはずなのに。
今日は、店内に雪子さんと私しかいない。
それに、男性用の理容椅子があったスペースが、なんだかガランとしている気がする。
「……あの、今日は旦那さん、お休みですか?」
鏡越しに、雪子さんの手が一瞬止まったのが見えた。
ハサミを手に取ろうとしていた彼女は、少しだけ寂しげに眉を下げ、それから困ったように笑った。
「あー……うん。実はね、居なくなっちゃったの」
「えっ?」
「離婚、したんだぁ」
ドクン♥
心臓が大きく跳ねた。
予想外の言葉に、私は鏡の中の雪子さんを凝視してしまう。
彼女は「あはは」と力なく笑いながら、私の髪に櫛を通し始めた。
「なんかね、他に好きな人できちゃったみたいで。……私じゃ、ダメだったみたい」
「そんな……! 雪子さんあんなに尽くしてたのに……!」
思わず声を荒らげてしまった。
だって、雪子さんは完璧な奥さんに見えた。お店の手伝いもして、家事もして、いつもニコニコしてて。
こんな素敵な人を捨てるなんて、あの男、許せない。
でも、怒りと同時に、私の中にあるどす黒い感情が鎌首をもたげる。
――離婚した。
――つまり、今はフリー。
――もう、「人妻」じゃない。
その事実は、私の中のストッパーを粉々に破壊するには十分すぎた。
「だからね、今は私一人でやってるの。ちょっと広くなっちゃったけど」
雪子さんがチョキチョキとハサミを動かし始める。
リズミカルな音。でも、その距離感はいつもよりずっと近く感じる。
彼女がカットのために私の横に立つ。
ふわりと香る甘い匂いが、以前よりも濃厚に鼻をつく。それはきっと、彼女が纏っている「寂しさ」というフェロモンのせいだ。
「……寂しくないですか?」
私が恐る恐る尋ねると、雪子さんはハサミを止めて、私の肩にコトン、と手を置いた。
「寂しいよぉ。夜とか、一人だと広すぎて……」
鏡越しに目が合う。
潤んだ瞳。無防備な表情。
彼女の手が、私の肩を優しく揉む。
ギュッ、ギュッ……♥
「あゆみちゃんみたいな可愛い子が、一緒にいてくれたらいいのになぁ」
それは、ただの社交辞令かもしれない。
年下の常連客への、軽い愚痴かもしれない。
でも、今の私には、それが誘惑にしか聞こえなかった。
「……私でよかったら、いつでも話し相手になりますよ」
「ほんとぉ? 嬉しい……」
雪子さんが、私の背後から覆いかぶさるようにして抱きついてきた。
ムギュゥッ♥♥
背中全体に広がる、圧倒的な柔らかさと熱量。
今まで「事故」だと思っていた接触が、今は明確な「意思」を持って行われている。
彼女の吐息が、私の耳にかかる。
「ねぇ、あゆみちゃん。髪、切り終わったらさ……」
「は、はい……っ♥」
「ちょっとだけ、マッサージの練習台になってくれない? 新しくアロマオイル入れたんだけど、一人じゃ試せなくて……」
耳元で囁かれる甘い声。
背中に押し付けられる胸の鼓動が、トクトクと私の背骨に伝わってくる。
彼女もまた、誰かの肌の温もりを求めている。
そして、その相手に私を選ぼうとしている。
私は鏡の中の、少し頬を紅潮させた雪子さんを見つめ返し、ゆっくりと頷いた。
「……はい。ぜひ、お願いします……♥」
髪を切るハサミの音が再開する。
けれど、その音はもう、ただの美容室の環境音じゃない。
私たち二人が、一線を越えるためのカウントダウンのように聞こえていた。
憧れだったお姉さん。
今は傷ついた、一人の女性。
その心の隙間にも、身体の隙間にも、私が入り込んでしまいたい。
カットクロスの下、私は期待と興奮でじわりと濡れていく下着の感触を噛み締めていた。
最後の客である私のカットが終わり、雪子さんは一度店の入り口へ向かった。
ガラガラ……とシャッターが降りる重たい音が響き、ドアの札が『CLOSED』にひっくり返される。
その瞬間、世界から切り離されたような静寂が店内に満ちた。
BGMのボサノバだけが、やけに鮮明に聞こえる。
「ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって」
「いえ、全然。私、暇なんで……」
雪子さんはふわりと微笑んで、店の奥にあるパーティションで仕切られたスペースへと私を招き入れた。そこは普段、フェイシャルエステなどで使われている半個室だ。
照明が少し落とされ、オレンジ色の間接照明が温かく揺らいでいる。
ラベンダーとイランイランの混ざったような、甘く重たいアロマの香りが、すでに部屋中に立ち込めていた。
「じゃあ、あゆみちゃん。服、脱いでもらっていい? オイルついちゃうといけないから」
「えっ、あ、はい……全部、ですか?」
「うーん、上半身だけでいいよ。あ、ブラも外しちゃってね。背中全体やりたいから」
さらりと言われた言葉に、私は平静を装いながらも内心パニックになっていた。
同性だから。美容室のマッサージだから。
そう自分に言い聞かせながら、震える手でシャツのボタンを外し、ブラジャーのホックを外す。
上半身裸になってタオルを胸元に抱え、マッサージベッドにうつ伏せになった。ひんやりとしたタオルの感触と、自分の心臓の音がうるさい。
(落ち着け、私。期待しちゃダメだ)
ベッドの穴から床を見つめながら、私は必死に自分を戒めていた。
さっき、雪子さんは「離婚した」と言った。
確かに彼女はフリーになった。もう誰のものでもない。
けれど、それはあくまで法的な話だ。
彼女はかつて男性と結婚し、男性を愛していた人だ。つまり、性的指向は「ノーマル(異性愛者)」に決まっている。
当時の私はまだ若く、知識も偏っていた。
世の中には男性も女性も愛せる「バイセクシャル」や、性別に関係なく人を好きになる「パンセクシャル」という概念があることを、知識としては知っていても、それを身近な現実に当てはめて考えることができていなかったのだ。
「一度男の人と結婚した人は、男の人が好きな人」。
私のような、女の子しか愛せない人間とは住む世界が違う人。
この方程式が私の頭の中で絶対のルールとして鎮座していた。
だから、今のこの状況――薄暗い部屋で二人きり、私が半裸で待っているこの状況も、彼女にとっては「女性顧客への施術」の延長線上でしかないはずだ。
私が勝手にドキドキして、勝手に劣情を抱いているだけ。
これはチャンスなんかじゃない。私の片思いが暴走しているだけの、痛々しい勘違いなんだ。
「じゃあ、始めるねぇ。オイル、ちょっと冷たいかも」
雪子さんの声がすぐ耳元で聞こえたかと思うと、背中にトロッ♥ とした液体が垂らされた。
「ひゃうっ♥」
「あはは、敏感だねぇ」
オイルの冷たさと、それを塗り広げる雪子さんの手のひらの熱さ。
ヌチャ、ヌチュゥ……♥
粘度の高いオイルが肌に馴染んでいく音が、静かな部屋にいやらしく響く。
彼女の手は大きく、そして柔らかかった。
肩甲骨の周りを円を描くように撫でられ、凝り固まった筋肉がほぐされていく。
「あゆみちゃん、肌すべすべだねぇ。やっぱり若さかなぁ」
「そ、そんなことないです……雪子さんこそ、綺麗で……」
「私なんておばさんだよぉ。もう、誰にも見せられないもん」
自虐めいた言葉と共に、背中に乗せられた手にグッ♥ と体重がかかる。
その時だった。
むにゅぅッ……♥♥
背中の中心に、圧倒的な質量の柔らかさが押し付けられた。
雪子さんが、私の背中をマッサージするために、体重をかけて覆いかぶさってきたのだ。
服越しではない。
私も裸、雪子さんも薄着のエプロン姿。
ほとんど生身の胸の感触が、背骨を通してダイレクトに伝わってくる。
(嘘……っ、当たってる、すごい当たってる……っ!)
頭では「勘違いだ」と否定しているのに、身体は正直すぎた。
下腹部がキュン♥ と疼き、内股がモゾモゾとする。
彼女の胸は、まるで水風船のように形を変えて私の背中のラインに密着していた。心臓の鼓動すら伝わってきそうだ。
「んぅ……っ、雪子さん、そこ……」
「ここ、気持ちいい? 腰の方も凝ってるねぇ」
雪子さんの手が、背中から腰へと滑り降りていく。
ジーンズのベルトのラインぎりぎりまで、ヌルヌルとした指先が入り込む。
尾てい骨のあたりを親指でグニグニ♥ と刺激されると、声にならない喘ぎが漏れそうになった。
「あゆみちゃん、可愛い声出すね」
耳元で、くすくすと笑う声。
その吐息がうなじにかかり、鳥肌が立つ。
これは、からかわれているだけ? それとも、そういう「プレイ」なの?
いや、違う。相手はストレートの人妻(元)だ。
きっと、女の子同士ならこれくらい普通なんだ。私がレズビアンだから過剰反応してるだけなんだ。
「……ねぇ、あゆみちゃん」
マッサージの手が止まらないまま、雪子さんが唐突に口を開いた。
その声のトーンが、先ほどまでのほんわかしたものではなく、少し低く、艶を帯びていることに私は気づいた。
「男の人ってさ、乱暴だよね」
「え……?」
「力任せだし、自分のことばっかりだし。私、もう男の人は懲り懲りかも」
ヌチッ、レロ……♥
雪子さんの指が、私の脇腹を撫で上げる。そこはくすぐったくて、でも気持ちいい、危険なゾーンだ。
「えっと……それは、旦那さんが酷い人だったからで……」
「そうかなぁ。でもね、今こうやってあゆみちゃんに触れてると……すごく安心するの」
雪子さんの身体が、さらに深く沈み込んでくる。
彼女の豊かな双丘が、私の背中を押し潰すように密着し、その谷間の熱気が伝わってくる。
そして、彼女の顔が、私の耳のすぐ後ろまで近づいてきた。
「女の子の肌って、柔らかくて、いい匂いがして……ずっとこうしていたいなって思っちゃう」
その言葉は、私の理性を揺さぶるには十分すぎる威力を持っていた。
でも、まだ信じられない。
これは「癒やし」としての発言だ。性的対象として見られているわけじゃない。
私はペットの猫か何かと同じ扱いを受けているだけだ。
そう思わないと、期待して裏切られた時のダメージに耐えられない。
「雪子さん、それ、酔ってますか? アロマの香りで」
「ふふ、酔ってるかもねぇ……あゆみちゃんの匂いに」
チュッ♥
不意に、うなじに湿った感触が走った。
キス。
今、キスされた?
脳内が真っ白になる。
思考回路がショートしそうになる中で、雪子さんの手が、私のわきの下をくぐり抜け、前へと回ってきた。
「あっ、ちょ、雪子さっ……!?」
「マッサージ、前もしないとねぇ……♥」
ヌルリとしたオイルまみれの手が、タオル越しに私の胸を包み込んだ。
いや、タオルなんて気休めにもならない。
彼女の指は、タオルの隙間から侵入し、私の素肌を――まだ誰にも触らせたことのない未熟な膨らみを、優しく、けれど確実に捉えた。
「んっ!♥ ぁあっ……!」
「可愛い……あゆみちゃん、ドキドキしてるね。ここ、固くなってる♥」
指先がバストトップを掠める。
電流のような快感が走り、私はベッドのシーツをギュッと握りしめた。
「男しか好きじゃないはず」という私の堅牢な思い込みの壁に、今、雪子さんの指先が小さな、しかし決定的な風穴を開けようとしていた。
彼女の瞳の中に宿っている光が、単なる「寂しさ」だけではないことに、未熟な私はまだ、気づいていなかったのだ。
オイルに塗れた雪子さんの指先が、私の胸の頂を弄ぶ。
コリッ、クリクリ……♥
未開発で敏感なそこは、彼女の巧みな指使いによって瞬く間に充血し、硬く尖り始めていた。
「んぅっ……あ、ゆきこさん、だめぇ……っ♥」
「ふふ、ダメじゃないよぉ。こんなに感じてくれてるのに」
耳元で囁かれる声は、脳髄を痺れさせる毒のように甘い。
雪子さんの手は、決して乱暴にはしなかった。
男性の、あの欲望をぶつけるようなガサツな触り方とは根本的に違う。まるで高級なシルクを扱うように、あるいは熟れた果実の傷みやすい皮を剥くように、繊細で、ねっとりとした愛撫。
ヌルッ、チュプ……♥
オイルの潤滑も相まって、指が肌に吸い付く音が卑猥に鼓膜を叩く。
「あゆみちゃん、こっち向いて?」
抵抗できないまま、私は雪子さんに促されて仰向けになった。
薄暗い間接照明の下、視界に入ってきた雪子さんの姿に、私は息を呑んだ。
いつも結んでいる髪が少し乱れて、頬は上気し、瞳はとろんと潤んでいる。
そして何より、私の視線を釘付けにしたのは、前屈みになった彼女の胸元だ。エプロンの隙間から、キャミソールに包まれた豊満な双丘がこぼれ落ちんばかりに主張している。
「人妻」だった女性特有の、熟成された色気。
少女には出せない、むせ返るようなフェロモンが彼女の全身から立ち昇っていた。
「あゆみちゃん……顔、真っ赤」
「だって、雪子さん、綺麗すぎて……」
「お世辞が上手だねぇ。……でも、嬉しい」
雪子さんが私の顔を両手で挟み込む。
ひんやりとしたオイルの感触と、火照った手のひらの熱。
見つめ合う瞳の距離が、じりじりと近づいてくる。
「ねぇ、知ってる? 離婚したての人って、寂しくて壊れそうになっちゃうんだよ」
「雪子、さん……」
「私を慰めてくれるのは、あゆみちゃんだけなの……」
その言葉は、私の理性の最後の砦を粉砕した。
唇が重なる。
チュッ……♥
最初は触れるだけの、優しいキス。
でも、すぐに雪子さんの唇が開き、私の下唇をハムッ♥ と甘噛みして吸い上げた。
「んんっ……!?♥」
チュパ、レロ……ジュルッ……♥
大人のキスだ。
舌の使い方が、私が今まで漫画やドラマで想像していたものとは次元が違った。
私の舌を絡め取り、口内の敏感なところを執拗に舐め上げ、時に吸い付き、時に優しく転がす。
唾液が混ざり合う音が、静まり返った美容室に響き渡る。
(すごい……っ、上手……っ、頭おかしくなるぅ……っ♥)
息ができない。思考が溶ける。
彼女は元々男性と結婚していた。つまり、男性との夜の営みを知り尽くしているということだ。
どうすれば相手が気持ちよくなるか。どうすれば悦ぶか。
その「経験値」が、今、すべて私に向けられている。
同性の柔らかさと、経験豊富な大人のテクニック。
その二つを兼ね備えた雪子さんの攻めに、恋愛経験ゼロの私が敵うはずもなかった。
「ぷはっ……♥ あゆみちゃん、口の中も甘いねぇ」
「はぁ、はぁ……ゆきこ、さん……私、もう……♥」
「まだだよぉ。これからもっと、気持ちよくしてあげる」
雪子さんの手が、私の下腹部へと伸びる。
ジーンズのボタンが外され、ファスナーが下ろされる音が、やけに大きく響いた。
恥ずかしさで足を閉じようとしたけれど、雪子さんの太ももが割り込んでくる。
その太ももすらも、柔らかくて、温かくて、心地いい。
「力抜いてぇ。怖くないよ」
雪子さんの指が、ショーツの縁をくぐり抜ける。
秘部に触れられた瞬間、ビクンッ!♥ と腰が跳ねた。
「ああっ♥ そこ、だめっ……!」
「あら、もうこんなに濡れてる……可愛い」
クチュ……♥
指が愛液をかき混ぜる水音がした。
雪子さんは私の反応を楽しむように、クリトリスを円を描くように優しく刺激し始める。
そのリズムが、絶妙だった。
早すぎず、遅すぎず。私が「もっと欲しい」と思うギリギリの寸止めを繰り返す。
じれったさと快感が入り混じり、私は身をよじって彼女の名前を呼ぶことしかできない。
「ゆきこさんっ、お願い、もっと……っ♥」
「もっと? どうしてほしいのぉ?」
「いじめて、くださいっ……中、してぇ……っ♥」
自分の口から出たとは思えない淫らな言葉。
でも、雪子さんは満足げに微笑むと、「いいよぉ」と優しく囁いた。
ズチュッ……♥
中指が、私の身体の奥へと侵入してくる。
異物感じゃない。満たされる感覚。
ずっと憧れていた人の指が、私の中に入っているという事実が、脳みそを焼き切るほどの興奮をもたらした。
「んっ、ぁあっ! ああっ!♥ そこっ、すごいっ……♥」
「ここが好きなの? あゆみちゃんの中、すっごい吸い付いてくるぅ」
雪子さんの動きが激しくなる。
指だけじゃない。彼女は空いているもう片方の手で私の胸を揉みしだき、口づけを降らせてくる。
視覚、聴覚、触覚、そのすべてが雪子さんで埋め尽くされる。
(夢じゃない。これ、夢じゃないんだ……!)
ずっと遠くから見ていた憧れの人。
旦那さんの後ろで微笑んでいた、聖母のような人妻。
その人が今、私の上で乱れ、私を求めて、私を快楽の底へ突き落とそうとしている。
絶対に叶わないと思っていた初恋。
それが今、こんなにも濃厚で、こんなにもいやらしい形で叶ってしまった。
「いくっ、ゆきこさん、わたし、いっちゃうっ……!!♥」
「いいよ、あゆみちゃん。全部出して……私の手の中で、イッちゃって♥」
雪子さんの指が、中の敏感な部分を激しく掻き回す。
グチュグチュ、パンッ、パンッ……♥
激しい音と共に、私の視界が真っ白に弾けた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っーー!!♥♥」
弓なりに反り返った身体が痙攣し、熱い波が何度も押し寄せる。
私の初めての絶頂は、憧れの雪子さんの手によって、あまりにも呆気なく、そして劇的に奪われたのだった。
***
余韻に浸りながら、私は荒い息を整えていた。
全身が泥のように重く、力が入らない。
雪子さんは、汗ばんだ私の額をタオルで優しく拭いてくれながら、愛おしそうに私を見下ろしている。
「あゆみちゃん……可愛かったよぉ」
「うぅ……雪子さんのせいで、変になっちゃいました……」
「ふふ、責任取るね。……これからは、ずっと一緒だよ」
雪子さんが私の唇に、誓いのキスを落とす。
その瞳にもう迷いはなかった。
人妻だった彼女はもういない。ここにいるのは、私を愛し、私に愛されることを選んだ一人の女性だ。
この甘くて危険な大人の女性の腕の中から、私はもう二度と抜け出せそうになかった。
だって、こんなに気持ちよくされちゃったら……もう、雪子さん以外の人なんて考えられないもの。
(第三十三章 完)
私は、地元の商店街の端にある小さな美容室『サロン・ド・ユキ』のドアを開けた。カランコロン、とあえてレトロなままにしているドアベルが鳴る。
「あ、いらっしゃい。あゆみちゃん」
奥から出てきたのは、私が小学生の頃からずっと憧れ続けている女性――雪子(ゆきこ)さんだ。
年齢は今年で32歳になるはずだけど、ふんわりとしたミルクティー色のボブヘアと、垂れ目がちな優しい瞳のせいで、実年齢よりもずっと若く、そしてどこか儚げに見える。
所謂「ほんわか系」の美人お姉さん。
けれど、その柔和な雰囲気とは裏腹に、エプロンの下にある身体つきは凶悪なほどに女性的だ。特に、薄手のニット越しでもはっきりと分かる豊かな胸の膨らみは、同性の私から見ても圧巻だった。
「こんにちは、雪子さん。今日、カットとトリートメントお願いできますか?」
「うん、大丈夫だよぉ。荷物預かるね」
彼女が近づいてくるだけで、甘いミルクのような香りがふわりと漂う。
私は、自分が女の子しか好きになれない――レズビアンであることに気づくのが早かった。
思春期を迎える前から、男子の汗臭さよりも女子の髪の匂いに惹かれていた私にとって、雪子さんはまさに「初恋」そのものだった。
優しくて、綺麗で、良い匂いがして。
でも、彼女はこの店のオーナーである男性の奥さんだった。
だから、これは絶対に叶わない恋。聖域のような場所。そう言い聞かせて、私は長年ここに通い続けていたのだ。
***
「じゃあ、まずはシャンプーからしちゃおっか」
案内されたシャンプー台に仰向けになる。
顔に薄いガーゼがかけられ、視界が遮断される。聴覚と触覚だけが鋭敏になる瞬間だ。
ジャーーッ……と温かいお湯が髪を濡らしていく。
「お湯加減、大丈夫ぅ?」
「はい、ちょうどいいです……♥」
雪子さんの手つきは、魔法みたいに気持ちいい。
細い指が頭皮を揉みほぐすリズムは絶妙で、強すぎず弱すぎず、脳みそがとろけそうになる。
ワシャワシャ、キュッキュッ……♥
泡立つ音が耳元で響く。
でも、私が一番ドキドキしているのは、頭皮への刺激だけじゃない。
むにゅ……♥
不意に、私の肩口や腕に、柔らかくて重みのある塊が押し当てられる。
雪子さんの、あの大きな胸だ。
彼女は一生懸命シャンプーをしてくれているから、前屈みになる。そうすると、その豊かな双丘が、どうしてもお客さんの身体――つまり私に触れてしまうのだ。
(ああっ、当たってる……っ、すごい、柔らかい……♥)
ガーゼの下で、私は必死に表情を取り繕う。
ただの事故だ。向こうは仕事をしているだけ。
でも、その感触はあまりにも生々しい。ブラジャーのワイヤーの硬さなんて感じない、たっぷりとした脂肪と肉の弾力。
ある時期から、私のこの「ドキドキ」は、明確な「ムラムラ」へと変わっていた。
(雪子さんって……無自覚なのかな。それとも……)
彼女の指使いは、どこか艶めかしい。
うなじの生え際を洗う時、指先が首筋をツーッ♥となぞる感覚。耳の裏を洗う時の、くすぐったいような吐息のようなタッチ。
私がムッツリスケベだからそう感じるだけなのかもしれないけれど、彼女の手つきには、人を依存させるような母性と色気が同居しているのだ。
「……んっ……」
マッサージの最中、思わず小さな声が漏れてしまった。
「あら、こっちゃってるねぇ。あゆみちゃん、最近お疲れ?」
「あ、はい……部活の大会も近いし……」
「そっかぁ。じゃあ、今日は念入りにマッサージしてあげるね」
そう言って、雪子さんは私の頭を包み込むようにして、こめかみをグーッ♥と押し込んだ。
その拍子に、彼女の身体がさらに密着する。
腕全体が、彼女の温かい胸の谷間に埋もれるような錯覚。
心臓の音が早鐘を打つ。バレたらどうしよう。この体勢で、私が発情しているなんて知られたら、もう二度とここには来られない。
***
至福と苦悶のシャンプータイムが終わり、セット面へと移動する。
濡れた髪をタオルで拭いてもらいながら、私はふと違和感を覚えた。
いつもなら、奥の席で旦那さんが他のお客さんを切っていたり、あるいは休憩中に気さくに話しかけてきたりするはずなのに。
今日は、店内に雪子さんと私しかいない。
それに、男性用の理容椅子があったスペースが、なんだかガランとしている気がする。
「……あの、今日は旦那さん、お休みですか?」
鏡越しに、雪子さんの手が一瞬止まったのが見えた。
ハサミを手に取ろうとしていた彼女は、少しだけ寂しげに眉を下げ、それから困ったように笑った。
「あー……うん。実はね、居なくなっちゃったの」
「えっ?」
「離婚、したんだぁ」
ドクン♥
心臓が大きく跳ねた。
予想外の言葉に、私は鏡の中の雪子さんを凝視してしまう。
彼女は「あはは」と力なく笑いながら、私の髪に櫛を通し始めた。
「なんかね、他に好きな人できちゃったみたいで。……私じゃ、ダメだったみたい」
「そんな……! 雪子さんあんなに尽くしてたのに……!」
思わず声を荒らげてしまった。
だって、雪子さんは完璧な奥さんに見えた。お店の手伝いもして、家事もして、いつもニコニコしてて。
こんな素敵な人を捨てるなんて、あの男、許せない。
でも、怒りと同時に、私の中にあるどす黒い感情が鎌首をもたげる。
――離婚した。
――つまり、今はフリー。
――もう、「人妻」じゃない。
その事実は、私の中のストッパーを粉々に破壊するには十分すぎた。
「だからね、今は私一人でやってるの。ちょっと広くなっちゃったけど」
雪子さんがチョキチョキとハサミを動かし始める。
リズミカルな音。でも、その距離感はいつもよりずっと近く感じる。
彼女がカットのために私の横に立つ。
ふわりと香る甘い匂いが、以前よりも濃厚に鼻をつく。それはきっと、彼女が纏っている「寂しさ」というフェロモンのせいだ。
「……寂しくないですか?」
私が恐る恐る尋ねると、雪子さんはハサミを止めて、私の肩にコトン、と手を置いた。
「寂しいよぉ。夜とか、一人だと広すぎて……」
鏡越しに目が合う。
潤んだ瞳。無防備な表情。
彼女の手が、私の肩を優しく揉む。
ギュッ、ギュッ……♥
「あゆみちゃんみたいな可愛い子が、一緒にいてくれたらいいのになぁ」
それは、ただの社交辞令かもしれない。
年下の常連客への、軽い愚痴かもしれない。
でも、今の私には、それが誘惑にしか聞こえなかった。
「……私でよかったら、いつでも話し相手になりますよ」
「ほんとぉ? 嬉しい……」
雪子さんが、私の背後から覆いかぶさるようにして抱きついてきた。
ムギュゥッ♥♥
背中全体に広がる、圧倒的な柔らかさと熱量。
今まで「事故」だと思っていた接触が、今は明確な「意思」を持って行われている。
彼女の吐息が、私の耳にかかる。
「ねぇ、あゆみちゃん。髪、切り終わったらさ……」
「は、はい……っ♥」
「ちょっとだけ、マッサージの練習台になってくれない? 新しくアロマオイル入れたんだけど、一人じゃ試せなくて……」
耳元で囁かれる甘い声。
背中に押し付けられる胸の鼓動が、トクトクと私の背骨に伝わってくる。
彼女もまた、誰かの肌の温もりを求めている。
そして、その相手に私を選ぼうとしている。
私は鏡の中の、少し頬を紅潮させた雪子さんを見つめ返し、ゆっくりと頷いた。
「……はい。ぜひ、お願いします……♥」
髪を切るハサミの音が再開する。
けれど、その音はもう、ただの美容室の環境音じゃない。
私たち二人が、一線を越えるためのカウントダウンのように聞こえていた。
憧れだったお姉さん。
今は傷ついた、一人の女性。
その心の隙間にも、身体の隙間にも、私が入り込んでしまいたい。
カットクロスの下、私は期待と興奮でじわりと濡れていく下着の感触を噛み締めていた。
最後の客である私のカットが終わり、雪子さんは一度店の入り口へ向かった。
ガラガラ……とシャッターが降りる重たい音が響き、ドアの札が『CLOSED』にひっくり返される。
その瞬間、世界から切り離されたような静寂が店内に満ちた。
BGMのボサノバだけが、やけに鮮明に聞こえる。
「ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって」
「いえ、全然。私、暇なんで……」
雪子さんはふわりと微笑んで、店の奥にあるパーティションで仕切られたスペースへと私を招き入れた。そこは普段、フェイシャルエステなどで使われている半個室だ。
照明が少し落とされ、オレンジ色の間接照明が温かく揺らいでいる。
ラベンダーとイランイランの混ざったような、甘く重たいアロマの香りが、すでに部屋中に立ち込めていた。
「じゃあ、あゆみちゃん。服、脱いでもらっていい? オイルついちゃうといけないから」
「えっ、あ、はい……全部、ですか?」
「うーん、上半身だけでいいよ。あ、ブラも外しちゃってね。背中全体やりたいから」
さらりと言われた言葉に、私は平静を装いながらも内心パニックになっていた。
同性だから。美容室のマッサージだから。
そう自分に言い聞かせながら、震える手でシャツのボタンを外し、ブラジャーのホックを外す。
上半身裸になってタオルを胸元に抱え、マッサージベッドにうつ伏せになった。ひんやりとしたタオルの感触と、自分の心臓の音がうるさい。
(落ち着け、私。期待しちゃダメだ)
ベッドの穴から床を見つめながら、私は必死に自分を戒めていた。
さっき、雪子さんは「離婚した」と言った。
確かに彼女はフリーになった。もう誰のものでもない。
けれど、それはあくまで法的な話だ。
彼女はかつて男性と結婚し、男性を愛していた人だ。つまり、性的指向は「ノーマル(異性愛者)」に決まっている。
当時の私はまだ若く、知識も偏っていた。
世の中には男性も女性も愛せる「バイセクシャル」や、性別に関係なく人を好きになる「パンセクシャル」という概念があることを、知識としては知っていても、それを身近な現実に当てはめて考えることができていなかったのだ。
「一度男の人と結婚した人は、男の人が好きな人」。
私のような、女の子しか愛せない人間とは住む世界が違う人。
この方程式が私の頭の中で絶対のルールとして鎮座していた。
だから、今のこの状況――薄暗い部屋で二人きり、私が半裸で待っているこの状況も、彼女にとっては「女性顧客への施術」の延長線上でしかないはずだ。
私が勝手にドキドキして、勝手に劣情を抱いているだけ。
これはチャンスなんかじゃない。私の片思いが暴走しているだけの、痛々しい勘違いなんだ。
「じゃあ、始めるねぇ。オイル、ちょっと冷たいかも」
雪子さんの声がすぐ耳元で聞こえたかと思うと、背中にトロッ♥ とした液体が垂らされた。
「ひゃうっ♥」
「あはは、敏感だねぇ」
オイルの冷たさと、それを塗り広げる雪子さんの手のひらの熱さ。
ヌチャ、ヌチュゥ……♥
粘度の高いオイルが肌に馴染んでいく音が、静かな部屋にいやらしく響く。
彼女の手は大きく、そして柔らかかった。
肩甲骨の周りを円を描くように撫でられ、凝り固まった筋肉がほぐされていく。
「あゆみちゃん、肌すべすべだねぇ。やっぱり若さかなぁ」
「そ、そんなことないです……雪子さんこそ、綺麗で……」
「私なんておばさんだよぉ。もう、誰にも見せられないもん」
自虐めいた言葉と共に、背中に乗せられた手にグッ♥ と体重がかかる。
その時だった。
むにゅぅッ……♥♥
背中の中心に、圧倒的な質量の柔らかさが押し付けられた。
雪子さんが、私の背中をマッサージするために、体重をかけて覆いかぶさってきたのだ。
服越しではない。
私も裸、雪子さんも薄着のエプロン姿。
ほとんど生身の胸の感触が、背骨を通してダイレクトに伝わってくる。
(嘘……っ、当たってる、すごい当たってる……っ!)
頭では「勘違いだ」と否定しているのに、身体は正直すぎた。
下腹部がキュン♥ と疼き、内股がモゾモゾとする。
彼女の胸は、まるで水風船のように形を変えて私の背中のラインに密着していた。心臓の鼓動すら伝わってきそうだ。
「んぅ……っ、雪子さん、そこ……」
「ここ、気持ちいい? 腰の方も凝ってるねぇ」
雪子さんの手が、背中から腰へと滑り降りていく。
ジーンズのベルトのラインぎりぎりまで、ヌルヌルとした指先が入り込む。
尾てい骨のあたりを親指でグニグニ♥ と刺激されると、声にならない喘ぎが漏れそうになった。
「あゆみちゃん、可愛い声出すね」
耳元で、くすくすと笑う声。
その吐息がうなじにかかり、鳥肌が立つ。
これは、からかわれているだけ? それとも、そういう「プレイ」なの?
いや、違う。相手はストレートの人妻(元)だ。
きっと、女の子同士ならこれくらい普通なんだ。私がレズビアンだから過剰反応してるだけなんだ。
「……ねぇ、あゆみちゃん」
マッサージの手が止まらないまま、雪子さんが唐突に口を開いた。
その声のトーンが、先ほどまでのほんわかしたものではなく、少し低く、艶を帯びていることに私は気づいた。
「男の人ってさ、乱暴だよね」
「え……?」
「力任せだし、自分のことばっかりだし。私、もう男の人は懲り懲りかも」
ヌチッ、レロ……♥
雪子さんの指が、私の脇腹を撫で上げる。そこはくすぐったくて、でも気持ちいい、危険なゾーンだ。
「えっと……それは、旦那さんが酷い人だったからで……」
「そうかなぁ。でもね、今こうやってあゆみちゃんに触れてると……すごく安心するの」
雪子さんの身体が、さらに深く沈み込んでくる。
彼女の豊かな双丘が、私の背中を押し潰すように密着し、その谷間の熱気が伝わってくる。
そして、彼女の顔が、私の耳のすぐ後ろまで近づいてきた。
「女の子の肌って、柔らかくて、いい匂いがして……ずっとこうしていたいなって思っちゃう」
その言葉は、私の理性を揺さぶるには十分すぎる威力を持っていた。
でも、まだ信じられない。
これは「癒やし」としての発言だ。性的対象として見られているわけじゃない。
私はペットの猫か何かと同じ扱いを受けているだけだ。
そう思わないと、期待して裏切られた時のダメージに耐えられない。
「雪子さん、それ、酔ってますか? アロマの香りで」
「ふふ、酔ってるかもねぇ……あゆみちゃんの匂いに」
チュッ♥
不意に、うなじに湿った感触が走った。
キス。
今、キスされた?
脳内が真っ白になる。
思考回路がショートしそうになる中で、雪子さんの手が、私のわきの下をくぐり抜け、前へと回ってきた。
「あっ、ちょ、雪子さっ……!?」
「マッサージ、前もしないとねぇ……♥」
ヌルリとしたオイルまみれの手が、タオル越しに私の胸を包み込んだ。
いや、タオルなんて気休めにもならない。
彼女の指は、タオルの隙間から侵入し、私の素肌を――まだ誰にも触らせたことのない未熟な膨らみを、優しく、けれど確実に捉えた。
「んっ!♥ ぁあっ……!」
「可愛い……あゆみちゃん、ドキドキしてるね。ここ、固くなってる♥」
指先がバストトップを掠める。
電流のような快感が走り、私はベッドのシーツをギュッと握りしめた。
「男しか好きじゃないはず」という私の堅牢な思い込みの壁に、今、雪子さんの指先が小さな、しかし決定的な風穴を開けようとしていた。
彼女の瞳の中に宿っている光が、単なる「寂しさ」だけではないことに、未熟な私はまだ、気づいていなかったのだ。
オイルに塗れた雪子さんの指先が、私の胸の頂を弄ぶ。
コリッ、クリクリ……♥
未開発で敏感なそこは、彼女の巧みな指使いによって瞬く間に充血し、硬く尖り始めていた。
「んぅっ……あ、ゆきこさん、だめぇ……っ♥」
「ふふ、ダメじゃないよぉ。こんなに感じてくれてるのに」
耳元で囁かれる声は、脳髄を痺れさせる毒のように甘い。
雪子さんの手は、決して乱暴にはしなかった。
男性の、あの欲望をぶつけるようなガサツな触り方とは根本的に違う。まるで高級なシルクを扱うように、あるいは熟れた果実の傷みやすい皮を剥くように、繊細で、ねっとりとした愛撫。
ヌルッ、チュプ……♥
オイルの潤滑も相まって、指が肌に吸い付く音が卑猥に鼓膜を叩く。
「あゆみちゃん、こっち向いて?」
抵抗できないまま、私は雪子さんに促されて仰向けになった。
薄暗い間接照明の下、視界に入ってきた雪子さんの姿に、私は息を呑んだ。
いつも結んでいる髪が少し乱れて、頬は上気し、瞳はとろんと潤んでいる。
そして何より、私の視線を釘付けにしたのは、前屈みになった彼女の胸元だ。エプロンの隙間から、キャミソールに包まれた豊満な双丘がこぼれ落ちんばかりに主張している。
「人妻」だった女性特有の、熟成された色気。
少女には出せない、むせ返るようなフェロモンが彼女の全身から立ち昇っていた。
「あゆみちゃん……顔、真っ赤」
「だって、雪子さん、綺麗すぎて……」
「お世辞が上手だねぇ。……でも、嬉しい」
雪子さんが私の顔を両手で挟み込む。
ひんやりとしたオイルの感触と、火照った手のひらの熱。
見つめ合う瞳の距離が、じりじりと近づいてくる。
「ねぇ、知ってる? 離婚したての人って、寂しくて壊れそうになっちゃうんだよ」
「雪子、さん……」
「私を慰めてくれるのは、あゆみちゃんだけなの……」
その言葉は、私の理性の最後の砦を粉砕した。
唇が重なる。
チュッ……♥
最初は触れるだけの、優しいキス。
でも、すぐに雪子さんの唇が開き、私の下唇をハムッ♥ と甘噛みして吸い上げた。
「んんっ……!?♥」
チュパ、レロ……ジュルッ……♥
大人のキスだ。
舌の使い方が、私が今まで漫画やドラマで想像していたものとは次元が違った。
私の舌を絡め取り、口内の敏感なところを執拗に舐め上げ、時に吸い付き、時に優しく転がす。
唾液が混ざり合う音が、静まり返った美容室に響き渡る。
(すごい……っ、上手……っ、頭おかしくなるぅ……っ♥)
息ができない。思考が溶ける。
彼女は元々男性と結婚していた。つまり、男性との夜の営みを知り尽くしているということだ。
どうすれば相手が気持ちよくなるか。どうすれば悦ぶか。
その「経験値」が、今、すべて私に向けられている。
同性の柔らかさと、経験豊富な大人のテクニック。
その二つを兼ね備えた雪子さんの攻めに、恋愛経験ゼロの私が敵うはずもなかった。
「ぷはっ……♥ あゆみちゃん、口の中も甘いねぇ」
「はぁ、はぁ……ゆきこ、さん……私、もう……♥」
「まだだよぉ。これからもっと、気持ちよくしてあげる」
雪子さんの手が、私の下腹部へと伸びる。
ジーンズのボタンが外され、ファスナーが下ろされる音が、やけに大きく響いた。
恥ずかしさで足を閉じようとしたけれど、雪子さんの太ももが割り込んでくる。
その太ももすらも、柔らかくて、温かくて、心地いい。
「力抜いてぇ。怖くないよ」
雪子さんの指が、ショーツの縁をくぐり抜ける。
秘部に触れられた瞬間、ビクンッ!♥ と腰が跳ねた。
「ああっ♥ そこ、だめっ……!」
「あら、もうこんなに濡れてる……可愛い」
クチュ……♥
指が愛液をかき混ぜる水音がした。
雪子さんは私の反応を楽しむように、クリトリスを円を描くように優しく刺激し始める。
そのリズムが、絶妙だった。
早すぎず、遅すぎず。私が「もっと欲しい」と思うギリギリの寸止めを繰り返す。
じれったさと快感が入り混じり、私は身をよじって彼女の名前を呼ぶことしかできない。
「ゆきこさんっ、お願い、もっと……っ♥」
「もっと? どうしてほしいのぉ?」
「いじめて、くださいっ……中、してぇ……っ♥」
自分の口から出たとは思えない淫らな言葉。
でも、雪子さんは満足げに微笑むと、「いいよぉ」と優しく囁いた。
ズチュッ……♥
中指が、私の身体の奥へと侵入してくる。
異物感じゃない。満たされる感覚。
ずっと憧れていた人の指が、私の中に入っているという事実が、脳みそを焼き切るほどの興奮をもたらした。
「んっ、ぁあっ! ああっ!♥ そこっ、すごいっ……♥」
「ここが好きなの? あゆみちゃんの中、すっごい吸い付いてくるぅ」
雪子さんの動きが激しくなる。
指だけじゃない。彼女は空いているもう片方の手で私の胸を揉みしだき、口づけを降らせてくる。
視覚、聴覚、触覚、そのすべてが雪子さんで埋め尽くされる。
(夢じゃない。これ、夢じゃないんだ……!)
ずっと遠くから見ていた憧れの人。
旦那さんの後ろで微笑んでいた、聖母のような人妻。
その人が今、私の上で乱れ、私を求めて、私を快楽の底へ突き落とそうとしている。
絶対に叶わないと思っていた初恋。
それが今、こんなにも濃厚で、こんなにもいやらしい形で叶ってしまった。
「いくっ、ゆきこさん、わたし、いっちゃうっ……!!♥」
「いいよ、あゆみちゃん。全部出して……私の手の中で、イッちゃって♥」
雪子さんの指が、中の敏感な部分を激しく掻き回す。
グチュグチュ、パンッ、パンッ……♥
激しい音と共に、私の視界が真っ白に弾けた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っーー!!♥♥」
弓なりに反り返った身体が痙攣し、熱い波が何度も押し寄せる。
私の初めての絶頂は、憧れの雪子さんの手によって、あまりにも呆気なく、そして劇的に奪われたのだった。
***
余韻に浸りながら、私は荒い息を整えていた。
全身が泥のように重く、力が入らない。
雪子さんは、汗ばんだ私の額をタオルで優しく拭いてくれながら、愛おしそうに私を見下ろしている。
「あゆみちゃん……可愛かったよぉ」
「うぅ……雪子さんのせいで、変になっちゃいました……」
「ふふ、責任取るね。……これからは、ずっと一緒だよ」
雪子さんが私の唇に、誓いのキスを落とす。
その瞳にもう迷いはなかった。
人妻だった彼女はもういない。ここにいるのは、私を愛し、私に愛されることを選んだ一人の女性だ。
この甘くて危険な大人の女性の腕の中から、私はもう二度と抜け出せそうになかった。
だって、こんなに気持ちよくされちゃったら……もう、雪子さん以外の人なんて考えられないもの。
(第三十三章 完)
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