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2話
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一島さんが教室にいたということは、実晴がもどるまでまだ時間がかかるだろう。
じっとしているとぐるぐる考え事の渦に飲み込まれそうだったため、ボランティア部の清掃でも手伝おうと透山を探すことにした。
靴を履き替え外に出ると、正門あたりに見覚えのある人物を見つけた。スカートの裾が地面につくのもおかまいなしで、しゃがんで視線を下に向けている。
「どうかしたのか?」
声をかけられたことに驚いたのか、はじかれたようにこちらを振り返る。後ろでひとつにまとめた髪が大きく揺れた。
彼女は一年のときにクラスメイトだった槻川さんだ。
「……自転車の鍵失くしちゃって……」
自転車通学の槻川さんは毎朝正門から登校し、昇降口を通り過ぎた先の駐輪場に自転車をとめて三組の教室へ向かう。それは今朝も変わらず、普段通りに授業を受けていた。制服のポケットに鍵がないと気づいたのは、体育の授業前だったという。二組と三組は合同で体育をおこなう。今日は四時間目に体育があったので、それまでにどこかで落としたということだろう。
「四時間目までに教室を出たか?」
「出てない。だから休み時間の間に教室は探してみたんだけど……差しっぱなしにしてないかと思って自転車も見たけどなかったし…………」
駐輪場から教室までの道のりにある可能性が高いということか。それなら、と手分けして駐輪場と教室の間を捜索することを槻川さんに提案した。一人が教室から、もう一人が駐輪場からたどっていけばまんべんなく探せる。
「それはありがたいけど……いいの?」
「あぁ。ちょうど暇だったし」
教室にいた一島さんの顔が脳裏によぎる。じっと待っていられなくて、ボランティア部の手伝いをしようとしていたところだ。清掃であれ、もの探しであれ、考え事をせずに済む状況は都合がよかった。
靴を履き替えて教室へ向かった槻川さんを横目に、駐輪場へ移動する。
正門を越えゆるい坂を下った先が駐輪場で、扉はなく、入ってすぐ自転車が四列にずらっと並べられている。青白い蛍光灯の光が照らす空間は人の気配がなく薄暗い。
自転車と自転車のすき間、列の間の通路、考えられる場所を這いつくばって隅から隅まで探してみるが、見つかるのは蜘蛛の巣か虫の死骸くらいである。
駐輪場はあきらめ、注意深く下を見ながら槻川さんと会った正門前付近まで戻る。次に昇降口。三組の靴箱前にしゃがみこむが、ここにもない。この狭い範囲に落ちていたなら先に槻川さんが気づいているだろう。
立ち上がって凝った首筋を伸ばす。この分だと先に実晴の用事が終わりそうだ。ポケットに入れていたスマホを取り出し、先に帰るようにメッセージを入れて、鍵探しを再開した。
掃除ロボットにでもなった気分で校内をジグザクと進んでいると、三階に差し掛かる階段を上ったところで槻川さんと出くわした。彼女も下を注視しながら歩いて来たことから察するに、鍵は見つからなかったらしい。
「……落とし物ボックスは?」
「見たけどなかった。係の先生にも聞いたけど届いてないって」
駐輪場にもない、廊下にもない、誰かに拾われてもないとなると、これ以上探すのは困難だった。
「ごめんね、付き合わせて。残念だけど一旦あきらめるかぁ……」
明るく笑って見せる槻川さんだが、その笑顔には力がない。可能性は低かったが一縷の望みをかけ、ひとつ提案した。
「もう一回だけ教室の中を見てみよう」
「でも、昼間に散々探したよ?」
「教室内に人がいる状態で、だろう? もしかすると見落としがあるかもしれない。まぁ、ダメ元だ」
槻川さんは迷っているようだったが、俺が気になるだけだから、ともうひと押しすると、遠慮がちにうなずいた。
三組の教室は施錠されていたため、階段を下りて職員室へ教室の鍵を取りに行った。
職員室を出て教室へ向かう道すがら、槻川さんが鍵についた札を指先でなでながら俺に話しかける。
「自転車の鍵は最悪どうとでもなるからいいんだけど、鍵についてるキーホルダーは戻ってこないじゃん?」
宝物を入れた箱をそっと開けるように話してくれたのは、手作りのキーホルダーのことだった。友達と出かけた際、いっしょに作ったキーホルダーで、お互いの作ったものを交換して持っているのだという。
正門前で必死に鍵を探す彼女の姿を思い返す。きっと、思い出の詰まった大切なものだ。絶対に見つけたかった。
鍵を開けて三組の教室に入る。
前方にホワイトボードと教卓、後方に生徒用のロッカー。窓からの景色が多少異なるくらいで、二組も三組も大した変化はない。
違いといえば人が全くいないことくらいだ。誰もいない教室はガランとしていて、撮影のために用意されたセットのようだった。
早速捜索に取りかかる。教室前方からは槻川さんが、後方からは俺が、再びはさみこんで隅から隅まで探す作戦である。
脇にかかっている荷物の下敷きになっていないかと、持ち上げてみたり、ごみ箱をのぞいてみたり、動かせるものは全て動かして探し回る。最後には二人で教卓を移動させて周辺を確認してみたものの、目当てのものを見つけることはできなかった。
教室を施錠し、二人肩を落として職員室へと戻る。
「ここまで探してないんだから仕方ないわ。手伝ってくれてありがとね」
気丈に振る舞っているが声にはりがない。なんと言葉をかけようか迷っているときだった。
「あれ槻川、まだ残ってたのか?」
じっとしているとぐるぐる考え事の渦に飲み込まれそうだったため、ボランティア部の清掃でも手伝おうと透山を探すことにした。
靴を履き替え外に出ると、正門あたりに見覚えのある人物を見つけた。スカートの裾が地面につくのもおかまいなしで、しゃがんで視線を下に向けている。
「どうかしたのか?」
声をかけられたことに驚いたのか、はじかれたようにこちらを振り返る。後ろでひとつにまとめた髪が大きく揺れた。
彼女は一年のときにクラスメイトだった槻川さんだ。
「……自転車の鍵失くしちゃって……」
自転車通学の槻川さんは毎朝正門から登校し、昇降口を通り過ぎた先の駐輪場に自転車をとめて三組の教室へ向かう。それは今朝も変わらず、普段通りに授業を受けていた。制服のポケットに鍵がないと気づいたのは、体育の授業前だったという。二組と三組は合同で体育をおこなう。今日は四時間目に体育があったので、それまでにどこかで落としたということだろう。
「四時間目までに教室を出たか?」
「出てない。だから休み時間の間に教室は探してみたんだけど……差しっぱなしにしてないかと思って自転車も見たけどなかったし…………」
駐輪場から教室までの道のりにある可能性が高いということか。それなら、と手分けして駐輪場と教室の間を捜索することを槻川さんに提案した。一人が教室から、もう一人が駐輪場からたどっていけばまんべんなく探せる。
「それはありがたいけど……いいの?」
「あぁ。ちょうど暇だったし」
教室にいた一島さんの顔が脳裏によぎる。じっと待っていられなくて、ボランティア部の手伝いをしようとしていたところだ。清掃であれ、もの探しであれ、考え事をせずに済む状況は都合がよかった。
靴を履き替えて教室へ向かった槻川さんを横目に、駐輪場へ移動する。
正門を越えゆるい坂を下った先が駐輪場で、扉はなく、入ってすぐ自転車が四列にずらっと並べられている。青白い蛍光灯の光が照らす空間は人の気配がなく薄暗い。
自転車と自転車のすき間、列の間の通路、考えられる場所を這いつくばって隅から隅まで探してみるが、見つかるのは蜘蛛の巣か虫の死骸くらいである。
駐輪場はあきらめ、注意深く下を見ながら槻川さんと会った正門前付近まで戻る。次に昇降口。三組の靴箱前にしゃがみこむが、ここにもない。この狭い範囲に落ちていたなら先に槻川さんが気づいているだろう。
立ち上がって凝った首筋を伸ばす。この分だと先に実晴の用事が終わりそうだ。ポケットに入れていたスマホを取り出し、先に帰るようにメッセージを入れて、鍵探しを再開した。
掃除ロボットにでもなった気分で校内をジグザクと進んでいると、三階に差し掛かる階段を上ったところで槻川さんと出くわした。彼女も下を注視しながら歩いて来たことから察するに、鍵は見つからなかったらしい。
「……落とし物ボックスは?」
「見たけどなかった。係の先生にも聞いたけど届いてないって」
駐輪場にもない、廊下にもない、誰かに拾われてもないとなると、これ以上探すのは困難だった。
「ごめんね、付き合わせて。残念だけど一旦あきらめるかぁ……」
明るく笑って見せる槻川さんだが、その笑顔には力がない。可能性は低かったが一縷の望みをかけ、ひとつ提案した。
「もう一回だけ教室の中を見てみよう」
「でも、昼間に散々探したよ?」
「教室内に人がいる状態で、だろう? もしかすると見落としがあるかもしれない。まぁ、ダメ元だ」
槻川さんは迷っているようだったが、俺が気になるだけだから、ともうひと押しすると、遠慮がちにうなずいた。
三組の教室は施錠されていたため、階段を下りて職員室へ教室の鍵を取りに行った。
職員室を出て教室へ向かう道すがら、槻川さんが鍵についた札を指先でなでながら俺に話しかける。
「自転車の鍵は最悪どうとでもなるからいいんだけど、鍵についてるキーホルダーは戻ってこないじゃん?」
宝物を入れた箱をそっと開けるように話してくれたのは、手作りのキーホルダーのことだった。友達と出かけた際、いっしょに作ったキーホルダーで、お互いの作ったものを交換して持っているのだという。
正門前で必死に鍵を探す彼女の姿を思い返す。きっと、思い出の詰まった大切なものだ。絶対に見つけたかった。
鍵を開けて三組の教室に入る。
前方にホワイトボードと教卓、後方に生徒用のロッカー。窓からの景色が多少異なるくらいで、二組も三組も大した変化はない。
違いといえば人が全くいないことくらいだ。誰もいない教室はガランとしていて、撮影のために用意されたセットのようだった。
早速捜索に取りかかる。教室前方からは槻川さんが、後方からは俺が、再びはさみこんで隅から隅まで探す作戦である。
脇にかかっている荷物の下敷きになっていないかと、持ち上げてみたり、ごみ箱をのぞいてみたり、動かせるものは全て動かして探し回る。最後には二人で教卓を移動させて周辺を確認してみたものの、目当てのものを見つけることはできなかった。
教室を施錠し、二人肩を落として職員室へと戻る。
「ここまで探してないんだから仕方ないわ。手伝ってくれてありがとね」
気丈に振る舞っているが声にはりがない。なんと言葉をかけようか迷っているときだった。
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