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8話
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失敗かと思われた先日のデートは、意外な効果をもたらした。
パンやおにぎりをお供に、仲のいい友人同士で机を囲む者、自分の席でひとり黙々と弁当を食べ進める者。
午前の授業が終わり、やっと一息つける昼休み。放送部が流している音楽も相まって、教室内は賑やかな声であふれていた。
俺がいるのは自分のクラス二年一組……ではなく、二年二組の教室である。
人当たりが良くて人気者の実晴は自分のクラスでとっくに友人をつくっているだろうに、毎日一組の教室に来てはどこかから椅子を借りてきて俺の隣に座り、弁当を広げ始めるのだ。来てもらうばかりでは悪いので、週ごとに互いの教室を行き来することになった。今週は二組で食べる週というわけだ。
なぜか俺はうながされるままに実晴の席に座り、実晴は隣の人から借りた椅子を自分の席まで持ってきて座る。俺が教室を訪れている側なので、実晴が自分の席に座ればいいのにと思う。何度も誰かに椅子を借りようとしたのだが、その前に昼休み用の席ができあがっていて、実晴はさっさと借り物の椅子に座ってしまうのだ。
通常の二倍の量はある米の中に唐揚げを詰めた、海苔で巻かれた爆弾のような見た目のおにぎりと、タッパーに入ったサラダを食べ、腹がいっぱいになった俺は腕を組んで前方をにらんでいた。
「うわー久々に見たわ亜食のその顔! 凶悪犯面すぎる」
自分の席から振り返るようにしてこちらを見るのは透山だ。あだ名は野球部。坊主だからという理由のみで命名されているが、所属はボランティア部である。からっと明るい良いやつだ。ちなみに俺も実晴も普通に名字で呼んでいる。
「有誠くんはおねむなんだよ」
隣の実晴が俺に寄りかかるようにして肩を組んだ。肩に置かれた腕がすす……と前にまわってホールドされる。
心臓が跳ねるが、動揺を悟られないよう唇を固く引き結ぶ。
前回の手をつないでハグしよう作戦が功を奏したのか、実晴は告白避けのため、恋人らしい接触も取り入れることにしたようだった。いったい何がどのように作用したのかは不明だが、明らかに前回のデート後から肩にもたれかかる、手をくすぐる、髪を触るなど、恋人がするような触れ合いが増えたのだ。
「おまえらほんと仲良いよなー」
のんきに笑う透山をさきほどとは違い、意思をもってねめつける。こちとら不自然に速くなる鼓動で眠気が吹っ飛んだというのに。
「飲み物買ってくる」
平静を保つのに限界がきた俺は急いで立ち上がった。その拍子に実晴の腕が俺の体から離れていく。
顔が赤くなっていないか気がかりで、座る二人に見られないよう顔を背け、足早に教室を立ち去った。
昼休みの食堂はなかなかに混みあっている。見渡す限りカウンターも長テーブルも満員で、空いているのは外のテラス席くらいだ。食堂の扉はくぐらずに、廊下からまわってテラス席横にある自動販売機へと歩を進める。
財布を開いたところで顔の横からにゅっと手が伸びてきた。覚えのある壁ドン。手のある方向におそるおそる顔を向けると、そこにはにっこりほほ笑んだ一島さんがいた。
額に汗がにじむ。テラス席は日陰になっていたが、それでも湿気を帯びた空気が体にまとわりつくような暑さかからは逃れられない。どうりで人がいないはずだ。同じくこの暑さに汗をかき始めたコーヒー牛乳のパックにストローを刺す。
二度目の壁ドンをかました一島さんは、ついた手を自販機から離して五百円玉を投入し、自分の分といっしょに俺の飲み物を購入した。「これ、賄賂ね」と差し出されたのがここにあるコーヒー牛乳である。何に対する賄賂かといえば。
「どうすればはるくんを遊びに誘えると思う!?」
と、テーブルに置いたスポーツドリンクを両手で握りしめる一島さんが嘆く。
実晴のことを相談されてからというもの、昼休みや放課後に実晴がいない隙を狙って突撃されるようになった。今日はあいさつできた、笑いかけてくれたなど、内容はさまざまである。
「どうって……遊ぼうって言えばいいんじゃないか」
「言えたらこんなこと相談しないわ! 恋人がいるって宣言されてるのに二人で遊ぼうなんて言ったらアバズレだと思われるでしょ!」
「あばずれ……」
一島さんの言うことはもっともである。女と二人きりで出かけるだなんて誠実なお付き合いをしているならば断るはずだ。俺とのそれは誠実とはほど遠いし、そもそも付き合っているといえるかもあやしい関係だが、恋人がいると言った手前、確かに実晴が断る可能性は高いように思われる。なによりやつは今、そういうことをめんどくさがっているし。
これじゃアプローチもなにもない……と頭を抱える一島さんの前で、おごってもらったコーヒー牛乳を飲む。一島さんと実晴がいっしょに遊べる方法。ひとつ思いついたことがあり、ストローから口を離す。
「要は二人だけで出かけるのがまずいんだろう。だったら他にも人を呼んで『みんなでいっしょに遊ぶ』という体で誘えばいいんじゃないか?」
「みんなで……」
「例えば、元一組のメンバーで集まろうとでも言ったらそれっぽくなるし、実晴もそんなに警戒しないと思うが」
彼女は口元に手を当ててなにやら考えこむと、ぱっと顔を上げニヤリという言葉がぴったりの表情で人差し指を立てた。
「採用!」
パンやおにぎりをお供に、仲のいい友人同士で机を囲む者、自分の席でひとり黙々と弁当を食べ進める者。
午前の授業が終わり、やっと一息つける昼休み。放送部が流している音楽も相まって、教室内は賑やかな声であふれていた。
俺がいるのは自分のクラス二年一組……ではなく、二年二組の教室である。
人当たりが良くて人気者の実晴は自分のクラスでとっくに友人をつくっているだろうに、毎日一組の教室に来てはどこかから椅子を借りてきて俺の隣に座り、弁当を広げ始めるのだ。来てもらうばかりでは悪いので、週ごとに互いの教室を行き来することになった。今週は二組で食べる週というわけだ。
なぜか俺はうながされるままに実晴の席に座り、実晴は隣の人から借りた椅子を自分の席まで持ってきて座る。俺が教室を訪れている側なので、実晴が自分の席に座ればいいのにと思う。何度も誰かに椅子を借りようとしたのだが、その前に昼休み用の席ができあがっていて、実晴はさっさと借り物の椅子に座ってしまうのだ。
通常の二倍の量はある米の中に唐揚げを詰めた、海苔で巻かれた爆弾のような見た目のおにぎりと、タッパーに入ったサラダを食べ、腹がいっぱいになった俺は腕を組んで前方をにらんでいた。
「うわー久々に見たわ亜食のその顔! 凶悪犯面すぎる」
自分の席から振り返るようにしてこちらを見るのは透山だ。あだ名は野球部。坊主だからという理由のみで命名されているが、所属はボランティア部である。からっと明るい良いやつだ。ちなみに俺も実晴も普通に名字で呼んでいる。
「有誠くんはおねむなんだよ」
隣の実晴が俺に寄りかかるようにして肩を組んだ。肩に置かれた腕がすす……と前にまわってホールドされる。
心臓が跳ねるが、動揺を悟られないよう唇を固く引き結ぶ。
前回の手をつないでハグしよう作戦が功を奏したのか、実晴は告白避けのため、恋人らしい接触も取り入れることにしたようだった。いったい何がどのように作用したのかは不明だが、明らかに前回のデート後から肩にもたれかかる、手をくすぐる、髪を触るなど、恋人がするような触れ合いが増えたのだ。
「おまえらほんと仲良いよなー」
のんきに笑う透山をさきほどとは違い、意思をもってねめつける。こちとら不自然に速くなる鼓動で眠気が吹っ飛んだというのに。
「飲み物買ってくる」
平静を保つのに限界がきた俺は急いで立ち上がった。その拍子に実晴の腕が俺の体から離れていく。
顔が赤くなっていないか気がかりで、座る二人に見られないよう顔を背け、足早に教室を立ち去った。
昼休みの食堂はなかなかに混みあっている。見渡す限りカウンターも長テーブルも満員で、空いているのは外のテラス席くらいだ。食堂の扉はくぐらずに、廊下からまわってテラス席横にある自動販売機へと歩を進める。
財布を開いたところで顔の横からにゅっと手が伸びてきた。覚えのある壁ドン。手のある方向におそるおそる顔を向けると、そこにはにっこりほほ笑んだ一島さんがいた。
額に汗がにじむ。テラス席は日陰になっていたが、それでも湿気を帯びた空気が体にまとわりつくような暑さかからは逃れられない。どうりで人がいないはずだ。同じくこの暑さに汗をかき始めたコーヒー牛乳のパックにストローを刺す。
二度目の壁ドンをかました一島さんは、ついた手を自販機から離して五百円玉を投入し、自分の分といっしょに俺の飲み物を購入した。「これ、賄賂ね」と差し出されたのがここにあるコーヒー牛乳である。何に対する賄賂かといえば。
「どうすればはるくんを遊びに誘えると思う!?」
と、テーブルに置いたスポーツドリンクを両手で握りしめる一島さんが嘆く。
実晴のことを相談されてからというもの、昼休みや放課後に実晴がいない隙を狙って突撃されるようになった。今日はあいさつできた、笑いかけてくれたなど、内容はさまざまである。
「どうって……遊ぼうって言えばいいんじゃないか」
「言えたらこんなこと相談しないわ! 恋人がいるって宣言されてるのに二人で遊ぼうなんて言ったらアバズレだと思われるでしょ!」
「あばずれ……」
一島さんの言うことはもっともである。女と二人きりで出かけるだなんて誠実なお付き合いをしているならば断るはずだ。俺とのそれは誠実とはほど遠いし、そもそも付き合っているといえるかもあやしい関係だが、恋人がいると言った手前、確かに実晴が断る可能性は高いように思われる。なによりやつは今、そういうことをめんどくさがっているし。
これじゃアプローチもなにもない……と頭を抱える一島さんの前で、おごってもらったコーヒー牛乳を飲む。一島さんと実晴がいっしょに遊べる方法。ひとつ思いついたことがあり、ストローから口を離す。
「要は二人だけで出かけるのがまずいんだろう。だったら他にも人を呼んで『みんなでいっしょに遊ぶ』という体で誘えばいいんじゃないか?」
「みんなで……」
「例えば、元一組のメンバーで集まろうとでも言ったらそれっぽくなるし、実晴もそんなに警戒しないと思うが」
彼女は口元に手を当ててなにやら考えこむと、ぱっと顔を上げニヤリという言葉がぴったりの表情で人差し指を立てた。
「採用!」
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