あ・い・う・え・お

夢=無王吽

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第六話『見失う』

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 年の差は、最小に見積もっても俺より六つ下。しかも、相手は未成年で学生。
 うん、ほれ見ろ、だから言っただろ?
 相手が女子高生だと白状する前、好きなコの背後から会話を盗み聞きしたことを気持ち悪いと蔑んだけど(俺が)、そんなのはまだ序の口で、そのストーカー的な行為を女子高生相手にしていたと知った後のほうが、倍増しで変態の懺悔のように聴こえるだろうが?
 ほらー、もー、やっぱりー。
 だーから言ったじゃんかよ!
 だーから言ったじゃんかよ!
 なんで二回言うのかって?
 意味が二つあるからだよ!
 話が進めば気持ち悪さが倍増するって言ったことと、どんなに好きな相手でも、気持ちを伝えたりするような積極的な行動はできないって言ったことの二つ。
 納得だろ?
 告白しちゃダメな相手だったろ?
 これを結論にしてしまうと、この恋愛は、好きになった時点で、もう失敗だったということになってしまうんだけど、そこを反省ポイントにしてしまうと、これはこれで、にっちもさっちもいかなくなってしまうんだな。
 だって、じゃあ、好きにならない方法って、どうやるのさ?
 反省したところで、そこはどうにもならないんだよ。
 だから、ここはあえてスルーする。
 好きになったことは、しかたなしと判定を下す。
 よし、無罪……なのか?
 いや、そりゃもちろん、大人が女子高生を好きになっちゃダメなんだろうけど、でもほら、対案がないので。
 妥協点として、とりあえず保留としておく。
 恋は盲目と言うし、世間的にも、もしかしたら法的にもアウトなのかもしれないけど、報われない恋に耐えて、チラチラと観るという妥協点で気持ちを抑えていたのは、男の純情ってことでいいだろう。いいよな? なに? なにか反対意見でもあるのか? 結局は、彼女の後をついて行っちゃったんだから、ぜんぜん気持ちを抑えきれてないじゃないか、だと?
 オマエ(俺)、よく、そんなことを……。
 だって、しょうがないじゃんか!
 だって、しょうがないじゃんか!
 二回言ったけど、また二つ意味があるのかって?
 ねぇよ!
 一回では、俺の悲しみの大きさを伝えきれなかっただけだよ!
 たしかに後をつけちゃったけど、近くで会話を盗み聞いちゃったけど、具体的になにかをしたわけじゃないし、なにより彼女に迷惑をかけていないだろ!
 俺はただ、好きな人のそばにいたかっただけなんだ!
 おまえ(俺)がこの微妙な男心を理解せずに、誰がするんだ?
 そこはおまえ(俺)、逆に反省するべきだぞ?
 世界中の誰よりも自分の気持ちを知ってるんだから。
 まったくもうフザケるなよ……、ところであのあれだ。淫行条例ってのはあれ、十六歳までがアウトだったっけ?
 それとも、未成年はもれなくダメ?
 え? なぜそんなことを気にするのかって?
 とくに意味はない。
 ふと関係ないことが気になるときだって、あるだろ。
 彼女になにかをするつもりだから、法律とかが気になるんじゃないのかだと?
 なにもしねぇし、しようとも思ってねぇよ!
 消極的であることが唯一の正解なことくらい、俺にもわかってるんだっつの!
 なんで自分に対して、こんなにムキになって逆ギレしているのかな。
 俺がしようとしているのは、反省。
 逆ギレと反省は、真逆……オーライ。まずは謝ろう。
 逆ギレして、スンマセンでした。
 女子高生をストーキングした最低野郎の分際で、ホント申しわけない。て言うかストーキングは、してないけど。
 ……したか? してないよな。してない? したか。うん、そうか。
 階段をおりただけなんだけど、こういうのは、距離の問題じゃないもんな。
 よし、もう一度、謝ろう。スンマセンでした。
 でも、彼女たちの会話を盗み聞いてしまったのは、これは不可抗力に近いから、セーフかな。違う? なんで? だって近づいたからって、彼女に触れようなんて思ってなかったし、声が聴こえたのだって、聴こうとしたからじゃないし、つい、会話が聴こえるくらい近寄った理由をちゃんと言ってみろと言われても、それは、ほら、やっぱり、せっかく同じホームに立ったんだから、好きな人の存在をもっと感じたかったというか、体温とか、そういうのを感じると、より親近感がわくって言うか、いや、体温って言っちゃったけど、これは、べつになにかを白状したとかじゃなく、語るに落ちる的なものではないので誤解しないように気をつけてほしいのだけれど、ここで言う体温とは、アレだ。触れたいとかとは違う、あの、なんと言うか、えー、もっとこう、精神的なやつだ。
 俺、メチャメチャ必死にイイワケしてるな。
 誰かに詰問されたわけでも、すごくイタイ図星をつかれたわけでもないのに。
 これはやはり、罪悪感なのかな。
 でも、恋心からの純粋な行為だったのは、自分が一番よくわかってるんだから、その、機微というかニュアンスというか、そのへんをもっとさ、理解してくれてもいいんじゃないのかな。
 反省するにしても、理解できる部分は、自分を許してもいいと思うんだけど。
 ただでさえ惨めな最低の気分なのに、自分まで自分を理解できないって言いだしたら、救いがなさすぎるしね。
 どう言えば、この純粋さが伝わるんだ?
 もっとカッコつけた言いかたをすれば印象が変わるのか?
 爽籟そうらいの駅舎のなか、人いきれに混じる貴女の呼気を懐に抱きたかった、とか。
 ……いや、ダメだ。
 これだと、聞きかたによっては、「彼女の口臭を嗅ぎたい」と言っているように誤解されてしまうかもしれない。
 イイワケは、どんな言いかたをしても、すればするほどドツボってことか。
 よし、わかった、認めるよ。
 どうかしてたんだ、あの日の俺は。
 仕事が忙しかった……て、こともないか。
 検針の繁忙期は新学期前くらいだし。
 あの日は、いつ頃だった?
 今が秋だから秋の気分でいたけど、あれはたしかまだ初夏の頃か。なんかもう、アタマが混乱して、時系列がグチャグチャだ。
 初夏だったら『爽籟』じゃなく、『薫風』だな。
 いや、カッコつけようとして失敗したので、どっちでも一緒なんだけども。
 自己嫌悪は、オナカ一杯なんだけどなぁ。
 反省って、ホント、むつかしいな。


 ──つづく。
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