黒き死神が笑う日

神通百力

文字の大きさ
上 下
30 / 210

ある夏のある風景である

しおりを挟む
「む! 蚊か?」
 目の前の男はそう言って、手に持っていた箸を動かした。……捕らえるのに失敗していた。
「く! ちょこまか動きよってからに! とりゃ!」
 箸を懸命に動かしている。
 なぜ、箸で捕らえることに拘っているのだろうか。普通に手で捕らえればいいのに。まあ、そうされると私は困るわけだが。
「この俺の『錬刃血狼れんじんちろう』をかわすとはやるな」
 え? 箸に名前つけてんの? ちょっ、きもいんですけど。
「ふう~。はぁ~!」
 手がしなるように動いて、
「ふはは! 見たか」
 私は捕らえられてしまった。
しおりを挟む

処理中です...