黒き死神が笑う日

神通百力

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教卓君

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「それでは授業を始めま――きゃっ!」
 私は尻を撫でられ、思わず叫んでしまった。恐る恐る振り返ると、木目が刻み込まれた手が尻を撫でていた。驚くべきことに手は教卓から伸びていた。
 固まっていると、教卓が蠢き、両足が生えてきた。さらに教卓の表面に裂け目が入り、二つの眼球と鋭い牙が姿を覗かせた。生徒たちが悲鳴をあげる。
 教卓は立ち上がると、両手を伸ばしてきた。私は反射的に身構えた。すると教卓はスカートをめくりあげ、表情を綻ばせる。ただの変態だった。
 私は無性に腹が立ち、手に持っていた教科書で教卓の側面を叩いた。教卓は驚いたのか、両目をつぶった。ゆっくりと目を開けると、口をすぼめた。ちょっと可愛いかもしれない。
 じっと見つめていると、教卓はチョークを手に取り、黒板に何かを書き始めた。それは『僕は付喪神です。長い年月を経て魂が宿り、妖怪化しました』という文面の自己紹介だった。
「……突然の事態に驚いたことでしょう。僕がこうして姿を現そうと思ったのは――」
 教卓が急に語り始めたから、私はもう一度教科書で側面を叩いた。教卓は驚いたように私を見た。生徒たちも怪訝な表情でこちらを見ている。
「今は授業中ですよ。私語は慎んでください。教卓君の席は後で用意するから、今はとりあえず床に座って授業を受けるように」
「で、でも僕が姿を現した理由を――」
「学校生活が楽しそうだったから、混ざりたくなったんでしょ?」 
 私の言葉に教卓は目を見開いたが、すぐに頷いた。私は教卓の頭というか縁を撫でた。教卓は恥ずかしそうに俯いた。
「それじゃ、教卓君、授業を始めましょうか」
「はい、先生」
 教卓は頷くと、ゆっくりと床に座った。

 その後、教卓はクラス一の人気者になった。
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