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45:道化が壊れる夜
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床に少しずつ広がっていく血に璃亜夢は思考が止まる。
どうしてこんなことになった。
大黒が。
死んだ。
こんなにも簡単に人は死ぬのだ。
璃亜夢は目の前で床に伏す大黒を見て目の前が暗くなるような気がした。
茉莉花の泣き声だって何処か遠くに聞こえてしまうような衝撃だった。
この人がこんなところで終わってしまうのか。こんな良い人が。そんなことを信じられない。
だけどその時、大黒の呻き声が聞こえてきて璃亜夢は我に帰る。
慌てて大黒の顔を覗き込むと、大黒は苦悶の表情を浮かべていた。だけど生きていたことに璃亜夢は心の底から喜ぶ。
「大黒さん、大黒さん!」
声をかけると、大黒は薄らを目を開けて璃亜夢を見上げる。
意識もある! 今すぐ救急車を呼べばきっと大丈夫だ!
そんな気持ちで、璃亜夢は近くに置いていたスマートフォンに手を伸ばそうとするが、その瞬間、その手が捕まれる。
あまりの強い力で握られ、璃亜夢はこの場に大黒を殴りつけた張本人がいたことを思い出す。
璃亜夢は自分の手を握り締める永延を見上げて手を振り払おうと抵抗するが、その前にまた顔面を二度ほど殴りつけられる。更に痛みに床に伏せる璃亜夢の身体を永延は何度も強く蹴りつけてスマートフォンから離す。
璃亜夢はあまりの痛みに身体を縮こませて何とか耐えようと大きく呼吸をする。
「本当に、どうしてこんなことになったんだか」
永延はそう何処か他人事のように呟くと、倒れこむ大黒の身体を踏みつける。
それを見て璃亜夢は慌てて痛みを堪えて身体を起こし「止めて!」と叫び永延にぶつかりにいく。だけど体格差がある上、璃亜夢の軽い体重では永延を大黒から離れさすこともできず、あっさりと殴られて璃亜夢の身体は軽々と跳ね除けられる。
璃亜夢の妨害なんてまるで何もなかったかのように永延は大黒を蹴りつけ、そしてゆっくりと顔を傾けてその視界に茉莉花を捉える。
「こいつもさっきからずっと五月蝿いな」
永延はそう言うと身を屈め、まるで璃亜夢に見せつけるかのようにゆっくりと茉莉花へと手を伸ばす。
きっと永延の手が届くと、茉莉花は大変なことになる。
それに大黒もこのままでは病院へは連れていけない。
璃亜夢は慌てて立ち上がり、また永延の動きを止めに行こうとするが、ふと、彼女の視界にあるものが入ってしまう。
璃亜夢は『それ』を見てしまう。
その瞬間、璃亜夢は自分の意識がどうしようもなく低下するのがわかる。
それは脅迫観念だったのか、天啓だったのか。
璃亜夢は『それ』を手にすると、また永延に突進する。
それと同時に、鈍い音が璃亜夢と永延の耳に届く。
永延は今回は璃亜夢を振り払うことはしなかった。まるで凍りついたかのように硬直する。
璃亜夢はゆっくりと永延から身体を離すと、彼の腰に突き刺した果物ナイフを見る。
そして突き刺さった果物ナイフをゆっくりと引き抜くと、永延はその場に膝を付く。
「え」
永延は自分の腰に手を当て、その手をべったりと濡らす血を見て混乱しているようだった。
だけど果物ナイフを片手に真っ青な顔で立ち尽くす璃亜夢を見て、まるで刺されたことなんて忘れたかのように璃亜夢を嘲笑う。
「滑稽だね、見世物としては面白かったよ」
永延は璃亜夢に言い放つとふらふらとした足取りで部屋から出ようとする。
璃亜夢は暫く放心していたがすぐに我に帰って、果物ナイフを片手に永延の後を追いかける。
永延は廊下にぽたぽたと血を零しながら外階段を降りようとしている。
璃亜夢はその姿を見て、また永延に突進する。
そして今度は永延の背中を果物ナイフで刺す。
永延と璃亜夢はそのまま滑るように外階段を落ちるが、踊り場で止まる。
璃亜夢は顔をしかめて浅く息を吐く永延に馬乗りになると、果物ナイフを振り下ろす。
一度目は、茉莉花を守りたかったのか、大黒を助けたかったのか。
それとも永延との縁を断ち切りたかったのか。
どういう気持ちだったのかわからなかった。
だけど二度目からは、永延に対しての明確な殺意しかなかった。
この男から受けた屈辱や痛みなどが璃亜夢の背中を押した。
全部こいつにお見舞いしてやりたかった。
だから、何度も何度も、璃亜夢は永延に果物ナイフを突き下ろした。
蒸し暑い夜。
自分の汗が幾つも永延の身体に落ちていく様子に、璃亜夢はこの男との行為を思い出してまた深く果物ナイフを突き刺した。
遠くでサイレンの音が聞こえてきたけれど、璃亜夢にはどうでも良いことだった。
どうしてこんなことになった。
大黒が。
死んだ。
こんなにも簡単に人は死ぬのだ。
璃亜夢は目の前で床に伏す大黒を見て目の前が暗くなるような気がした。
茉莉花の泣き声だって何処か遠くに聞こえてしまうような衝撃だった。
この人がこんなところで終わってしまうのか。こんな良い人が。そんなことを信じられない。
だけどその時、大黒の呻き声が聞こえてきて璃亜夢は我に帰る。
慌てて大黒の顔を覗き込むと、大黒は苦悶の表情を浮かべていた。だけど生きていたことに璃亜夢は心の底から喜ぶ。
「大黒さん、大黒さん!」
声をかけると、大黒は薄らを目を開けて璃亜夢を見上げる。
意識もある! 今すぐ救急車を呼べばきっと大丈夫だ!
そんな気持ちで、璃亜夢は近くに置いていたスマートフォンに手を伸ばそうとするが、その瞬間、その手が捕まれる。
あまりの強い力で握られ、璃亜夢はこの場に大黒を殴りつけた張本人がいたことを思い出す。
璃亜夢は自分の手を握り締める永延を見上げて手を振り払おうと抵抗するが、その前にまた顔面を二度ほど殴りつけられる。更に痛みに床に伏せる璃亜夢の身体を永延は何度も強く蹴りつけてスマートフォンから離す。
璃亜夢はあまりの痛みに身体を縮こませて何とか耐えようと大きく呼吸をする。
「本当に、どうしてこんなことになったんだか」
永延はそう何処か他人事のように呟くと、倒れこむ大黒の身体を踏みつける。
それを見て璃亜夢は慌てて痛みを堪えて身体を起こし「止めて!」と叫び永延にぶつかりにいく。だけど体格差がある上、璃亜夢の軽い体重では永延を大黒から離れさすこともできず、あっさりと殴られて璃亜夢の身体は軽々と跳ね除けられる。
璃亜夢の妨害なんてまるで何もなかったかのように永延は大黒を蹴りつけ、そしてゆっくりと顔を傾けてその視界に茉莉花を捉える。
「こいつもさっきからずっと五月蝿いな」
永延はそう言うと身を屈め、まるで璃亜夢に見せつけるかのようにゆっくりと茉莉花へと手を伸ばす。
きっと永延の手が届くと、茉莉花は大変なことになる。
それに大黒もこのままでは病院へは連れていけない。
璃亜夢は慌てて立ち上がり、また永延の動きを止めに行こうとするが、ふと、彼女の視界にあるものが入ってしまう。
璃亜夢は『それ』を見てしまう。
その瞬間、璃亜夢は自分の意識がどうしようもなく低下するのがわかる。
それは脅迫観念だったのか、天啓だったのか。
璃亜夢は『それ』を手にすると、また永延に突進する。
それと同時に、鈍い音が璃亜夢と永延の耳に届く。
永延は今回は璃亜夢を振り払うことはしなかった。まるで凍りついたかのように硬直する。
璃亜夢はゆっくりと永延から身体を離すと、彼の腰に突き刺した果物ナイフを見る。
そして突き刺さった果物ナイフをゆっくりと引き抜くと、永延はその場に膝を付く。
「え」
永延は自分の腰に手を当て、その手をべったりと濡らす血を見て混乱しているようだった。
だけど果物ナイフを片手に真っ青な顔で立ち尽くす璃亜夢を見て、まるで刺されたことなんて忘れたかのように璃亜夢を嘲笑う。
「滑稽だね、見世物としては面白かったよ」
永延は璃亜夢に言い放つとふらふらとした足取りで部屋から出ようとする。
璃亜夢は暫く放心していたがすぐに我に帰って、果物ナイフを片手に永延の後を追いかける。
永延は廊下にぽたぽたと血を零しながら外階段を降りようとしている。
璃亜夢はその姿を見て、また永延に突進する。
そして今度は永延の背中を果物ナイフで刺す。
永延と璃亜夢はそのまま滑るように外階段を落ちるが、踊り場で止まる。
璃亜夢は顔をしかめて浅く息を吐く永延に馬乗りになると、果物ナイフを振り下ろす。
一度目は、茉莉花を守りたかったのか、大黒を助けたかったのか。
それとも永延との縁を断ち切りたかったのか。
どういう気持ちだったのかわからなかった。
だけど二度目からは、永延に対しての明確な殺意しかなかった。
この男から受けた屈辱や痛みなどが璃亜夢の背中を押した。
全部こいつにお見舞いしてやりたかった。
だから、何度も何度も、璃亜夢は永延に果物ナイフを突き下ろした。
蒸し暑い夜。
自分の汗が幾つも永延の身体に落ちていく様子に、璃亜夢はこの男との行為を思い出してまた深く果物ナイフを突き刺した。
遠くでサイレンの音が聞こえてきたけれど、璃亜夢にはどうでも良いことだった。
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