出来損ない魔法使いの悪あがき〜死に戻りしたので、有り余る魔力と記憶を頼りに今度こそハッピーエンドを目指そうと思います〜

朝辻鯨

文字の大きさ
12 / 23

手帳の行方

しおりを挟む

 机に突っ伏すミリセントの耳に、終業の鐘の音が届く。その音は暗く沈んだ心に拍車をかけた。
 塞ぎ込んでいる間に何やらイヴァンたちが冷やかしの言葉をかけていた気がするが、全く聞こえなかった。
 深くため息をつくと、シャルルが心配そうにこちらを覗き込む。

「だいじょーぶ?ミリセント。」

 そう言ったのはシャルルではなくルークだ。知らない間にシャルルとも面識ができていたらしい。
 2人揃って顔を見合わせ、心配そうにこちらを見ている。
 一日中元気がなかったミリセントを見て気を揉んでいるのだろう。しかし一向に元気が出てこなかった。

 原因はやはり、昨日の手帳のことだ。なかったということは誰かに拾われてしまったのだろう。未来の出来事が羅列してあるあの手帳を。
万が一拾われていなかったとしても、記憶力が皆無と言っても過言ではないミリセントにとって、すでにいつなんの事件が起こったかを思い出すことは難しくなっていた。

(ほんっと私ってバカだ…泣ける…。)

 自己嫌悪に陥り授業を受ける気力もノートを取る気力も、自室に戻る気力さえ湧かない。

「相談なら何でも乗るから、一旦部屋帰ろ?」

「シャルルウウ…」

 涙声になりながらどうにか立ち上がり荷物をまとめる。相談に乗ってもらえそうにない話ではあるが、その優しさが十分すぎるほどミリセントの心に沁みた。
 のろのろと教科書を両手に抱えどうにか立ちあがろうとする。

「あ、スコーピオンさん。ちょっと待って。」

 突如全く予期していなかった所から声が聞こえた。
 思わずそちらを振り向くと、教壇に立つ教師、ユリウスと目が合う。特に怒っているわけでもなく、ただひらひらと軽く手を振っていた。

(授業中ずっと寝てたからかな…?ていうか、名前覚えられてるの怖すぎなんだけど…。)

 泣きっ面に蜂とはこのことだ。ため息を堪え、天を仰ぐとシャルルとルークに向き直る。

「ごめん、多分時間かかるから先帰ってて。」

「え、え?」

 戸惑うシャルルとは対照的にルークは軽く頷いた。

「じゃ、また明日ね~。」

「うん、また!」

 すぐ部屋戻るから、と告げるとシャルルも渋々頷いた。どうやら一緒に怒られようとしてくれていたらしい。

 二人が去ったのを確認し、教壇へ向かう。早く終わらないかな、と思いつつロランの顔色を伺うと予想に反し怒っているわけではなさそうだ。

「それで、なんでしょうかロラン先生…。」

「やあ、わざわざごめんね。」

 柔らかい笑みを浮かべる彼に、やはり怒りは感じられない。こちらへ歩み寄るたびに揺れる銀髪はきらきらと輝く。
 ミリセントの前まで来ると、青の双眸を細めた。

「君に渡したいものがあってね。」

 そう言うとロランはローブのポケットの中から何かを取り出し、ミリセントに差し出した。
反応しようとした瞬間、ミリセントは言葉を失った。
 真新しい表紙に見覚えのある小さなしおり。

 ロランが差し出したのは昨日無くしたはずの手帳だった。

「昨日、第ニ講義室の前に落ちててね、渡そうと思って拾っていたんだ。」

 固まったままのミリセントを一瞥し、ロランは話を続ける。

「名前が書かれていなかったから、少しだけ中を見たんだ。」

「…落としたのは私ですけど、なんも書いてないはずなんですが…。」

 動かない口を無理やり動かし、どうにか逃げ切ろうと、でてきた言葉を吐き出す。
 ロランの表情からは、何を考えているのか読み取れない。

「スコーピオンさんの字は特徴的だからね。筆跡でわかるよ。」

 淡い希望は打ち砕かれた。自分の字の汚さを心の底から恨む。
 ミリセントが書いた内容が未来の出来事である事は一目でわかる。時間の魔法を使ったと思われたなら、即刻魔法警察に捕まることになるだろう。
 生徒ならまだしも、よりにもよって教師に拾われるとは。

 頭が真っ白になって何も言葉が出てこない。口の中が渇いて、視界が狭く感じる。石のように口を閉ざしたまま、ロランの次の言葉を全く。

 しばらくの間、二人の間に静寂だけが流れた。
 永遠のようにも思えたその時間はロランによって破られた。

「…手帳には、すでに起こった出来事に加えてまだ起こっていない出来事が書かれている。…スコーピオンさん、時間の魔法が禁止魔法だってことは知っているよね?」

「わ、…からないんです。私にも…。信じてもらえない、かもしれませんが…。」

「…話して。」

 真っ直ぐにこちらを見つめる青色の目に少し怯んでしまう。
 言葉が詰まって思うように喋れない。ただ言葉を間違えたら終わりだと、脳が警鐘を鳴らした。

「私、は…。」

 一度深呼吸をし、覚悟を決める。失った左目がずきずきと脈打つように痛む。

 もう、後には戻れない。

「私は、エストレル学園の三年生で…戦争に巻き込まれて死にました。…いえ、死んだ、はずでした。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

処理中です...