出来損ない魔法使いの悪あがき〜死に戻りしたので、有り余る魔力と記憶を頼りに今度こそハッピーエンドを目指そうと思います〜

朝辻鯨

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手帳の行方

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 机に突っ伏すミリセントの耳に、終業の鐘の音が届く。その音は暗く沈んだ心に拍車をかけた。
 塞ぎ込んでいる間に何やらイヴァンたちが冷やかしの言葉をかけていた気がするが、全く聞こえなかった。
 深くため息をつくと、シャルルが心配そうにこちらを覗き込む。

「だいじょーぶ?ミリセント。」

 そう言ったのはシャルルではなくルークだ。知らない間にシャルルとも面識ができていたらしい。
 2人揃って顔を見合わせ、心配そうにこちらを見ている。
 一日中元気がなかったミリセントを見て気を揉んでいるのだろう。しかし一向に元気が出てこなかった。

 原因はやはり、昨日の手帳のことだ。なかったということは誰かに拾われてしまったのだろう。未来の出来事が羅列してあるあの手帳を。
万が一拾われていなかったとしても、記憶力が皆無と言っても過言ではないミリセントにとって、すでにいつなんの事件が起こったかを思い出すことは難しくなっていた。

(ほんっと私ってバカだ…泣ける…。)

 自己嫌悪に陥り授業を受ける気力もノートを取る気力も、自室に戻る気力さえ湧かない。

「相談なら何でも乗るから、一旦部屋帰ろ?」

「シャルルウウ…」

 涙声になりながらどうにか立ち上がり荷物をまとめる。相談に乗ってもらえそうにない話ではあるが、その優しさが十分すぎるほどミリセントの心に沁みた。
 のろのろと教科書を両手に抱えどうにか立ちあがろうとする。

「あ、スコーピオンさん。ちょっと待って。」

 突如全く予期していなかった所から声が聞こえた。
 思わずそちらを振り向くと、教壇に立つ教師、ユリウスと目が合う。特に怒っているわけでもなく、ただひらひらと軽く手を振っていた。

(授業中ずっと寝てたからかな…?ていうか、名前覚えられてるの怖すぎなんだけど…。)

 泣きっ面に蜂とはこのことだ。ため息を堪え、天を仰ぐとシャルルとルークに向き直る。

「ごめん、多分時間かかるから先帰ってて。」

「え、え?」

 戸惑うシャルルとは対照的にルークは軽く頷いた。

「じゃ、また明日ね~。」

「うん、また!」

 すぐ部屋戻るから、と告げるとシャルルも渋々頷いた。どうやら一緒に怒られようとしてくれていたらしい。

 二人が去ったのを確認し、教壇へ向かう。早く終わらないかな、と思いつつロランの顔色を伺うと予想に反し怒っているわけではなさそうだ。

「それで、なんでしょうかロラン先生…。」

「やあ、わざわざごめんね。」

 柔らかい笑みを浮かべる彼に、やはり怒りは感じられない。こちらへ歩み寄るたびに揺れる銀髪はきらきらと輝く。
 ミリセントの前まで来ると、青の双眸を細めた。

「君に渡したいものがあってね。」

 そう言うとロランはローブのポケットの中から何かを取り出し、ミリセントに差し出した。
反応しようとした瞬間、ミリセントは言葉を失った。
 真新しい表紙に見覚えのある小さなしおり。

 ロランが差し出したのは昨日無くしたはずの手帳だった。

「昨日、第ニ講義室の前に落ちててね、渡そうと思って拾っていたんだ。」

 固まったままのミリセントを一瞥し、ロランは話を続ける。

「名前が書かれていなかったから、少しだけ中を見たんだ。」

「…落としたのは私ですけど、なんも書いてないはずなんですが…。」

 動かない口を無理やり動かし、どうにか逃げ切ろうと、でてきた言葉を吐き出す。
 ロランの表情からは、何を考えているのか読み取れない。

「スコーピオンさんの字は特徴的だからね。筆跡でわかるよ。」

 淡い希望は打ち砕かれた。自分の字の汚さを心の底から恨む。
 ミリセントが書いた内容が未来の出来事である事は一目でわかる。時間の魔法を使ったと思われたなら、即刻魔法警察に捕まることになるだろう。
 生徒ならまだしも、よりにもよって教師に拾われるとは。

 頭が真っ白になって何も言葉が出てこない。口の中が渇いて、視界が狭く感じる。石のように口を閉ざしたまま、ロランの次の言葉を全く。

 しばらくの間、二人の間に静寂だけが流れた。
 永遠のようにも思えたその時間はロランによって破られた。

「…手帳には、すでに起こった出来事に加えてまだ起こっていない出来事が書かれている。…スコーピオンさん、時間の魔法が禁止魔法だってことは知っているよね?」

「わ、…からないんです。私にも…。信じてもらえない、かもしれませんが…。」

「…話して。」

 真っ直ぐにこちらを見つめる青色の目に少し怯んでしまう。
 言葉が詰まって思うように喋れない。ただ言葉を間違えたら終わりだと、脳が警鐘を鳴らした。

「私、は…。」

 一度深呼吸をし、覚悟を決める。失った左目がずきずきと脈打つように痛む。

 もう、後には戻れない。

「私は、エストレル学園の三年生で…戦争に巻き込まれて死にました。…いえ、死んだ、はずでした。」
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