23 / 23
学期末試験
しおりを挟む
レンギョウの花は気付けば散っていた。残された枝葉は、時期に青葉をつけるだろう。
肌寒さは以前より和らぎ、心地よい天気が続いていた。
使い魔の暴走事故が起きてから数週間、束の間の平穏を取り戻したミリセントはありがたくその恩恵を享受していた。
アルマが暴れた理由も、遅れてロランから伝えられた。直接的な原因は錯乱の魔法によるものだった。しかしそれを誰がうったか、なぜうったのか、などについては解明されずじまいだった。
また、あの時ミリセントは魔法を勝手に使ったが、罰則は受けなかった。魔法を使った目的が事故を防ごうとした、というものだったからだ。
「こうも毎日暇だと、なんだか気が抜けちゃうよねぇ…。」
「そう?課題多くない?」
呑気にベッドで寝転がるミリセントの独り言に、シャルルが返答する。机に向かいペンを走らせている彼女を見ると、自分もやらなければと少なからず焦燥感に駆られる。が、少しも体は動かなかった。
「……。」
「こら~!聞こえないふりしない!」
「だってぇ…やりたくないし…。」
机の上に置かれたままの教科書と課題の山が視界に映ると、頭が痛くなってくる。ぷいと寝返りを打って星月夜を眺めることにした。
「もー、試験大丈夫なの?」
「え、試験…?」
不穏な言葉が聞こえた気がする。が、おそらく気のせいだろう。シャルルはペンを走らせたまま応える。
「学期末試験!もうすぐだよ?」
「えっ、でも1年は試験なかったはずじゃ…。」
「ええ?全学年あるよ?」
認識の齟齬の原因に、ミリセントはすぐに気がついた。
(そうか、使い魔が暴走した事故…。前の世界では怪我人が多かったから、大事になって試験は中止になったんだった…。)
深く肩を落とし、ため息をつく。シャルルは心底驚いている様だ。目を丸くして何を言おうか、思索を繰り返している。
「…ノート、見る…?」
「いや…多分大丈夫…。」
(勉強していないとはいえ私は元三年生…さすがに一年生の試験くらい………いける気がしてきた。)
何も勉強していないからか、逆にないはずの自信が湧いてきた。各科目の内容を軽く思い出し、自信に拍車がかかる。
「いける気がしてきた!」
「え、うそ。」
「ほんと!」
徐々に笑顔を取り戻すミリセントに、シャルルは苦笑した。そしてペンを止めるとしばらく言いにくそうにまごつき、意を決して口を開く。
「…あのさ、ミリセント。」
「…はい。」
さすがに怒ったかな、と予想しベッドの上で正座をする。その予想はすぐに裏切られることになった。
「…私と実践魔法学の…実技の練習をしてほしいんだけど…。」
「えっ、実践魔法学?」
「うん…私はミリセントより魔力が少ないから、上手く魔法を使えないことが多くて…おねがい!」
シャルルは顔の前で両手を合わせると、ぎゅっと目を瞑る。一瞬呆けていたが、すぐに笑顔になる。断る理由などない。
「まっかせて!」
「ほ、ほんと?ありがと~!」
ミリセントは自信ありげに自分の胸を叩いた。わぁっと両手を上げて喜ぶシャルルを見ると、ミリセントも嬉しくなる。ミリセントはベッドから降りると手を取り合い、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ね、急だけど今からでもいい?」
「いいよ~、私暇だし!行こ!」
エストレル学園では基本的に人を攻撃する目的で魔法を使うことは禁じられている。もちろん、嫌がらせなどの目的で魔法を使うこともだ。グレーラインな場合は、居合わせた教師の判断による。
学期末に行われる試験には、筆試験だけでなく実技試験がある。実技試験の練習を行うには中庭、もしくは校庭で魔法使用の許可を取る必要がある。
「いくよ~、シャルル!」
少し離れたところに立つシャルルにぶんぶんと腕を振る。楽しそうにシャルルは腕を振りかえした。
今学期の試験では、灯りの魔法、風の魔法、守護の魔法が重に問われる。試験ではその正確さや強さなどが問われる。
ミリセントが軽く杖を振ると、杖先から手のひらほどの、小さな風の球体が放たれる。銀色の光を放つそれは、真っ直ぐシャルルの元へ飛んでいく。シャルルは守護の魔法の魔星図を描き、それを弾こうとするが、一瞬遅かった。球体はシャルルのすぐ横を通り抜ける。吹き荒れる強風に、シャルルの帽子が飛ばされてしまった。
「わ~~ごめん!」
「大丈夫!」
すぐさまシャルルは杖を振り、飛ばされた自分の帽子を引き寄せた。再びかぶり直すと、もう一回!と意気込む。その様子を見て、ミリセントも力強く頷いた。
それからしばらく、二人は互いに魔法を打ち合った。時には攻守交代し、時間を忘れて魔法を打ち続ける。
ミリセントは並はずれた魔力を持っている。それは、より強く魔法を打つことができる。が、その分細やかで高い精度を必要とする魔法は苦手になる。
対照的に、シャルルは魔力が少ない。が、その分精度は人より高く、さまざまな魔法を組み合わせて使用することを得意とする。
数時間が経過した頃には、シャルルは見違える様に上達していた。
「すごいじゃんシャルル!さっすがぁ!」
純粋に友人の努力を認め、盛大に拍手をした。
「えへへ…ありがとう、ミリセント。」
恥ずかしそうにはにかむと、彼女は嬉しそうに笑った。
肌寒さは以前より和らぎ、心地よい天気が続いていた。
使い魔の暴走事故が起きてから数週間、束の間の平穏を取り戻したミリセントはありがたくその恩恵を享受していた。
アルマが暴れた理由も、遅れてロランから伝えられた。直接的な原因は錯乱の魔法によるものだった。しかしそれを誰がうったか、なぜうったのか、などについては解明されずじまいだった。
また、あの時ミリセントは魔法を勝手に使ったが、罰則は受けなかった。魔法を使った目的が事故を防ごうとした、というものだったからだ。
「こうも毎日暇だと、なんだか気が抜けちゃうよねぇ…。」
「そう?課題多くない?」
呑気にベッドで寝転がるミリセントの独り言に、シャルルが返答する。机に向かいペンを走らせている彼女を見ると、自分もやらなければと少なからず焦燥感に駆られる。が、少しも体は動かなかった。
「……。」
「こら~!聞こえないふりしない!」
「だってぇ…やりたくないし…。」
机の上に置かれたままの教科書と課題の山が視界に映ると、頭が痛くなってくる。ぷいと寝返りを打って星月夜を眺めることにした。
「もー、試験大丈夫なの?」
「え、試験…?」
不穏な言葉が聞こえた気がする。が、おそらく気のせいだろう。シャルルはペンを走らせたまま応える。
「学期末試験!もうすぐだよ?」
「えっ、でも1年は試験なかったはずじゃ…。」
「ええ?全学年あるよ?」
認識の齟齬の原因に、ミリセントはすぐに気がついた。
(そうか、使い魔が暴走した事故…。前の世界では怪我人が多かったから、大事になって試験は中止になったんだった…。)
深く肩を落とし、ため息をつく。シャルルは心底驚いている様だ。目を丸くして何を言おうか、思索を繰り返している。
「…ノート、見る…?」
「いや…多分大丈夫…。」
(勉強していないとはいえ私は元三年生…さすがに一年生の試験くらい………いける気がしてきた。)
何も勉強していないからか、逆にないはずの自信が湧いてきた。各科目の内容を軽く思い出し、自信に拍車がかかる。
「いける気がしてきた!」
「え、うそ。」
「ほんと!」
徐々に笑顔を取り戻すミリセントに、シャルルは苦笑した。そしてペンを止めるとしばらく言いにくそうにまごつき、意を決して口を開く。
「…あのさ、ミリセント。」
「…はい。」
さすがに怒ったかな、と予想しベッドの上で正座をする。その予想はすぐに裏切られることになった。
「…私と実践魔法学の…実技の練習をしてほしいんだけど…。」
「えっ、実践魔法学?」
「うん…私はミリセントより魔力が少ないから、上手く魔法を使えないことが多くて…おねがい!」
シャルルは顔の前で両手を合わせると、ぎゅっと目を瞑る。一瞬呆けていたが、すぐに笑顔になる。断る理由などない。
「まっかせて!」
「ほ、ほんと?ありがと~!」
ミリセントは自信ありげに自分の胸を叩いた。わぁっと両手を上げて喜ぶシャルルを見ると、ミリセントも嬉しくなる。ミリセントはベッドから降りると手を取り合い、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ね、急だけど今からでもいい?」
「いいよ~、私暇だし!行こ!」
エストレル学園では基本的に人を攻撃する目的で魔法を使うことは禁じられている。もちろん、嫌がらせなどの目的で魔法を使うこともだ。グレーラインな場合は、居合わせた教師の判断による。
学期末に行われる試験には、筆試験だけでなく実技試験がある。実技試験の練習を行うには中庭、もしくは校庭で魔法使用の許可を取る必要がある。
「いくよ~、シャルル!」
少し離れたところに立つシャルルにぶんぶんと腕を振る。楽しそうにシャルルは腕を振りかえした。
今学期の試験では、灯りの魔法、風の魔法、守護の魔法が重に問われる。試験ではその正確さや強さなどが問われる。
ミリセントが軽く杖を振ると、杖先から手のひらほどの、小さな風の球体が放たれる。銀色の光を放つそれは、真っ直ぐシャルルの元へ飛んでいく。シャルルは守護の魔法の魔星図を描き、それを弾こうとするが、一瞬遅かった。球体はシャルルのすぐ横を通り抜ける。吹き荒れる強風に、シャルルの帽子が飛ばされてしまった。
「わ~~ごめん!」
「大丈夫!」
すぐさまシャルルは杖を振り、飛ばされた自分の帽子を引き寄せた。再びかぶり直すと、もう一回!と意気込む。その様子を見て、ミリセントも力強く頷いた。
それからしばらく、二人は互いに魔法を打ち合った。時には攻守交代し、時間を忘れて魔法を打ち続ける。
ミリセントは並はずれた魔力を持っている。それは、より強く魔法を打つことができる。が、その分細やかで高い精度を必要とする魔法は苦手になる。
対照的に、シャルルは魔力が少ない。が、その分精度は人より高く、さまざまな魔法を組み合わせて使用することを得意とする。
数時間が経過した頃には、シャルルは見違える様に上達していた。
「すごいじゃんシャルル!さっすがぁ!」
純粋に友人の努力を認め、盛大に拍手をした。
「えへへ…ありがとう、ミリセント。」
恥ずかしそうにはにかむと、彼女は嬉しそうに笑った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる