【完結】翠くんは、可愛いがられたい

日月ゆの

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6.ふしぎの国の翠です

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 午前中の授業を終え、玉手箱のようなお弁当を抱え中庭の奥へ歩いていきます。

 今日こそ風鈴のお兄さんにお礼を言います。
 
 僕が倒れてしまったあの日、起きたら保健室でした。
 僕はお兄さんのお名前を聞くこともできず、お礼を言えず即入院してしまったのです。

 なので、退院できたらすぐにお礼を言いに行こうと、今捜索中です。

 わずかな手がかりは、この前お兄さんに出会った中庭の奥。

 濃いグリーンに色とりどりのお花が植えられて目にも鮮やかな中庭を進みます。

 中庭のベンチには他の生徒さんがお弁当を広げていて楽しそう。

 中庭を突っ切り、人気もまばらな校舎裏へ向かったその時。

 視界の隅で白いものがもそもそ動いていました。

 というより、いつのまにか僕の横にぴったり付いてきていたようなんです。
 少し気になり、足を止めた途端その白いなにかは僕の目の前に飛び出します。

 現れたのはピンと尖った3角耳のきれいな猫さん。
 じっときらめく瞳で物言いたげに僕を見上げる猫。
 そのせいで、広くはない校舎裏へ通じる道が塞がれます。

 どうにかどいてほしいの気持ちを込めて見つめ返しますが、猫さんは一切動じません。

「……こ、こんにちは?」

「にゃっ!」

 とりあえず挨拶をしてみましたら、ご機嫌にしっぽをふりんとさせる猫さん。

 見上げる大きな瞳は美しい宝石を思わせるエメラルドグリーン。
 ふわりんと動くとろけそうに柔らかそうなふさふさの白い体毛と尻尾の猫さん。

 首輪をしていないので、野良猫さんだと思います。けど、妙にふてぶてしいというのか、人馴れしている様子です。

 なぜこのきれいな猫さんは、僕の進路を現在進行系で塞いでいるんでしょうか。
 この玉手箱の中身が気になるんでしょうか。
 それとも、僕と遊びたいとか。

 僕としてもこんな可愛らしい猫さんとお友達になれたらうれしいのです。
 が、今日はお兄さん捜索という重大任務があります。
 心苦しいですが、事情を話してお誘いを断るしかないです。

「えっと、僕。人を探しているので……」

「にゃおん」

 あいわかった、とでも言いたげな納得顔で返事をした猫さんは、つんっと顎を振り上げました。

 小さな顎で示した先。
 僕の進行方向である校舎裏に向かって、もふもふと歩き出します。

 もしかして『ついてこい』と言ってます?

「えっと……猫さん?」

 数歩先を歩く猫さんに声を掛けると、猫さんは足をとめます。
 僕の考えを肯定するように、今度ははっきりと校舎裏に向かって顎を振っています。

 ちなみに『さっさと付いてきなさい!』とでも言いたげに、にゃと短く鳴きました。

 なんだか猫さんの気迫がすごいです。
 せっかくの厚意を無下にする訳にもいかず、渋々お兄さん捜索を諦めて猫さんの背中を追うことに。

 僕の様子ににんまり目を細めた猫さんは、再びもふもふの前足を動かしました。

 とてとて足を動かし、白猫さんの背中を追います。

 猫さんでも背中で語るってやつですかね。
 猫さんの気持ちがわかるはずないんですが。
 任せなさい! という気迫が背中から、ご機嫌にふりんふりん左右に揺れる尻尾から伝わりますよ。

 大変ご厚意はありがたいんですが、僕が探している風鈴のお兄さんを知らないこの白猫さんが案内できるわけないんですよ。

 でも、僕の数歩先を行く猫さんは自信満々に前だけを向いて進んでいきます。

 ふふ。でも、こういうおとぎ話ありましたよね。

 偶然知り合った動物を追いかけていったら、知らないふしぎな国に迷い込んでしまうという。

 あのお話の場合は、帽子屋さんのうさぎさんですけど。
 僕のこの状況を照らし合わせると『ふしぎな国の翠』でしょうか。
 猫さんと玉手箱片手に冒険が始まっちゃいますかね。
 
 僕を案内する白猫さんの歩みが遅くなりました。

 中庭をすっかり抜けて、コノ字型の校舎の角を曲がれば死角となる場所。
 猫さんの尻尾を目印に誘われるように追います。

「お、ノラ。今日は遅いな」

 ぽつんと置かれたベンチに腰掛ける人影に、白猫さんは甘えるように足元にくっつきます。

 白猫さんをなれた仕草で抱き上げる男性の制服姿に目を奪われてしまいます。

 だって、その横顔の耳元にはゆらゆら揺れる風鈴のようなピアスが光ります。

 ⸺風鈴のお兄さん?!

 
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