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14.歩きスマホはあぶないですね
しおりを挟むついつい口元がゆるんでしまいます。
やっとお兄さんと連絡先の交換ができたんです。
お昼休み中の廊下には生徒さんがまばらに歩いているだけ。
歩きスマホは危ないですが、少しだけスマホ画面を見るくらいは大丈夫ですかね。
何度も何度もポケットからスマホを取り出し、意味もなくメッセージアプリのトーク画面を見つめてしまいます。
手の中にあるスマホ画面には名前とアイコン写真はノラさん。
しかも、子猫ノラさんなんです。
今よりおめめがくりくりして、今よりもふわふわまるまるした体は、ほぼ天使さんですっ!
とっても可愛いですよねぇ。
あのお兄さんがわざわざアイコン画像にしちゃいますよ。
あ、実は僕もアイコン画像は同じ子猫ノラさんなんです。
羨ましがる僕に、わざわざお兄さんがかなり手際よくお揃いにしてくれたんです。
嬉しいなぁ。
「ふふっ……お兄さんって『可愛い』もの大好きなんですかね……」
あのシルべニアさんもそうですし、ノラさんを毎日餌を上げてなでているんですから。
新しいお兄さんの1面を知れて嬉しいですね。
お兄さんって本当に意外性の固まりさんなんですよ。
「このマークもついてる……」
今日だって、僕のスマホにGPSを付けてくれたんです。
GPSっていうのは付けているだけで、詳細な現在の位置情報を相手へ送信できるものらしいです。
つまりお兄さんがスマホで調べたら、僕が今どこへいるのかわかるという素晴らしい機能なんです。
すっごく真剣な表情で僕へ切り出したから、なにかをやらかしてしまったのかと思いましたが。
しかも、優しい言葉のプレゼントまでもらっちゃいました。
『また翠がどこかで倒れたらと想像しただけで、俺のほうが心配で倒れる』
『今度も助けてやる』
発作で苦しむ僕をさらに手を伸ばしたいと。
飾らない善意をもらいました。あんな強く優しいひとから。
それにお兄さんが、いつでもどこでも僕と繋がっても良いと思ってくれたのが、とても嬉しかったんです。
スマホ画面上部のコンパスマークが、僕とお兄さんが今も繋がっているってしるしです。
不思議ですね。
マークを見ているだけで、ふわっと浮かんでいってしまいそうなくらい心も体も軽いです。
「あ、連絡ってしたほうが良いですかね……」
まだ連絡は来ていなくて「あとで送る」と言われたから待っているんですけど。
このまま休憩終わったら授業中は無理ですし、夜は夜でお休み中だったらご迷惑になってしまいますよね。
家族と幼馴染からの業務連絡でしか使用しないです。
普段皆さんはどんな会話しているんでしょうか。
お昼休憩もうすぐ終わりますし、教室着いたら連絡したほうが良いんですか?
でも催促がましく自分から送って、煩わしく思われてしまったら、もう連絡来ないかもしれないですよね。
ぐるぐる回る思考はだんだんと弱気になってきてしまいます。
やっぱりこのまま待つことにしましょうか。
お兄さんは自分から口にしたことを反故にしたり忘れたりするような方ではありません……よね?
「歩きスマホはダメだよぉ~」
「ケガのもとだ。すぐしまえ」
「ふぇっ?!」
緩い声と同時に眼前にふっと人影が出現します。
スマホへ視線が釘付けだった僕はとっさに避けることができません。
⸺ぶつかっちゃいます!
せめてスマホを落とさないように胸でぎゅっと抱えて目をつむる。
ぽすんっと軽い音がなり誰かが僕を腕で包みます。
「え、え、あ?」
「翠ちゃん、あぶない~」
この声は累くんですね。包む腕の主が誰かわかりました。
それに、僕の視界を埋めるのは、胸元が緩く開いたシャツと首には見慣れたネックレスが光ります。
「あの累くん。ごめんなさい……」
「ん? 俺もぉ、いきなり声掛けちゃってごめんねぇ~」
僕の背中をポンポン優しく叩いた累くんは少ししたら体を離してくれました。
そして、僕の腕を引いて、廊下の隅へ歩き出します。
慌ててスマホをポケットへしまい付いていきます。
すぐさま頭のてっぺんから胸やお腹をペタペタ触って念入りに確認する累くんです。
「どこも痛いとこなぁーい? 翠ちゃんにケガさせたなんてことがあったら、いおりんに僕10倍返しされるよぉ~」
「だ、大丈夫ですよっ!」
ほら、とむんっと両手でガッツポーズをするとほやんと安心したように微笑む累くん。
「もぉ~可愛い?!」
両手を広げて僕へハグを強請った累くんを、恭くんが逆に後ろから抱きしめました。
「……抱きつき過ぎだ。塁」
ちょっと不機嫌な恭くんの低い声に累くんは頬を淡く染め、首だけで振り向きます。
「恭も混ざりたい~?」
「いや。いい」
な、なにやらお二人の世界が始まってしまいました。
見つめ合う二人の瞳がうっとりしてきています。
いや。いつも通りではあるんですけど、この状態を止められるのは伊織くんくらいですよ。
「お前だけで十分」
「ふふふっ。僕もぉ~」
「……ん」
二、三言囁き、累くんのきれいなストロベリーブロンドに顔を埋める恭くん。
いつもの厳しいお顔が形無しですよ。珍しく口元が緩んでいます。
累くんも腰に回った恭くんの腕を愛おしそうに撫でています。
僕、この場にいりますかね?
ですが、このお二人に未だに引っ越しの際のお礼を言えていないので我慢です。
かなり他の生徒さんからの視線が突き刺さり……ませんね。
あの二人に皆さん視線が吸い寄せられています。
累くんこと『旭累』くんは、ピンク色の髪とペリドットみたいな鮮やかな黄緑色のカラコンが似合う、垂れた目元が印象的な甘いお顔立ち。
制服にパーカーを羽織っているだけなのにおしゃれに見えます。
「動画を配信してバズったインフルエンサー」らしいです。
ほとんど日本語なのに全く言葉の意味がわかりませんでしたが。
恭くんこと『南戸恭一』くんも剣道部主将をつとめ、眼光鋭い男らしさの塊さん。
剣道着がとっても似合うお侍さまっぽい頼れるお兄さんです。
2人とも学校内でも人気が高く、美貌輝くお似合いの二人が並ぶとかなり人目を引きますよ。
伊織くんと並び廊下歩いていたときなんか、時代劇の大名行列みたいに人垣が両端に別れていくくらいなんです。
いつ会っても仲良しな2人を見るだけで、嬉しくなってニコニコしちゃいますね。
「あの、あのね。累くんと恭くん?」
ちょん、ちょん、と恭くんのシャツを引っ張ります。
この雰囲気の二人に話し掛けるなんてかなり勇気を絞りましたよ。
「翠? どした?」
気づいた恭くんは昔からの条件反射で、いちゃついたまま僕の方へ身を屈めます。
恭くんは伊織くんの幼馴染であり僕とも幼馴染なんです。
出会ったのは僕が赤ちゃんの頃からなのでかなり長いお付き合いです。
ずっと昔から伊織くんと恭くんのお二人にお世話になりっぱなしの僕なんです。
もちろん人見知りの僕にいつも優しく話しかけたり、お見舞いにも必ず来てくれる累くんにもお世話になりっぱなし。
いたずら好きでいつもからかわれちゃいますが、誰も嫌な思いをさせず楽しませてくれます。
「遅くなっちゃったんだけど、お引越のお手伝いをしてくれてありがとうございました。あのね、可愛い服とかお菓子もいっぱいありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」
「いいよぉ~。それに僕たちだけじゃなくて、あの、ほら爽やかスポ根くん? も手伝ってくれたしね~」
「爽やかスポ根くん?」
「……ちょうどあそこにいるあいつだ」
恭くんが視線で示したのは窓の先でした。
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