【完結】翠くんは、可愛いがられたい

日月ゆの

文字の大きさ
14 / 48

14.歩きスマホはあぶないですね

しおりを挟む
 
 ついつい口元がゆるんでしまいます。

 やっとお兄さんと連絡先の交換ができたんです。

 お昼休み中の廊下には生徒さんがまばらに歩いているだけ。
 歩きスマホは危ないですが、少しだけスマホ画面を見るくらいは大丈夫ですかね。

 何度も何度もポケットからスマホを取り出し、意味もなくメッセージアプリのトーク画面を見つめてしまいます。

 手の中にあるスマホ画面には名前とアイコン写真はノラさん。

 しかも、子猫ノラさんなんです。
 今よりおめめがくりくりして、今よりもふわふわまるまるした体は、ほぼ天使さんですっ!

 とっても可愛いですよねぇ。
 あのお兄さんがわざわざアイコン画像にしちゃいますよ。

 あ、実は僕もアイコン画像は同じ子猫ノラさんなんです。
 羨ましがる僕に、わざわざお兄さんがかなり手際よくお揃いにしてくれたんです。

 嬉しいなぁ。

「ふふっ……お兄さんって『可愛い』もの大好きなんですかね……」


 あのシルべニアさんもそうですし、ノラさんを毎日餌を上げてなでているんですから。

 新しいお兄さんの1面を知れて嬉しいですね。

 お兄さんって本当に意外性の固まりさんなんですよ。

「このマークもついてる……」

 今日だって、僕のスマホにGPSを付けてくれたんです。

 GPSっていうのは付けているだけで、詳細な現在の位置情報を相手へ送信できるものらしいです。

 つまりお兄さんがスマホで調べたら、僕が今どこへいるのかわかるという素晴らしい機能なんです。

 すっごく真剣な表情で僕へ切り出したから、なにかをやらかしてしまったのかと思いましたが。

 しかも、優しい言葉のプレゼントまでもらっちゃいました。

『また翠がどこかで倒れたらと想像しただけで、俺のほうが心配で倒れる』
『今度も助けてやる』


 発作で苦しむ僕をさらに手を伸ばしたいと。
 飾らない善意をもらいました。あんな強く優しいひとから。

 それにお兄さんが、いつでもどこでも僕と繋がっても良いと思ってくれたのが、とても嬉しかったんです。

 スマホ画面上部のコンパスマークが、僕とお兄さんが今も繋がっているってしるしです。

 不思議ですね。
 マークを見ているだけで、ふわっと浮かんでいってしまいそうなくらい心も体も軽いです。

 「あ、連絡ってしたほうが良いですかね……」

 まだ連絡は来ていなくて「あとで送る」と言われたから待っているんですけど。

 このまま休憩終わったら授業中は無理ですし、夜は夜でお休み中だったらご迷惑になってしまいますよね。

 家族と幼馴染からの業務連絡でしか使用しないです。
 普段皆さんはどんな会話しているんでしょうか。

 お昼休憩もうすぐ終わりますし、教室着いたら連絡したほうが良いんですか?

 でも催促がましく自分から送って、煩わしく思われてしまったら、もう連絡来ないかもしれないですよね。

 ぐるぐる回る思考はだんだんと弱気になってきてしまいます。

 やっぱりこのまま待つことにしましょうか。

 お兄さんは自分から口にしたことを反故にしたり忘れたりするような方ではありません……よね?

「歩きスマホはダメだよぉ~」

「ケガのもとだ。すぐしまえ」

「ふぇっ?!」

 緩い声と同時に眼前にふっと人影が出現します。
 スマホへ視線が釘付けだった僕はとっさに避けることができません。
⸺ぶつかっちゃいます!

せめてスマホを落とさないように胸でぎゅっと抱えて目をつむる。
ぽすんっと軽い音がなり誰かが僕を腕で包みます。

「え、え、あ?」

「翠ちゃん、あぶない~」

 この声は累くんですね。包む腕の主が誰かわかりました。

 それに、僕の視界を埋めるのは、胸元が緩く開いたシャツと首には見慣れたネックレスが光ります。

「あの累くん。ごめんなさい……」

「ん? 俺もぉ、いきなり声掛けちゃってごめんねぇ~」

 僕の背中をポンポン優しく叩いた累くんは少ししたら体を離してくれました。
 そして、僕の腕を引いて、廊下の隅へ歩き出します。
 慌ててスマホをポケットへしまい付いていきます。
 すぐさま頭のてっぺんから胸やお腹をペタペタ触って念入りに確認する累くんです。

「どこも痛いとこなぁーい? 翠ちゃんにケガさせたなんてことがあったら、いおりんに僕10倍返しされるよぉ~」

「だ、大丈夫ですよっ!」

 ほら、とむんっと両手でガッツポーズをするとほやんと安心したように微笑む累くん。

「もぉ~可愛い?!」

 両手を広げて僕へハグを強請った累くんを、恭くんが逆に後ろから抱きしめました。

「……抱きつき過ぎだ。塁」

 ちょっと不機嫌な恭くんの低い声に累くんは頬を淡く染め、首だけで振り向きます。

「恭も混ざりたい~?」

「いや。いい」

 な、なにやらお二人の世界が始まってしまいました。
 見つめ合う二人の瞳がうっとりしてきています。
 いや。いつも通りではあるんですけど、この状態を止められるのは伊織くんくらいですよ。

「お前だけで十分」

「ふふふっ。僕もぉ~」

「……ん」

 二、三言囁き、累くんのきれいなストロベリーブロンドに顔を埋める恭くん。
 いつもの厳しいお顔が形無しですよ。珍しく口元が緩んでいます。

 累くんも腰に回った恭くんの腕を愛おしそうに撫でています。

 僕、この場にいりますかね? 

 ですが、このお二人に未だに引っ越しの際のお礼を言えていないので我慢です。

 かなり他の生徒さんからの視線が突き刺さり……ませんね。
 あの二人に皆さん視線が吸い寄せられています。

 累くんこと『あさひるい』くんは、ピンク色の髪とペリドットみたいな鮮やかな黄緑色のカラコンが似合う、垂れた目元が印象的な甘いお顔立ち。
 制服にパーカーを羽織っているだけなのにおしゃれに見えます。

 「動画を配信してバズったインフルエンサー」らしいです。
 ほとんど日本語なのに全く言葉の意味がわかりませんでしたが。

 恭くんこと『南戸みなと恭一きょういち』くんも剣道部主将をつとめ、眼光鋭い男らしさの塊さん。
 剣道着がとっても似合うお侍さまっぽい頼れるお兄さんです。

 2人とも学校内でも人気が高く、美貌輝くお似合いの二人が並ぶとかなり人目を引きますよ。

 伊織くんと並び廊下歩いていたときなんか、時代劇の大名行列みたいに人垣が両端に別れていくくらいなんです。

 いつ会っても仲良しな2人を見るだけで、嬉しくなってニコニコしちゃいますね。

「あの、あのね。累くんと恭くん?」

 ちょん、ちょん、と恭くんのシャツを引っ張ります。
 この雰囲気の二人に話し掛けるなんてかなり勇気を絞りましたよ。

「翠? どした?」

 気づいた恭くんは昔からの条件反射で、いちゃついたまま僕の方へ身を屈めます。

 恭くんは伊織くんの幼馴染であり僕とも幼馴染なんです。
 出会ったのは僕が赤ちゃんの頃からなのでかなり長いお付き合いです。
 ずっと昔から伊織くんと恭くんのお二人にお世話になりっぱなしの僕なんです。

 もちろん人見知りの僕にいつも優しく話しかけたり、お見舞いにも必ず来てくれる累くんにもお世話になりっぱなし。
 いたずら好きでいつもからかわれちゃいますが、誰も嫌な思いをさせず楽しませてくれます。

「遅くなっちゃったんだけど、お引越のお手伝いをしてくれてありがとうございました。あのね、可愛い服とかお菓子もいっぱいありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

「いいよぉ~。それに僕たちだけじゃなくて、あの、ほら爽やかスポ根くん? も手伝ってくれたしね~」
 
「爽やかスポ根くん?」

「……ちょうどあそこにいるあいつだ」

 恭くんが視線で示したのは窓の先でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キスの仕方がわかりません

慶野るちる
BL
全寮制男子校に入学した市原はクラス委員長になったため書類を提出しに生徒会室に行くと、そこに一人いた、初対面の副会長の近藤に襲われてしまう。  混乱するも相部屋の同級生・松川に助けられて元気を取り戻したある日、生徒会長の桜野から仕事を手伝って欲しいと依頼される。  最初は近藤に無視されていたが手伝う中で近藤から告白され、近藤への印象が少しずつ変わっていく市原だが。 表紙:Photo by Markus Spiske on Unsplash / powered by かんたん表紙メーカー様

ひとりも、ふたりも

鈴川真白
BL
ひとりで落ち着く時間も、ふたりでいる楽しい時間も両方ほしい 1人を謳歌するマイペース × 1人になりたいエセ陽キャ

銀狼様とのスローライフ

八百屋 成美
BL
激務に心身を病み、逃げるように田舎へ移り住んだ佐伯湊。 ある雨の日、彼は庭先で銀色に輝く巨大な狼を拾う。 それは、人間に追われ傷ついた神獣、リュカだった。 傷の手当てをきっかけに、湊の家に居座ることになったリュカ。 尊大で俺様な態度とは裏腹に、彼は湊が作ったご飯を美味しそうに食べ、寒い夜にはその温かい毛並みで湊を包み込んでくれる。 孤独だった湊の心は、リュカの無償の愛によって次第に満たされていく。 しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
※未完 4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

処理中です...