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36.わがままをいう練習は……
しおりを挟むお昼休み。授業終わりすぐ。
3年生の特別コースがある1階に向かうため階段を降りていると、下から登ってくる玄くんとばったり会います。
「あー、ごめん。佐倉に逃げられた」
首に手をやり申し訳なさそうに玄くんが謝ります。
実は玄くんと伊織くんはクラスメイトでしかも席順も前後と仲良しさんだったのです。
玄くんは仲良くないって凄い勢いで否定したんです。
伊織くんと玄くんの仲の良さにもやもやが解消してしまった現金な僕です。
ですので、そういうもやもやを持たずに安心して、伊織くんとお話するため玄くんに協力してもらいました。
けど、うまくいきません。
「そうですか。……協力していただいたのにすみません」
「いいよ。また放課後もあんだし、さっさとメシ食おう。おいで」
こくりと頷くと、玄くんは手を差し出します。手を乗せると、する、と指を絡めて握られる。
玄くんと手を繋ぐのが当たり前になってしまいました。
2人でとてとて旧校舎の空き教室へ向かいます。
雨の日はここで2人でご飯を食べるようになったんです。
因みに、雨の日になるとノラさんは寮監さんのお部屋で『ラテ』さんになり、室内猫さまに変わっているそうです。
地域猫さんのたくましさは凄いですよねぇ。
空き教室には、机や椅子が無造作に積み上げられ、その机に美術部さんの大きなポスターや吹奏楽部の垂れ幕なんかがたてかけられています。
普段は物置として使われているらしく、床と教壇しか座るところがないので、2人で教壇の段差にしゃがみ込みます。
玄くんにおいで、と言われると同時に体を軽々持ち上げられ、お膝の上に座らされる。
玄くんの胸に背中を預け、自分のお膝の上でお弁当箱を開けます。
最近玄くんは、僕をことあるごとに自然と抱っこするようになりました。
最初のうちは心臓が爆発するくらいドキドキしていました。
ですが慣れると、くっついていないと、寂しい。
この体勢も、最初はご飯も喉を通りませんでしたが、今では普通に食べられます。
慣れって恐ろしいです。
「……なあ。隈ある……」
お弁当も食べ終わりお話をしていると、肩越しに顔を覗きこまれ、目元を指で撫でられる。
唇へ吐息がかかって、落ち着いていた心臓が跳ねます。
膝下と肩を支えられ、あれ? と思っていたら、真上に玄くんのお顔があります。
頭の下にはなにやら温かくて固いものがと思ったら太ももです。
上半身をこてんと倒され、膝枕を強制的にされました。
「あ、あの? なぜ?」
見上げた玄くんのお顔が近い。
目元のほくろさえ見えちゃいます。
「少しだけ寝ろ。起こしてやるから……」
「で、でも」
「今日の俺のわがままだから、な?」
「はい……」
あれから律儀に1日1回お互いにわがままを言う練習をしてくれる玄くんです。
僕の今日のわがままは伊織くんを連れて来てほしい、という無理難題です。
そんな僕のわがままを玄くんはいつもどんな内容でも優しい笑顔で引き受けてくれる。
頭を撫でて欲しいと言ってみたいですが、未だに恥ずかしくて言えません。
すると、僕の髪を優しく撫でる指先と目元を覆う大きな手の平。
まさかの撫でるオプション付きでした。
そのどちらも気持ちよくて、緊張してこわばった体の力が抜けます。
「あのな……佐倉は翠が嫌いになった訳じゃねーと思うんだ……」
「……そうだと良いんですけど」
「俺……1回あいつにすげー怒られたことあんだよ。少しだけ、うん。少しだけな授業ダルいから自主的に休んだ時期があって」
すう、とお兄さんが息を吸い、腹筋が動きます。
「佐倉に『学校に来たくても来れないれない子もいるんだからしっかりしろ!』ってガチで怒鳴られたんだよ。胸ぐらつかんでまでな。その来れない子って翠のことだろ? だから……佐倉は翠のことすっげー大事にしてんじゃねーかと」
はっきりものを言う玄くんにしては、自信無さそうにとつとつとお話しされます。
口ぶりの変わりようから、僕を一生懸命励まそうとしてくれているのがわかります。
嬉しい。
「はい。仲直り頑張ります!」
「ん。大丈夫。翠ならできる」
玄くんの優しい声が甘やかな余韻を残し胸の奥へゆっくり沁みていく。
消えない甘さに勇気をもらい、放課後、伊織くんに突撃する決意をしました。
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