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37.家族じゃない
しおりを挟む放課後、伊織くんに逃げられた僕は、寮への突撃に作戦を変更しました。
寮部屋の玄関扉前。いますよね。
いる。絶対に。
スマホの時刻は19時過ぎ。
最終下校時刻はもう過ぎていますし、今日は生徒会のお仕事もない日です。
生徒会書記の恭くんに確認しましたから確実です。
伊織くんはお部屋にいるはず。
なのに、心臓がバクバクいっています。
ポケットの中に手を入れて、シルベニア人形に触れ、心臓を落ち着かせます。
1回深呼吸。
インターホンのボタンを押します。
数秒後、ノイズまじりにはい、と応答したのは伊織くん。
「お、お弁当箱返します! 出てきて! お願い」
わたわたあらかじめ用意していたセリフを言い切った。
足音が扉越しに近づくと、すぐに伊織くんが扉から顔を覗かせた。
「……お弁当箱ちょ」
「あのね! 伊織くんとお話をしたい! 僕達“家族”だよね! 心配だし、伊織くんと前みたいに仲良くしたいから……」
お弁当箱を人質のように胸に抱え、勇気を振り絞りました。でも。
「ふ、あはは」
「い、伊織くん?」
伊織くんはなぜか歪に口元をゆがめ嗤い出す。
「自分で言ってた言葉がこんなに白々しくて残酷なんて知らなかったよ。なにが“家族”だよ。そんなことこれっぽっちも思っていないくせに」
「ち、ちがっ」
吐き捨てるような伊織くんの言葉につい否定する。
ですが、伊織くんはさらに声を低くして続けます。
「ねえ、僕に“家族”って言われることが翠は苦手だったよね?」
「………え?」
「ふっ、とっくの昔に僕は気づいていたよ。ずっと翠だけを見てきたんだからね。僕だってバカじゃないよ。本当は嫌なのに、翠が僕に遠慮していたのもわかってる」
ドアノブを掴む伊織くんの手が震えている。
「あのね。本当は僕、翠と“家族”になんてなりたくない。ずーっと翠の隣にいながら、僕を嫌がる翠を見てみないふりをしてた。なんでこうなったんだろうね」
僕は……どうしたら良かった? と伊織くんは力なく呟きます。
さっきから言われている内容がわからない。
ただ伊織くんを怒らせてしまったことしか。
こんなに静かに激しく怒る伊織くんは見たこともない。
「翠はわからないよね」
聞かれても困惑と恐怖で指先一つ動かせない。
伊織くんの瞳がうつろに僕を映すのを見つめる。
「うん。もういいんだ。僕はもう翠とは会わない」
「なんで? 伊織くん?!」
ふっと伊織くんは微笑む。
その微笑みが伊織くんが遠くにいってしまいそうな、これでお終いになってしまいそうな予感を。
「“家族”じゃない僕とわざわざ会う必要もないでしょ?」
見下ろす青色の瞳は冷たい拒絶の色をしていた。
「……ッ」
「早く帰ってくれるかな」
伊織くんは僕の肩をそっと押し出すとバタンと玄関扉を閉じる。
閉じられた扉は微動だにしない。
僕と伊織くんの距離を表しているようで。
どうしよう。
伊織くんを怒らせた?
違う……僕を扉から押し出した手は震えていた。
扉を閉じる間際の取り残されたような不安気な表情は、あのお葬式の日に見たものと同じでした。
はからずも、伊織くんをまた悲しませてしまった。
「……全然ダメダメじゃないですか」
伊織くんに手を差し伸べるとか意気込んだくせに、いざ拒絶されたら勝手に傷ついて。
あんな……“家族”じゃないとまで言わせてしまった。
伊織くんは人を傷つける言葉を平気で使えるようなひとじゃない。
きっと、言った伊織くんも傷ついている。
「ごめんね……伊織くん……」
本当にどうしたらよかったんでしょうか。……僕達は。
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