【完結】翠くんは、可愛いがられたい

日月ゆの

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48.可愛がりたい

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「俺が鍵かけていい?」

 昨日僕があげた合鍵を顔の前で揺らし、玄くんが聞きます。
 頷く僕へはにかんだ玄くんに胸がぎゅっと絞られます。

「いくか」そう言うと同時に当たり前のように差し出される大きな手。
 恋人同士なら手を繋いで登校するのは当たり前ですもんね。

 “恋人同士”という言葉に、顔が熱くなります。

 僕も玄くんが好きで、玄くんも僕が好き。

 不意に実感が湧き、じわりと胸の奥が熱くなります。

 おずおずと手を出すと、玄くんは澄ましたお顔で平然と指を絡めてきます。

 その瞬間、甘い痺れが繋いだ指先からびりびりと身体中を這い巡り、腰が砕けました。

「ぎゃん?!」

 へなへなと床に成すすべなくへたり込む僕です。
 玄くんは驚いたようで目を丸くし、固まっています。

「す、すい?! 嫌だったか?」

 ぱっと手を離すと床に膝をつき、顔を傾げ覗き込む玄くん。

「いえっ! あの、玄くんのこと好きだなあと思って、手を繋いだら幸せ過ぎてびりびりと痺れて……大好きな人と恋人になるってすごいです……」
「ぐふぅ! 俺も今、びりびり来た」

 玄くんも胸を押さえて苦しそうです。
 崩れるように玄くんも、床にへたり込んでしまいました。
 何故か玄くんが僕を物言いたげにじっとみつめてきます。

「なぁ。恋人になった俺と翠がキスしたらどうなっちゃうんだろうな」

 確かに。手を繋ぐだけで痺れて動けなくなったくらいです。
 昨日、執拗に舐められたことが鮮明に蘇ります。
 唇の柔らかな感触や熱をはっきりと思い出してしまいます。

「幸せすぎて……溶けちゃいますよぉ」

 思い出した幸せの記憶に浸ったままそう漏らせば、昨日と同じ柔らかくて気持ちいい感触が頬へ。

「ひゃあ!!」

 遅れて、玄くんが頬へちゅっと軽くキスを落としたと気づきます。
 片頬を押さえ、パクパクと口を空いたり閉じたりしかできない僕です。
 玄くんは顔を寄せたまま、とん、と指先で唇へ触れます。

「……我慢、できねーんだけど。いい?」

 端正な眉を下げ、縋るように掠れた囁き声で尋ねられます。
 何を、とは聞かなくても唇に残る熱がわからせます。
 触れた指先はカサついて、微かに震えていました。

 ⸺可愛い

 胸を満たす愛おしさに、思わず玄くんの鼻へ唇を寄せます。

「……鍵使いましょう?」

 期待に息を震わせながら言います。
 息を呑んだ玄くんは漆黒の瞳で静かに僕を見つめる。
 瞳の奥の甘さを孕んだ熱をぐっと深めると、ゆっくり頷いた。

 甘い熱に捕らえられてしまった僕は、玄くんの首へしがみつき視線で部屋を示します。

 抱き上げられ部屋へ入るとすぐに、気だるげな美貌がゆっくりと近づいてきます。

 ゆらんと揺れるピアスやお揃いの目元のほくろが焦点も合わずボヤけるほど。
 もう心臓が破裂寸前くらい痛くて、ぎゅっと目を瞑る。

 玄くんが小さく笑い唇を吐息が撫でる。
 またまたその熱や感触に心臓が悲鳴を上げ跳ね上がった。

 唇へふわりと柔らかなものが重なる。
 そうっと、とても軽く重なっただけ。
 でも甘い熱に心まで一緒に溶け合ったような気持ちよさでした。

「……好きだ。翠がいないと生きていけないくらい」

 ほんのり赤く色づく目元を、蕩けたようにふわりとたわませる玄くん。
 大好きな優しい笑顔に好きがとぷんとぷん溢れ出てくる。
 とめどなく押し寄せる愛しさに溺れそうです。

「僕も玄くんとずっと一緒にいたいです」

 ぐっと首を伸ばし、僕から唇をそっと重ねる。一瞬だけですが。

 呆然と僕を見つめる漆黒の瞳はだんだんと目尻が下げふんわり包み込むように優しく笑います。

 目が眩みそうなほど屈託のない笑顔です。

 ⸺可愛い。

 ぽんっと心の中に新たな甘酸っぱい気持ちが生まれます。

 このわがままな気持ちも目の前で笑う、厳しくも優しいあなたなら、きっと大切にしてくれる。

 そう信じられる。

 脆く弱っちい僕をまるごと、からっぽになるまで差し出せるくらい好きだから。

 実は誰よりも可愛い玄くんを可愛がりたいです。
 ずっと。






   end








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 これまでお読みいただきありがとうございました。
 読者さまからの『お気に入り登録』や『いいね』など温かい応援のおかげで、今作を書き上げることができました。
 色々と拙い作品ですが、少しでもお楽しみいただけていたら、とても幸いです。

 次作品でもお会いできるようどうぞよろしくお願いします!
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