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四章 W5・砂漠エリアです!

十九話 ワームは案内人?

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 ミヤビは俺の言葉に全く耳を傾けずに、デザートワームを追いかけてゆく。

「おいおい! 止まってくれよ! そんなのもういいだろ。」

「でも、あとちょっとなんです! あとちょっと! 」

そんなことを言いつつ、ミヤビはなかなかデザートワームを仕留められずにいた。

 デザートワームはするりするりと、ミヤビの杖をすり抜けていってしまうのだ。

「すばしっこいな! この! 」

「もういいだろ! 」

もう俺の存在を完全に忘れてしまっているらしい。

 逃げるワームを追いかけて、ミヤビはどんどん砂漠を走っていく。しかし、彼女が行く方は……。

「ミヤビ! ダメだ! そっちは砂流がある。」

ミヤビが行く先には、砂流と呼ばれる強い砂の流れが発生する地帯だった。

 前回の教訓を活かして、事前に町の図書館で地理についてよくよく調べていたから、知っていた。あそこに入ってしまうと、著しく移動速度が遅くなってしまう。

 だから、このイベントだと特にプレイヤーたちから忌避される場所だ。そこに、今ミヤビは立ち入ろうとしているのだ。

「そこは入っちゃダメだ! 」

しかし、もう遅かった。

 すでに、ミヤビは砂流に足を取られていた。

「なんなの? これ! 」

そこでようやくミヤビは我にかえった。

 だけど今更の話。ミヤビはみるみるうちに、砂流に流されていってしまっている。

「これ、どうしたらいいんですか? ロータスさん! 」

「頑張ってこっちに戻ってきてくれ! 」

「無理です! なかなか足が進みません! 」

ミヤビは足を取られて、流れに逆行する方向のこちらへは進めないでいた。

 いよいよミヤビは、砂流が流れゆき、集まる中心に近づいていた。

「あれ、本で見た話と違うぞ。」

本で読んだのによれば、砂流はそのまま反対側へと抜けていくだけだったはずだ。なのに、この砂流はまるで渦のように、中心に向かって吸い込まれていく。

 ミヤビが追いかけていたデザートワームは、砂流に乗って、中心に向かっていた。こいつはこいつで、何をしているのだろうか?

 デザートワームは、まるでそこに向かっているかの如く、中心に進んでいくのだ。

 ワームは中心にたどり着くと、そのまま吸い込まれていってしまった。

「ちょっと! 消えちゃったじゃないですか! 」

「それどころじゃないでしょ! 君もああなるよ! 」

「それは嫌ですよ! 」

ミヤビはかなりパニックになっていた。でも、あれに落ちたらどうなるのだろう? ゲームオーバー? 死んだ扱いになるのだろうか?

 悠長なことを考えているヒマはない。だけれど、何がやれるわけでもない。

「どうしたらいいんだ! 」

「こっちが聞きたいですよ! 」

ミヤビはどんどん流されていってしまう。

 ミヤビはついに中心まで流されてしまった。

「ちょ! ちょっと! もう無理ーー! 」

中心に着くと、急に流れが速くなってしまい、あっという間にミヤビは吸い込まれていってしまった。

 「おーい! 大丈夫か? 」

返事は返ってこない。流石に心配だ。ゲームだとはいえ、砂の渦に吸い込まれて落ちていってしまったのだ。無事なわけがない。

 ミヤビが吸い込まれたあと、嫌に静かになってしまった。

「どうする?」

一人じゃもうどうしようもない。イベントだって絶望的だ。それになにより、ミヤビが心配だ。

「ええい! どうせゲームなんだ! 死ぬことはない。」

俺は砂流に飛び乗った。

 流れに逆らわないので、すぐに中心までたどり着いた。

「怖いけど、仕方ない! 」

俺はそのまま中心の奥底に飛び込んだ。




 中は暗かった……。ほんのりと上からの月明かりが差し込むだけ。あとはもう何もない。

 目が慣れてくるまでちょっと時間がかかった。

「おーい! ミヤビ? 」
 
呼んでもやっぱり返事はない。

 目が慣れてくると、ようやく周りが分かるようになった。洞窟だ。それもかなり広い。

「これは一体……。」

 洞窟はひんやりしていた。見回すと、道が一本、奥へと続いていた。

「ミヤビはこの奥に行ったのか? 本当に? 」

しかし、他にはもう何もない。そこに行くしかないのだ。

 道はどんどん狭まっていた。俺は図体が無駄にでかいから、通っていくのは結構窮屈だった。

 もう這ってでしか通れないほどの道の狭さになったあたり。本当にミヤビはこの奥にいるのか不安になったときだった。

 突然ひらけた空間に出たのだ。それこそさっきまでいたところよりも全然広い。


 奥にミヤビが立っていた。

「よかった! 」

と、駆け寄ろうとしたところで、俺はその奥の巨大な影に気がついた。

 全然良くなかった。巨大な影の細部までが明らかになると、そいつがモンスターであることはすぐに分かった。

 他のモンスターとは確実に違っている。まずは大きさ。怪獣かと思うほどだ。黒紫の外殻が体を覆い、頭には二本の大きな角が生えている。

 いや、あれは角じゃない! 顎だ。巨大な顎なんだ。

 あの生き物、巨大すぎて圧倒されて気づかなかったけど、見たことがあるぞ。……アリジゴクだ! 

 俺はそのアリジゴクと対峙しているミヤビのもとに駆け寄った。

「大丈夫かい? 」

「ああ、ロータスさん。来てくれたんですね。とりあえずはまだ大丈夫です。こちらから仕掛けない限りは攻撃してこないようですから。」

彼女の言う通り、アリジゴクは俺たちを見るばかりで、全く攻撃してこない。

「え、じゃあもう逃げてしまおうよ。」

「いやいや、このチャンスは逃せませんよ! 」

「え、チャンス? 」

「このモンスター、特別指定、『サンドディザスター』ですよ! 」
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