盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

文字の大きさ
26 / 45
四章 W5・砂漠エリアです!

二十六話 オイルは砂漠のロマンです!

しおりを挟む
 装備を新調した俺たち。ただでさえ尖った二人組なのに、装備までもがかなりクセのある感じになってしまった。

 地面ごと吹き飛ばしてしまう大剣使いに、毒を撒き散らす杖使い。おまけに二人ともが揃って盗賊なのだから、もうキャラが渋滞している。

 俺たちでさえ、ちょくちょく盗賊であることを忘れてしまっている。そりゃそうだ。だって盗賊らしいこと何もしていないもの。




 さて、俺たちの次の方針だが―――

「そろそろ、次のエリアに行きましょうよ。砂漠にうんざりしてきちゃいました。」

「それは同感だわ。外出ても砂しか見えないもんな。」

「しかも歩くたびに砂が靴に入っちゃうじゃないですか。」

砂漠がめちゃくちゃ嫌だってわけじゃない。

 俺たちだって、この前のイベント然り、砂漠での冒険を楽しませてもらっている。こんなに装備にも経験値にも恵まれたし、感謝だってしてるくらいだ。

 ただ、もういい。さすがに飽きてきたという話だ。敵と戦っても、苦戦なんてするはずがない。経験値的にも、次に行きたいと思うのは当然だろう。

 ところで、前のエリアからここへ来たときにもあったように、初めて行くエリアに進むには、それぞれ条件が設定されている。

 俺は心の中で次に進むことを考えていたので、この条件についても昨晩調べておいた。

「次のエリア、ウエストエリアの四番地に行くために設定されている条件は『キャメルオイル1バレルの納品』らしい。」

「へえ、納品ですか。討伐じゃないんですね。」

俺もこれには驚いた。

 次のエリアへと進むのだから、てっきりボスみたいなモンスターを倒すとばかり思っていた。

「でも実はこっちの方が難しかったりする? 」

「そうですよね。1バレルってそもそもどのくらいなんですか? 」

「160リットルくらいだよ。」

「はい? 」

「だから、160リットル弱だよ。石油の単位に使われてる。」

 1バレルという量は多くて四人組のパーティーにとっては、まあまあの無茶振りだ。それくらい次のエリアまでの進出に時間をかけろという運営の意図だろう。

 ただ、時間をかけずにさっさと次のエリアに行ってしまいたいというのがプレイヤーの心理だ。

「キャメルオイルってのは、つまりそこら辺に歩いているラクダの油ってことだよな。」

「ああ、アイツですね。それでプレイヤーたちはあのラクダを追いかけ回してたんですね。」

 それは俺も見ていた。ラクダは倒しても大した経験値にはならずに、かと言ってゴールドを落とすわけでもないので、不思議だった。そういうわけがあったのだ。

 そうとなれば、俺たちもラクダ狩りに繰り出さなければならない。

「今から行きます? 」

「もちろん。すぐに次のエリアに行きたいしね。」

俺たちはギルドの専用窓口に行った。

 窓口の女性に、条件への挑戦の旨を伝えると、彼女は大きなタルを持ってきた。

「めちゃくちゃ大きいですね。」

「そりゃ1バレルのタルだからね。160リットル入るのさ。」

タルを手渡したあとで、女性はギルドの入り口を手で指した。

「入り口にあるリアカーをご活用ください。」


 入り口に出ると、小脇にリアカーが何台も並んでいたから、そのうちの一台を借りた。

 ゲームなんだからポーチにデータとして収納できるようにすればいいのにとも思うが、これも試練ということだろう。

 俺たち二人は砂漠に出て、手当たり次第歩き始めた。オイルタンクは何も珍しいモンスターではない。適当に歩いていれば出会える。



 と、思ったのだが、これが思ったより遭遇しない。

「あれ、適当に歩くだけで済むものだと思ったんですけどね。」

おそらく急に遭遇しなくなったとか、そういう問題ではない。狙い出すと出てこない気がするものだ。

 普段どおり遭遇しているのだけれど、何せよ160リットル分だ。そうそう簡単にはいかない。

 ちなみにオイルはラクダを倒すとドロップする仕様になっている。一匹倒すごとに4リットル。つまり、40匹は倒さなければならないのだ。

 「今倒したのは何匹目だっけ? 」

「覚えてないですけど、どうせタルがいっぱいになるまでは倒さないといけないんだし、数えなくてもいいんじゃないですか? 」

「まあそうだけど、ひたすら倒し続けるのもしんどくないか? 」

俺たちはなおさら砂漠にウンザリしてしまっている。

 こんな時に出会う鉄サソリほど憎いものはない。これはRPGあるあるというか、目当てじゃないモンスターが憎たらしく見えてきてしまう。

 ミヤビもさっきからずっとサソリに当たり散らしている。

「うりゃ! うりゃ! 」

効かないの分かってるのにひたすら杖でめった打ちにしているのだ。

「ちょちょ! そんなに荒れたって仕方ないだろ。」

「すいません、ちょっと腹立ってきちゃって。」

サソリはそのあとキッチリ溶かしておいた。

 さて、ラクダのオイル集めだが、これがなかなか集まらない。

「もっとよく考えないとな。」

「その前にちょっと休憩しましょうよ。」

「休憩? 」

「ええ。町の裏手のオアシスは人もいませんし。」

ん? ちょっと待てよ。

 俺たち人間がこうして休憩するなら、きっとラクダだって休憩するはずだ。

「そこ! 行ってみよう。」

「やっぱりロータスさんも疲れてたんですね。」



 ほら、やっぱりビンゴだった。

「これは……すごいですね。」

オアシスでは、大勢のオイルタンクたちが水を飲んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...