盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

文字の大きさ
29 / 45
五章 ドリーム・リゾートです!

二十九話 リゾートに向かいます!

しおりを挟む
 マップの東にのっていたもう一つの町のマークは、リゾートだったのか。リーチはもうすでに見えなくなっていた。

 掲示板を物色していたミヤビが帰ってきた。

「あまりいいものがありませんでした。」

「そうかい? 」

「はい、全部外を歩き回らなくちゃいけなくて……。」

「そりゃそうだろ! 」

本当にテンション低くなってるな、この娘。

 俺はミヤビに、さっき聞いたリゾートのことを話した。

「あら、もう一方の街はリゾートになってたんですね。」

「そっちに行ってみないかい? 」

「まあ、それならいいですけど。」

リゾートとなると、ちょっと惹かれてしまうようで、顔は不機嫌ながらも、そそくさとギルドの出口に向かっていってしまった。

 この町にも色々と他の建物があったのだけど、大体は俺たちにとっては用無しだった。

 武器屋なんて特に行く必要がなかった。二人して特殊な装備をしている。特別指定二匹の武器だから、当然性能も並ではない。少なくとも、このエリアにある武器では比べものにはならない。

 だから、武器屋には用がない。杖も大剣も、今以上のものなんてあるわけがない。

 防具は普通だから、新調出来るんじゃないかとも思ったが、それも無理だった。ここのエリアでは、全くと言っていいほど普通の装備がうっていないのである。

 面倒くさがるミヤビを引っ張って、防具屋には顔を出したのだが、今装備している「盗賊のローブ」以外に盗賊の装備が一つもなかった。

 というより、強い装備そのものが置かれていない。代わりに、全職種共通の水着が大量に売られている。

 防御力はあまりない。デザイン性を重視している。

「一着買っとかないかい? リゾートで使うかもしれないじゃない? 」

「そんなこと言って、私の水着姿見たいんですか? 下心が透けて見えてますよ? 」

「な、なにを言うんだ。そういうわけじゃないさ。」

 そんなことを言いつつも、結局二人して水着を買った。ゴールドを出し渋る理由はもちろんないし、周りにいるプレイヤーたちの中でも、水着を着ている人は多かったので、買っておいたのだ。

 水着なんて、いつぶりだろうか。ミヤビはどうやら俺よりも数段若いようだから、現実でも水着を持っているかもしれないけど。そういえば、実家がここみたいな南国だしな。

「ミヤビって、今は実家に住んでるの? 」

「あ、いや。もう実家は出てます。福岡の方まで出てきて一人暮らしをしてますよ。」

おっと、意外だな。

「俺も福岡住みだよ。奇遇だね。」

「そうなんですか! パーティー組んでちょっと経つのに、初めて聞きました。」

 現実でも近い場所にいたとは。俺はまだミヤビの本名も、姿も知らないけど。

 一人暮らしとなると、もう一つ気になる。

「実家へは帰ったりするの? 」

「いや、ありませんね。沖縄を出てからは一度も。」

それより、一度も帰らないってのは、どういうことだろう。普通は帰省くらいするだろう。俺だって年に一回は実家に帰るぞ。

 ただ、それ以上は話さなかった。ミヤビの機嫌が少しずつ直りかけているのを、無駄にはしたくなかった。



 防具屋を出ると、いよいよ用はなしということで、俺たちは町を出た。東の方角を向けば、確かに大きな建造物の影がみえる。

 歩いているうちに、このエリアに来て初めて敵と遭遇した。

 敵のモンスターの名前は「人喰いハイビスカス」。歩くハイビスカスの魔物だった。

 なんとも南国らしいモンスターだったが、苦戦するはずもなく、瞬殺した。

 それにしても、このエリアは敵と遭遇する頻度が恐ろしく低い。そういうエリアなのだろうか。

 リゾートにも、すぐに着いた。

「わあああ! すごいですよ! 」

ゲートを抜けると、そこは目も眩むような桃源郷だった。

 リゾートはどこもかしこも陽気な雰囲気。楽しむプレイヤーたちに埋め尽くされていた。

 真ん中にタワーが立ち、その周りを囲うようにプールが広がっている。というか、一階のフロアは屋内も屋外も全てプールになっていた。

 プールサイドには、ドリンクだのフードだの、さらには雑貨だの、いろいろなものが屋台で売られている。

「ほら、やっぱり水着が必要だったじゃん。」

「思ったよりガチガチのリゾートでしたね。」

 俺たちは屋内でトロピカルジュースを買って、外に出た。ゲームの中の飲み物なんて、不可思議極まりないものだけど、試しに一口ストローを吸うと、ちゃんとジュースの味がした。

 まったくどんな技術を使っているのか。味までする。しかし腹は満たされない。やはり他と同じで感覚だけがあるという具合だ。

 屋外の広いプールに出た。子どものプレイヤーがプールの中で遊んでおり、パラソルの下ではサングラスをかけて寝ている人もたくさんいた。

 俺たちは空いているテーブルタイプのパラソルを見つけて、そこに腰掛けた。

 落ち着いてジュースを飲もうという段だったが、俺の後ろを通った二人組の会話が耳に止まった。

「なあ、聞いたか? 」

「何が? 」

「このゲーム、パーティー組まずに一人でも進めるようになったらしいぞ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...