【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘

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二章 貧村の救世主

十二話

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 ローブがはけていったので、僕たちはメニュー表を開いた。が、三人揃って愕然とした。

「野菜しかないじゃないですか! 」

「しかも桑の葉が大半ですよ。肉とか魚とかはないんですか!? 」

メニューは『日替わりサラダ』や『桑の葉のおひたし』、『桑の葉炒め』といった感じだった。肉や魚を使った料理が一品たりともないのである。

 すぐさまローブを呼んだ。

「どうしたの? 決まった? 」

「いやいや、肉とか魚とかはないんですか。」

「ないわよ。」 

「どうして? 」

「だって食べたことないんですもの。わたし、植物しか食べないわ。」

食べないものの料理は作れっこないというわけか。

 兵士くんは頭を抱えた。

「やっぱりライアンさんが言った通りワケありだったじゃないですか。」

「だけどここまで来たら引き下がれないだろう。大人しく食べていこう。」

結局、三人とも日替わりサラダを注文した。

 「日替わりサラダね。今日の日替わりは、ええと……桑の葉サラダね! 少々お待ちくださいませー。」

ローブが見ていた日替わりサラダの表を見ると、四日に三日は桑の葉サラダだった。

 ほどなくして僕らのテーブルに桑の葉サラダが三人分運ばれてきた。

「お待ちどうさま。召し上がれ。」

運んできたローブは、また店の奥に戻っていくと思いきや、僕らの隣のテーブルに居座った。

 ローブは何やら話し始めた。

「実はあなたたちが久しぶりの客なのよ。」

まあ、そうだろうな。

「どうしてみんな来てくれないのかしら。やっぱり私が魔族だから、みんな怖がっちゃうのかしら。」

多分違う。

「もう、どうすればいいっていうのよ! 」

メニューを変えればいいと思う。

 けれど、ローブは言っても聞かなそうな雰囲気だったので、本音は心内にしまっておいた。

「おっと! いけない。」 

兵士くんがドレッシングをテーブルにこぼしてしまった。

「あら、大変。」

そう言うとローブは両手を出した。

 どうするのかと見ていると、突然彼女の指先から白い糸が飛び出してきた。糸は彼女の両手の中でみるみる紡がれてゆき、瞬く間に純白のハンカチが完成してしまった。

「ほら、これ使って。」

と言って、ローブはそのハンカチを兵士くんに渡したが、彼は彼で驚きのあまり固まっていた。

「すごいな、それ。」

「そりゃあ蚕姫ですもの。ハンカチを作るくらいならお茶の子さいさいよ。」

 一部始終を見ていたライアンくんは、何か閃いたようで、口を開いた。

「あの、ローブさん。それって絹ですよね? 」

「ええ、そうよ。」

「どれだけでも作れるんですか? 」

「まあね。桑の葉っぱを食べていればどれだけでも。」

「じゃあ、あなたの作る絹、この村の特産品にしてもらってもいいですか? 」

 突然のライアンくんの申し出に、僕を含めて他の三人はもちろん驚き、兵士くんはまたドレッシングをこぼしてしまった。 
「わ、わたしの絹を? 」

「そうです。あなたが作る絹を。」

「でも、それはアンフェアじゃないかしら。」

確かに彼女の言う通りだ。もしもローブが作る絹を村の特産品にしたならば、村は農業なしでも成り立つかもしれない。でもそれは彼女一人に頼りっきりになり、苦労を強いるということでもある。ただ、ライアンくんはそこも考えていたようである。

「ですから、村をあげて桑を栽培するのです。」

「つまり? 」

「つまり、あなたが絹を提供する対価として、村人たちは栽培した桑の葉を大量にあなたに支払う。そうすればお互いウィンウィンというものでしょう? 」

 それは妙案だ。ローブも心惹かれるものがあるらしい。

「まあそうね。正直、流行らない食堂をやってても仕方ないところはあるものね。……でもこのままあなたの口車に乗るのも癪よ。だから一つ注文をつけさせてもらってもいいかしら? 」

「注文? 」

「私、甘ーい桑の葉が食べてみたいの。砂糖菓子くらい甘いやつ。」

また奇妙で難解な注文をする。

 しかし、ローブが本当に絹を作ってくれるというのなら、問題が一気に片付く。ライアンくんのファインプレーだ。僕らは彼女の注文を了承した。

 僕たちはローブに別れを告げると、すぐに帰りの馬ソリに乗り込んだ。微かな月明かりの下、馬ソリは走り続けた。ホルンメランに着いた頃にはとっくに夜が更けていた。



 翌日から試行錯誤が始まった。まず、ベースとなるのは無論桑だ。これに他の糖度の高い植物の花粉を受粉させていく。最初の方は普通の植物を試していた。主に果物だ。個人的に一番成功に近かったのはメロンだったと思う。

 ともかくいろいろ試作して、その葉をローブの元へと持っていったのだが、全て却下されてしまった。

「こんな程度の甘さじゃ満足できないわ。」

と、がっかりしていた。

 一回目の試作たちを持っていったついでに、村長にも話を通しておいた。村の畑を全て桑畑に変えるなんて突拍子もない申し出だったが、村長は二つ返事で許可をくれた。

 その後もいろいろな植物で試作を作っては、ローブのもとへと持っていったのだが、どれも彼女を満足させることは出来なかった。



 大本命のサトウキビ配合の桑が撃沈してしまった日の帰りのことだった。ぼくたちがホルンメランに帰ってくると、大通りが騒がしかった。気になってので三人で群衆を掻き分けていくと、中心には巨大な檻があった。

 檻の中にいたのは……木? どうして木を?

「こいつ、メイプルトラッパーですよ。楓の木の魔物です。」

教えてくれたのは毎度のことだが、ライアンくんだった。

 よくよく見ると、たしかに魔物だった。木の幹の部分に顔がついているし、巨大な牙が生えていた。体の所々から樹液を垂れ流しており、甘い匂いを放っていた。

「あの樹液におびき寄せられた者を捕食するんですよ。」

 とすると、あの樹液は相当甘いのだろう。僕は檻の主らしきおじさんを探し出して、話しかけた。

「あの、突然不躾ですが。」

「どうしたんだね。」

おじさんは優しそうな人だった。

「檻にいるアイツの花粉を貰えませんか? 」

メイプルトラッパーは、小さくて目立たないが、紅色の花を二、三輪ぽつりぽつりとつけていた。

「別にいいけど、危ないよ。どうなっても責任は取らんからね。」

おじさんは許可をくれた。

 あの花粉があれば、もしかしたら上手く行くかもしれない。僕は兵士くんの肩をポンと叩いた。

「いやいやいや、なんで僕なんですか! 嫌ですよこんなの。」

「何言ってるんだい。こういうのこそ君の役目じゃないかい。」

兵士くんはその後もかなり渋ったが、飯一食で手を打った。意外と安い男だ。

 兵士くんは剣と盾を持って檻に入った。檻はもともと体の大きな魔物用に作られていたので、隙間からは簡単に入ることができた。

 人間が檻の中へと入っていったことで、一層見せ物のようになってしまい、さらにギャラリーが増えた。ライアンくんは心配そうに見守りながらも

「花粉をとるだけでいいんだからね。」

と指示を出した。

 兵士くんがジリジリと距離を詰めていくと、メイプルトラッパーは容赦なく自分の枝を叩きつけてきた。兵士くんは盾で防いだが、体が浮き上がるほどの威力だった。

「これじゃ一食は安すぎるな。」

それは本当申し訳ない。三食くらいは奢ってやるか。

 メイプルトラッパーは、兵士くんが近づくたびに枝を振るうが、それと同時にちょっとずつ花粉を撒き散らしていた。

「その調子だよクロードくん。そのまま耐えるだけでいい。」

ライアンくんは声を張り上げて兵士くんを励ます。

 近づいては枝に叩かれを二十回は繰り返したあたりで、檻の外にまで花粉が降ってきた。それを僕とライアンくんで素早く袋に回収した。

「もういいよ。戻っておいで。」

と声をかけると、兵士くんは素早く外に出てきた。盾はボロボロで、本人もクタクタだった。

「しんどいですよこれ。」

「でも助かったよ、ほら見てこれ。」

集めた花粉は、小麦粉一パックくらいの量になっていた。

「こんなに要らないでしょう!」

この日、兵士くんの機嫌が直ることはなかった。

 翌朝、メイプルトラッパーの花粉を桑に受粉させた。先の騎馬の件からお世話になっている配合マシンは植物にも対応しているというのだから、全く便利なものだ。

 出来上がった桑は、わずかに葉が赤みがかっていた。毎回完成すると、まず三人で試食していたのだが……作っておいてなんだが、魔物の葉を食べるようで少し躊躇してしまった。

 兵士くんとライアンくんは何の躊躇いもなく葉を口にした。

「…………あっま! 甘すぎるでしょこれ。」

「いや、これほどとは。流石に予想を超えてきたね。」

二人のリアクションがオーバーに見えたので、僕も遅れて口にした。

 確かに恐ろしく甘い。今までとは比較にならないくらいだ。これなら及第点間違いないだろう。栽培も難しくないだろうし、村長の許しも出るはずだ。ひとりでにウネウネ動き出すのが気持ち悪いってところが玉に瑕だが。

 時間は昼飯前だったが、僕は興奮しすぎて、これを早くソナリ村に届けたいと思ってしまった。

「届けに行ってくる! 」

と二人に言うと、驚いてはいたが了承してくれた。

「では僕らは留守番してますね。」

「分かった。」

「でも、せめてこれは。」

そう言ってライアンくんにサンドウィッチを手渡されたので、それと完成した極甘の桑だけを持って僕は官庁を出た。

 官庁前に呼んでおいた馬車に飛び乗ると、車夫に「ソナリ村まで! 」と息を弾ませながら指示すると、すぐさま馬車は車夫の合図で走り出した。






 控えておけばよかったと後悔するのは、もう少し後になってのことだった……。
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