過去の空に叫べ。

水木 蕉山

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線香花火

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 飲屋街を一人、足に足枷あしかせをつけたようにゆっくり歩く。俺は今、人の目から見てどう映ってるのだろうか。大半の人は

「疲れてそう」

などというのだろう。

重い足取り、大きなクマ、ヨレヨレのワイシャツ。そう思われる要素が揃っていた。いや、十分すぎるほどに。

夜だというのに蒸し蒸しする暑さと店から出る熱気に俺は包まれていた。

この暑さから抜け出したい———そう感じた時には寂れた一つの店に入っていた。

 ビールで喉を潤しながら店内を見回す。無言でテキパキと仕事をする店主、一日の仕事を終え、酒をかっくらう男たち。みな就いている職業は違えど、どこか寂しさを感じる。誰だって人生に一つや二つ不満を抱いているのだろう。

自分の人生はどうだろうか。———。
 大学を卒業後、中堅企業に就職した。その業界に勤めている人ならわかる程度の企業。普通が一番いい、あまり大きな会社に勤めても同期の中に埋もれるだけ。そう自分に言って勤め始めたが毎日激務に一日が1秒のように感じられた。

趣味の時間などあるわけない。朝起き、飯を食い、支度をして、通勤ラッシュに押しつぶされそうになりながら出勤し、終電で帰宅する。学生時代に想像していたサラリーマンとはかけ離れている、自分はいわゆるブラック企業に就職したのだ。

辛い。毎日が辛い。今の生活はどうか?自分に問うても辛いの一言しか浮かばない。ならいっそ———

 ブーブーブー!!! やかましく携帯のバイブが鳴った。上司からのメールだった。明日出勤しろ。だだそれだけの短いメール。ただ、明日は久々の休みだと思っていた俺をどん底に突き落とすのにはその短いメールだけで十分だった。(続く)
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