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十公演目――グローリア・イズ・ディガディガドゥー・バイネイチャー
三曲目:ウィリアム・セイラー
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「スカーフェイスがアルカトラズから釈放されたってよオ~! 昔のギャングも今じゃすウかり弱アてらア!」
「ご機嫌ようマァム! 朝から珍しいね! 定休日かい? 夕方には帰ってくるんだろう? だって番組表に載ってる彼、マァムのお気に入りじゃないか! ……買ってくれるのかい? グラッツェ!」
……思ったより売れてる。たまたま大物ギャングが釈放されたからっていうのもあるだろうけど。ベルみたいにわざと乱暴な口調で注目を集めるのは他の奴らもよくやる手法だけど、チングリッシュのおかげでより目立ってる気がする。なんなら多分本人も分かってて、いつもより訛りを強調してるような。そんでもってボニーはその真逆。ニュースボーイにしちゃ紳士的すぎる振る舞いで、浮いてる。敢えてなのか素なのか分かんないけど、結果的に売れてるんだからヨシ。にしても一人一人の興味に合わせてオススメのページピックアップしてんのかあ。普通はベルがやったみたく大衆向けに、みんな気になってるような特ダネをアレコレ言葉で捏ねくりまわすのに。全ページ読み込んで相手の関心領域を予想して、って正直割に合わない気もするけど。でも、オレは好きだな。百年ぐらい経ったらそっちのがメジャーになってたりしてね。
「あ、えと……ビリーはあっちにいるけど、今日は歌わないんだ。声変わりなんだって。ねえお兄さん、声変わりってどれぐらいかかった?」
アーティーも普通に売るの四年ぶりとかだろうに、頑張ってくれてる。大声でもないし気の利いた売り文句とかもないけど、落ち着いてて面倒見の良さそうな人が自然と寄ってくるって感じ。そんで思わず世話焼きたくなるっていうのかな、一分ぐらい話して、買ってもらってを繰り返してる。おかげさまで声変わりの期間については十人分ぐらい聞いた。半年とか一年とか、結構人によるんだな。で、こんだけみんな巻き込んだオレはといえば。
「おはよ! あ~そうそう、オレは平気っつったんだけど皆が聞かなくてさー。歌は週一ぐらいにしよっかなー。もっと? んじゃ週三にしちゃおっかな! あんがとね! ……次のおじさんお待たせ! 握手? あーごめん、チャーリーにダメって言われてんだ! 過保護だよなあ。あ、ちょっと! …………あ~、悪いね後ろのお兄さん。たまにああいう人いてさ。声変わりすんなとか言うの。無茶言うよなあ。オレお兄さんみてーなイカした声になりてーのに。……えっこんなにくれんの? ありがと~~!! 次歌うときお兄さんのリクエスト聞くからまた来てね!」
って感じで、列がずっと続いてる。ビビった。歌わなくてもこんなに来てくれるんだな。いや、今まで歌ってたからなんだろうけど。でもおかげでいつもはみんなのこと、お客さんって一括りでしか見れてなかったんだなってよく分かった。同じ〈オレの歌を気に入ってくれた人〉でも、一対一になってみればマジで色んな人がいる。そんでもって多分、好きか嫌いかって極端な言葉じゃ言い表せない気持ちを、オレに向けてる人もレアじゃない。チャーリーが警戒すんのもちょっと分かったかも。きっとガキの頃オレを攫ってた人達も、似た感情だったんだろうから。……それでも。
「どうだウィリアム。変な奴は来てないだろうな。居たらつまみ出すからすぐ言えよ」
この、なんだってしてくれちゃうチャーリーのために、オレが一番役立てられる武器。楽しいけどそれ以上に、生きていくための道具。使うものだった音楽が、〝ビリー〟が、今日からはちょっと大事なものになった。こんなに多くの人が、歌を聴けるわけでもないのに、褒めにくるためだけに新聞を買ってくれる。それはやっぱ素直に、嬉しい。歌ったわけでも走ったわけでもないのに、心臓がドクドクしてる。なのに不思議と力が湧いて、身軽になった気分。飛べそうなぐらい!
「チャーリー! オレ今日チャーリー達と一緒に売ってみて良かった、すっげえ良かった! オレ、ここにいるみんながオレのこと好きなのと同じぐらい、みんなのこと好きかも!」
列から歓声が爆発する。チャーリーは一瞬金色の目を丸くしてから、おかしそうに笑った。チャーリーがこんな風に笑ってんのはマジでレアだから、もっと嬉しくなってオレも笑っちゃう。そんで思わず抱き着いたら、チャーリーはちょっとだけデカいオレをちゃんと抱き留めて撫でてくれた。
「はは、ウィリアム……俺はずっと前から知ってたさ。お前は、音楽が好きだよ」
「ご機嫌ようマァム! 朝から珍しいね! 定休日かい? 夕方には帰ってくるんだろう? だって番組表に載ってる彼、マァムのお気に入りじゃないか! ……買ってくれるのかい? グラッツェ!」
……思ったより売れてる。たまたま大物ギャングが釈放されたからっていうのもあるだろうけど。ベルみたいにわざと乱暴な口調で注目を集めるのは他の奴らもよくやる手法だけど、チングリッシュのおかげでより目立ってる気がする。なんなら多分本人も分かってて、いつもより訛りを強調してるような。そんでもってボニーはその真逆。ニュースボーイにしちゃ紳士的すぎる振る舞いで、浮いてる。敢えてなのか素なのか分かんないけど、結果的に売れてるんだからヨシ。にしても一人一人の興味に合わせてオススメのページピックアップしてんのかあ。普通はベルがやったみたく大衆向けに、みんな気になってるような特ダネをアレコレ言葉で捏ねくりまわすのに。全ページ読み込んで相手の関心領域を予想して、って正直割に合わない気もするけど。でも、オレは好きだな。百年ぐらい経ったらそっちのがメジャーになってたりしてね。
「あ、えと……ビリーはあっちにいるけど、今日は歌わないんだ。声変わりなんだって。ねえお兄さん、声変わりってどれぐらいかかった?」
アーティーも普通に売るの四年ぶりとかだろうに、頑張ってくれてる。大声でもないし気の利いた売り文句とかもないけど、落ち着いてて面倒見の良さそうな人が自然と寄ってくるって感じ。そんで思わず世話焼きたくなるっていうのかな、一分ぐらい話して、買ってもらってを繰り返してる。おかげさまで声変わりの期間については十人分ぐらい聞いた。半年とか一年とか、結構人によるんだな。で、こんだけみんな巻き込んだオレはといえば。
「おはよ! あ~そうそう、オレは平気っつったんだけど皆が聞かなくてさー。歌は週一ぐらいにしよっかなー。もっと? んじゃ週三にしちゃおっかな! あんがとね! ……次のおじさんお待たせ! 握手? あーごめん、チャーリーにダメって言われてんだ! 過保護だよなあ。あ、ちょっと! …………あ~、悪いね後ろのお兄さん。たまにああいう人いてさ。声変わりすんなとか言うの。無茶言うよなあ。オレお兄さんみてーなイカした声になりてーのに。……えっこんなにくれんの? ありがと~~!! 次歌うときお兄さんのリクエスト聞くからまた来てね!」
って感じで、列がずっと続いてる。ビビった。歌わなくてもこんなに来てくれるんだな。いや、今まで歌ってたからなんだろうけど。でもおかげでいつもはみんなのこと、お客さんって一括りでしか見れてなかったんだなってよく分かった。同じ〈オレの歌を気に入ってくれた人〉でも、一対一になってみればマジで色んな人がいる。そんでもって多分、好きか嫌いかって極端な言葉じゃ言い表せない気持ちを、オレに向けてる人もレアじゃない。チャーリーが警戒すんのもちょっと分かったかも。きっとガキの頃オレを攫ってた人達も、似た感情だったんだろうから。……それでも。
「どうだウィリアム。変な奴は来てないだろうな。居たらつまみ出すからすぐ言えよ」
この、なんだってしてくれちゃうチャーリーのために、オレが一番役立てられる武器。楽しいけどそれ以上に、生きていくための道具。使うものだった音楽が、〝ビリー〟が、今日からはちょっと大事なものになった。こんなに多くの人が、歌を聴けるわけでもないのに、褒めにくるためだけに新聞を買ってくれる。それはやっぱ素直に、嬉しい。歌ったわけでも走ったわけでもないのに、心臓がドクドクしてる。なのに不思議と力が湧いて、身軽になった気分。飛べそうなぐらい!
「チャーリー! オレ今日チャーリー達と一緒に売ってみて良かった、すっげえ良かった! オレ、ここにいるみんながオレのこと好きなのと同じぐらい、みんなのこと好きかも!」
列から歓声が爆発する。チャーリーは一瞬金色の目を丸くしてから、おかしそうに笑った。チャーリーがこんな風に笑ってんのはマジでレアだから、もっと嬉しくなってオレも笑っちゃう。そんで思わず抱き着いたら、チャーリーはちょっとだけデカいオレをちゃんと抱き留めて撫でてくれた。
「はは、ウィリアム……俺はずっと前から知ってたさ。お前は、音楽が好きだよ」
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