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十一公演目――ウェンアイムゴーン
四曲目:チャーリー・セイラー
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「……チャーリー、今日はどうして、ぼくを誘ってくれたの?」
「えっ」
アーティーの澄んだ青い目が俺を見据えてるのが横目でも分かる。ほらみたことか、こうなると思ったんだ。そもそもアーティーはウィリアムのダチであって俺のダチじゃない。ウィリアムに懐いてるからいざというとき壁役ぐらいにはなるだろうと雇ってるだけだ。自分でいうのもなんだが俺からわざわざ連れ出す用なんざ、クビ宣告か何かしらの囮ぐらいしかないだろう。荷物持ちにはひ弱すぎる。話し相手なんかもっと必要ない。とはいえ正直に『お前を心配したウィリアムに言われて仕方なく』だなんて言ったら本末転倒だ。だがこいつはそこまで賢くない。歩くのが遅いのと同じぐらい思考ものんびりだ。教育を受けていたとしても良くて人並みだっただろう。だから往復二時間も経ちゃあいずれボロが出る、と踏んでいたんだが。どうやら俺の不審さのほうが勝ったらしい。微塵も嬉しくないな。
「……一人でパレード観たって仕方ないだろ」
「そう、かな。意外。チャーリーってビリー以外とは最低限しか関わらないんだと思ってた」
全くもってその通りだ。必要性を感じない。
「今年は状況が違う。ウィリアムを人混みに近づけたくない。お前とはその、それなりに付き合いも長いだろ」
「え! ……っと、そう思ってくれてるんだ。嬉しい」
なんだその『え!』は。引いてんのか? ……チラッと顔色を窺ってみたが、どうもそういうわけでもないらしい。ほにゃっとした面しやがって。
「……別にお前が恐れているような理由じゃない。当分クビにする予定はない」
「そっかあ、よかった。ぼく、ちょっとは役に立ててるかな」
「あー……」
なんだ? 確かにウィリアムの言うとおり、若干湿っぽい雰囲気を纏ってる、気がしなくもない。パレードのお祭り騒ぎに似合わないしんみり具合だ。ウィリアムの予想どおりきっかけが誕生日の外出時なんだとしたら……何か落ち込むような出来事……ダメだ、何も思いつかない。歩き方が不格好なのを揶揄されたところでしょげるような奴じゃあない。服装は借りを作ってでもそれなりに仕上げた。あとは帰り道に声をかけられたっつーボリスおじさんについて……は、アーティーが俺たち以上に落ち込む意味が分からない。隠しているだけで他にも何か言われたのか? いや、うっっっすらとしか残ってない記憶の中でも、普通に良いおじさんだったような気がするが。……じゃない。アーティーへの返答だ。
「……まあ、なんだ。今はベルやボニーもいるとはいえ、一番熱心にウィリアムを護ろうとしてくれてんのはお前だろ。ウィリアムにとっても一番親しい友人だ。俺も知らないうちに精神面で助けられてることもあるかもしれない。俺はアイツの親友にはなれないからな。だからその、それなりに、助かってはいる。……じゃなかったら報酬なんざ渡してない」
合ってるか? これで合ってるのか?? バルーンもフロートも頭を素通りしてく。おい早くなんか言えよむず痒いだろうが。
「そ、っか。うん、そっかあ。それなら、よかった」
アーティーは弱々しくへらっと笑う。本当にどうしたんだこいつ。ウィリアムでもお手上げ、ウィリアムでも元気づけられない。やっぱり俺じゃ無理だろう。そもそもこいつがこんなんになるぐらいなら、もっと早くあいつが…………。
『ハッピーサンクスギビングデー! ディモンズプレゼンツ、グローリア・ビッグバンドをどうぞよろしく!』
「…………ふぇ、えっ、うそ、」
「……? どうした。知ってるバンドか?」
やけにシャッター音がうるさい。アーティーの挙動がおかしい。目が慌ただしく動いて、身体のバランスを崩しかけてる。
「お、おい。大丈夫か」
「だ、…………め、かも。ごめんなさい、ぼく、先に帰るね」
「馬鹿言え。そんなんで寮まで歩けるわけないだろ。ほら、地下鉄乗って帰るぞ」
「え、きゃっ、わ、そんな、重くない?」
「五フィートもないガキなんだから大人しくおぶられてろ」
「も、もう同い年だよ」
「学生だったら学年は下だ」
人混みを抜けて駅を目指す。グローリア・ビッグバンドとやらの声も聞こえなくなった。…………待てよ? あの日、誕生日にアーティーが持ってたチケット。あれもそんな名前のバンドじゃなかったか?
「……あのバンド見に行って嫌な目にでも遭わされたのか?」
「ち、違うよ! 関係ないから、違う……」
おかしい。こいつの体調がじゃない。レスポンスが早かった。それにおぶったとき咄嗟に出た悲鳴。そしてこの状況でまだ、〈出てこない〉。そういうことなら、様子のおかしさは合点がいく。それから俺には理由を解き明かせないだろうってことも。何故ならあいつは、……賢いから。下手したら、ウィリアムと、同等レベルに。
「なあ。お前、アーティーじゃないだろ」
「……っ!」
息を吞んだ音が耳に届く。鼓動が背に伝わる。
「そりゃあ、勝手におぶって失礼いたしましたっと。……ミス・テイタム?」
「えっ」
アーティーの澄んだ青い目が俺を見据えてるのが横目でも分かる。ほらみたことか、こうなると思ったんだ。そもそもアーティーはウィリアムのダチであって俺のダチじゃない。ウィリアムに懐いてるからいざというとき壁役ぐらいにはなるだろうと雇ってるだけだ。自分でいうのもなんだが俺からわざわざ連れ出す用なんざ、クビ宣告か何かしらの囮ぐらいしかないだろう。荷物持ちにはひ弱すぎる。話し相手なんかもっと必要ない。とはいえ正直に『お前を心配したウィリアムに言われて仕方なく』だなんて言ったら本末転倒だ。だがこいつはそこまで賢くない。歩くのが遅いのと同じぐらい思考ものんびりだ。教育を受けていたとしても良くて人並みだっただろう。だから往復二時間も経ちゃあいずれボロが出る、と踏んでいたんだが。どうやら俺の不審さのほうが勝ったらしい。微塵も嬉しくないな。
「……一人でパレード観たって仕方ないだろ」
「そう、かな。意外。チャーリーってビリー以外とは最低限しか関わらないんだと思ってた」
全くもってその通りだ。必要性を感じない。
「今年は状況が違う。ウィリアムを人混みに近づけたくない。お前とはその、それなりに付き合いも長いだろ」
「え! ……っと、そう思ってくれてるんだ。嬉しい」
なんだその『え!』は。引いてんのか? ……チラッと顔色を窺ってみたが、どうもそういうわけでもないらしい。ほにゃっとした面しやがって。
「……別にお前が恐れているような理由じゃない。当分クビにする予定はない」
「そっかあ、よかった。ぼく、ちょっとは役に立ててるかな」
「あー……」
なんだ? 確かにウィリアムの言うとおり、若干湿っぽい雰囲気を纏ってる、気がしなくもない。パレードのお祭り騒ぎに似合わないしんみり具合だ。ウィリアムの予想どおりきっかけが誕生日の外出時なんだとしたら……何か落ち込むような出来事……ダメだ、何も思いつかない。歩き方が不格好なのを揶揄されたところでしょげるような奴じゃあない。服装は借りを作ってでもそれなりに仕上げた。あとは帰り道に声をかけられたっつーボリスおじさんについて……は、アーティーが俺たち以上に落ち込む意味が分からない。隠しているだけで他にも何か言われたのか? いや、うっっっすらとしか残ってない記憶の中でも、普通に良いおじさんだったような気がするが。……じゃない。アーティーへの返答だ。
「……まあ、なんだ。今はベルやボニーもいるとはいえ、一番熱心にウィリアムを護ろうとしてくれてんのはお前だろ。ウィリアムにとっても一番親しい友人だ。俺も知らないうちに精神面で助けられてることもあるかもしれない。俺はアイツの親友にはなれないからな。だからその、それなりに、助かってはいる。……じゃなかったら報酬なんざ渡してない」
合ってるか? これで合ってるのか?? バルーンもフロートも頭を素通りしてく。おい早くなんか言えよむず痒いだろうが。
「そ、っか。うん、そっかあ。それなら、よかった」
アーティーは弱々しくへらっと笑う。本当にどうしたんだこいつ。ウィリアムでもお手上げ、ウィリアムでも元気づけられない。やっぱり俺じゃ無理だろう。そもそもこいつがこんなんになるぐらいなら、もっと早くあいつが…………。
『ハッピーサンクスギビングデー! ディモンズプレゼンツ、グローリア・ビッグバンドをどうぞよろしく!』
「…………ふぇ、えっ、うそ、」
「……? どうした。知ってるバンドか?」
やけにシャッター音がうるさい。アーティーの挙動がおかしい。目が慌ただしく動いて、身体のバランスを崩しかけてる。
「お、おい。大丈夫か」
「だ、…………め、かも。ごめんなさい、ぼく、先に帰るね」
「馬鹿言え。そんなんで寮まで歩けるわけないだろ。ほら、地下鉄乗って帰るぞ」
「え、きゃっ、わ、そんな、重くない?」
「五フィートもないガキなんだから大人しくおぶられてろ」
「も、もう同い年だよ」
「学生だったら学年は下だ」
人混みを抜けて駅を目指す。グローリア・ビッグバンドとやらの声も聞こえなくなった。…………待てよ? あの日、誕生日にアーティーが持ってたチケット。あれもそんな名前のバンドじゃなかったか?
「……あのバンド見に行って嫌な目にでも遭わされたのか?」
「ち、違うよ! 関係ないから、違う……」
おかしい。こいつの体調がじゃない。レスポンスが早かった。それにおぶったとき咄嗟に出た悲鳴。そしてこの状況でまだ、〈出てこない〉。そういうことなら、様子のおかしさは合点がいく。それから俺には理由を解き明かせないだろうってことも。何故ならあいつは、……賢いから。下手したら、ウィリアムと、同等レベルに。
「なあ。お前、アーティーじゃないだろ」
「……っ!」
息を吞んだ音が耳に届く。鼓動が背に伝わる。
「そりゃあ、勝手におぶって失礼いたしましたっと。……ミス・テイタム?」
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