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黒帯盗難事件
① 宮川小たんてい団結成?
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「なあ、俺の助手になってくれよ!」
アニメとかでいう、一緒に戦ってきた人を仲間に誘う勇者のように、その男子は私、佐那原朱里(さなはら あかり)をそう誘ってきた。
それは六年生に進級した四月中旬。
家庭訪問の時期が終わり通常授業になった頃。
帰りの会が終わった直後の放課後。
家に帰ろうと、教室の自分の机の中にある教科書やノートをランドセルの中に入れていた時の事だった。
私に声をかけたのは、同じ六年一組の吉本正義(よしもと まさよし)。
身長は平均より少し上。
髪は短めで活発な感じ。
強いて特徴をあげるならこれくらいな、私から見てあまり強い印象に残らない外見。
だが、今その顔は、何かを企んでいるような、楽しみでワクワクしているかのような、特徴的な笑顔をしていた。
とはいえ、別に私は正義と何かしら問題を解決したり課題をクリアしたりといった大きな接点は無い。
ただのクラスメイトだ。
そのため、いきなり『助手』だなんて単語を出されてもイマイチ何の事だかピンとこない。
「助手? 何の話?」
わずかに眉間にしわを寄せてそう聞くと、これだ! と正義は興奮気味に一冊の本を私の目の前に差し出した。
表紙には昔の海外の探偵が被っていそうな帽子を大きな虫眼鏡で拡大した感じのイラストが大きく描かれ、本の上部にあるタイトル名には『小学生探偵団』と書かれていた。
確か、小学生向けの推理小説で、推理が天才的な小学生と、その仲間達が活躍する話。
何日か前に子供向け小説で今一番流行っているとテレビで言っていた気がする。
「ああ、探偵ものね。やってみたいんだ。で、なんで私なの?」
自分の鼻辺りを指さしながら、私はキョトンとした表情を浮かべてみる。
一応、自分は誘うメリットなんてない普通の小学生ですよ、という雰囲気を出しておいた。
……いやそんな訳がない。
私には、正義が良い笑顔で誘ってくるような心当たりがあった。
「朱里、ケンカ強いじゃん!」
「け……」
一文字だけ声が出た。
私の父親は空手と柔道を中心とした武術道場を経営しており、私自身、後継者候補の一人として日々鍛えられている。
小学生レベルはおろか、男子中学生相手でも引けを取らない自信がある。
なるほど、なんとなくだが誘った理由が分かってきた。
だけど、今の誘い方は良くない。
武術とケンカを一緒にされるのは武術家の端くれとしてカチンときたからだ。
「嫌」
本を一瞬掴んで正義に向かって押し返す。
正義は私が断るのが予想外だったのか、何で、とでも言いたそうな表情を浮かべていた。
分かっていないようなら、言ってやらねばならない。
「武術は自己成長の一環なの。その辺の不良のケンカと一緒にしないで」
そう言い、机の中の物を全て入れたランドセルを背負い帰ろうとする。
すると、正義は慌てた様子で私のランドセルを掴んだ。
一応男の子だからか、結構強めに引きはがそうとしたが、正義は私のランドセルを手放そうとはしなかった。
まずいな、ランドセルが変形しそうだ。
「ご、ごめん! ちょっと、そういうの分かんなかったんだ! 俺はただ、その武術の強さを活かして助手をやってもらおうと思っただけなんだ」
「……話は聞くからランドセルを放して」
私がそうと言うと、正義はパッと手を離した。
ここで走り出して正義から逃げ切るのも出来ないこともなかったが、どうせ明日も教室で会うんだしあんまり意味ないと私は考える。
少しくらいは話を聞いてやるか。
あと、武術とケンカの違いが分かってない所は……。
まあ、許してやるか。
「で、探偵の助手で武術を活かすって、どういうこと?」
話に乗ってきた私に、正義は再び笑顔を取り戻し、すでに帰った私の隣の人の席に座った。
それを見て、私も自分の席に座り直す。
教室では担任の先生や生徒達の半分以上がすでに教室を出ている。
残っている残りの生徒も、今日はどこで遊ぶか、誰の家で遊ぶかといった、教室を出てからの相談をしているグループがいくつかあるくらい。
まだ教室に残ろうとしているのは、私と正義だけのようだ。
「ほら、探偵って危険な所に行ってでも真実を見極めようとするだろ? でも、そんな所に行ったら大体悪役が出てきて戦いになる! そこで……」
正義と目が合う。
その目は、なんだか幼い子供のようにキラキラしているように見えた。
今思い出したのだが、立ち読みでパラパラとだが、私もその本は読んだことがある。
確か、話の途中で悪役が登場し戦いになるシーンがあった気がする。
そういう発想になるのも分からなくはない。
「まさか、私にボディガード的な事をしてほしいの?」
「正解!」
目を輝かせる正義を見ると、なんだか頭が痛くなるような感覚がした。
正義は低学年の頃から何度か同じクラスになっているから知っているのだが、正直頭がいいとは思えない。
何度か担任の先生に『もうちょっと頑張ろう』とか言われながらテストを返されているのを思い出す。
私も得意な体育と国語以外は苦手だから、人のこと言えないけど。
「私と組んだところでどうするの? あんたバカじゃない。私もそういうの自信無いよ」
「その辺は大丈夫!」
何かあてでもあるのか、正義は自分の胸をドンと叩いた。
私達の住む宮川町は、めったに事件など起こらない治安が良い町だ。
具体的に言うと、日が暮れ始めた頃にランドセルを背負った小学生が一人で歩いていても誰も気に留めないくらいの治安の良さ。
というより、宮川町はそれが一番の取り柄と言えるような、平凡な町だ。
他に良い点を挙げるとすれば、町を東西に区切るように国道が通っていて、なおかつ南北に区切るように電車の路線がある事で周囲のここよりちょっと都会な町への行き来がしやすいといったところ。
あと、その割には町全体が静かで過ごしやすいといった点だ。
学校を出た私と正義は、近くの大通りに来ていた。
いつもならそのまま家に帰っていつもの武術の練習に明け暮れているのだが、今日は真っすぐには帰れない。
私はいったい何をしているのだろう、と考えていると、正義は十字路近くにある喫茶店の前で止まった。
店の名前は『白ねこ』。
その外観は、白をメインとした清潔感ある壁に、上の部分がカーブを描いた窓が並ぶデザイン。
足元には綺麗な花の咲いた植木鉢がいくつか並んでいて、入ってくるお客さんを歓迎しているような感じがした。
扉には、喫茶店の名前にふさわしい、白い猫のシルエットが描かれている。
店内までは見えないが、ゆっくり話をしようというのなら教室に残るより良いのかもしれない。
と、ここで私は自分のポケットに手を突っ込む。
いちいち確認する必要もないのだが、お金は持っていない。
というより、お小遣いは基本貯金箱に入れていて、そもそも財布自体を持っていない。
アニメとかでいう、一緒に戦ってきた人を仲間に誘う勇者のように、その男子は私、佐那原朱里(さなはら あかり)をそう誘ってきた。
それは六年生に進級した四月中旬。
家庭訪問の時期が終わり通常授業になった頃。
帰りの会が終わった直後の放課後。
家に帰ろうと、教室の自分の机の中にある教科書やノートをランドセルの中に入れていた時の事だった。
私に声をかけたのは、同じ六年一組の吉本正義(よしもと まさよし)。
身長は平均より少し上。
髪は短めで活発な感じ。
強いて特徴をあげるならこれくらいな、私から見てあまり強い印象に残らない外見。
だが、今その顔は、何かを企んでいるような、楽しみでワクワクしているかのような、特徴的な笑顔をしていた。
とはいえ、別に私は正義と何かしら問題を解決したり課題をクリアしたりといった大きな接点は無い。
ただのクラスメイトだ。
そのため、いきなり『助手』だなんて単語を出されてもイマイチ何の事だかピンとこない。
「助手? 何の話?」
わずかに眉間にしわを寄せてそう聞くと、これだ! と正義は興奮気味に一冊の本を私の目の前に差し出した。
表紙には昔の海外の探偵が被っていそうな帽子を大きな虫眼鏡で拡大した感じのイラストが大きく描かれ、本の上部にあるタイトル名には『小学生探偵団』と書かれていた。
確か、小学生向けの推理小説で、推理が天才的な小学生と、その仲間達が活躍する話。
何日か前に子供向け小説で今一番流行っているとテレビで言っていた気がする。
「ああ、探偵ものね。やってみたいんだ。で、なんで私なの?」
自分の鼻辺りを指さしながら、私はキョトンとした表情を浮かべてみる。
一応、自分は誘うメリットなんてない普通の小学生ですよ、という雰囲気を出しておいた。
……いやそんな訳がない。
私には、正義が良い笑顔で誘ってくるような心当たりがあった。
「朱里、ケンカ強いじゃん!」
「け……」
一文字だけ声が出た。
私の父親は空手と柔道を中心とした武術道場を経営しており、私自身、後継者候補の一人として日々鍛えられている。
小学生レベルはおろか、男子中学生相手でも引けを取らない自信がある。
なるほど、なんとなくだが誘った理由が分かってきた。
だけど、今の誘い方は良くない。
武術とケンカを一緒にされるのは武術家の端くれとしてカチンときたからだ。
「嫌」
本を一瞬掴んで正義に向かって押し返す。
正義は私が断るのが予想外だったのか、何で、とでも言いたそうな表情を浮かべていた。
分かっていないようなら、言ってやらねばならない。
「武術は自己成長の一環なの。その辺の不良のケンカと一緒にしないで」
そう言い、机の中の物を全て入れたランドセルを背負い帰ろうとする。
すると、正義は慌てた様子で私のランドセルを掴んだ。
一応男の子だからか、結構強めに引きはがそうとしたが、正義は私のランドセルを手放そうとはしなかった。
まずいな、ランドセルが変形しそうだ。
「ご、ごめん! ちょっと、そういうの分かんなかったんだ! 俺はただ、その武術の強さを活かして助手をやってもらおうと思っただけなんだ」
「……話は聞くからランドセルを放して」
私がそうと言うと、正義はパッと手を離した。
ここで走り出して正義から逃げ切るのも出来ないこともなかったが、どうせ明日も教室で会うんだしあんまり意味ないと私は考える。
少しくらいは話を聞いてやるか。
あと、武術とケンカの違いが分かってない所は……。
まあ、許してやるか。
「で、探偵の助手で武術を活かすって、どういうこと?」
話に乗ってきた私に、正義は再び笑顔を取り戻し、すでに帰った私の隣の人の席に座った。
それを見て、私も自分の席に座り直す。
教室では担任の先生や生徒達の半分以上がすでに教室を出ている。
残っている残りの生徒も、今日はどこで遊ぶか、誰の家で遊ぶかといった、教室を出てからの相談をしているグループがいくつかあるくらい。
まだ教室に残ろうとしているのは、私と正義だけのようだ。
「ほら、探偵って危険な所に行ってでも真実を見極めようとするだろ? でも、そんな所に行ったら大体悪役が出てきて戦いになる! そこで……」
正義と目が合う。
その目は、なんだか幼い子供のようにキラキラしているように見えた。
今思い出したのだが、立ち読みでパラパラとだが、私もその本は読んだことがある。
確か、話の途中で悪役が登場し戦いになるシーンがあった気がする。
そういう発想になるのも分からなくはない。
「まさか、私にボディガード的な事をしてほしいの?」
「正解!」
目を輝かせる正義を見ると、なんだか頭が痛くなるような感覚がした。
正義は低学年の頃から何度か同じクラスになっているから知っているのだが、正直頭がいいとは思えない。
何度か担任の先生に『もうちょっと頑張ろう』とか言われながらテストを返されているのを思い出す。
私も得意な体育と国語以外は苦手だから、人のこと言えないけど。
「私と組んだところでどうするの? あんたバカじゃない。私もそういうの自信無いよ」
「その辺は大丈夫!」
何かあてでもあるのか、正義は自分の胸をドンと叩いた。
私達の住む宮川町は、めったに事件など起こらない治安が良い町だ。
具体的に言うと、日が暮れ始めた頃にランドセルを背負った小学生が一人で歩いていても誰も気に留めないくらいの治安の良さ。
というより、宮川町はそれが一番の取り柄と言えるような、平凡な町だ。
他に良い点を挙げるとすれば、町を東西に区切るように国道が通っていて、なおかつ南北に区切るように電車の路線がある事で周囲のここよりちょっと都会な町への行き来がしやすいといったところ。
あと、その割には町全体が静かで過ごしやすいといった点だ。
学校を出た私と正義は、近くの大通りに来ていた。
いつもならそのまま家に帰っていつもの武術の練習に明け暮れているのだが、今日は真っすぐには帰れない。
私はいったい何をしているのだろう、と考えていると、正義は十字路近くにある喫茶店の前で止まった。
店の名前は『白ねこ』。
その外観は、白をメインとした清潔感ある壁に、上の部分がカーブを描いた窓が並ぶデザイン。
足元には綺麗な花の咲いた植木鉢がいくつか並んでいて、入ってくるお客さんを歓迎しているような感じがした。
扉には、喫茶店の名前にふさわしい、白い猫のシルエットが描かれている。
店内までは見えないが、ゆっくり話をしようというのなら教室に残るより良いのかもしれない。
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