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塾テスト不正疑惑事件
⑦ 日野美月と、あの手紙
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人に対して、強い怒り、恨み、憎しみを持ったことがある。
この前、お父さんの黒帯が盗まれ、その犯人として疑われた事件。
その犯人と犯人をかばった人に、私自身が泣き出しそうになるほどの怒りである。
そんな時、私の心を落ち着かせてくれたのは正義だった。
かばった人にも、その人なりの考えがあっての行動で悪意が無かったと伝えてくれたのだ。
私は、これからあの時の正義に近い立場になることになる。
恨むのは、問題用紙を鞄に入れられた陸、机に入れられた葵、その二人を応援する友人の賢。
恨まれるのは、美月だ。
どこまで三人が許してくれるのかは分からない。
しかし、やるしかない。
美月の、いや、四人のこの先のために。
美月が佐那原家に一泊した翌日。
朝早くから、私とお父さん、兄三人は美月の家に出向いていた。
体格の良いお父さんと兄三人は絵面だけ見るとちょっとした襲撃にも見えるが、お父さんが言うには『話をつけに行くだけ』とのこと。
具体的には、暴力を振るわれた子供、今回で言うと美月を連れて家に帰り、その家族とどのような経緯で暴力を振るってしまったのかを聞き、その内容によって『話のつけ方』が変わるのだという。
今回の場合だと『塾で六年生最後の定期テストで一位を取れば最難関中学へ受験する際の推薦状が秘密裏に貰える』という噂を信じていて、いつも有時賢という生徒に負けて二位しか取れなかったため、という理由だった。
美月の父親は『そんな事で暴力を振るうな!』と一喝されるという結果になり、まるで子供のようにガタガタと震えながら美月に謝罪することとなった。
そしてお父さんは、自分は顔が広く今後も家庭内暴力を振るうようであれば知人の弁護士に事情を説明し、あらゆる措置を取って様々なデメリットを被らせる事を丁寧に説明。
さらに、美月と朱里は友人で、家で起こる様々な問題は佐那原家の父、佐那原重里とその知人の弁護士達に全て筒抜けになる、とまで釘を刺しておいた。
これにより、佐那原家による美月宅への訪問は終わった。
お父さんと兄三人はこれで家に帰るのだが、私は「せっかくだから美月と遊んでから帰る」と伝え、美月と二人になった。
遊びに行く、とは言ったが行き先は喫茶店『白ねこ』。
私が本当に頑張らないといけないのは、ここからだった。
「どういう事なのか、説明してもらおうか?」
一言目を発したのは賢だった。
今、喫茶店『白ねこ』には、私と美月の他に、賢、葵、陸の三人が店の一番奥の席にいる。
本来は四人掛けのところ、他の二人用のテーブルと椅子を持ってきて、六人まで座れるようにしている。
一応、店内には喫茶店『白ねこ』の店主の息子であり、宮川小たんてい団の団長でもある正義もいるのだが、今日は店の手伝いでエプロンをつけて各席のお客様に注文を取りに行ったり飲食物を運んだりしている。
心配そうにこちらを何度か見ている。
だが、私が事前に『こっちで話を済ませるから、心配しないで』と言っていたため、各々の好きなジュースを運んできて以降、こちらには近寄ることもなかった。
「賢、美月には事情があったの」
美月をかばう様に、私は賢にそう返した。
「その事情とやらを聞いてやろうって言っているんだ。僕と陸と葵、三人とも納得のできるような事情とやらを聞かせてもらおうかな」
静かな声でだが、明らかに怒っている賢。
それを困惑した様子で、陸と葵は見ていた。
多分、自分達より怒っている賢にどう声をかければいいか分からないのだろう。
そんな二人にも、賢にもなるべく理解が得られるよう、私は美月に「あの手紙を出して」と促した。
うん、と小さな声で返事をし、美月は一枚の紙を差し出した。
A5サイズと思われる紙には『この解答付き問題用紙の一枚を鈴井陸の鞄に入れろ。入れなければ、例え一位を取っても推薦状は出さない。もう一枚は、一般塾送りにしたい人物の鞄に入れて構わない』と、パソコンで入力して紙に印刷した文字で書かれていた。
「これは何……?」
黙ってみている賢を横目に、陸はそう質問した。
「陸と葵が不正疑惑で一般塾送りになった日、教室の美月がいつも使っている席にこの紙が解答付き問題用紙二枚と一緒に置いてあったの。美月っていつも一番乗りだから、一人でそれを見つけて……」
「二人の鞄と席に、入れたって事か?」
賢のその言葉に、一瞬店内が凍り付くような空気になった。
「あ、えーっと、俺の方は脅されてたのかな? 『一位を取っても推薦状は出さない』って」
場の空気に耐えられなくなったのか、陸がそう切り出す。
「噂になってるやつだよね。六年生最後の定期テストで一位が取れれば、秘密裏に塾から志望している中学校宛てに推薦状が送られて、合格しやすくなるってやつ」
と、葵。
「あんなの嘘に決まってるだろ。まず、たかが塾にそんな権限は無い。それに、上級塾で一位を取れるような生徒なら、この辺りの最難関中学でも十分合格できる。推薦状なんて元から不要。わざわざそんなもの送る必要もない」
そう断言する賢。
「でも、それを信じる人って少なからずいるよね。ほら、日野さんのお父さん『一位じゃないと意味ない』って言ってた。朱里が止めに入ったから良かったけど、日野さんの父親は暴力を振るうぐらい信じていて、日野さん自身も信じてたっぽい感じだったし」
陸がそう言って美月の方を見ると、美月は「うん」と首を縦に振った。
「陸の方は『推薦状を手に入れたい父親の暴力から逃れるため』って所か。まあ、理由にはなっているか。葵の方は?」
わずかにだが、落ち着いた感じの声でそう聞く賢。
「葵の方は、事故だったの」
解答付き問題用紙が陸の鞄に入っていたことに続き、今度は葵の座っていた机からも解答付き問題用紙が出てきたことについて説明する。
「美月に聞いたんだけど、上級塾では谷口塾長が教室に入ってきて生徒達に話をしてたんでしょ? それで教室にいた全員が谷口塾長に視線を向け、そのタイミングで美月は陸の鞄に解答付き問題用紙を入れた。その後、もう一枚の解答付き問題用紙をどうするのか美月は悩んでいた。だって、自分で持ってたら自分が不正していると疑われる。自分の手元以外のどこかに置かなきゃいけない。一般塾送りにしたい人もいないし、それなら、誰も座らない自分の隣の机の中に入れてしまえばいいと考えた。だけど、そこで葵が美月の隣の席に座ったの『友達になろう』って」
これで、一旦説明は終わった。
しかし、説明に納得がいくかは別問題だった。
この前、お父さんの黒帯が盗まれ、その犯人として疑われた事件。
その犯人と犯人をかばった人に、私自身が泣き出しそうになるほどの怒りである。
そんな時、私の心を落ち着かせてくれたのは正義だった。
かばった人にも、その人なりの考えがあっての行動で悪意が無かったと伝えてくれたのだ。
私は、これからあの時の正義に近い立場になることになる。
恨むのは、問題用紙を鞄に入れられた陸、机に入れられた葵、その二人を応援する友人の賢。
恨まれるのは、美月だ。
どこまで三人が許してくれるのかは分からない。
しかし、やるしかない。
美月の、いや、四人のこの先のために。
美月が佐那原家に一泊した翌日。
朝早くから、私とお父さん、兄三人は美月の家に出向いていた。
体格の良いお父さんと兄三人は絵面だけ見るとちょっとした襲撃にも見えるが、お父さんが言うには『話をつけに行くだけ』とのこと。
具体的には、暴力を振るわれた子供、今回で言うと美月を連れて家に帰り、その家族とどのような経緯で暴力を振るってしまったのかを聞き、その内容によって『話のつけ方』が変わるのだという。
今回の場合だと『塾で六年生最後の定期テストで一位を取れば最難関中学へ受験する際の推薦状が秘密裏に貰える』という噂を信じていて、いつも有時賢という生徒に負けて二位しか取れなかったため、という理由だった。
美月の父親は『そんな事で暴力を振るうな!』と一喝されるという結果になり、まるで子供のようにガタガタと震えながら美月に謝罪することとなった。
そしてお父さんは、自分は顔が広く今後も家庭内暴力を振るうようであれば知人の弁護士に事情を説明し、あらゆる措置を取って様々なデメリットを被らせる事を丁寧に説明。
さらに、美月と朱里は友人で、家で起こる様々な問題は佐那原家の父、佐那原重里とその知人の弁護士達に全て筒抜けになる、とまで釘を刺しておいた。
これにより、佐那原家による美月宅への訪問は終わった。
お父さんと兄三人はこれで家に帰るのだが、私は「せっかくだから美月と遊んでから帰る」と伝え、美月と二人になった。
遊びに行く、とは言ったが行き先は喫茶店『白ねこ』。
私が本当に頑張らないといけないのは、ここからだった。
「どういう事なのか、説明してもらおうか?」
一言目を発したのは賢だった。
今、喫茶店『白ねこ』には、私と美月の他に、賢、葵、陸の三人が店の一番奥の席にいる。
本来は四人掛けのところ、他の二人用のテーブルと椅子を持ってきて、六人まで座れるようにしている。
一応、店内には喫茶店『白ねこ』の店主の息子であり、宮川小たんてい団の団長でもある正義もいるのだが、今日は店の手伝いでエプロンをつけて各席のお客様に注文を取りに行ったり飲食物を運んだりしている。
心配そうにこちらを何度か見ている。
だが、私が事前に『こっちで話を済ませるから、心配しないで』と言っていたため、各々の好きなジュースを運んできて以降、こちらには近寄ることもなかった。
「賢、美月には事情があったの」
美月をかばう様に、私は賢にそう返した。
「その事情とやらを聞いてやろうって言っているんだ。僕と陸と葵、三人とも納得のできるような事情とやらを聞かせてもらおうかな」
静かな声でだが、明らかに怒っている賢。
それを困惑した様子で、陸と葵は見ていた。
多分、自分達より怒っている賢にどう声をかければいいか分からないのだろう。
そんな二人にも、賢にもなるべく理解が得られるよう、私は美月に「あの手紙を出して」と促した。
うん、と小さな声で返事をし、美月は一枚の紙を差し出した。
A5サイズと思われる紙には『この解答付き問題用紙の一枚を鈴井陸の鞄に入れろ。入れなければ、例え一位を取っても推薦状は出さない。もう一枚は、一般塾送りにしたい人物の鞄に入れて構わない』と、パソコンで入力して紙に印刷した文字で書かれていた。
「これは何……?」
黙ってみている賢を横目に、陸はそう質問した。
「陸と葵が不正疑惑で一般塾送りになった日、教室の美月がいつも使っている席にこの紙が解答付き問題用紙二枚と一緒に置いてあったの。美月っていつも一番乗りだから、一人でそれを見つけて……」
「二人の鞄と席に、入れたって事か?」
賢のその言葉に、一瞬店内が凍り付くような空気になった。
「あ、えーっと、俺の方は脅されてたのかな? 『一位を取っても推薦状は出さない』って」
場の空気に耐えられなくなったのか、陸がそう切り出す。
「噂になってるやつだよね。六年生最後の定期テストで一位が取れれば、秘密裏に塾から志望している中学校宛てに推薦状が送られて、合格しやすくなるってやつ」
と、葵。
「あんなの嘘に決まってるだろ。まず、たかが塾にそんな権限は無い。それに、上級塾で一位を取れるような生徒なら、この辺りの最難関中学でも十分合格できる。推薦状なんて元から不要。わざわざそんなもの送る必要もない」
そう断言する賢。
「でも、それを信じる人って少なからずいるよね。ほら、日野さんのお父さん『一位じゃないと意味ない』って言ってた。朱里が止めに入ったから良かったけど、日野さんの父親は暴力を振るうぐらい信じていて、日野さん自身も信じてたっぽい感じだったし」
陸がそう言って美月の方を見ると、美月は「うん」と首を縦に振った。
「陸の方は『推薦状を手に入れたい父親の暴力から逃れるため』って所か。まあ、理由にはなっているか。葵の方は?」
わずかにだが、落ち着いた感じの声でそう聞く賢。
「葵の方は、事故だったの」
解答付き問題用紙が陸の鞄に入っていたことに続き、今度は葵の座っていた机からも解答付き問題用紙が出てきたことについて説明する。
「美月に聞いたんだけど、上級塾では谷口塾長が教室に入ってきて生徒達に話をしてたんでしょ? それで教室にいた全員が谷口塾長に視線を向け、そのタイミングで美月は陸の鞄に解答付き問題用紙を入れた。その後、もう一枚の解答付き問題用紙をどうするのか美月は悩んでいた。だって、自分で持ってたら自分が不正していると疑われる。自分の手元以外のどこかに置かなきゃいけない。一般塾送りにしたい人もいないし、それなら、誰も座らない自分の隣の机の中に入れてしまえばいいと考えた。だけど、そこで葵が美月の隣の席に座ったの『友達になろう』って」
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