つる草と息子、サンシャイン☆

ニルニル

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つる草と息子、サンシャイン☆

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息子が表具屋(ひょうぐや。ふすまや屏風の張り替え・掛けじくの制作などをする)を継ぎたいと言ってきた。
私はめちゃんこびっくりした。だって、「表具屋」の「ひ」の字も知らないくらい何も教えてないじゃん!
そのことを問えば、「父さんがふすまや屏風をこしらえているのを、草葉の陰からいつも覗いていた」とのこと。ひえーっ、なんでそんな幽霊みたいなことしてたのこの子!? 言ってくれてたらパパ、いつでも作業場見せてあげたよ!? 手取り足取り教えてあげたよ!?
しかし息子は、「おれはシャイだからあのくらいの距離感がよかったんだ」と言う。ええーっ! パパショック! それって反抗期ってこと!? パパがくさいってことー!?
問えば、息子は「いいや。父さんはくさくない」と言う。よかった、パパくさくなかったんだ! よかったー!


それよりも息子はこの機にこの『表具屋サンシャイン』を、『表具屋陽』と改めてさらに海外進出したいと言う。よ、陽(よう)……! サンシャインの方が海外受けするんじゃないの!? 息子よ―――!
しかし、今まで流されに流されてしまったとはいえ、パパも一人の職人。店を預かるものとして、満足のいく表具を見せてくれないと息子の進路は認められない。


息子は私や『表具屋サンシャイン』に努める職人たちにたっぷりと教えられ、ぐんぐんとその才能を伸ばしていった。乾いたスポンジのように技術を吸収し、自分の色を咲かせようとしている息子に、ついに私はひとつの課題を与えた。

「よし、息子よ。今までよく修行をこなしてきたね。最後は一人前になれるかどうかの作品を作るんだ」

今までの課題をこなしてきた息子が、最後に我々に見せる可能性―――! 私は今までの息子の様子を思い出していた。きっとこの子は、大輪の花を咲かせるだろう! そうだ、モチーフは『大輪の花』だな!
さあ息子よ、私たちを揃って唸らせてみろ!


息子は考えていた。彼は父親の、ちょっとゆるいところも可愛らしいところも、そして職人として真剣であるところも大好きだった。
その職人として常に真剣である父親や、同じ工房の職人たちに認められるために、言われたままの課題をこなしていいものか、考えていたのだ。
息子は思った。おれの伸びしろはまだぐんぐんあるはずだ。おれの可能性をほんとうに信じるのなら、今はまだ大輪の花ではない、そのつぼみでもない。もっと違うもので表現できるはずだと。息子の脳裏には、あの頃が思い起こされた。茂った夏草に身を潜めて見ていた、駐車場の奥に広がっていた父親たちの工房。機械より精密に紙をぴんと張っていくその職人技。繊細な技量を要求される模様を、息ひとつ乱さずにやり遂げていた彼ら。いつの間にか夏の虫にさんざすねを咬まれ、それでも気にならずに一心に見ていたあの頃。息子は思い出していた。あの頃、繁茂する中にいつも一本だけ、つる草が生えていた。一本だけのその草は、わさわさと茂る単子葉植物たちに負けず劣らず力強く、そのイネ科の植物たちの上に絡んでは悠然と、陽の光を浴びていたことを―――


息子は屏風を作った。あのころ、草葉の陰から父を見守っていたその草葉に生えていた一本のつる草。息子は自分の伸びしろをあのつる草にかさね、『大輪の花』ではなく、一本の『つる草』が力強く伸びるさまを屏風の上に表現した。


「………………」

私は唸れなかった。ほかの職人、ゲンさんやガンさんも同様らしい。
出された課題を超えた作品―――やだ、パパたちったら、急な雨に降られたみたいに……


息子の完成させた屏風を見る父と職人たち。無言で眺めていた彼らの頬には、いつの間にか、一筋の涙が伝っていたのであった。
―――おお、息子よ、大きくなったな……! いつの間にか、私を大きく超えるほどに……!


父親―――パパは、その日思いっきりお祝いをすることを決意した。お寿司も取っちゃうぞ、ステーキも焼いちゃうぞ! ゲンさんやガンさんの奥さんやお子さんお孫さんも呼んじゃうぞ! 隣近所もみんな巻き込んで、パパの誇りの息子を思いのたけ自慢しちゃうんだ~!―――


めでたしめでたし。
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