ボクとサボ子、ときどきサボ雄

ニルニル

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ボクとサボ子、ときどきサボ雄

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「フフ、サボ子、今日も可愛らしいな……」

ボクの名前はヒシグチカッペイ。いわゆる「いい人」で通っている。お掃除のおじちゃんに行き当たる度あいさつをし、街にゴミが落ちていれば有料のレジ袋を買ってでも拾い集める。おばあちゃんが階段で困っていたらおばあちゃんごとおんぶして運ぶし、おじいちゃんが道に迷っていたら目的地まで案内する。我ながらほれぼれするほどのめちゃんこいい人っぷりだ。
しかしボクには、裏の顔がある。それを知るのはこのかわいそうでかわいらしい、うら若きサボテンのサボ子だけだ。

「フフフ……」

今日もボクはこのかわいそうな籠の小鳥、サボ子に屈折した愛情をぶつけている。
モーツァルトを聴かせて安らかな夜を過ごさせると見せかけてはパンクロックを流し、霧吹きでおいしいお水をあげると見せかけてはその霧吹きはボクのお口をうるおす。う~ん、デリシャス。さすが六甲山のお水。おやサボ子、そんなもの欲しそうな顔をしてもあげないよ? キミには水道水の水がお似合いさ。ハハハハッ―――!!

さあ、今度はどうして苦しめてやろうか? ボクのサボ子、かわいいサボ子、もっと悲痛な表情を見せておくれっ……!
ボクはサボ子のぷりぷり多肉ボディを指でつっつこうとし、

「あ」

間違ってサボ子のトゲで指を刺してしまった。ボクの意識は途端、暗雲に包まれる―――


目を開けると、そこはサボ子にサボ子、サボ子がサボ子、サボ子がたくさんいる奈落の底のような場所だった。林立したサボ子たちが楕円形にならび、おそらく顔である面をお互いに向けながらなにやら会議している。なんというサボ子! こちらもサボ子、あちらもサボ子、そちらもサボ子じゃないか―――!

「サボ―――いたっ!?」

思わずたくさんのサボ子に駆け寄ろうとしたとき、しかしボクの肩はおもむろにがっしりと、そしてトゲトゲと押さえつけられた。この感触は……!

「サボ……!?」

しかしボクが振り向いたとき、そこには驚愕の情景が待っていた!

「サボ子じゃない……!」

そう。ボクを押さえつけていたのは『サボ子』と呼べるかわいいサイズのサボテンじゃなかった。まさに『サボ男』、『サボ雄』とでも呼ぶべきダイナミックさ!! その細胞壁はみちみちと盛り上がり、多肉はボクの太ももを超えた大きさでもりもりと膨れ上がり、ボクの二倍くらいの高さと五倍以上の厚みを持った、まさにもののふがごとき巨大サボテンであった!!

そいつがボクを威圧的に見下ろし、エデンの花園―――サボ子たちのもとへ今すぐ駆けだしたいボクの肩をがっちりとホールドしているのだ!!

「離せ! ボクが何をしたっていうんだ! ボクはいい人なんだぞ!」

ぐいぐい。ちくちく。

「鍛え抜かれたいい人筋をくらえ!!」

ぐいぐい。ちくちく。

なんてやつだ! びくともしない!! まるで鋼のように鍛え抜かれた(?)、サボ雄の肉体!!
ボクがサボ雄の魔の手から逃れようとしていると、集まったサボ子たちがなにやら品評会を開いている声(ああ、サボ子の声! 天上の調べ!)が聞こえてきた―――

「どうかしら、今年のカッペイは」

今年のカッペイ……!? ボクのことだ!あふれ出る善人感―――いい人オーラ―――が常に噴き出している、ボクのことを話している!

「ダメね、まるでダメ。わたしをいたぶることを楽しんでいるだけじゃない」

そうか、サボ子にはいい人であるだけじゃない、ボクの真の姿を見せてしまっている……!

「モーツァルトからパンクロックに変えるなんて、気分があべこべになっちゃうわ」
「六甲のお水、わたしも飲みたかったのに」
「わたしのお肌をことあるごとにつんつんするなんて」
「サボ子……。あっつウ……! サボ雄! いたいいたい!」

サボ子たちから悪い結果が話されるたびに、ボクはサボ雄にがっちりと組みつかれ、そのするどいトゲを食い込まされる。サボ子たちの品評会はいつまでも続き、その度にボクはサボ雄にいつまでもいじめ抜かれ―――


ハッ……と目が覚めた。ボクはサボ子になんてことをしていたんだ……。そしてサボ雄……。ボクはうっとりと回想する。
なんてたくましい多肉植物、なんて鋭い針……。ボクは気づいた。気づいてしまった。ボクはサボ雄に恋をしてしまったのだと。


ボクはサボ子に六甲のお水をシュッシュと吹きかけながら、「キミのお兄さん(仮定)はどこにいるんだい?」と今日も問いかける。ああ、早く現実で、キミに逢いたい―――サボ雄、愛しのサボ雄、どこにいるんだい!?

ボクはホームセンターはもちろん、サボテン園やサボテン見本市などにもこれからは足しげく通うことを、ガッチリと決意するのであった。

「あんた、いい人はいるんかい?」

言いながら小指を立てた掃除のおじちゃん。おじちゃんたちも交えた社の飲み会の中で、ボクは不敵に微笑んだ。

「いますよ、もちろん―――」

ねえ、サボ雄。
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