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第5章 満月の別れ
第2話③
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着替えを終えて出て来た鷹臣の私服姿はセイルの目を惹いた。全身黒づくめでコーディネートしているのはあまり普段のスーツと変わらないが、黒いシャツも同色のパンツも鷹臣によく似合っている。襟元が開いているため、わずかに見え隠れする入れ墨がその筋の者だと誰が見てもバレてしまう。
「おい」
鷹臣の許可なく首元の一つを残してその他のボタンを閉めれば、細めた目で見下ろされる。出逢った頃はこの一瞥だけで身を竦ませていたが、今は全く怖くない。
「だって、その筋ってバレちゃいますもん。私がしたいのは普通のお買い物なんで」
ニッコリと笑いかける。それ以上は文句を言うこともなく、鷹臣はガシガシと頭をかくだけで視線を反らした。
普段の買い物に使用しているエコバックを持てば準備完了だ。ただの買い物なのにワクワクする。こうした普通のことを鷹臣とは今までできなかった。最後なのだから、心残りのないように楽しみたい。
いつも利用している商店街の店は歩いて行くには少し遠いため、マンション近くのスーパーへと向かった。商品を吟味しながら選んでいると、ちょうどタイムセールの時間となり、ひき肉が定価の三割引きとなっていた。
「やりましたね、特売タイムですよ!」
「別にそんな安物買う必要ねぇだろ」
「分かってませんね~。こういうので少しでもお得に買って、代わりに予定になかったアイスとかを買う! 予算内でより多くの利益を得るのが賢いお買い物ですよ?」
「どこぞの主婦かよ」
声を押し殺して笑われる。悠真たちに教わった買い物術だが、そんなにおかしいことだろうか。プクリと頬を膨らませていると、セイルが押していた買い物カートを鷹臣がやんわりと代わってくれた。
「おら、特売タイムなんだろ? 欲しい物とってこいよ」
「はい!」
タイムセールという謳い文句に引かれて集まっていた客たちの輪に加わり、商品を品定めする。調度良い量のパックを手にして鷹臣の所へと戻ろうとしたが、その姿にドキリとした。
鷹臣と過ごすのはほとんどが部屋の中など至近距離であり、あまり遠くから眺めるということがない。元々、オーラの強い人だとは思っていたが、こうして傍から見ると存在感が尋常ではない。長身で体格も良いということもあり、入れ墨を隠していても常人でないことが分かる。
ただ、鷹臣のいる周辺が青果コーナーということもあり、そのギャップに少しだけ笑ってしまった。
「……何だよ」
「いえ、鷹臣さんとスーパーって似合わないなぁって思って」
「無理やり連れて来ておいて散々な言い様だな、おい」
クスクス笑いながら鷹臣の押すカートの中に手にしていたひき肉のトレーを入れる。不貞腐れたような顔をする鷹臣を宥めすかしながら残りの買い物を続けていく。タワーマンション周辺にあるスーパーだからか、行き慣れた神社付近のスーパーと品揃えが違うということもあり、見たことのない銘柄の商品なども並んでいる。物珍しくて店内を隅々まで歩いていると、いつの間にか店を出る頃には夕刻になってしまっていた。
購入した商品を詰めたエコバックを鷹臣に持ってもらい、取り留めもないことを話しながらマンションへと戻る。この世界の住人なのに、鷹臣の方がセイルよりもスーパーに行き慣れておらず、一般的な野菜や魚などの相場の価格が分からない話などにはまた笑ってしまった。
「今、お米とかだって高いんですから、ちゃんと気にして買った方が良いですよ」
「別に俺は料理しねぇし、必要なモン買うのに金に糸目は付けねぇ質なんだよ」
「それ、悠真さんが聞いたら憤慨しますよ~? こないだ悠真さんや梨々花さんたちと話してて、紅茶のティーバッグを二度使いするかしないかって話題で白熱したんですから」
「あいつのは節約とかじゃねぇ。ただのドケチなんだよ」
つい笑ってしまう。確かに、そう思ってしまうこともある。悠真自身は「倹約家だ」と自負しているが、さすがに紙ナプキンを乾かして再利用していた時には唖然とした。
それも全て神社の修繕のためだと言ってはいるものの、割とそんな生活を楽しんでいる節もある。特に、何かを安く買えた時などはこぞって報告してくれるところは可愛らしいとすら感じる。
マンションへと戻り、二人で作るハンバーグは思っていた以上に楽しかった。
そもそも、鷹臣がキッチンに立っていること自体が稀なのだ。本音を言えば最初は何も期待していなかったが、包丁捌きが意外にも上手くて驚いた。
「こんなにお上手なら、もっと自炊したら良いのに」
「自炊だぁ? そんなめんどくせぇこと俺がするかよ。作る奴がいるんだから必要ねぇ」
胸がチクリとする。確かに今日まではそうだが、その先の未来にセイルはいない。
誰かが今後、この場所に鷹臣と立つことを考えてしまい、涙が出そうになった。フルフルと頭を振る。悪く考えてしまいそうな思考を必死に戻す。
「ひき肉、安いからって結構買いすぎちゃいましたね。どうします? たくさん作って冷凍しといても良いですし、何なら肉じゃがでも作りましょうか」
「肉じゃが」
「はい、分かりました」
ハンバーグのタネをこねてもらいながら聞けば、考える間もなく即答される。好きな人がたくさん食べてくれるのは嬉しい。自分の作った料理が血肉となり、鷹臣自身を作る。それができることがこれ程までに喜ばしいことだと知ったのは、きっと鷹臣と出逢ったからだ。
里でも料理はしていたし嫌ではなかったが、嬉しいという感情はなかった。父と兄が狩りに出かけているから必然的にすることになっただけであり、母が生きていればどうだったか分からない。狩りの才能の無さから生活としてはあまり変わらず、母を手伝いはするだろうが、自分から積極的にしたいという訳ではない。
鷹臣にハンバーグを任せて、ハンバーグ用のソースや肉じゃが、味噌汁作りを平行して行っていく。誰かと一緒に料理を作ることなんて、もしかしたら最後かもしれない。きっと、里に戻ったところで鷹臣以上に好きになれる人なんてできる気がしない。そうしたら、ノアリスたちも実家を出ただろうから、ずっと父と二人暮らしになるのだろう。
もちろん、それが嫌という訳ではない。ただ、隣に立つ人が恋い慕う相手ではなくなるというだけのことだ。
楽しい時間というのはあっという間に終わりが訪れる。思っていた以上に手際の良かった鷹臣のお陰で夕食は程なくして出来上がった。ダイニングテーブルへと運び、二人で共に食べ始めた。
「鷹臣さんの作ってくれたハンバーグ、すごく美味しいです」
「そんなん味付けだろ。それはお前がしてんだから、不味くなりようがねぇ」
「でも、焼き加減とかも抜群ですよ! 鷹臣さん、絶対料理の才能ありますって」
「褒めてもやんねぇからな」
「え~、勿体ない~」
クスクスと笑いながら食べ進める。
たわいもない会話ばかりが続く。明日でお別れになってしまうなんて全く思えない程だ。
鷹臣は寂しくないのだろうか。相変わらずのポーカーフェイスで全くそんな素振りも見えない。目覚めたとの知らせを受けて訪れてくれた時の方がよほど感情を露わにしていた。
だからと言って、自分から湿っぽくする気もない。最後は楽しい記憶の方が良い。
食事を終え、鷹臣が風呂に入っている間に食器を洗う。とは言っても、食洗器もあるため、そこまで時間はかからない。この便利な生活も明日で終わると思うと少し寂しい。この世界での家事があまりにも便利な道具で溢れていた。戻ってからは家電のない暮らしなのだから、もう一度元の生活スタイルに慣れなければ。
食洗器の中に使った食器を入れて後は機械に任せると、荷物の整理をすることにした。
とはいえ、どうしても持ち帰りたい物はもう決まっている。梨々花たちとお揃いのお守りと光らなくなったブレスレット。それに、鷹臣から貰ったブレスレットの三つだけだ。前者二つを小さな巾着袋の中へと入れる。これなら舞装束の中に忍び込ませていても舞の邪魔にはならないはずだ。鷹臣から貰ったブレスレットは外したくない。このブレスレットがあったからこそ拉致されても鷹臣たちに見つけてもらえて助かった。
それに、何より鷹臣から貰った物だから。外すという選択肢自体がそもそも存在しない。
服や日用品のように生活を送るために用意してもらった物がないわけではない。しかし、それらは毎日身につけていた物ではないし、生活をする上で必要となっただけの物。全てを持ってなど行けない。それなら、本当に思い出深い物だけに留めることにした。
風呂から上がってきた鷹臣に代わって湯を貰う。セイルが神社で育てていた香草で作った薬湯はスッとした清涼な香りを漂わせている。せっかく育てたハーブをこれからも毎日面倒みられないのは本当に残念だが、仕方がない。負担になってしまうが、結月たちにお願いするというのも手段の一つだろう。二人ならきっと頼まれてくれる気がする。
ゆったりと足が伸ばせる広めの浴槽で全身を湯に浸かりながら天井を仰ぎ見た。暖色系の明かりが灯っている。初めて蛍光灯を見た時はその仕組みの不思議に首を傾げたものだ。今では生活において当たり前になっている。ボタン一つで明かりでもシャワーでも快適な暮らしに繋がる物は何でも揃っている。この世界の進化や発展は素晴らしいものだ。
電化製品だけではない。石鹸の類にしても泡立ちが良く、洗い上がりの肌がしっとりと潤う気がする。髪もそこまで傷んでいるとは思っていなかったが、里にいた頃よりも随分と毛艶が良くなったと思う。身の回りの全ての物が上質な物でできている証拠だろう。
衣類も食べ物も全てが違う。むしろ、同じ物を見つける方が難しい。その全てが住む世界の違いを表しているようだ。
セイルがいなくなったら、鷹臣の生活は変わるだろうか。ふと考えたものの、瞳をそばめる。
共に住んでいても鷹臣は仕事人間で、生活の時間なんてほとんど合わなかった。いなくなったくらいで変わることなんて多くはないだろう。セイルは鷹臣の仕事には全く関わっていないし、家事の代行であれば他の者でもできる。体の交わりだって、この世界ではお金さえ払えばいくらでも代わりがきく。溜まれば然るべき手段で発散して、その内、鷹臣を魅了するような女性が現れればセイルは忘れられてしまうのだろう。
湯の表面に水滴が落ち、波紋が広がる。それが自分の瞳から零れたものだと気付くのは、しばらく経ってからのことだった。
「おい」
鷹臣の許可なく首元の一つを残してその他のボタンを閉めれば、細めた目で見下ろされる。出逢った頃はこの一瞥だけで身を竦ませていたが、今は全く怖くない。
「だって、その筋ってバレちゃいますもん。私がしたいのは普通のお買い物なんで」
ニッコリと笑いかける。それ以上は文句を言うこともなく、鷹臣はガシガシと頭をかくだけで視線を反らした。
普段の買い物に使用しているエコバックを持てば準備完了だ。ただの買い物なのにワクワクする。こうした普通のことを鷹臣とは今までできなかった。最後なのだから、心残りのないように楽しみたい。
いつも利用している商店街の店は歩いて行くには少し遠いため、マンション近くのスーパーへと向かった。商品を吟味しながら選んでいると、ちょうどタイムセールの時間となり、ひき肉が定価の三割引きとなっていた。
「やりましたね、特売タイムですよ!」
「別にそんな安物買う必要ねぇだろ」
「分かってませんね~。こういうので少しでもお得に買って、代わりに予定になかったアイスとかを買う! 予算内でより多くの利益を得るのが賢いお買い物ですよ?」
「どこぞの主婦かよ」
声を押し殺して笑われる。悠真たちに教わった買い物術だが、そんなにおかしいことだろうか。プクリと頬を膨らませていると、セイルが押していた買い物カートを鷹臣がやんわりと代わってくれた。
「おら、特売タイムなんだろ? 欲しい物とってこいよ」
「はい!」
タイムセールという謳い文句に引かれて集まっていた客たちの輪に加わり、商品を品定めする。調度良い量のパックを手にして鷹臣の所へと戻ろうとしたが、その姿にドキリとした。
鷹臣と過ごすのはほとんどが部屋の中など至近距離であり、あまり遠くから眺めるということがない。元々、オーラの強い人だとは思っていたが、こうして傍から見ると存在感が尋常ではない。長身で体格も良いということもあり、入れ墨を隠していても常人でないことが分かる。
ただ、鷹臣のいる周辺が青果コーナーということもあり、そのギャップに少しだけ笑ってしまった。
「……何だよ」
「いえ、鷹臣さんとスーパーって似合わないなぁって思って」
「無理やり連れて来ておいて散々な言い様だな、おい」
クスクス笑いながら鷹臣の押すカートの中に手にしていたひき肉のトレーを入れる。不貞腐れたような顔をする鷹臣を宥めすかしながら残りの買い物を続けていく。タワーマンション周辺にあるスーパーだからか、行き慣れた神社付近のスーパーと品揃えが違うということもあり、見たことのない銘柄の商品なども並んでいる。物珍しくて店内を隅々まで歩いていると、いつの間にか店を出る頃には夕刻になってしまっていた。
購入した商品を詰めたエコバックを鷹臣に持ってもらい、取り留めもないことを話しながらマンションへと戻る。この世界の住人なのに、鷹臣の方がセイルよりもスーパーに行き慣れておらず、一般的な野菜や魚などの相場の価格が分からない話などにはまた笑ってしまった。
「今、お米とかだって高いんですから、ちゃんと気にして買った方が良いですよ」
「別に俺は料理しねぇし、必要なモン買うのに金に糸目は付けねぇ質なんだよ」
「それ、悠真さんが聞いたら憤慨しますよ~? こないだ悠真さんや梨々花さんたちと話してて、紅茶のティーバッグを二度使いするかしないかって話題で白熱したんですから」
「あいつのは節約とかじゃねぇ。ただのドケチなんだよ」
つい笑ってしまう。確かに、そう思ってしまうこともある。悠真自身は「倹約家だ」と自負しているが、さすがに紙ナプキンを乾かして再利用していた時には唖然とした。
それも全て神社の修繕のためだと言ってはいるものの、割とそんな生活を楽しんでいる節もある。特に、何かを安く買えた時などはこぞって報告してくれるところは可愛らしいとすら感じる。
マンションへと戻り、二人で作るハンバーグは思っていた以上に楽しかった。
そもそも、鷹臣がキッチンに立っていること自体が稀なのだ。本音を言えば最初は何も期待していなかったが、包丁捌きが意外にも上手くて驚いた。
「こんなにお上手なら、もっと自炊したら良いのに」
「自炊だぁ? そんなめんどくせぇこと俺がするかよ。作る奴がいるんだから必要ねぇ」
胸がチクリとする。確かに今日まではそうだが、その先の未来にセイルはいない。
誰かが今後、この場所に鷹臣と立つことを考えてしまい、涙が出そうになった。フルフルと頭を振る。悪く考えてしまいそうな思考を必死に戻す。
「ひき肉、安いからって結構買いすぎちゃいましたね。どうします? たくさん作って冷凍しといても良いですし、何なら肉じゃがでも作りましょうか」
「肉じゃが」
「はい、分かりました」
ハンバーグのタネをこねてもらいながら聞けば、考える間もなく即答される。好きな人がたくさん食べてくれるのは嬉しい。自分の作った料理が血肉となり、鷹臣自身を作る。それができることがこれ程までに喜ばしいことだと知ったのは、きっと鷹臣と出逢ったからだ。
里でも料理はしていたし嫌ではなかったが、嬉しいという感情はなかった。父と兄が狩りに出かけているから必然的にすることになっただけであり、母が生きていればどうだったか分からない。狩りの才能の無さから生活としてはあまり変わらず、母を手伝いはするだろうが、自分から積極的にしたいという訳ではない。
鷹臣にハンバーグを任せて、ハンバーグ用のソースや肉じゃが、味噌汁作りを平行して行っていく。誰かと一緒に料理を作ることなんて、もしかしたら最後かもしれない。きっと、里に戻ったところで鷹臣以上に好きになれる人なんてできる気がしない。そうしたら、ノアリスたちも実家を出ただろうから、ずっと父と二人暮らしになるのだろう。
もちろん、それが嫌という訳ではない。ただ、隣に立つ人が恋い慕う相手ではなくなるというだけのことだ。
楽しい時間というのはあっという間に終わりが訪れる。思っていた以上に手際の良かった鷹臣のお陰で夕食は程なくして出来上がった。ダイニングテーブルへと運び、二人で共に食べ始めた。
「鷹臣さんの作ってくれたハンバーグ、すごく美味しいです」
「そんなん味付けだろ。それはお前がしてんだから、不味くなりようがねぇ」
「でも、焼き加減とかも抜群ですよ! 鷹臣さん、絶対料理の才能ありますって」
「褒めてもやんねぇからな」
「え~、勿体ない~」
クスクスと笑いながら食べ進める。
たわいもない会話ばかりが続く。明日でお別れになってしまうなんて全く思えない程だ。
鷹臣は寂しくないのだろうか。相変わらずのポーカーフェイスで全くそんな素振りも見えない。目覚めたとの知らせを受けて訪れてくれた時の方がよほど感情を露わにしていた。
だからと言って、自分から湿っぽくする気もない。最後は楽しい記憶の方が良い。
食事を終え、鷹臣が風呂に入っている間に食器を洗う。とは言っても、食洗器もあるため、そこまで時間はかからない。この便利な生活も明日で終わると思うと少し寂しい。この世界での家事があまりにも便利な道具で溢れていた。戻ってからは家電のない暮らしなのだから、もう一度元の生活スタイルに慣れなければ。
食洗器の中に使った食器を入れて後は機械に任せると、荷物の整理をすることにした。
とはいえ、どうしても持ち帰りたい物はもう決まっている。梨々花たちとお揃いのお守りと光らなくなったブレスレット。それに、鷹臣から貰ったブレスレットの三つだけだ。前者二つを小さな巾着袋の中へと入れる。これなら舞装束の中に忍び込ませていても舞の邪魔にはならないはずだ。鷹臣から貰ったブレスレットは外したくない。このブレスレットがあったからこそ拉致されても鷹臣たちに見つけてもらえて助かった。
それに、何より鷹臣から貰った物だから。外すという選択肢自体がそもそも存在しない。
服や日用品のように生活を送るために用意してもらった物がないわけではない。しかし、それらは毎日身につけていた物ではないし、生活をする上で必要となっただけの物。全てを持ってなど行けない。それなら、本当に思い出深い物だけに留めることにした。
風呂から上がってきた鷹臣に代わって湯を貰う。セイルが神社で育てていた香草で作った薬湯はスッとした清涼な香りを漂わせている。せっかく育てたハーブをこれからも毎日面倒みられないのは本当に残念だが、仕方がない。負担になってしまうが、結月たちにお願いするというのも手段の一つだろう。二人ならきっと頼まれてくれる気がする。
ゆったりと足が伸ばせる広めの浴槽で全身を湯に浸かりながら天井を仰ぎ見た。暖色系の明かりが灯っている。初めて蛍光灯を見た時はその仕組みの不思議に首を傾げたものだ。今では生活において当たり前になっている。ボタン一つで明かりでもシャワーでも快適な暮らしに繋がる物は何でも揃っている。この世界の進化や発展は素晴らしいものだ。
電化製品だけではない。石鹸の類にしても泡立ちが良く、洗い上がりの肌がしっとりと潤う気がする。髪もそこまで傷んでいるとは思っていなかったが、里にいた頃よりも随分と毛艶が良くなったと思う。身の回りの全ての物が上質な物でできている証拠だろう。
衣類も食べ物も全てが違う。むしろ、同じ物を見つける方が難しい。その全てが住む世界の違いを表しているようだ。
セイルがいなくなったら、鷹臣の生活は変わるだろうか。ふと考えたものの、瞳をそばめる。
共に住んでいても鷹臣は仕事人間で、生活の時間なんてほとんど合わなかった。いなくなったくらいで変わることなんて多くはないだろう。セイルは鷹臣の仕事には全く関わっていないし、家事の代行であれば他の者でもできる。体の交わりだって、この世界ではお金さえ払えばいくらでも代わりがきく。溜まれば然るべき手段で発散して、その内、鷹臣を魅了するような女性が現れればセイルは忘れられてしまうのだろう。
湯の表面に水滴が落ち、波紋が広がる。それが自分の瞳から零れたものだと気付くのは、しばらく経ってからのことだった。
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