麗しの暴君サマに愛され過ぎて困っています。

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【第1部 異世界転移】 第3章:デート編

第4話①

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「わぁああああ!!」

 閑静な高級住宅街らしき場所を抜け、賑やかな通りに出た。運動会のように青空にはためく様々な旗。それに、食べ物や雑貨など、たくさんの屋台が並んでいる。
 喧騒を聞いているだけでも期待でボルテージが上がっていたが、実際に見ることによって興奮は最高潮に達していた。思わず手を離して雑踏の中へと駆け出す。

「おい、待て!!」

 むんずと首の後ろの襟元を掴まれ、喉が締め付けられる。

「ギャッ!!」

 そのまま上へと持ち上げられて体が宙に浮く。プラプラと脚が空をかいた。

「ぐーるーじーいー」
「勝手をするからだろう。馬鹿者が」
「ギブ~! ギブ、ギブギブ~!!」

 何とか気道を確保しようと喉と服の間に指を入れる。必死の訴えが通じたのか、早々に地面へ下ろしてもらい、事なきを得た。

「こんな人混みの中、一回でもはぐれてみろ。見つけ出すのは至難の技だぞ」
「あー、そう言えばそっかぁ……」

 周囲を見回した。どこを見ても人・人・人。ごった返してまるで新宿や渋谷の喧騒を見ているようだ。
 この状況で迷子にでもなったら、再び合流するのは確かに難しい。スマホがあるならまだしも、連絡手段というものが皆無なのだから。

「選ばせてやる。今みたいに首を持たれて移動させられるのと、手を繋がれるの。どちらが良い」
「こっちでお願いしまぁす」

 殊勝な態度で右手を差し出した。コクリと頷き、握り返される。
 手を引かれて再度歩き出し始めた。

「わぁ……」

 再び感嘆の声が漏れる。どこもかしこもキラキラして見えた。行き交う人たちの笑顔も含め全てが輝いている。

「今日って、すごく特別な日なんだね」
「ああ、生誕祭だからな」
「あっ、ねぇねぇ! アレ何!?」

 アレクの手を引き、今度は圭が先導するように走り出した。

「だから急に走るなと言っているだろうが」
「ねぇ、これなぁに?」

 とある屋台の前で立ち止まる。アレクは大仰に顔を顰めていたが、圭は全く見てもいなかった。
 屋台には色とりどりの果実を透明な飴細工のようなものでコーティングした食べ物が並べられていた。元の世界での杏子飴に似ている。

「これが欲しいのか?」
「んー……食べてはみたいけど、お金持ってないし、いいや……」

 地元の祭りなどで欠かさず食べていた杏子飴を思い出し、郷愁にふける。甘くていつも幸せになれる味が好きだった。
 しかし、祭りに連れて来てもらっただけでも贅沢なのだ。何かをたかるなんてことはお願いできない。

「この程度、良いに決まっているだろう。店主、これはいくらだ?」
「大銅貨2枚ですよ」
「釣りはいらん」

 アレクは女性店主へと銀貨を一枚差し出した。女性は大きく目を見開き、何度も瞬きを繰り返していたが、ペコペコと頭を何度も下げていた。

「ほら、好きな物をとれ」
「どれでも良いの?」
「構わん」
「じゃあねー、えーっと……」

 店に並ぶ杏子飴もどきを眺めながら悩む。赤、黄、白などカラフルな果物たちに迷ってしまう。城の中で食べたことのある物もあれば、見たことのない物もある。

「じゃあ、コレにする」

 ウンウンとしばらく悩んだ末、真っ赤な果実を指さした。最も杏子飴の形状に近く、馴染み深かったから。

「はいよ、坊や。今日はカッコ良くて若いパパと一緒にお祭り来れて良かったねぇ」
「坊や!?」
「パパ!?」

 ほぼ同時に圭とアレクが素っ頓狂な声を出した。あまりに驚いた表情をしていたからだろうか、女性店主も軽く驚く。

「ああ、ごめんねぇ。もしかしたら、歳の離れたご兄弟だったかしら? 仲良く手を繋いでいるから親子かと勘違いしちゃって。ごめんなさいねぇ」

 苦笑しながら商品を手渡してくる女性に礼を言って受け取るも、やはり「坊や」と呼ばれたことに少なからずショックを受ける。
 確かに元の世界でも背は小さい方だったし、この世界の住人はそもそも発育が良い。
 それでも「坊や」と呼ばれるほど幼く見えるとは思ってもいなかった。
 高校生として、さすがに傷つく。
 しかし、それよりも複雑な表情を浮かべているのが、圭の手を引く人物だった。

「パパ……まあ、俺の歳なら子の一人や二人……いや、でも、こんな大きな子供……」

 ブツブツと呟いては溜め息を繰り返している。こちらはこちらで傷が深いらしい。

 広場の噴水へと足を運び、その縁に腰かけた。噴水から吹き出される水がアーチを描き、薄っすらと虹がかかっている。
 手にしていた杏子飴もどきを口にした。口内に甘みが広がる。果実の周りにコーティングされているのは水あめのようだが、齧ってみた果実は酸っぱくなく、ただただ甘かった。
 予想とは少し外れたが、それでも美味いことには変わらない。

「おいしい」

 ほっこりと頬が赤く染まる。女性店主に言われたことなど忘れ、夢中で杏子飴もどきに齧りついた。

「そうか。良かったな」

 しばらく落ち込んでいたアレクであったが、圭が飴を美味しそうに食べているのを見て、その表情が和らぐ。
 飴を食べ終わる頃、噴水の近くで大道芸が始まった。今度はアレを見たいと言ってみれば「好きにすれば良い」と首肯を返される。
 明るい派手な色の衣装を着た大道芸人たちによるマジックショーや楽器の演奏、パフォーマンスショーなどに大きな拍手を送る。久方ぶりに見たエンターテイメントショーに心の底から夢中になる。

 ずっと部屋の中に閉じ込められて、楽しみらしい楽しみなんて何もなかった。朝起きてから勉強して、夜にセックスするだけの生活。
 人としての心が死にかけていると思っていた矢先の外出に心が弾む。
 大道芸人たちのやっていることは物珍しいものではない。動画サイトにはもっと過激な内容の芸などもたくさんあるし、それらを見慣れてしまっている。
 それでも、実際に目の前で見られて楽しめるというのが嬉しかった。

 大道芸人の虜になっていた時、圭は気付いていなかった。
 隣に立つアレクが芸ではなく圭のことを見続けていたことを。
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