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辺境伯領改革計画③
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俺の言葉にチルシアさんは、その可愛らしくも秀麗な顔を曇らせた。
「……そのような貴重な魔道具は、私よりも、エドワード様が信頼できる部下に預けるべきでは」
「申し訳ありません。チルシアさん。私の不手際で、私にはチルシアさんより武力に優れた、信頼できる部下がいないのです」
人間不信で積極的に味方を作ろうとしなかったツケを、今さらながら思い知らされる。
WinWinの関係なら昔から信頼関係を築くことができたから、正義のヒーローアディマン時代に売った恩を使って、一般市民を味方にすることはできた。
でも、残念ながら俺は、クソ親父の私兵はもちろん、王宮から派遣された兵にも、今まで大した恩は売れていない。
だって、俺が化け物並のチート過ぎて、クソ怖がられてたしー? ある程度の年齢いったら、他の誰も着いて来れないのわかってたから、一人で鍛錬してたしー?
クソ親父の私兵や、王宮から派遣された騎士が倒せないような魔物を討伐したことは何回かあるけど、そいつらが到着する前に倒してたから、寧ろ手柄横取りにしちゃった感じだしー?
それを踏まえてなお、俺を個人的に畏怖し、崇拝している奴も少なくないとは思う。だけど、そいつらが求めている俺は【国境の守護者】としての俺であり、英雄としての俺で、セネーバとの講和を求める俺ではない。「絶対的強者」の偶像を求めてる奴らに、今さら色々働きかけたとしてもどうしようもない。……そうなるように仕向けた奴らがいるからな。
つくづく留学前の自分の甘さと愚かさが悔やまれるぜ……今の俺なら、もう少し上手く立ち回れるのに。
「アストルディア殿下からの信頼を得て、派遣された貴方を私も信頼しています。どうか、我が領から子どもを害そうとする愚か者が出たとしても、転移の魔道具を使って未遂で済ませてください」
たとえ襲撃が起こったとしても、傷害未遂で済ませられたなら何とでもなる。……いや、実際は死者が出たとしても何とでもなるのだ。交易の条件が悪くなるだけで。
命は平等じゃない。アニカには口が裂けても言えないが、アニカ達草食獣人の孤児の身分は、セネーバにおいて最底辺に近い。……辺境伯領においてゼルさん達鉱夫の扱いが、そうであるように。
最悪命が失われたとしても、所属する国の交易を優位にするぐらいの価値しかない、使い捨て可能な駒。それがゼルさんや、アニカ達の立場だ。だからこそ、全てを自己責任とされる商人以外に、二国間の行き来を許可された。
言うならば、彼らは、彼女達は、二国における交易反対派の反応を見る為の試験紙であり、最悪の場合いつでも切り捨てられる存在なのだ。
それがわかっていて、俺はゼルさんや、アニカの孤児院に、国をまたぐことを要請した。必ず俺が安全を保証すると、そう説得して。
俺は本当に、罪深い存在だ。……だからこそ、罪を重ねない為にも、絶対に彼らや彼女達を守りたい。それがただの自己正当化の為に過ぎなかったとしても。
「俺が離れることで、貴方達は襲撃を受ける可能性があります。けれどそれは同時に、子どもにも手を出すような外道な不穏分子を洗い出すことでもあります。利用していると、私のことを恨んでくれても構いません。貴方も子ども達も、必ず無事にセネーバに帰還してください」
子ども達に聞こえないように耳元で囁いた言葉に、チルシアさんは驚いたように目を見開いた後、ひどく優しい笑みを浮かべた。
「貴方は驚くほどに正直な方ですね。為政者として、それが正しいのか正しくないのかは、私程度では判断がつきませんが、少なくとも私個人はとても好感を持ちました」
そう言ってチルシアさんは、その場に片膝をついた。
「私はセネーバ王族に仕えているのではなく、アストルディア殿下個人に仕えております。殿下から貴方の命令は遵守するようにと命じられたので、貴方がどのような方でも忠実に従うつもりでしたが、気が変わりました。貴方がセネーバとリシス王国の未来について、どう考えているか教えてください」
「……そのような貴重な魔道具は、私よりも、エドワード様が信頼できる部下に預けるべきでは」
「申し訳ありません。チルシアさん。私の不手際で、私にはチルシアさんより武力に優れた、信頼できる部下がいないのです」
人間不信で積極的に味方を作ろうとしなかったツケを、今さらながら思い知らされる。
WinWinの関係なら昔から信頼関係を築くことができたから、正義のヒーローアディマン時代に売った恩を使って、一般市民を味方にすることはできた。
でも、残念ながら俺は、クソ親父の私兵はもちろん、王宮から派遣された兵にも、今まで大した恩は売れていない。
だって、俺が化け物並のチート過ぎて、クソ怖がられてたしー? ある程度の年齢いったら、他の誰も着いて来れないのわかってたから、一人で鍛錬してたしー?
クソ親父の私兵や、王宮から派遣された騎士が倒せないような魔物を討伐したことは何回かあるけど、そいつらが到着する前に倒してたから、寧ろ手柄横取りにしちゃった感じだしー?
それを踏まえてなお、俺を個人的に畏怖し、崇拝している奴も少なくないとは思う。だけど、そいつらが求めている俺は【国境の守護者】としての俺であり、英雄としての俺で、セネーバとの講和を求める俺ではない。「絶対的強者」の偶像を求めてる奴らに、今さら色々働きかけたとしてもどうしようもない。……そうなるように仕向けた奴らがいるからな。
つくづく留学前の自分の甘さと愚かさが悔やまれるぜ……今の俺なら、もう少し上手く立ち回れるのに。
「アストルディア殿下からの信頼を得て、派遣された貴方を私も信頼しています。どうか、我が領から子どもを害そうとする愚か者が出たとしても、転移の魔道具を使って未遂で済ませてください」
たとえ襲撃が起こったとしても、傷害未遂で済ませられたなら何とでもなる。……いや、実際は死者が出たとしても何とでもなるのだ。交易の条件が悪くなるだけで。
命は平等じゃない。アニカには口が裂けても言えないが、アニカ達草食獣人の孤児の身分は、セネーバにおいて最底辺に近い。……辺境伯領においてゼルさん達鉱夫の扱いが、そうであるように。
最悪命が失われたとしても、所属する国の交易を優位にするぐらいの価値しかない、使い捨て可能な駒。それがゼルさんや、アニカ達の立場だ。だからこそ、全てを自己責任とされる商人以外に、二国間の行き来を許可された。
言うならば、彼らは、彼女達は、二国における交易反対派の反応を見る為の試験紙であり、最悪の場合いつでも切り捨てられる存在なのだ。
それがわかっていて、俺はゼルさんや、アニカの孤児院に、国をまたぐことを要請した。必ず俺が安全を保証すると、そう説得して。
俺は本当に、罪深い存在だ。……だからこそ、罪を重ねない為にも、絶対に彼らや彼女達を守りたい。それがただの自己正当化の為に過ぎなかったとしても。
「俺が離れることで、貴方達は襲撃を受ける可能性があります。けれどそれは同時に、子どもにも手を出すような外道な不穏分子を洗い出すことでもあります。利用していると、私のことを恨んでくれても構いません。貴方も子ども達も、必ず無事にセネーバに帰還してください」
子ども達に聞こえないように耳元で囁いた言葉に、チルシアさんは驚いたように目を見開いた後、ひどく優しい笑みを浮かべた。
「貴方は驚くほどに正直な方ですね。為政者として、それが正しいのか正しくないのかは、私程度では判断がつきませんが、少なくとも私個人はとても好感を持ちました」
そう言ってチルシアさんは、その場に片膝をついた。
「私はセネーバ王族に仕えているのではなく、アストルディア殿下個人に仕えております。殿下から貴方の命令は遵守するようにと命じられたので、貴方がどのような方でも忠実に従うつもりでしたが、気が変わりました。貴方がセネーバとリシス王国の未来について、どう考えているか教えてください」
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