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やって来ました。職業斡旋場

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「ーーはい。いらっしゃい。お嬢ちゃん。何か仕事を探しているのかい?」

 そんなわけで、家族に内緒でやって来ました、国営の職業斡旋場。
 仕事を見つけた後に「私、本当は外の世界を知りたかったんだ!」とでも言えば、家族は何とでもなるだろう。

 ……ってかさ、何でさ私一言も希望を言ってないのに、家族みんな、「とりあえずまずは私に恋愛をさせよう」ってことで一致してるの? 
 見合いの斡旋も、爽やかマッチョ騎士の後輩紹介してくれるのも、地域の若者の集まりに参加させようとするのも、本当やめて欲しい。……恋愛とか、本当あまり興味ないんで。時期尚早なんで。

「はい。そうなんです」

「おお、良いタイミングで来たな。お嬢ちゃんくらいの女の子に、ちょうど良い求人がいくつか出てるんだ。食事処の給仕の仕事とか、貴族のお屋敷のメイドとか。……ああ、針子の仕事や、薬草農園の手伝いってのも……」  

「……コカトリス……」

「……え?」

「養コカトリス場の手伝いの求人はありませんか?」

 せっかく、ここまでコカトリスの世話のノウハウを身につけたからには、今後もそれを生かしたい。
 ……やっぱり、他の農場に比べても実入りも良いし。
 で、出来ればそこが後継者がいない所で、そのままちゃっかり後を継げれば最高なんだけど。

 しかし、私の言葉に、職業斡旋場のおっさんは顔を曇らせる。

「……あのさあ、お嬢ちゃん。凶暴なコカトリスの世話が、どれだけ大変で恐ろしいことか分かっているかい? 油断すれば、石にされるし、毒にやられるし、鋭利な嘴で刺されるしで、本当に危険なんだよ。十年くらい前から先日まで、ずーっとその求人出してたけど、大の男ですらやりたがらず、全く応募がなかったくらいなんだ」

「実家が養コカトリス場で、ずっと手伝いをしてたので、よく分かってます! 石にされたし、毒にやられたし、嘴に刺されましたが、治ったので気にしてません! その応募がなかった求人、やらせて下さい!」

 ふっ……おっさんよ。遠慮することはない、私は経験者だ。そして経験者が、職業斡旋において優遇されるのは、世の常。

 さあ、四の五の言わず、その求人を私に寄越すがいい!

「っ……実家が養コカトリス場でずっと手伝ってたって……お嬢ちゃん、もしかしてアーシュさんの娘さんかい?」

 ……あれ。おっちゃん。
 父さんのお知り合い?

 
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