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セルドアイベント?21

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 そんなこともあったな。
 私が風邪をひいてコカトリスの餌やりができなかったから、姉さんが代わりにやるって言い張って。
 石化はされなかったのだけど、嘴で足を突かれて腕にひどい怪我をしてしまったから、それが申し訳なくて落ち込む姉さんの為に冬が旬のアカネルのケーキを焼いたんだっけ。

「……あの時の怪我、まだ残ってるの?」

「いいえ。治癒魔法を使ってくれた魔術師の腕がよかったから、もう綺麗さっぱり跡はないわ」

「姉さんは、あのことがあったからコカトリスが嫌いになったの?」

 私の言葉に姉さんはフォークを運ぶ手を止めた。

「まさか。……それより、ずっとずっと前から嫌いだわ。貴女がコカトリスのせいで傷つくのを、何度も何度も見てたもの」

 --転生して自分の家が、養コカトリス場を営んでいると気づいた時、私はうれしかった。
 きっとこれは神様が、前世で果たせなかった養鶏場の跡継ぎとなる夢を、多少変質的とはいえやり直させてくれるんだって思って。
 だからこそ、どれほど周りにとめられても、怪我をしても、よちよち歩きの頃からコカトリスに関わろうとしてきたのだけど。

「ごめんね。姉さん。……私が傷つくたびに、姉さんもずっと傷ついてきたんだね」

 私の言葉に、姉さんは唇を噛んだ。

「……貴女が謝ることじゃないわ。私が病弱じゃなければ、こんな苦労を貴女はしなくてもよかったのだもの」

「違うよ。姉さん。姉さんが病弱だとか、関係ないんだ。たとえ姉さんが健康だったとしても、私は同じことをしてたもの」

 大好きで優しい家族を傷つけたくなくて、前世でも今世でも自分の本当の気持ちを隠してた。
 でもその結果……結局私は家族を傷つけてしまった。前世でも、今世でも。
 だからもう、私は気持ちを、隠したりなんかしない。

「私、コカトリスが好きなんだ。養コカトリス場の仕事も、すごく好きで、小さい頃からずっと跡を継ぎたいと思ってた」

 目を見開く姉さんの体を、そのまま強く抱き締める。
 昨日、兄ちゃんにそうしたように。

「せっかくずっと心配してくれていたのに。私の為を思って、ハミルさんに跡継ぎになってもらったのに。ごめんね。姉さん」

 ちゃんと、伝えないと。
 逃げずに、向き合わないと。

「私……姉さんのことが大好きだよ」

 たとえ明日、永遠の別れが訪れても、後悔しないように。


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