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ルクレア・ボレアという女
エンジェ・ルーチェを騙る悪魔2
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なんてこったい。うっかり髪を切り過ぎたのかい?
髪の色も黒いけど、あれか。前世で日本人だったころの黒髪が恋しくなって、染めちゃっただけだろ? ね? そうだといってくれ。
私が半ば現実逃避的なことを考えている間に、エンジェちゃんは更なる凶行に至った。
「……濡れて張り付いて気持ち悪ぃから、上だけでも脱いじまうか」
なんと、この場で濡れた制服の上を、脱ぎだしたのだ。
……うわい、美少女の脱着シーンだ。ウレシ―ナ。高貴な家柄だから、他人様の下着姿なんか見る機会ないんだよね……ははははは
あれ、エンジェちゃん、ブラジャーしてないんか? 駄目だよ。女の子なんだから。そして随分ヒンヌーだね。おかしいな。君は確かつるぺた属性じゃなかったと記憶しているんだが。
いや、つるぺたではないね。つるぺたって言ったら語弊があるね。厚みはあるもんね。しっかり胸筋ついている感じだね。細身だけど筋肉質なのか、うっすらお腹割れているね。
女の子が夢見る、理想の上半身だね!――男性の場合は!
はい、分かっているよ。分かっていますよ。自分自身もう誤魔化すことが出来ないくらい、決定的でとんでもないもん、見ちゃったって分かってますよ。
分かっているけどさ、脳が理解できないんですよ。理解を拒むんですよ、この状況を。
――乙女ゲームのヒロインの子が、実は女装した男だったという、この状況をっ!
な、何が起こっているんだ。訳が分からん。
分からんけど、なんかやばい気がする。汗がだらだら出て来たし、心臓がばっくんばっくん激しくなっている。
なんか、やばい気がする。私がエンジェちゃんの上半身を見ちゃったことを、彼女が実は男だと知っちゃったことを、エンジェちゃんにばれたら、とんでもないことが起りそうな気がする。
昔から、このての勘は外れたことが無いんだよな、残念ながら。
落ち着け、落ち着け、私。大きく深呼吸……をしたら音でばれるかもしれないから、静かに息だけ吸って。小さく吐いて。……すっ……はー………うん、大丈夫。
取りあえず、逃げよう。まずはエンジェちゃんに見つかる前に、この場から逃げよう。それが第一だ。
彼女の正体は誰なのか、何故女装をしているか、そう言った疑問は後でゆっくり考えるなり、調査するなりすればいい。まずは、この場を去ろう。
私は、けして足音を立てないように、ゆっくりトイレの入り口へと足を進めていく。
あと、3歩。
あと、2歩。
あと1……
あと1歩。あと1歩で入口から外に出られるというところで、鏡越しにエンジェちゃんと目があってしまった。
固まる私。
目を見開く、エンジェちゃん。
暫し互いに身動きすることなく、ただ互いを見つめ合う。
最初に動きを見せたのは、エンジェちゃんだった。
エンジェちゃんは一瞬目を伏せたかと思うと、次の瞬間。
にたぁぁと。にたぁぁと、口端を裂かんばかりに吊り上げて嗤ったのだ。
さながら悪魔の笑みのごとき、真っ黒な、邪悪な笑みで。
「ーーサーラム! ディーネ! シルフィ! ノムル! フォーメーションA!」
とっさに私は精霊たちに向かって、叫んだ。
「分カッタ!」
「サーラム、行キマスヨ!」
「マスター、転バナイヨウニ、気ヲツケテ!」
「マスタ……守ル……」
フォーメーションA。
それは精霊全体を駆使した、逃避コマンドである。
火の精霊サーラムは、水の精霊ディーネと協力して魔法を行い、蒸気に寄る目くらましを行う。
風の精霊シルフィは、追い風を利用して逃げ足の加速を。
土の精霊ノムルは、土障壁を作成して、敵の進行を妨げる。
普段は可愛くも生意気な奴らだが、こういう時は瞬時に命令を聞いてくれる頼もしい子たちである。
さぁ、逃げよう。さっさとトンズラここう。
知っちゃったことはばれたけど、とりあえず今は先延ばしにして!
しかし
「――【酩酊】」
フォーメーションAが展開される前に、エンジェちゃんが何かの呪文を口にした。
途端、4体の体がくにゃりと歪み、そのまま地面に落ちていく。
「っサーラム! ディーネ! シルフィ! ノムル!」
地面に落ちる前に、何とか4体ともキャッチ出来た。
キャッチ出来たが、私自身は豪快にトイレの床にずっこけた。
体全体で身を挺して庇ってやったともいえる……うん、主の鏡だな。私は。しかし、痛いし、ばっちいぞ……うはっ。
だけど、そんなことは気にしてられない。精霊たちの安否の確認が第一だ。
慌てて4体を見やる。
「……っく……ひっく……マスター……マスター、マスター痛ソウ……ゴメンナザイっ! 原因ノ俺ヲ嫌ワナイデェー!」
「ナンカ世界が回ッテイルノレス……フワァァ……気持チイイレス」
「キャハハハ! マスター、マスタ-、ナイスキャッチ! ナイスキャッチ! キャハハハ!」
「……ぐぅ」
――ん?
こいつら、もしかして、酔っ払ってる?
髪の色も黒いけど、あれか。前世で日本人だったころの黒髪が恋しくなって、染めちゃっただけだろ? ね? そうだといってくれ。
私が半ば現実逃避的なことを考えている間に、エンジェちゃんは更なる凶行に至った。
「……濡れて張り付いて気持ち悪ぃから、上だけでも脱いじまうか」
なんと、この場で濡れた制服の上を、脱ぎだしたのだ。
……うわい、美少女の脱着シーンだ。ウレシ―ナ。高貴な家柄だから、他人様の下着姿なんか見る機会ないんだよね……ははははは
あれ、エンジェちゃん、ブラジャーしてないんか? 駄目だよ。女の子なんだから。そして随分ヒンヌーだね。おかしいな。君は確かつるぺた属性じゃなかったと記憶しているんだが。
いや、つるぺたではないね。つるぺたって言ったら語弊があるね。厚みはあるもんね。しっかり胸筋ついている感じだね。細身だけど筋肉質なのか、うっすらお腹割れているね。
女の子が夢見る、理想の上半身だね!――男性の場合は!
はい、分かっているよ。分かっていますよ。自分自身もう誤魔化すことが出来ないくらい、決定的でとんでもないもん、見ちゃったって分かってますよ。
分かっているけどさ、脳が理解できないんですよ。理解を拒むんですよ、この状況を。
――乙女ゲームのヒロインの子が、実は女装した男だったという、この状況をっ!
な、何が起こっているんだ。訳が分からん。
分からんけど、なんかやばい気がする。汗がだらだら出て来たし、心臓がばっくんばっくん激しくなっている。
なんか、やばい気がする。私がエンジェちゃんの上半身を見ちゃったことを、彼女が実は男だと知っちゃったことを、エンジェちゃんにばれたら、とんでもないことが起りそうな気がする。
昔から、このての勘は外れたことが無いんだよな、残念ながら。
落ち着け、落ち着け、私。大きく深呼吸……をしたら音でばれるかもしれないから、静かに息だけ吸って。小さく吐いて。……すっ……はー………うん、大丈夫。
取りあえず、逃げよう。まずはエンジェちゃんに見つかる前に、この場から逃げよう。それが第一だ。
彼女の正体は誰なのか、何故女装をしているか、そう言った疑問は後でゆっくり考えるなり、調査するなりすればいい。まずは、この場を去ろう。
私は、けして足音を立てないように、ゆっくりトイレの入り口へと足を進めていく。
あと、3歩。
あと、2歩。
あと1……
あと1歩。あと1歩で入口から外に出られるというところで、鏡越しにエンジェちゃんと目があってしまった。
固まる私。
目を見開く、エンジェちゃん。
暫し互いに身動きすることなく、ただ互いを見つめ合う。
最初に動きを見せたのは、エンジェちゃんだった。
エンジェちゃんは一瞬目を伏せたかと思うと、次の瞬間。
にたぁぁと。にたぁぁと、口端を裂かんばかりに吊り上げて嗤ったのだ。
さながら悪魔の笑みのごとき、真っ黒な、邪悪な笑みで。
「ーーサーラム! ディーネ! シルフィ! ノムル! フォーメーションA!」
とっさに私は精霊たちに向かって、叫んだ。
「分カッタ!」
「サーラム、行キマスヨ!」
「マスター、転バナイヨウニ、気ヲツケテ!」
「マスタ……守ル……」
フォーメーションA。
それは精霊全体を駆使した、逃避コマンドである。
火の精霊サーラムは、水の精霊ディーネと協力して魔法を行い、蒸気に寄る目くらましを行う。
風の精霊シルフィは、追い風を利用して逃げ足の加速を。
土の精霊ノムルは、土障壁を作成して、敵の進行を妨げる。
普段は可愛くも生意気な奴らだが、こういう時は瞬時に命令を聞いてくれる頼もしい子たちである。
さぁ、逃げよう。さっさとトンズラここう。
知っちゃったことはばれたけど、とりあえず今は先延ばしにして!
しかし
「――【酩酊】」
フォーメーションAが展開される前に、エンジェちゃんが何かの呪文を口にした。
途端、4体の体がくにゃりと歪み、そのまま地面に落ちていく。
「っサーラム! ディーネ! シルフィ! ノムル!」
地面に落ちる前に、何とか4体ともキャッチ出来た。
キャッチ出来たが、私自身は豪快にトイレの床にずっこけた。
体全体で身を挺して庇ってやったともいえる……うん、主の鏡だな。私は。しかし、痛いし、ばっちいぞ……うはっ。
だけど、そんなことは気にしてられない。精霊たちの安否の確認が第一だ。
慌てて4体を見やる。
「……っく……ひっく……マスター……マスター、マスター痛ソウ……ゴメンナザイっ! 原因ノ俺ヲ嫌ワナイデェー!」
「ナンカ世界が回ッテイルノレス……フワァァ……気持チイイレス」
「キャハハハ! マスター、マスタ-、ナイスキャッチ! ナイスキャッチ! キャハハハ!」
「……ぐぅ」
――ん?
こいつら、もしかして、酔っ払ってる?
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