12 / 191
ルクレア・ボレアという女
エンジェ・ルーチェを騙る悪魔4
しおりを挟む
唇が重なった瞬間、甘い香りがした。
まるで、脳髄に沁み渡るような、心蕩かすような、そんな酷く、甘い香りが。
考えて欲しい。
普通、トイレで変態的な格好をした男に突然キスされて胸をときめかす女がいるだろうか。
例え、相手がどんなに美形だったとしても、普通ドン引くのが当たり前ではないだろうか。
私だってそうだ。そんな倒錯的な……と耽美的目線で見るにしても、些か滑稽すぎるシチュエーションで、胸を高鳴らせる趣味は無い。恐怖故の吊り橋効果がある程度起こっていたとしても、それを恋ゆえの胸の高鳴りだなんて勘違いしない。して堪るか。こんな最悪なシチュエーション。特にファーストキスだったら、悲しすぎる。
だけど、その甘い香りを真近で嗅いだ途端、頭の中が真っ白になった。
唇から触れた箇所から熱が広がり、全身が熱くなる。
心臓が、激しく鼓動を打つのが分かる。
見開いた目が、観察するようにこちらに向けられた、エンジェちゃんのエメラルド色の瞳とかち合った瞬間、体の奥が歓喜に震えるのが分かった。
――あぁ、なんて、素敵な、人だろう。
こんな素敵な人、見たことが無い。
この人こそ、私が求めていた人なんだ。
頬が赤く染まり、離れた唇と唇の間から熱い溜息が零れる。
まるで熱に浮かされたかのような高揚が、私の全身を包み込む。
きゅうっと胸の奥が締め付けられるような感覚に、私は咄嗟に息を飲む。恥ずかしくて、まともにエンジェちゃんの方を見ることが出来ない。
この感覚は、知っている。遥か昔。前世の、それも、まだ少女だったころ、同じような感覚に襲われた。
――そう、これは、恋だ。私は今、今世で初めて、恋に落ちたのだ。恋した人以外には、他が何も見えなくなるような、激しい恋に。
この人が欲しい。
この人の物に、なりたい。
この人の為だったら、なんだって、する。
エンジェちゃんの口端が、吊り上るのが見えた。先程までは悪魔の笑みにしか見えなかったのに、今はうっとりする程、魅力的な笑みに見える。
「――やっぱり女相手だと、楽でいいな」
「……?」
呟いた言葉を瞬時に理解できなかった。こんな察しが悪い私を、この人は嫌うだろうか。そう考えると、酷く悲しくなる。
嫌わないで。馬鹿な女だと、厭わないで。あなたに嫌われたら、死にそうなくらい、悲しい。
「なぁ、糞女、俺が好きか?」
含み笑いと共に告げられた問いに、私は一にも無く頷く。
「……好きです。大好きです」
好きで好きで、仕方ない。あなた程大切な人なんて、この世にいない。
あなただけが、私の全てを支配する。
あなたに、私は支配されたい。
「じゃあ、俺の為なら、何でも出来るよな?――俺の、下僕になれるよな?」
「当たり前ですっ!」
もうとうに、私の心は、あなたに縛られている。
私は、あなたの恋の奴隷。
恋の下ぼ……
……下僕?
……っちょ、ちょっと待てや! おいっ!
我に返った時には、既にもう遅かった。
「……言質をとったぜェ。糞女?」
悪魔は、高笑いしながらその手に魔力を溜め、私の首元に掲げた。
「――【隷属】」
悪魔が差し出した手から放出された光は、私の首元に集中し、特殊な印を形作る。
悪魔の魔力が全身に沁み渡り、脳を、体内を、作り替えていくおぞましい感覚に、私は声にならない悲鳴を上げる。
身を焼くような、強い光が私の全身を包み込み、そして瞬時に消えて行った。
女子トイレの床に手をついて、ぐったりと項垂れる私の前に屈み込んだ悪魔は、私の顎を掴んで顔を上げさせながら、邪悪に笑う。
「――さて、俺の下僕になった気分はどうだ?糞女チャン?」
ぎりと歯を噛みしめて悪魔を睨み付ける私の首には、【隷属の印】がくっきりと彫り込まれていた。
まるで、脳髄に沁み渡るような、心蕩かすような、そんな酷く、甘い香りが。
考えて欲しい。
普通、トイレで変態的な格好をした男に突然キスされて胸をときめかす女がいるだろうか。
例え、相手がどんなに美形だったとしても、普通ドン引くのが当たり前ではないだろうか。
私だってそうだ。そんな倒錯的な……と耽美的目線で見るにしても、些か滑稽すぎるシチュエーションで、胸を高鳴らせる趣味は無い。恐怖故の吊り橋効果がある程度起こっていたとしても、それを恋ゆえの胸の高鳴りだなんて勘違いしない。して堪るか。こんな最悪なシチュエーション。特にファーストキスだったら、悲しすぎる。
だけど、その甘い香りを真近で嗅いだ途端、頭の中が真っ白になった。
唇から触れた箇所から熱が広がり、全身が熱くなる。
心臓が、激しく鼓動を打つのが分かる。
見開いた目が、観察するようにこちらに向けられた、エンジェちゃんのエメラルド色の瞳とかち合った瞬間、体の奥が歓喜に震えるのが分かった。
――あぁ、なんて、素敵な、人だろう。
こんな素敵な人、見たことが無い。
この人こそ、私が求めていた人なんだ。
頬が赤く染まり、離れた唇と唇の間から熱い溜息が零れる。
まるで熱に浮かされたかのような高揚が、私の全身を包み込む。
きゅうっと胸の奥が締め付けられるような感覚に、私は咄嗟に息を飲む。恥ずかしくて、まともにエンジェちゃんの方を見ることが出来ない。
この感覚は、知っている。遥か昔。前世の、それも、まだ少女だったころ、同じような感覚に襲われた。
――そう、これは、恋だ。私は今、今世で初めて、恋に落ちたのだ。恋した人以外には、他が何も見えなくなるような、激しい恋に。
この人が欲しい。
この人の物に、なりたい。
この人の為だったら、なんだって、する。
エンジェちゃんの口端が、吊り上るのが見えた。先程までは悪魔の笑みにしか見えなかったのに、今はうっとりする程、魅力的な笑みに見える。
「――やっぱり女相手だと、楽でいいな」
「……?」
呟いた言葉を瞬時に理解できなかった。こんな察しが悪い私を、この人は嫌うだろうか。そう考えると、酷く悲しくなる。
嫌わないで。馬鹿な女だと、厭わないで。あなたに嫌われたら、死にそうなくらい、悲しい。
「なぁ、糞女、俺が好きか?」
含み笑いと共に告げられた問いに、私は一にも無く頷く。
「……好きです。大好きです」
好きで好きで、仕方ない。あなた程大切な人なんて、この世にいない。
あなただけが、私の全てを支配する。
あなたに、私は支配されたい。
「じゃあ、俺の為なら、何でも出来るよな?――俺の、下僕になれるよな?」
「当たり前ですっ!」
もうとうに、私の心は、あなたに縛られている。
私は、あなたの恋の奴隷。
恋の下ぼ……
……下僕?
……っちょ、ちょっと待てや! おいっ!
我に返った時には、既にもう遅かった。
「……言質をとったぜェ。糞女?」
悪魔は、高笑いしながらその手に魔力を溜め、私の首元に掲げた。
「――【隷属】」
悪魔が差し出した手から放出された光は、私の首元に集中し、特殊な印を形作る。
悪魔の魔力が全身に沁み渡り、脳を、体内を、作り替えていくおぞましい感覚に、私は声にならない悲鳴を上げる。
身を焼くような、強い光が私の全身を包み込み、そして瞬時に消えて行った。
女子トイレの床に手をついて、ぐったりと項垂れる私の前に屈み込んだ悪魔は、私の顎を掴んで顔を上げさせながら、邪悪に笑う。
「――さて、俺の下僕になった気分はどうだ?糞女チャン?」
ぎりと歯を噛みしめて悪魔を睨み付ける私の首には、【隷属の印】がくっきりと彫り込まれていた。
2
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる