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ルクレア・ボレアという女
エンジェ・ルーチェを騙る悪魔4
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唇が重なった瞬間、甘い香りがした。
まるで、脳髄に沁み渡るような、心蕩かすような、そんな酷く、甘い香りが。
考えて欲しい。
普通、トイレで変態的な格好をした男に突然キスされて胸をときめかす女がいるだろうか。
例え、相手がどんなに美形だったとしても、普通ドン引くのが当たり前ではないだろうか。
私だってそうだ。そんな倒錯的な……と耽美的目線で見るにしても、些か滑稽すぎるシチュエーションで、胸を高鳴らせる趣味は無い。恐怖故の吊り橋効果がある程度起こっていたとしても、それを恋ゆえの胸の高鳴りだなんて勘違いしない。して堪るか。こんな最悪なシチュエーション。特にファーストキスだったら、悲しすぎる。
だけど、その甘い香りを真近で嗅いだ途端、頭の中が真っ白になった。
唇から触れた箇所から熱が広がり、全身が熱くなる。
心臓が、激しく鼓動を打つのが分かる。
見開いた目が、観察するようにこちらに向けられた、エンジェちゃんのエメラルド色の瞳とかち合った瞬間、体の奥が歓喜に震えるのが分かった。
――あぁ、なんて、素敵な、人だろう。
こんな素敵な人、見たことが無い。
この人こそ、私が求めていた人なんだ。
頬が赤く染まり、離れた唇と唇の間から熱い溜息が零れる。
まるで熱に浮かされたかのような高揚が、私の全身を包み込む。
きゅうっと胸の奥が締め付けられるような感覚に、私は咄嗟に息を飲む。恥ずかしくて、まともにエンジェちゃんの方を見ることが出来ない。
この感覚は、知っている。遥か昔。前世の、それも、まだ少女だったころ、同じような感覚に襲われた。
――そう、これは、恋だ。私は今、今世で初めて、恋に落ちたのだ。恋した人以外には、他が何も見えなくなるような、激しい恋に。
この人が欲しい。
この人の物に、なりたい。
この人の為だったら、なんだって、する。
エンジェちゃんの口端が、吊り上るのが見えた。先程までは悪魔の笑みにしか見えなかったのに、今はうっとりする程、魅力的な笑みに見える。
「――やっぱり女相手だと、楽でいいな」
「……?」
呟いた言葉を瞬時に理解できなかった。こんな察しが悪い私を、この人は嫌うだろうか。そう考えると、酷く悲しくなる。
嫌わないで。馬鹿な女だと、厭わないで。あなたに嫌われたら、死にそうなくらい、悲しい。
「なぁ、糞女、俺が好きか?」
含み笑いと共に告げられた問いに、私は一にも無く頷く。
「……好きです。大好きです」
好きで好きで、仕方ない。あなた程大切な人なんて、この世にいない。
あなただけが、私の全てを支配する。
あなたに、私は支配されたい。
「じゃあ、俺の為なら、何でも出来るよな?――俺の、下僕になれるよな?」
「当たり前ですっ!」
もうとうに、私の心は、あなたに縛られている。
私は、あなたの恋の奴隷。
恋の下ぼ……
……下僕?
……っちょ、ちょっと待てや! おいっ!
我に返った時には、既にもう遅かった。
「……言質をとったぜェ。糞女?」
悪魔は、高笑いしながらその手に魔力を溜め、私の首元に掲げた。
「――【隷属】」
悪魔が差し出した手から放出された光は、私の首元に集中し、特殊な印を形作る。
悪魔の魔力が全身に沁み渡り、脳を、体内を、作り替えていくおぞましい感覚に、私は声にならない悲鳴を上げる。
身を焼くような、強い光が私の全身を包み込み、そして瞬時に消えて行った。
女子トイレの床に手をついて、ぐったりと項垂れる私の前に屈み込んだ悪魔は、私の顎を掴んで顔を上げさせながら、邪悪に笑う。
「――さて、俺の下僕になった気分はどうだ?糞女チャン?」
ぎりと歯を噛みしめて悪魔を睨み付ける私の首には、【隷属の印】がくっきりと彫り込まれていた。
まるで、脳髄に沁み渡るような、心蕩かすような、そんな酷く、甘い香りが。
考えて欲しい。
普通、トイレで変態的な格好をした男に突然キスされて胸をときめかす女がいるだろうか。
例え、相手がどんなに美形だったとしても、普通ドン引くのが当たり前ではないだろうか。
私だってそうだ。そんな倒錯的な……と耽美的目線で見るにしても、些か滑稽すぎるシチュエーションで、胸を高鳴らせる趣味は無い。恐怖故の吊り橋効果がある程度起こっていたとしても、それを恋ゆえの胸の高鳴りだなんて勘違いしない。して堪るか。こんな最悪なシチュエーション。特にファーストキスだったら、悲しすぎる。
だけど、その甘い香りを真近で嗅いだ途端、頭の中が真っ白になった。
唇から触れた箇所から熱が広がり、全身が熱くなる。
心臓が、激しく鼓動を打つのが分かる。
見開いた目が、観察するようにこちらに向けられた、エンジェちゃんのエメラルド色の瞳とかち合った瞬間、体の奥が歓喜に震えるのが分かった。
――あぁ、なんて、素敵な、人だろう。
こんな素敵な人、見たことが無い。
この人こそ、私が求めていた人なんだ。
頬が赤く染まり、離れた唇と唇の間から熱い溜息が零れる。
まるで熱に浮かされたかのような高揚が、私の全身を包み込む。
きゅうっと胸の奥が締め付けられるような感覚に、私は咄嗟に息を飲む。恥ずかしくて、まともにエンジェちゃんの方を見ることが出来ない。
この感覚は、知っている。遥か昔。前世の、それも、まだ少女だったころ、同じような感覚に襲われた。
――そう、これは、恋だ。私は今、今世で初めて、恋に落ちたのだ。恋した人以外には、他が何も見えなくなるような、激しい恋に。
この人が欲しい。
この人の物に、なりたい。
この人の為だったら、なんだって、する。
エンジェちゃんの口端が、吊り上るのが見えた。先程までは悪魔の笑みにしか見えなかったのに、今はうっとりする程、魅力的な笑みに見える。
「――やっぱり女相手だと、楽でいいな」
「……?」
呟いた言葉を瞬時に理解できなかった。こんな察しが悪い私を、この人は嫌うだろうか。そう考えると、酷く悲しくなる。
嫌わないで。馬鹿な女だと、厭わないで。あなたに嫌われたら、死にそうなくらい、悲しい。
「なぁ、糞女、俺が好きか?」
含み笑いと共に告げられた問いに、私は一にも無く頷く。
「……好きです。大好きです」
好きで好きで、仕方ない。あなた程大切な人なんて、この世にいない。
あなただけが、私の全てを支配する。
あなたに、私は支配されたい。
「じゃあ、俺の為なら、何でも出来るよな?――俺の、下僕になれるよな?」
「当たり前ですっ!」
もうとうに、私の心は、あなたに縛られている。
私は、あなたの恋の奴隷。
恋の下ぼ……
……下僕?
……っちょ、ちょっと待てや! おいっ!
我に返った時には、既にもう遅かった。
「……言質をとったぜェ。糞女?」
悪魔は、高笑いしながらその手に魔力を溜め、私の首元に掲げた。
「――【隷属】」
悪魔が差し出した手から放出された光は、私の首元に集中し、特殊な印を形作る。
悪魔の魔力が全身に沁み渡り、脳を、体内を、作り替えていくおぞましい感覚に、私は声にならない悲鳴を上げる。
身を焼くような、強い光が私の全身を包み込み、そして瞬時に消えて行った。
女子トイレの床に手をついて、ぐったりと項垂れる私の前に屈み込んだ悪魔は、私の顎を掴んで顔を上げさせながら、邪悪に笑う。
「――さて、俺の下僕になった気分はどうだ?糞女チャン?」
ぎりと歯を噛みしめて悪魔を睨み付ける私の首には、【隷属の印】がくっきりと彫り込まれていた。
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