乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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オージン・メトオグという王子

オージン・メトオグという王子6

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 放課後。
 
 供も友人も連れず、一人で人気が無い第2学棟の廊下を歩いていたオージンが、不意に振り返った。

「……で、いつまでそうしているつもりなのかな? 何か二人きりで話をしたいことがあるなら、ここが丁度良いと思うけど」

 まさか気づかれていたとは。
 にっこりと爽やかスマイルを浮かべているオージンの視線が確実に私が隠れている物陰に向けられている以上、今さら逃げ出すわけにもいくまい。

「あら、気付いていらっしゃったなら、声を掛けて下されば良かったのに。気付いていて気付かないふりをしていたなんて意地が悪いですわ、殿下」

 物陰から出た私は、派手な装飾付のマイ扇を口元に当てながら、意味ありげにオージンに視線を送る。
 オージンは既に私の正体を察していたのか、全く驚く様子も見せず、ただ笑いながら小さく肩を竦めた。

「美人に視線を送られるのはなかなか気分が良かったから、ついつい声を掛けそびれてしまったんだ」

「噂通り、女性を誉めることがお上手でいらっしゃるのね」

 私は扇を懐にしまうと、優美にスカートの端を摘まんで、貴族女性の礼をとって見せた。角度まで計算され尽くした、模範的優雅な礼を。

「ご機嫌麗しゅう。オージン殿下。私は、ルクレア・ボレアと申します」

 そんな私の態度に、オージンは苦笑いを浮かべる。

「そんな改まって自己紹介をされなくたって、この学園で君の名を知らないものはいないよ。……でもこうしてちゃんと面と向かって話すのは、初めてだね。私も君に自己紹介をした方がいいのかな?」

「この学園で、いや、この国でオージン殿下を知らない人間なんて、それそ道理が分かっていない幼子くらいですわ」

「なら、自己紹介は省くとしよう」

 オージンもまた、自身の胸に手を当てて、優雅に礼をとった。

「ご機嫌麗しゅう。ルクレア嬢。間近で見る貴女は、太陽のごとく輝かんばかりの美しさだね」

 オージンの言葉に、礼をやめた私は含み笑いを浮かべた。

「ありがとうございます。太陽だなんて、殿下にそのように誉めて頂けて嬉しいですわ」

 そしてそのまま不自然にならないように、愉しげな調子のまま言葉を続けた。

「――だけど殿下は、流石に私を『天使』だとは例えては下さらないのですね」

 オージンは一瞬目を見開いていたが、すぐにまた先程までと同じ笑みを浮かべて見せた。

「ごめんね。ルクレア嬢。メトオグ家にとって、『天使』は特別な存在なんだ。唯一人、真実愛する相手じゃない限り、使えないな」


 メトオーゲ王国の始祖、ファスト・メトオグは、かつて魔王の支配から国を救った英雄だった。

 聖魔法と光魔法、生まれながらに両方の力を持った美しい天使の加護を受けたファストは、天使から光魔法を譲り受けて、邪悪な魂を持つ怪物を打ち払ったという。
 天使は、平和になった国を守れるように、残った聖魔法の能力も国の聖女にわけ与え、二つの力を譲り渡した代償にその背の羽根を失ってしまう。羽根を無くした天使は、天の国に二度と帰れない。

 天使を愛したファストは、天使を妻に迎え、そこからメトオグ王家は興る。

 メトオグ家は、天使の血を引くと言われている一族。
 メトオグ家の人たちにとって、『天使』は、他の国民以上に特別な存在なのだ。

「分かってますわ。ちょっと言ってみただけですわ」

 冗談めかしてそう続けると、オージンはどこか安堵したような表情を浮かべた。ボレア家は王家といえど、簡単に無碍には出来ない大貴族だ。もし私が本気だったとしたら、さぞかし面倒だと思ったのだろう。
 ちょっとムカつくが気持ちはわかる。

「……で、ルクレア嬢は私に何の御用かな? 今日一日、ずっと私を見ていたようだけど」

「――実は、ちょっとした噂を耳に挟みましたの。その噂の真偽を確かめたいと思いまして」

 私はその真意を測るかのように、真っ直ぐにオージンのエメラルド色の瞳を見つめた。
 僅かな反応すら、けして見逃さないように。

「殿下に、『天使』と例えるような相手が出来たという噂は本当ですの?」
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