乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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オージン・メトオグという王子

オージン・メトオグという王子7

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 オージンは私の言葉に、驚いたようにぱちぱちと長い睫毛を揺らして、瞬きをした。

「そんな噂が流れているの?」

「……あくまで一部のもののの間ですけれども」

 嘘である。
 完全にはったりである。

 しかし、そんな素振りは未然も見せず、私は挑発的にオージンに微笑みかける。

「恋というものは厄介なものですわね。いかに立ち回りがお上手な殿下でも、完全に隠しきれないようなのですから。相手までは分からずとも、殿下が恋されていることは、普段殿下に熱い眼差しを送っている方には一目瞭然みたいですわね」

 次期王と言われているオージンに恋い焦がれる女生徒は少なくない。
 大規模なファンクラブが存在しているという噂も耳に挿んだことがある。情報源を、そんなファンクラブの誰かだとすれば、オージンの挙動から彼の秘めた想いに気づくことは十分あり得ることだ。
 
 ……まぁ、実際はただのカマかけだけど。情報を集めるなんて面倒くさいこと、わざわざしません。
 下手に動いても、情報提供の代わりに何請求されるかわからんし。

 情報屋も、全てが全てキエラのように分かりやすい報酬規定と、信用性を持っているとは限らない。
 守秘義務が課されるべきな依頼内容を、情報としてよそに転売する可能性だってあるのだから、大貴族ボレア家のものとしてはあまり利用したくないのが本音だ。
 かといって、こんなことの為に、ボレア家専属の諜報員を使うことも躊躇われる。

 どうせ乙女ゲームユーザーとしての記憶で、確証は得ずとも、推測はできるのだ。労力を掛けないにこしたことはない。

「殿下が誰を見初めるかで、事と次第によってはボレア家の立ち位置も変わって来ますもの。だから、噂の真相を確かめたいと思いましたの。……後をつけるような真似をして、申し訳ありません」

「いや……その……まいったな」

 オージンは大きくため息を吐いて、頭を抱えた。銀色の髪が揺れて、反射できらっと光る。
 ……いや、さらさら王子様ヘアだね。本当

「完全に隠し切れていると思ったのに……」

 よっしゃ、カマかけ成功! 
 流石、ハイスペックな私! 完全に王子騙しきったぜ!

 ……しかし、いくら私が演技力までハイスペックな完璧美少女とはいえ、こうもあっさり白状してしまって、いいもんかね。こんな奴、王にして大丈夫なんか、この国は。外交上で足救われても知らんぞ。全く。

「……恋する乙女の洞察力を舐めてはいけませんわ」

 そんな内心をおし隠して、私は余裕の笑みを浮かべて見せる。びーくーるが、大切です。常にびーくーるな姿勢が。

「そのようだ……。思春期の女性とは随分と手ごわく、厄介な生き物だね」

「あら、女性ばっかりなんてひどいですわ。思春期の男性だって、そう変わらないのではありません? 恋する人間の変化に、性別は関係ありませんもの。恋は人を、時には聡明に。時には愚かに、気まぐれに変えるものですから」

「……そうだね。そうに違いない。そう考えると、恋とはとても恐ろしい感情だね」

 オージンは納得したようにうなずくと、先程漏らした以上に多くな溜息を吐きだした。
 そして真っ直ぐ私を見つめながら、尋ねる。


「……ねぇ、ルクレア嬢。君は恋をしたことがあるかい?」

「――私、ですか?」

「その人を想えば胸が苦しくなり、それでも四六時中、気が付けばその人を考えずにはいられないような、そんな熱病のように激しい恋を」

 オージンの言葉に、私は眉間に皺を寄せて考え込む。

 ……どうなんだろうか。私は恋をしたことがあるのだろうか。

 前世では多分、恋をしたことはあるのだと思う。
 喪女バリバリだったが、29年も生きていれば、多少の恋愛経験もある。

 だけど、どう思い返しても、そんな激しい恋に落ちた覚えはない。

 なんとなく、好きだな、と思うような、その程度だった気がする。婚活を始めて以降は、胸のときめきよりも、むしろ現実的な条件の良さばかり着目していたような……。

 ……いや、そういえば、二次元のキャラには定期的にどっぷり嵌って夢中になっていたな。四六時中そのキャラのことを考えては胸が締め付けられ、叶わぬ恋の代償に、キャラクターグッズを買いあさっていたような……。
 うむ、まさにオージンの言葉にぴったり当てはまる状況……。

 ……あれ、これ恋? 二次元萌えって、恋?
 おかしいな、よくわかんなくなってきたぞ。
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