乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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オージン・メトオグという王子

オージン・メトオグという王子11

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 ルクレア・ボレアは悪役だ。いや、悪役と言うより端役と言ってしまった方がいいのかもしれない。

 序盤に、ヒロインであるエンジェ・ルーチェに数多の嫌がらせをして、攻略キャラの出会いイベントを起こした後は、ルクレアは試験や魔術大会、学園祭のような行事イベントのみに現れてヒロインにちょっかいを書けるチョイ役に成り下がる。
 攻略キャラとの恋愛に夢中になっているユーザーからしては、「……そういやいたなぁ、こんなキャラ」「噛ませ犬イベントとかどうでもいいから、攻略キャラはよ。恋愛イベントはよ」と思うようなキャラだった。……うん、前世の私の思考ではあるが、ルクレアに転生した今の現状からすると非常に悲しい思いに駆られるな。もっと愛してくれよ。ルクレア・ボレアというキャラクターをさ。

 ……まぁ、そんなイベント要因ともいえるショボイ役どころのルクレアだが、ゲーム中において、ルクレアが誰かに罰せられているかのような直接的場面は、その実一度もない。マシェルとはじめとしたキャラクターが、「嫌がらせをしないように釘を刺しておいた」という場面は複数あるものの、それでも彼らはヒロインの前で直接ルクレアと争うような場面は無かった。

 私はその理由を、「自分の喧嘩に手を出されることを、ヒロインであるエンジェ・ルーチェが嫌うから」だと思って、さして気にしていなかった。
 いくら悪役とはいえ、小学生の苛めのごとき嫌がらせしかしないルクレアが、家ごと叩き潰されて路頭に迷うような展開は見たくなかったし、ゲーム的にも別にそんな没落必要ないと思っていたからである。他人の不幸の陰に幸せがある恋愛エンドなんて、乙女ゲーム的にはあんまり嬉しくない。ヤンデレエンドなら、ちょっと美味しいかもしれないけれど。

 だけど、それだけが原因ではないことを今の私には分かる。

「――あまりボレア家を甘く見ないで下さる? 平常ならともかく、恋に狂って愚かになった殿下に負ける気はしませんわ」

 ボレア家が、それだけ強大な権力を持っているからだ。王族ですらやすやすと御せないほどの力を。一朝一夕でその力を削ぐのは不可能なほどの権力を。
 そして、私は権力に甘んじているだけの、無能なお嬢様ではない。……正直権力に胡坐をかいて、無能さ全開でだらだら引きこもりでもやりたかったと思わないではないが、私を溺愛している両親はは幼少期の教育だけは譲らなかった。
『将来お前が家のお飾りになることを選ぶのは別に構わないが、私たちはお前に将来の選択肢を与える義務がある。だから、大人になってからは好きにしてもいいが、今だけは親のいうことを聞きなさい』……とのことだ。

 ……いや、元々ハイスペックかつ、転生者だから良かったけど、子どもにとっては虐待なんじゃないかとも思えるスパルタ教育でした。これだけ手間暇かけて、それでも将来自分でニートを選ぶのは自由だとか、懐が深いというか、なんというか……。
 
 おかげで私はあらゆる作法や勉学において、精通しているハイスペック令嬢にすくすく育ったわけだ。自分は甘やかされると際限なく甘えてだらける性質だから、今思えばありがたい。当時は結構親を恨んで、「おべんきょう……いやぁ」とウルウル上目づかいで親を籠絡しようとしては、罪悪感に苛ませていたわけだけど。
 ……ごめんよ。パピー、マミー。今は心から愛しているよ。

 まぁ、そんなわけでハイスペックになるべく教育されていた私が、繰り返し繰り返し親から言われた言葉がある。

『ボレア家としての誇りを持ちなさい』

 正直、当時の私には、この言葉がいまいちしっくりこなかった。

 元々私は自尊心は高くない。なんせ前世ではいじられキャラと言われていた私だ。馬鹿にされるのも、からかわれるのも慣れっこだ。今さらそんなことで気分を害したりはしない。

 誇り? なにそれ、おいしいの? 状態だった。

 成長するにつれて、貴族として誇りを持つことはいかに大切か身に染みて分かったのだが、元々持っていた考え方がそう簡単に変わりはしない。結果、私は自身の中に二つの「誇り」の持ち方をするようになった。

 一つは、私個人の元々の誇りの持ち方。少し虐げられたくらいじゃ気にも留めない、ルクレア個人の自尊心だ。ちょっとやそっとじゃ傷つきはしない鋼の心臓ともいう。

 もう一つは、ボレア家としての、ボレア家直系ルクレア・ボレアとしての誇りの持ち方だ。どんな些細なことだとしても、ボレア家に関する中傷はけして許さない、苛烈で攻撃的な自尊心である。

 その一見相反するように見える二つの自尊心は、ごく自然な形で私の中に根付いている。けして崩れることが無い、確かなものとして。

 今、デイビッドにさして反抗することなく従っているのは、デイビッドが私をルクレア個人として見ているからに他ならない。
 デイビッドは私を個人……ただの生意気な金持ちのお嬢さん程度に見ている。だからこそ、私は理不尽だとしか言えない現状も受け入れている。叩かれたりするのは腹が立つが、許容できる。

 だが、デイビッドが、私を「ボレア家」の人間として利用することをはじめたら。例え私はペナルティが脳髄を犯すことになったとしても、必死にデイビッドに刃向うだろう。それがボレア家を貶める行為だとしたら、舌を噛み切ってでも抵抗するだろう。

 それが私の、「ルクレア・ボレア」としての、矜持。

「首を洗って待っていてくださいませ――青二才が」


 この誇りを傷つけるものは、誰であろうと全力で排除する。

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