43 / 191
オージン・メトオグという王子
オージン・メトオグという王子11
しおりを挟む
ルクレア・ボレアは悪役だ。いや、悪役と言うより端役と言ってしまった方がいいのかもしれない。
序盤に、ヒロインであるエンジェ・ルーチェに数多の嫌がらせをして、攻略キャラの出会いイベントを起こした後は、ルクレアは試験や魔術大会、学園祭のような行事イベントのみに現れてヒロインにちょっかいを書けるチョイ役に成り下がる。
攻略キャラとの恋愛に夢中になっているユーザーからしては、「……そういやいたなぁ、こんなキャラ」「噛ませ犬イベントとかどうでもいいから、攻略キャラはよ。恋愛イベントはよ」と思うようなキャラだった。……うん、前世の私の思考ではあるが、ルクレアに転生した今の現状からすると非常に悲しい思いに駆られるな。もっと愛してくれよ。ルクレア・ボレアというキャラクターをさ。
……まぁ、そんなイベント要因ともいえるショボイ役どころのルクレアだが、ゲーム中において、ルクレアが誰かに罰せられているかのような直接的場面は、その実一度もない。マシェルとはじめとしたキャラクターが、「嫌がらせをしないように釘を刺しておいた」という場面は複数あるものの、それでも彼らはヒロインの前で直接ルクレアと争うような場面は無かった。
私はその理由を、「自分の喧嘩に手を出されることを、ヒロインであるエンジェ・ルーチェが嫌うから」だと思って、さして気にしていなかった。
いくら悪役とはいえ、小学生の苛めのごとき嫌がらせしかしないルクレアが、家ごと叩き潰されて路頭に迷うような展開は見たくなかったし、ゲーム的にも別にそんな没落必要ないと思っていたからである。他人の不幸の陰に幸せがある恋愛エンドなんて、乙女ゲーム的にはあんまり嬉しくない。ヤンデレエンドなら、ちょっと美味しいかもしれないけれど。
だけど、それだけが原因ではないことを今の私には分かる。
「――あまりボレア家を甘く見ないで下さる? 平常ならともかく、恋に狂って愚かになった殿下に負ける気はしませんわ」
ボレア家が、それだけ強大な権力を持っているからだ。王族ですらやすやすと御せないほどの力を。一朝一夕でその力を削ぐのは不可能なほどの権力を。
そして、私は権力に甘んじているだけの、無能なお嬢様ではない。……正直権力に胡坐をかいて、無能さ全開でだらだら引きこもりでもやりたかったと思わないではないが、私を溺愛している両親はは幼少期の教育だけは譲らなかった。
『将来お前が家のお飾りになることを選ぶのは別に構わないが、私たちはお前に将来の選択肢を与える義務がある。だから、大人になってからは好きにしてもいいが、今だけは親のいうことを聞きなさい』……とのことだ。
……いや、元々ハイスペックかつ、転生者だから良かったけど、子どもにとっては虐待なんじゃないかとも思えるスパルタ教育でした。これだけ手間暇かけて、それでも将来自分でニートを選ぶのは自由だとか、懐が深いというか、なんというか……。
おかげで私はあらゆる作法や勉学において、精通しているハイスペック令嬢にすくすく育ったわけだ。自分は甘やかされると際限なく甘えてだらける性質だから、今思えばありがたい。当時は結構親を恨んで、「おべんきょう……いやぁ」とウルウル上目づかいで親を籠絡しようとしては、罪悪感に苛ませていたわけだけど。
……ごめんよ。パピー、マミー。今は心から愛しているよ。
まぁ、そんなわけでハイスペックになるべく教育されていた私が、繰り返し繰り返し親から言われた言葉がある。
『ボレア家としての誇りを持ちなさい』
正直、当時の私には、この言葉がいまいちしっくりこなかった。
元々私は自尊心は高くない。なんせ前世ではいじられキャラと言われていた私だ。馬鹿にされるのも、からかわれるのも慣れっこだ。今さらそんなことで気分を害したりはしない。
誇り? なにそれ、おいしいの? 状態だった。
成長するにつれて、貴族として誇りを持つことはいかに大切か身に染みて分かったのだが、元々持っていた考え方がそう簡単に変わりはしない。結果、私は自身の中に二つの「誇り」の持ち方をするようになった。
一つは、私個人の元々の誇りの持ち方。少し虐げられたくらいじゃ気にも留めない、ルクレア個人の自尊心だ。ちょっとやそっとじゃ傷つきはしない鋼の心臓ともいう。
もう一つは、ボレア家としての、ボレア家直系ルクレア・ボレアとしての誇りの持ち方だ。どんな些細なことだとしても、ボレア家に関する中傷はけして許さない、苛烈で攻撃的な自尊心である。
その一見相反するように見える二つの自尊心は、ごく自然な形で私の中に根付いている。けして崩れることが無い、確かなものとして。
今、デイビッドにさして反抗することなく従っているのは、デイビッドが私をルクレア個人として見ているからに他ならない。
デイビッドは私を個人……ただの生意気な金持ちのお嬢さん程度に見ている。だからこそ、私は理不尽だとしか言えない現状も受け入れている。叩かれたりするのは腹が立つが、許容できる。
だが、デイビッドが、私を「ボレア家」の人間として利用することをはじめたら。例え私はペナルティが脳髄を犯すことになったとしても、必死にデイビッドに刃向うだろう。それがボレア家を貶める行為だとしたら、舌を噛み切ってでも抵抗するだろう。
それが私の、「ルクレア・ボレア」としての、矜持。
「首を洗って待っていてくださいませ――青二才が」
この誇りを傷つけるものは、誰であろうと全力で排除する。
序盤に、ヒロインであるエンジェ・ルーチェに数多の嫌がらせをして、攻略キャラの出会いイベントを起こした後は、ルクレアは試験や魔術大会、学園祭のような行事イベントのみに現れてヒロインにちょっかいを書けるチョイ役に成り下がる。
攻略キャラとの恋愛に夢中になっているユーザーからしては、「……そういやいたなぁ、こんなキャラ」「噛ませ犬イベントとかどうでもいいから、攻略キャラはよ。恋愛イベントはよ」と思うようなキャラだった。……うん、前世の私の思考ではあるが、ルクレアに転生した今の現状からすると非常に悲しい思いに駆られるな。もっと愛してくれよ。ルクレア・ボレアというキャラクターをさ。
……まぁ、そんなイベント要因ともいえるショボイ役どころのルクレアだが、ゲーム中において、ルクレアが誰かに罰せられているかのような直接的場面は、その実一度もない。マシェルとはじめとしたキャラクターが、「嫌がらせをしないように釘を刺しておいた」という場面は複数あるものの、それでも彼らはヒロインの前で直接ルクレアと争うような場面は無かった。
私はその理由を、「自分の喧嘩に手を出されることを、ヒロインであるエンジェ・ルーチェが嫌うから」だと思って、さして気にしていなかった。
いくら悪役とはいえ、小学生の苛めのごとき嫌がらせしかしないルクレアが、家ごと叩き潰されて路頭に迷うような展開は見たくなかったし、ゲーム的にも別にそんな没落必要ないと思っていたからである。他人の不幸の陰に幸せがある恋愛エンドなんて、乙女ゲーム的にはあんまり嬉しくない。ヤンデレエンドなら、ちょっと美味しいかもしれないけれど。
だけど、それだけが原因ではないことを今の私には分かる。
「――あまりボレア家を甘く見ないで下さる? 平常ならともかく、恋に狂って愚かになった殿下に負ける気はしませんわ」
ボレア家が、それだけ強大な権力を持っているからだ。王族ですらやすやすと御せないほどの力を。一朝一夕でその力を削ぐのは不可能なほどの権力を。
そして、私は権力に甘んじているだけの、無能なお嬢様ではない。……正直権力に胡坐をかいて、無能さ全開でだらだら引きこもりでもやりたかったと思わないではないが、私を溺愛している両親はは幼少期の教育だけは譲らなかった。
『将来お前が家のお飾りになることを選ぶのは別に構わないが、私たちはお前に将来の選択肢を与える義務がある。だから、大人になってからは好きにしてもいいが、今だけは親のいうことを聞きなさい』……とのことだ。
……いや、元々ハイスペックかつ、転生者だから良かったけど、子どもにとっては虐待なんじゃないかとも思えるスパルタ教育でした。これだけ手間暇かけて、それでも将来自分でニートを選ぶのは自由だとか、懐が深いというか、なんというか……。
おかげで私はあらゆる作法や勉学において、精通しているハイスペック令嬢にすくすく育ったわけだ。自分は甘やかされると際限なく甘えてだらける性質だから、今思えばありがたい。当時は結構親を恨んで、「おべんきょう……いやぁ」とウルウル上目づかいで親を籠絡しようとしては、罪悪感に苛ませていたわけだけど。
……ごめんよ。パピー、マミー。今は心から愛しているよ。
まぁ、そんなわけでハイスペックになるべく教育されていた私が、繰り返し繰り返し親から言われた言葉がある。
『ボレア家としての誇りを持ちなさい』
正直、当時の私には、この言葉がいまいちしっくりこなかった。
元々私は自尊心は高くない。なんせ前世ではいじられキャラと言われていた私だ。馬鹿にされるのも、からかわれるのも慣れっこだ。今さらそんなことで気分を害したりはしない。
誇り? なにそれ、おいしいの? 状態だった。
成長するにつれて、貴族として誇りを持つことはいかに大切か身に染みて分かったのだが、元々持っていた考え方がそう簡単に変わりはしない。結果、私は自身の中に二つの「誇り」の持ち方をするようになった。
一つは、私個人の元々の誇りの持ち方。少し虐げられたくらいじゃ気にも留めない、ルクレア個人の自尊心だ。ちょっとやそっとじゃ傷つきはしない鋼の心臓ともいう。
もう一つは、ボレア家としての、ボレア家直系ルクレア・ボレアとしての誇りの持ち方だ。どんな些細なことだとしても、ボレア家に関する中傷はけして許さない、苛烈で攻撃的な自尊心である。
その一見相反するように見える二つの自尊心は、ごく自然な形で私の中に根付いている。けして崩れることが無い、確かなものとして。
今、デイビッドにさして反抗することなく従っているのは、デイビッドが私をルクレア個人として見ているからに他ならない。
デイビッドは私を個人……ただの生意気な金持ちのお嬢さん程度に見ている。だからこそ、私は理不尽だとしか言えない現状も受け入れている。叩かれたりするのは腹が立つが、許容できる。
だが、デイビッドが、私を「ボレア家」の人間として利用することをはじめたら。例え私はペナルティが脳髄を犯すことになったとしても、必死にデイビッドに刃向うだろう。それがボレア家を貶める行為だとしたら、舌を噛み切ってでも抵抗するだろう。
それが私の、「ルクレア・ボレア」としての、矜持。
「首を洗って待っていてくださいませ――青二才が」
この誇りを傷つけるものは、誰であろうと全力で排除する。
1
あなたにおすすめの小説
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる