乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
78 / 191
ダーザ・オーサムというショタキャラ

ダーザ・オーサムというショタキャラ23

しおりを挟む
「……貴族の私が、手の甲の口づけなぞで狼狽えるはずがないでしょう。初夏に近づく陽気で、観察眼が鈍っているんでわなくて?」

 内心の動揺を隠して、マシェルに冷たい一瞥を投げ掛けるものの、マシェルは少しも動じない。

「……そうだな。そういうことにしておこうか」

 ……訳知り顔で、さも譲歩してやったように言うのやめれ。ぶん殴りたくなるから。

 てか、マシェル、キャラ変わり過ぎでない?
 当初のツンツンしていたマシェルは、デレが入り始めてもなお、ツンデレだった、青臭い君はいずこに行ってしまったんだ……!?

 やめろ。その慈しむような、生ぬるい視線やめてくれ……っ!
 鳥肌が立つ。体が痒くなる。
 奇声をあげたくなるくらい、居たたまれない……っ!


 --こしこしこしこし

 不意に、手に何か布のようなものがこすり付けられる感触がした。
 慌てて視線を動かせば、そこには屈み込んで私の手を掴むトリエット。

「……あぁ、私としたことが。こんなことなら、消毒液も持ち歩いていれば良かった……っ!」

 そう嘆きながら、トリエットは自らのハンカチで、マシェルに口づけられた箇所を一心不乱に擦っていた。

 ……何を、しているんだ、トリエット。

 トリエットの予想外の行動に、内心の葛藤が瞬時に吹っ飛ぶ。
 私の視線を追うように、トリエットを捉えたマシェルの頬が引きつったのが見えた。

「……シュガー嬢。貴様……貴女は、一体何をしているんだ」

「お姉様の手に、不可抗力でついた雑菌を、ハンカチでふき取っています……!」

「……ほう。その雑菌とは一体なんのことだ」

「あら、メネガ家の方は皆、博識だと噂で伺っていたのですが、マシェル様はご存じないのですか? 人間が分泌する唾液の中にはたくさんの雑菌が存在することが、最近の研究で明らかになっているのですよ。口づけなんて、とんでもないです。お姉様の体調が悪くなってしまわないよう、一刻も早くどこぞの不作法な誰かにつけられた雑菌を拭き取らねば……っ!!」

「ほう」

 ……おかしいな。今、初夏なのに。
 もう、衣替えを考え初めてもいいくらい暖かくなってきているのに、何故だかとても、寒くて仕方ないよ?

 トリエットとマシェルが言葉を交わす度、何かブリザードが吹き荒れているような気がするよ。

 いやいや、ちょっと待て。
 これ、気のせいじゃない。精神的な感覚なものじゃない。

 氷属性のマシェルの手から、明らかに何らかの冷気が漂っているのですが……!


「……シュガー嬢。私はルクレアと久しぶりの会話を楽しみたいので、少し遠慮して頂けないだろうか」

「何を言いますの、マシェル様。貴方とお姉様は、つい先日まで、顔を見合わせれば罵り合うようなそんな間柄だったじゃないですか。貴方の気持ちにどんな変化があったのか分かりませんが、きっとお姉様の気持ちは以前のままなはず。お姉様を不快にさせるような相手と二人きりで会話をさせるなんて、私が許すはずないでしょう?」

「人の交友関係までしゃしゃりでるような友情は、少し行き過ぎているように思う。--君の重すぎる想いが、ルクレアの負担になっていないことを祈ろう」

「まぁ、マシェル様。面白い冗談をおっしゃりますね。私とお姉様は、たまにちょっかい掛けるだけの貴方と違って、1年以上ずっと一緒にいるんですよ?
 不快に思うような関係なら、お姉様はとっくに私を排除されているはず。……未だ私がお姉様の隣にいることこそ、お姉様が私を受け入れている証明ではないですか?」

 ……さ、寒い。

 比喩ではなく、本気でブリザードが吹き荒れている……マシェルが無意識で漏らしている魔力によって。
 息が白いし、気のせいじゃなければ、あたりに霜が降りてる。

 ……あれ、私と喧嘩している時、マシェル。今までこんな風に魔力暴走起こしたことなかったよね?

 なんでトリエットだけ、こんな--。

 ……はっ! もしかして本当はマシェル、トリエットが好きなんじゃないか……!?

 それなのに、マシェルの気持ちに気が付かず、私にばっかトリエットが付き纏うから、腹を立てて、当て馬的何かとして私に好意があるふりをしただけで。


 不意に思いついた仮説に乗っ取って、嫌味をぶつけ合うマシェルとトリエットを観察する。

 そう思って見てみると、心なしかトリエットに嫌味をのたまうマシェルの口元、どこか緩んでいるように見えないこともない。
 きゃんきゃんと喚きあう二人の様が、痴話喧嘩に見えなくもない。

 --なんだー、そう言うことかぁぁ。

 仲良く喧嘩しているように見える二人の様に、思わず安堵のため息が漏れた。
 いい様に踊らされたことに、ちょっとショックを受けなくもないけど、私に気があったとしたら正直困るし。そういうことなら素直に受け入れよう。
 利用されたこと自体は腹立たしいこと、このうえないけどね。でも、そっちの方が、私としても気が楽だしね。

 ……しかし、完全に自意識過剰だったとか、結構恥ずかしいな、これ。
『マシェルから気を持たれているかも』とか誰かに言わなかっただけ、まだましか。うん。まだまし、まだまし。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...