乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
110 / 191
ルカ・ポアネスという不良

ルカ・ポアネスという不良27

しおりを挟む
 私の言葉にルカは息を飲んだ。
 衝撃受けたように目をカッと見開き、握りこぶしを震わすルカの真意は、パッと見では捉えにくい。

 ……金で何とかしろなんて言われて怒ったんかな?
 ……いや、違う。

 尻尾が上機嫌にはためいている。

 次の瞬間、頬を紅潮させたルカに、両手で勢いよく肩を掴まれた。


「――てめぇは、天才か……っ!」

 キラキラと目を輝かせて私を見つめる、ルカ。

 ……ちょっと、やめて、そんな純真な目で見るの止めて。
 天才と言うのは、否定しません。私、まさに天才ですから。

 でも、ぶっちゃけ、それでキエラに気持ち届いたとしても、単に金蔓扱いされておわりだろーなーなんて思ってしまっているのが、非常に申し訳なくなるじゃないか……!

「……そ、そう。満足して頂けたなら良かったですわ。さっそく明日にでも電話なさったら?」

 私はぎこちない笑みを張り付けながら、そそくさとルカの手から離れる。
 ……アドバイスしてやったし、もういいよな? 帰って。
 キエラにある意味貢ぐような状況を提案してしまった罪悪感はあるが、それ以外にキエラと接点もつ為の具体的な案なんかないんだから、しょうがないよな。うん、私はきっと、悪くない。

 後は、ルカ、キエラを落とせるかは、君の腕次第だ。ファイト。陰ながら、応援しているよ。

「それでは、私はこの辺りでお暇させて……」

「……ちょっと待て!」

 さっさと帰ろうとする私を、ルカは静止する。
 ……なんだよ、まだあるのかよ。

「…え、と……その……エクレア?」

「……ルクレアですわ」

 ひくりと口端が引きつる。

 ……何、人の名前、お菓子のしてくれやがってんだ。ついさっき名乗ったばかりだろう―が。
 本当、重ね重ね無礼な奴だ……。

 そんな私の怒りに一切気が付く様子もなく、ルカは恥らうように目を伏せて言葉を続けた。

「……その、ルクレア。……また、相談に乗って貰ってもいいか?」

 …はい?

 思わず耳を疑い、ルカをまじまじと見やる。
 ルカの顔は至って真面目だ。……本気で言っているな、これは。
 思わずため息が漏れた。

「……敢えて突っ込みませんでしたけど、貴方、ほとんど初対面も同然の私をそこまで信用なさって大丈夫ですの?」

「あん?」

 ……不思議そうな顔すんのやめろ。ほんと、調子狂うなぁ……。

 腹黒いやだいやだ思ってたけど、天然の方がずっとやりにくいもんだね。初めて知ったよ。……所詮私も奴ら(オージン&キエラ)と同じ穴のムジナか。

 私は敢えてきつい眼差しでルカを見据えると、立てた指を突きつけた。

「だから、そんなに貴方の事情を私に話してしまって、私が貴方の弱点ともいえるキエラを都合よく使わないかとかは思いませんの!? 私自身が【銀狼】に興味は無くても、私の周囲には野心家の貴族なんていくらでも群がってきますわ。そんな輩に私がキエラのことを話さないとは、限らないではありませんかっ!」


 ルカは、甘い。甘すぎる。

 人を信用した挙句、散々ひどい目に遭って人間不信に陥っている癖に、なんでんな簡単に私みたいな一癖も二癖もある人間をころっと信頼しちゃうかなぁ! もうっ!


 私の言葉にルカはパチパチと目を瞬かせた。

「――キエラを利用すんのか?」

「しませんわっ! しませんけども……っ!」

「じゃあ、大丈夫だろ」

 ……だから、お前、そんなあっさりと……何を根拠に…っ。

 しかし私のきつい言葉にも、ルカは揺るがない。

「人を避けて生きてはきたが、年齢を重ねるごとに動物的直観だけは鋭くなってきてんだ。直感力だけなら、今の俺は一族の誰にも負けねぇ自信がある。だからこそ、分かる。てめぇは信用しても大丈夫だと、俺の直感が言っている。てめぇは人に俺の秘密を漏らしたりしねぇよ」

 ……んなドヤ顔で自身満々で言い切られましても。

 私としては、そんなこと言われる前だったら、ボレア家にとって大きな利益になる様なら、最悪ルカの情報漏らしても構わないと割り切っていたんだが。だって私は、知り合ったばかりのよく知らない他人よりもずっと、ボレア家の方が大事だもの。……勿論、積極的に言い触らす気なんか無かったけど。

 あぁ、でも。そんな風に断言されると。そこまで強く信頼されると。

 再び口から大きなため息が漏れた。全身から力が抜ける。

「……ルカ。先程のメモをお貸しなさい」

「え……」

「そんな悲痛な顔をされなくても、取り返したりしませんわ。すぐにお返しします」

 私はルカが躊躇いがちに差し出したメモをひったくると、そこに私の名前と、先程とは異なる数字の羅列を記す。

「……はい。お返ししますわ」

「この数字は……」

「私の携帯の番号ですわ」


 ――こんな風に真っ直ぐに信頼されたら、その信頼に応えてやらなきゃと思わずにはいられないじゃないか。

「――ボレア家の名前に掛けて誓いますわ。貴方のキエラの想いを、貴方やキエラに害となる人間にはけして口外いたしません。……相談事があるなら、その番号にお掛けなさいな。時間に余裕があれば、話を聞いてあげますわ」

 ルカはメモと私の顔を交互に見やって困惑していたが、やがて非常に嬉しそうに顔を緩めた。……あぁ、だから尻尾をそんなに千切れんばかりに振っちゃって。


「ありがとう。ルクレア。……これから、よろしくな」

 ……凶悪な顔に似合わん可愛い顔で笑ってんなや。
 思わず胸きゅんしてしまったじゃないか。
 愛しの精霊ズ専用の萌えツボが、刺激されてしまったじゃないか。


 ……どうも、私はツンデレに弱いらしい。きっと精霊達の影響だろう。


 サーラム、ディーネ、シルフィ、ノムル


 ――言っておくけど浮気じゃないからね……!
 胸キュンしたといってもお前たちに対するのときめきの、十分の一くらいだからね……っ! 信じてくれよっ!
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...